09/18/2024

Part 2:インテル(INTC)の株価の今後の見通しは?パット・ゲルシンガーCEOから社員に向けて書かれた最新の公開書簡を徹底分析!

a close up of a computer chip with the word intel core on itウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、インテル(INTC)のCEOであるパット・ゲルシンガー氏から、インテルの従業員に向けて書かれた公開書簡(レター)の分析を通じて、同社の今後の株価見通しを詳しく解説していきます。
  • インテルのCEOパット・ゲルシンガーは、取締役会で戦略やポートフォリオの進捗について議論し、ファウンドリ事業を独立子会社化し、コスト削減やAI戦略に注力する計画を発表しました。 
  • 取締役会の発表内容には、ドイツとポーランドでのプロジェクトの延期や、ファウンドリ事業の独立子会社化による柔軟性の向上が含まれていましたが、これらの施策がインテルの根本的な問題の解決につながるかは不透明です。 
  • ゲルシンガーCEOの対応策が、同社の粗利益率の急落やデータセンター市場でのシェア喪失など、インテルが抱える根本的な問題に対処していない可能性は高く、今後の展開が注目されます。

※「Part 1:インテル(INTC)の株価はなぜ上昇?米国政府から30億ドルの助成金とAWSとの戦略的協力拡大等、株価急騰の理由に迫る!」の続き

インテル(INTC)の従業員に向けた公開書簡に関して

(出所:インテルのHP

(日本語訳)インテル(INTC)のCEOであるパット・ゲルシンガーから社員の皆さんへ次の変革フェーズに関するメッセージ

(日本語訳)チームの皆さん、第2四半期の業績発表以来、インテルには多くの注目が集まっています。それに伴い、先週の取締役会についてもさまざまな噂や憶測が飛び交っています。今日はその最新情報と今後の方向性についてお伝えします。

「Dear Team」ではなく、少しそっけない「Team」から始まっていますが、まずは良いニュースから触れていきたいと思います。取締役会議はとても順調で、生産的でサポートも得られる内容でした。

(原文)Let me start by saying we had a highly productive and supportive Board meeting. We have a strong Board comprised of independent directors whose job it is to challenge and push us to perform at our best. And we had deep discussions about our strategy, our portfolio and the immediate progress we are making against the plan we announced on August 1.

(日本語訳)まず、取締役会はとても生産的で、サポートも得られるものでした。取締役会のメンバーは独立した立場から構成されており、私たちに挑戦し、最高のパフォーマンスを引き出すことが彼らの役割です。今回の会議では、戦略や事業ポートフォリオ、そして8月1日に発表した計画の進捗状況について深く議論しました。

ここで、会議での重要な3つのポイントをお伝えします。

1. Intel 18Aの立ち上げが近づく中、ファウンドリ事業での勢いを維持しつつ、この分野での資本効率をさらに向上させる必要があります。

2. コスト構造をより競争力のあるものにするために、緊急に行動を起こし、先月発表した100億ドルのコスト削減目標を達成することが必要です。

3. AI戦略を推進しながら、強力なx86事業に再度注力し、顧客やパートナーのために製品ポートフォリオを効率化する必要があります。

ただ、ファウンドリの「勢い」とは具体的に何を指しているのでしょうか。年間100億ドルの赤字を出している状況で、前四半期にはIntel 3の製造ノードが問題を起こし、Intel 20Aを中止し、会社全体を18Aに賭けると公表しています。

また、2つ目のポイントは当たり前のことにすぎません。そして3つ目のポイントについて、「強力なx86事業に再び注力する」とは具体的に何を意味するのかが曖昧です。AI戦略に関しては、少なくとも過去10年間は失敗が続いています。

今回の取締役会が会社の歴史の中で最も重要なものだったとすれば、現時点で特に感銘を受ける内容はありませんが、まだ続きがあります。

次の2つのパラグラフでは、すでに取り上げた国防総省(DoD)とAWSとの契約について簡単に触れています。その後、インテル・ファウンドリーに関するニュースが続きます。

(原文)To build on our progress, we plan to establish Intel Foundry as an independent subsidiary inside of Intel. This governance structure will complete the process we initiated earlier this year when we separated the P&L and financial reporting for Intel Foundry and Intel Products.

(日本語訳)進捗をさらに加速させるため、インテル・ファウンドリーをインテル内で独立した子会社として設立する予定です。このガバナンス構造により、今年初めに始めたインテル・ファウンドリーとインテル・プロダクツの損益計算書や財務報告の分離が完了します。

ゲルシンガー氏によれば、この動きで重要なメリットが得られるとのことです。でも具体的にはどんなメリットでしょうか?

(原文)A subsidiary structure will unlock important benefits. It provides our external foundry customers and suppliers with clearer separation and independence from the rest of Intel.

(日本語訳)子会社化することで、さまざまなメリットが得られます。外部のファウンドリー顧客やサプライヤーに対して、インテル本体からのより明確な分離と独立性を提供できるのです。

もちろん、これはCFOのデビッド・ジンズナー氏が新しい損益モデルで既に実現していると説明していたことと同じです。おそらく、本当の理由は次の文にあるのかもしれません。

(原文)Importantly, it also gives us future flexibility to evaluate independent sources of funding and optimize the capital structure of each business to maximize growth and shareholder value creation.

(日本語訳)さらに重要なのは、将来的に独立した資金源を確保し、各事業の資本構造を最適化することで、成長と株主価値の最大化を図る柔軟性を持てることです。

これは、インテルがファウンドリー事業を完全に独立した会社にするための、非常にゆっくりとしたプロセスの次の一歩のように思えます。

さらに、製造拠点の展開にも変更があるようです。

(原文)Now that we have completed our transition to EUV, it’s time to shift from a period of accelerated investment to a more normalized cadence of node development and a more flexible and efficient capital plan.

(日本語訳)EUVへの移行が完了した今、これまでの加速投資の時期から、ノード開発の通常ペースに戻り、より柔軟で効率的な資本計画に移行するべきだと言っています。

ですが、EUVへの移行と資本投資のペースにどういう関係があるのか、私には理解できません。多分、実際には関係ないのでしょう。いずれにしても、この「移行」によって、ドイツの製造工場とポーランドの組立・テストの計画は今後2年間延期されることになりそうです。

(原文)We will pause our projects in Poland and Germany by approximately two years based on anticipated market demand.

(日本語訳)ポーランドとドイツでのプロジェクトは、市場需要を考慮して約2年間、一時停止することになりました。

この時点で気になるのは、インテルの既存の工場の稼働率がどれくらいなのかという点です。おそらく50%以下で稼働しているのではないでしょうか。PCの出荷台数はコロナ禍のピークから大きく減少したままですし、インテルはデータセンター市場でのシェアも急速に失っています。さらに、最近20AをキャンセルしてTSMC(TSM)へのアウトソーシングをさらに強化している状況です。

ドイツの工場は、そもそも実現可能性の低いプロジェクトでした。ポーランドもオハイオも同様です。これらの施設が今後5年以内に必要になるとは考えにくいでしょう。CEOのゲルシンガー氏はAWSのプレスリリースでオハイオキャンパスへの取り組みをさらに強調していましたが、建物が完成しても、おそらく5年間は空き地のままでしょう。

次のセクションには「x86にフォーカスしたより強力なインテル製品ポートフォリオ」とありますが、これまでx86以外にフォーカスしていたのでしょうか?その部分を見逃したかもしれませんが、ここでゲルシンガー氏の現実とのズレが最も顕著に表れているように思います。

(原文)Our AI investments—including continued leadership of the AI PC category, our strong position with AI in data center, and our accelerator portfolio—will leverage and complement our x86 franchise with a focus on enterprise, cost-efficient inferencing.

(日本語訳)私たちのAIへの投資は、AI PCカテゴリーでのリーダーシップの継続、データセンターにおけるAIでの強いポジション、そしてアクセラレータポートフォリオなど、企業向けのコスト効率の良い推論に焦点を当てて、x86事業を強化し補完します。

インテルの取締役会は、なぜ「データセンターでAIにおいて強いポジションを持っている」と彼が主張することを許しているのでしょうか?それにしても、彼が「推論」だけに言及していることから、トレーニングの分野でリーダーシップを取ることは諦めたように思えます。そして、それは賢明な判断かもしれません。

また、組織の調整も行われ、最近の再編前の部門にそれぞれ戻されたようです。

(原文)This includes moving our Edge and Automotive businesses into CCG, where we have a big opportunity to leverage our core client business and extend our leadership in the AI PC category to a wide range of vertical edge solutions. In NEX, we will be focusing the business on networking and telco. And we are moving Integrated Photonics Solutions into DCAI as we focus on driving a more focused R&D plan that's fully aligned with our top business priorities.

(日本語訳)エッジと自動車事業をCCG(消費者コンピューティング事業部)に移管し、これによりコアクライアントビジネスを活用しつつ、AI PCカテゴリーでのリーダーシップをさまざまなエッジソリューションに拡大する大きなチャンスがあります。NEXでは、ネットワーキングと通信にビジネスを集中させる予定です。そして、統合フォトニクスソリューションをDCAI(データセンターおよびAI事業部)に移し、主要なビジネスの優先順位に完全に合致した、より集中した研究開発計画を進めていきます。

また、Alteraについては、従来の計画に変更はありません。

(原文)This includes through selling part of our stake in Altera—which is something we have talked about publicly several times and has long been part of our strategy to generate proceeds for Intel on Altera’s path to an IPO.

(日本語訳)これは、Alteraの株式の一部売却を含んでおり、以前から何度か公に話している通り、AlteraのIPOに向けてインテルが収益を上げるための戦略の一環です。

そして、最後に気になる一文がありました。

(原文)Additionally, we are implementing plans to reduce or exit about two-thirds of our real estate globally by the end of the year.

(日本語訳)さらに、年内に世界中の不動産の約3分の2を削減または売却する計画を実行します。

これには少し驚きました。インテルは実際に必要な不動産の2倍以上を持っていたのでしょうか?私には理解できません。


関連用語

Intel 3: インテルが開発中の3nmプロセス技術を使用した次世代半導体製造プロセスです。より高性能で省電力なチップを製造できます。

Intel 18A: インテルの先端半導体製造プロセスで、18オングストローム(Å)の技術を指します。より細かいプロセスで、高密度かつ高性能なチップを実現します。

Intel 20A: インテルの製造プロセス技術の一つで、20オングストローム(Å)のノードを指します。18Aの一世代前の技術です。

ファウンドリ事業: インテルが他社の半導体チップを製造するビジネスです。顧客からの設計に基づいて半導体を製造するサービスを提供します。

x86事業: インテルの主要なビジネスで、x86アーキテクチャをベースとしたCPUの開発・製造・販売を行う事業です。PCやサーバーなどに広く使われています。

EUV: 極端紫外線(Extreme Ultraviolet)の略で、最先端の半導体製造プロセスに使用される露光技術です。より微細な回路パターンを形成できます。

ノード開発: 半導体製造におけるプロセス技術の世代を開発することです。より小さいノード(プロセス技術)が高性能で省電力なチップを可能にします。

アクセラレータポートフォリオ: AIやデータセンターなどの特定の処理を高速化するためのハードウェア製品群のことです。GPUやFPGAなどが含まれます。

推論: AIにおいて、既に学習したモデルを使って新しいデータに対する予測や分類を行うプロセスです。

トレーニング: AIモデルを構築するために、大量のデータを使って学習させるプロセスです。推論の前段階です。

Altera: インテルが2015年に買収した企業で、FPGA(Field-Programmable Gate Array)という柔軟にプログラム可能な半導体を開発・販売しています。

CPU(Central Processing Unit): コンピュータの中核的な処理装置で、さまざまな計算や制御を行います。一般的なプログラムの実行に特化しており、PCやサーバーなどで主要な役割を果たします。

GPU(Graphics Processing Unit): 画像や映像の描画、3Dレンダリングなどの処理を高速に行うためのプロセッサです。近年では、AIのトレーニングや並列処理が得意なため、データセンターや科学計算などの分野でも活用されています。


インテル(INTC)に対する結論

インテル(INTC)のゲルシンガーCEOは今回の取締役会で、国防総省からの30億ドルの契約と「数年にわたる数十億ドル規模」のAWSとの契約という2つの柱に話をまとめましたが、これらは大したものではなく、会社が直面している本当の問題から目を逸らすためのものに過ぎません。

ファウンドリーを子会社化するというのも同じく、問題から目を逸らすための策です。結局のところ、インテル・ファウンドリーはインテルの一部であることに変わりなく、潜在的な顧客にとっては何の違いもありません。ドイツとポーランドの計画を無期限で保留にするのは、誰が見ても当然の判断です。インテルがこれらの施設の提供するものを必要とするのは、まだ先の話でしょう。

ゲルシンガー氏とインテルの取締役会が対処し損ねているのは、そもそも会社をこの状況に追い込んだ根本的な問題です。どうしてインテルの財務部門は、第2四半期の粗利益率予測をここまで大きく外してしまったのか?その根本原因は何だったのでしょうか?

この点については、下記のインテルの最新の2024年度第2四半期決算に関するレポートにおいて私の見解を詳細に述べていますので、もし関心があれば、是非、ご覧いただければと思います。

インテル(INTC)最新の2024年2Q決算は粗利益率悪化を受け、株価は20%以上急落!今後の株価見通し・将来性に迫る!

こちらのレポートにおいて、最後に、私は下記のように述べています。

現在、インテル初のEUVノードであるIntel 4とIntel 3が量産に入っていますが、粗利益率が急落しています。もしインテルがこの粗利益への影響を予測し、それを第2四半期の予測に組み込んでいたのなら、まだ理解できます。しかし、これに不意を突かれ、対応としてこれほど劇的な措置を取らざるを得なかったことは全く異なる問題です。

ゲルシンガーCEOが示した今回の対策が、会社の根本的な問題の解決に全く寄与しないと私は確信していますが、インテルが今後どうなるか見守っていきたいと思います。


アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング

ウィリアム・キーティング氏は、インテル、AMD、サムスン、アップル、マイクロン・テクノロジー等の企業の製品、ロードマップ、技術、および、それらの企業の主要な装置サプライヤーである、ASMLAMAT、キヤノン、ニコン等を専門とする半導体 / テクノロジー・リサーチ・コンサルティング会社、Ingenuity (Hong Kong) Ltd.の創立者兼最高経営責任者(CEO)です。

キーティング氏は、半導体業界において重要性の高いニッチなテーマを専門としています。具体的には、ムーアの法則の将来性、特にムーアの法則(EUVSDANanoImprint)を維持するためのリソグラフィの重要性、音声、画像、パターン認識、暗号通貨マイニングのためのディープラーニング(ニューラルネットワーク)などの特殊なアプリケーションにおけるGPUやその他のカスタムアーキテクチャの役割と成長などが挙げられます。また、メモリの将来、特に3D NANDの台頭と新しいメモリ技術の出現について、定期的にクライアントとのディスカッションを開催しています。

Ingenuity (Hong Kong) Ltd.を設立する以前は、1992年から2014年までインテル・コーポレーションに勤務していました。当初はAIシステムのスペシャリストとして採用され、その後、同社の最先端の300mmファクトリーネットワークをグローバルにサポートするファクトリーオートメーションシステム(ロボット、データベース、ネットワーク、サーバー、クライアント等)の責任者となりました。2000年には、社内にITコンサルティング・グループ(IT Flex Services)を設立し、500人規模のグローバルチームに成長させ、同グループは現在もインテルのIT部門の中核を担っています。2005年には、APAC、中国、日本担当のIT部門のディレクターに任命され、同地域にあるインテルの全オフィスと製造施設のITシステム(インフラ、ネットワーク、データセンター、ERP、セールス、マーケティングシステム、ビジネスインテリジェンスなど)を統括していました。

また、キーティング氏のその他の半導体関連銘柄のレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、キーティング氏のプロフィールページにアクセスしていただければと思います。


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さらに、その他のインテル(INTC)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、インテルのページにアクセスしていただければと思います。

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