【Part 2】ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)の競争優位性とは?競合環境とテクノロジー上の強みを徹底分析!
- 本編は、注目の米国上場AI企業であるネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)の将来性を詳細に分析した4つの章から成る長編レポートとなります。
- 本稿は「Part 1:ビジネスモデルとプロダクト分析」「Part 2:競争環境分析」「Part 3:財務パフォーマンスとリスク分析」「Part 4:バリュエーション分析」の4つの章で構成されています。
- 本稿Part 2では、ネビウス・グループの競争優位性を探るべく、同社を取り巻く競合環境とテクノロジー上の強みを詳しく解説していきます。
- 同社は、AIエコシステムの構築を通じて競争優位性を確立しようとしており、クラウドインフラ事業ではスイッチングコストの高さを活用した参入障壁を構築しています。
- 同社のTolokaやTripleTenを活用したネットワーク効果により、AIデータラベリングや人材育成の分野でも市場での存在感を強め、プラットフォームの価値を高める戦略を進めています。
- Avrideの自動運転技術やエヌビディアとの提携によるGPUクラウド事業など、複数の領域で事業を展開していますが、競争優位性を確立するためには今後2~3年の成長が重要な鍵となります。
※「【Part 1】ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)とは?将来性と今後の株価見通しを徹底分析!」の続き
前章では、「ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)とは?」という疑問に答えるべく、同社のビジネスモデルとプロダクトに関して詳しく解説しております。
本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。
2️⃣ ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)のネットワーク効果、参入障壁、プラットフォーム支配の可能性
ネビウス・グループ(NBIS)は単なる事業の集合体を超えたAIエコシステムの構築を目指しており、これが長期的な競争優位性(参入障壁)を形成する上で極めて重要です。本稿では、各要素がネットワーク効果にどのように貢献し、どこに課題があるのかを分析します。
ネビウス・グループのネットワーク効果の構築と課題
同社のクラウドを利用するAI開発者が増えることで、サードパーティ製ツールとの統合が進み、将来的にはAIモデルのマーケットプレイスの創出や、ワークロードデータの蓄積によるパフォーマンス最適化につながる可能性があります。
しかし、クラウドインフラ事業は、従来のネットワーク効果よりも「スイッチングコストの高さ」が競争優位の要因となる傾向があります。つまり、一度、同社の環境を利用して開発を進めると、データの移行やシステムの統合コストが高くなるため、他のクラウドサービスへ乗り換えにくくなるという特性があります。
この課題を克服するため、ネビウス・グループはAI Studioやサーバーレスプラットフォーム(Tracto)を提供し、これらを開発者コミュニティのハブとして成長させる戦略を取っています。
例えば、同社のAI Studioが人気のあるオープンソースAIモデルをサポートし、開発者コミュニティを惹きつけることができれば、ユーザーがソリューションやモデルを共有し、次の利用者にとってさらに価値のあるプラットフォームへと成長する可能性があります。これは、AWS Lambdaがコミュニティの支持を得て拡大したのと同じネットワーク効果の仕組みです。
とはいえ、現時点では同社のネットワーク効果はまだ弱く、将来的な成長の可能性に依存しているのが実情です。同社もこの点を認識しており、自らの戦略を以下のように明言しています。
この方針は、開発者向けの機能を重視することを意味します。もし同社が、AIスタートアップ向けの最適なクラウドとして認知されるようになれば(例えば、パフォーマンスやコスト面での優位性が理由で)、評判によるネットワーク効果が生まれます。つまり、最先端のAI企業が利用しているからこそ、新たな企業も集まるという流れが生じる可能性があります。
これは、特定のクラウドプロバイダーが特定の分野で強みを発揮している状況と似ています(例:GCPは初期の機械学習研究に強みを持ち、AWSはスタートアップに人気)。同社も、特にヨーロッパ市場においてこのようなニッチ市場を確立する可能性がありますが、そのためには製品の完成度とサポートの質を徹底的に高める必要があります。
ネビウス・グループのTolokaとデータネットワーク:二者間のネットワーク効果
Tolokaは異なる種類のネットワーク効果を持っています。これは、AI開発者(クライアント)とクラウドワーカー(データラベラー)の二者を結ぶネットワークです。
✅ クライアントが増えるほど、クラウドワーカーに依頼されるタスクが増加し、より多くの熟練したワーカーを引きつけます。
✅ 逆に、多様で質の高いクラウドワーカーが集まれば、データ処理のニーズを持つ企業にとってより魅力的なプラットフォームになります。
Yandex時代にTolokaのクラウドワーカーの基盤はすでに確立されており、同社はこのネットワークを継承しています。もし同社がTolokaをクラウドサービスと巧みに連携させれば、以下のような統合型のデータ処理パイプラインを構築できます。
「データを持ち込み、Tolokaでラベリングし、Nebius Cloudでトレーニング」
このワンストップの利便性が確立されれば、同社の競争優位性(参入障壁)となります。競合他社がこれに対抗するには、データラベリングとクラウドインフラの両方を備えたサービスを提供する必要があり、容易ではありません。
さらに、TolokaがAI特化型のタスク(例:AIモデルの安全性テストなど)を手がけることで、その分野のノウハウを蓄積し、将来のクライアント向けに品質を向上させることができます。これは「学習効果による参入障壁」となり、Tolokaが多くのプロジェクトをこなすほど、より高品質なツールと信頼性を獲得できます。
しかし、大手のAI研究機関は、自社でデータツールを開発するケースや、特定のプラットフォームに依存しないよう複数のベンダーを併用するケースもあります。このため、同社がTolokaを不可欠な存在にするには、品質と処理速度を常に高水準で維持することが求められます。
現時点では、Tolokaの140%の成長率が示すように、正しい方向へ進んでいると考えられます。
ネビウス・グループのTripleTenと人材パイプライン:間接的なネットワーク効果
TripleTenのネットワーク効果は、より間接的なものです。TripleTenの卒業生が増えることで、将来的にAI業界へ進出し、ネビウス・グループのプラットフォームを利用する可能性が高まります。これは長期的に見ると、同社のエコシステムを強化する要素となります。
短期的には、TripleTenの提携企業(金融機関や雇用主など)との連携によって、同社のネットワークが学術機関や企業の人材開発(L&D)分野にまで広がることが期待されます。
TripleTen単体では、同社に直接的な参入障壁(モート)をもたらすわけではありません。教育分野はクラウドサービスと強く結びついているわけではないためです。しかし、TripleTenを通じて同社のブランドがAIコミュニティ内で強化されることは大きなメリットです。
例えば、同社が単なるインフラ提供者ではなく、AI人材の育成にも関与している企業として認知されるようになれば、ハッカソンのスポンサーやAIコースの提供などを通じて、より強いブランドロイヤルティを生み出せる可能性があります。
これは直接的なネットワーク効果ではなく、戦略的なシナジーに近いものですが、「学ぶ → AIを構築する → スケールさせる」というAI開発のすべてのステージに同社が関与するというストーリーを作り出すことができます。
ネビウス・グループのAvrideとクロス・ポリネーション(相互活用)
Avride(自動運転技術プラットフォーム)は、ネビウス・グループのクラウドやデータ処理能力を活用できる可能性があります。自動運転技術の開発には膨大なトレーニングデータとシミュレーションが必要ですが、これらはNebius Cloudで処理し、Tolokaを使ってアノテーションを行うことで大幅に効率化できます。
もしAvrideが技術的ブレークスルーを達成すれば、同社は貴重な知的財産(IP)を獲得したり、クラウドサービスの代表的なユースケースとして活用したりできる可能性があります。例えば、「Nebius CloudがX百万マイルの自動運転シミュレーションを可能にした」といった実績を打ち出せるかもしれません。
しかし、現時点ではAvrideはまだ研究開発(R&D)プロジェクトの段階です。そのため、同社の収益に直接貢献するには至っていません。ただし、AvrideのチームはNebiusのクラウドインフラを積極的に利用する内部ユーザーとも言えます。
この内部フィードバックを活用することで、同社のクラウドサービスをより良いものに改善でき、最終的に外部顧客向けのサービス品質向上にもつながる可能性があります。言い換えれば、同社自身が自社クラウドを使って製品を磨いているという状況であり、これはサービスの改善において大きな利点となるでしょう。
ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)のAI要塞:フルスタック統合とネットワーク効果で競争優位を強化
プラットフォーム支配と参入障壁(モート)の展望:ネビウス・グループ(NBIS)がプラットフォームとしての支配力を確立するには、AIバリューチェーン全体に深く関与し、顧客が自然と複数の同社サービスを利用する仕組みを構築する必要があります。
例えば、あるAIスタートアップが以下のように同社のサービスを活用するとします。
✅ TripleTen を利用してAI人材を採用
✅ Toloka でデータの前処理
✅ Nebius Cloud でモデルのトレーニング
✅ Avride の自動運転技術を活用(ロボティクス関連の場合)
このように、AIの開発プロセス全体をNebiusのプラットフォームで完結させることができれば、同社の置き換えは非常に困難になります。
この戦略は野心的ではあるものの、競合との差別化要因となります。多くの競争相手は、クラウドサービスのみ、またはデータ処理のみといった特化型のビジネスモデルを採用しています。しかし、同社はそれらを統合し、大手テクノロジー企業が持つようなエコシステムを、AI特化型の企業として一つのプラットフォームに集約することを目指しています。
もしこの戦略が成功すれば、ネットワーク効果が高まり、顧客の定着率が向上し、クロスセル(複数サービスの利用促進)が進む可能性があります。
今後、同社の競争優位性を測る指標として、以下のようなデータが公開されるかに注目すべきです。
✅ ネット収益維持率(NRR)が120%以上(既存顧客の利用拡大を示す指標)
✅ 複数サービスの利用率(例:Nebius CloudとTolokaを併用する顧客の増加)
これらの数値が高水準で維持される場合、同社の参入障壁(モート)が着実に成長している証拠となるでしょう。
現時点では、同社の参入障壁(モート)は形成されつつあるものの、まだ確立されているとは言えません。
独自技術(例:AI向けのカスタムクラウドオーケストレーション)や、エヌビディア(NVDA)との提携による特定ハードウェアへの独占的アクセスがあるため、スタート時点では競争優位を持っています。しかし、今後2~3年の間に他社も同様のハードウェアを確保し、類似のプラットフォームを開発する可能性があります。
したがって、同社の競争優位性は、ネットワーク効果の実現にかかっていると考えています。初期の利用者が増え、それがコミュニティとして自己強化される流れを作れるかどうかが鍵となります。
経営陣もこの点を認識しているようで、アルカディ・ヴォロジュCEOは、「エンジニアの深い専門知識」と「専門性の融合」が同社の最大の強みであると強調しています。
この発言は、同社が「イノベーション文化」を醸成することで、他社が容易に再現できない優れた人材クラスターを形成し、それ自体が競争優位となる可能性を示唆しています。
さらに、同社はヨーロッパを主軸とする最初の主要なAIインフラプロバイダーとして、米国企業がこの市場に本格参入する前に、大学、政府機関、大手企業とのパートナーシップを確立できる機会を持っています。
もし同社が欧州市場で十分な規模を確保できれば、その地域的な強みが競争優位として機能し、他社が容易に参入できない状況を作り出せる可能性があるでしょう。
ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)の運命を決める2~3年:飛躍か、埋もれるか
ネビウス・グループ(NBIS)は競争優位性(モート)の確立に向けた取り組みを進めていますが、その計画を脅かす要因には常に注意を払う必要があります。
最大のリスクは、より優れた技術が登場することです。例えば、使いやすいAIクラウドを提供する新興企業や、世界中のアイドルGPU(未使用のGPU)を分散型ネットワークで活用することで、大幅にコストを削減するイノベーションを生み出す企業が登場すれば、同社の競争力が低下する可能性があります。
もう一つのリスクは、ネットワーク効果が逆転することです。つまり、同社が早期に顧客基盤を拡大できなければ、かえって競争上の不利に陥る可能性があります。
顧客数が少なければ、利用者コミュニティが小規模のままとなり、データの蓄積が進まず、サービスの最適化も難しくなるためです。これは典型的なプラットフォームビジネスのリスクであり、急速に成長しなければ、市場から忘れ去られる可能性があります。
また、優秀なAI研究者や開発者は、最も活発なプラットフォームに集まりやすいという「人的資本のネットワーク効果」もあります。そのため、Nebiusが市場での存在感を維持するには、技術者コミュニティを早い段階で確立し、彼らを引きつけることが不可欠です。
同社は、技術的リーダーシップを確立する必要があります。そのためには、オープンソースへの貢献やプラットフォーム上での注目度の高いAIプロジェクトを通じて、開発者や技術者の関心を引きつけることが重要です。
もし同社がグローバルなAI開発者コミュニティに浸透できなければ、二流のプラットフォームとして、特定の地域やニッチ市場にとどまる可能性があります。
ただし、アルカディ・ヴォロジュ氏は、YandexをGoogleの競争相手としてロシア市場で成長させた経験を持っており、大手企業が支配する市場で独自のポジションを築くことの難しさを熟知しています。この点は、同社の戦略において大きな強みとなるでしょう。
結論として、同社は、ネットワーク効果を活かした強力なプラットフォームを構築するための重要な要素をすべて備えているように見えます(統合型サービス、優れた技術者、戦略的な支援)。
しかし、現時点ではまだ確立された段階ではありません。今後2~3年の間に、「脱出速度(エスケープ・ベロシティ)」を達成し、自己持続的なエコシステムを構築できるかどうかが、成否を分けることになります。
もし成功すれば、プラットフォーム市場特有の「勝者総取り」構造により、投資リターンの上昇幅は指数関数的に拡大する可能性もあると見ています。一方、もしこの成長を達成できなければ、多額の資本を必要とするニッチなプロバイダーにとどまるリスクもあります。
この点については、次に続くマルチバガー分析で詳しく解説します。
🚀お気に入りのアナリストをフォローして最新レポートをリアルタイムでGET🚀
イアニス・ ゾルンパノス氏はバリュー・インカム関連、並びに、テクノロジー銘柄に関するレポートを毎週複数執筆しており、プロフィール上にてフォローをしていただくと、最新のレポートがリリースされる度にリアルタイムでメール経由でお知らせを受け取ることができます。
さらに、その他のアナリストも詳細な分析レポートを日々執筆しており、インベストリンゴのプラットフォーム上では「毎月約100件、年間で1000件以上」のレポートを提供しております。
そのため、ゾルンパノス氏の最新レポートに関心がございましたら、是非、フォローしていただければと思います!
3. ネビウス・グループ(NBIS:Nebius Group)の競争環境:AIクラウド市場でハイパースケーラーに挑む
ネビウス・グループ(NBIS)の投資戦略を評価するには、業界全体の動向を踏まえる必要があります。同社は、クラウドインフラ、AI/機械学習(ML)サービス、データラベリング、EdTech(教育テクノロジー)といった複数の分野にまたがる企業であり、それぞれの市場に固有の競争環境が存在します。
ここでは、競合他社のデータや開示情報をもとに、同社の各分野における相対的な立ち位置を分析します。
AIクラウドインフラ:ネビウス・グループの中核事業
AIクラウドインフラは、ネビウス・グループの成長戦略の中心であり、今後数年間の成長を左右する最重要分野です。
現在、この市場はハイパースケーラー(Amazon AWS、Microsoft Azure、Google Cloud)が約63%のシェアを占めており、競争は極めて激しい状況です。
しかし、2023年から2024年にかけて、AI向けの計算資源(特に大規模言語モデルのトレーニングに必要なGPUクラスタ)の需要が急増しました。この需要の急拡大により、市場を独占している大手企業ですら供給が追いつかない状況となっています。
実際に、マイクロソフト(MSFT)はAzureの成長率がAIインフラの供給制約によって抑制されていると報告しており、業界全体で計算資源の不足が深刻化していることがわかります。
アマゾンとマイクロソフトが世界のクラウド市場でリードを維持
2024年第4四半期の主要クラウドインフラサービスプロバイダーの世界シェア
(出所:Statista)
この需給バランスの崩れにより、特化型のプレイヤーが活躍できる余地が生まれました。その代表例がCoreWeaveです。
CoreWeaveはGPUコンピューティングのレンタルに特化したスタートアップで、わずか1年でデータセンターを3拠点から14拠点へと急拡大し、23億ドル超の資金調達に成功しました。
2024年末時点で、CoreWeaveの売上は2億ドル未満と推定されています(規模からの推計)にもかかわらず、企業価値は190億~230億ドルに達していると評価されています。
ネビウス・グループの戦略もこれと非常に類似しており、大規模なGPUスーパコンピュータを構築し、AIモデル開発者に貸し出すビジネスモデルを展開しています。
2024年には2つの主要なGPUクラスター(フィンランドとパリ)を稼働させ、2025年初頭には米国カンザスシティに新たなクラスターを開設予定です。
2024年末までに、同社のNVIDIA Hopper/H200 GPUの稼働台数は四半期ごとにほぼ倍増し、次世代GPUを2万2000台規模で導入予定です。これにより、欧州最大級のGPUクラウド事業者の一角を占める可能性があります。
同業他社と比較すると、同社は技術面では高い競争力を持つものの、市場でのシェア獲得にはまだ遅れを取っている状況です。
ただし、同社のGPUインフラ拡大計画はCoreWeaveと同等の規模であり、独立系のAIクラウドプロバイダーとして、AWSやAzureとは異なる選択肢を求める顧客を引きつける可能性があります。
AWSやAzureもAI関連サービスを提供していますが、クラウド事業の中で優先順位が分散しているため、特化型プレイヤーに対して完全に競争優位を確立するのは難しいと考えられます。
さらに、同社はエヌビディアと緊密な提携関係を持っており(エヌビディアはCoreWeaveにも投資)、最新のGPUへのアクセスを確保できる可能性が高いです。これは、世界的なGPU不足の中で大きな競争優位性となります。
しかし、同社が遅れを取っているのはエンタープライズ顧客へのリーチです。AWSやAzureは既に企業向けの強固な関係を築いており、CoreWeaveもOpenAIやマイクロソフトといった著名なAI企業を顧客に獲得していると報じられています。
一方で、同社は現在、営業パイプラインを構築している最中です。ただし、2024年第4四半期の報告によると、AI業界の著名な企業を複数顧客として獲得し、ARR(年間経常収益)を押し上げる数百万ドル規模の契約を締結したとされています。これは前向きな兆候ですが、ヨーロッパ以外の市場で信頼を得るには時間がかかるでしょう。
市場の基準として、Microsoft AzureのAI関連売上は2024年に130億ドル規模に達しました。
対して、ネビウス・グループの目標は2025年末までにARR7.5億~10億ドルであり、ハイパースケーラーと比較するとまだ小規模です。しかし、急成長を続ければ、この差を徐々に縮めることも可能でしょう。
エヌビディアのAIクラウド事業は、業界の急成長トレンドをうまく捉えています。実際、2023年にはエヌビディアのデータセンター向けGPU売上が2倍以上に拡大し、AI向け計算能力の需要の高まりが示されています。
技術面では競争力のあるポジションを確保していますが、今後の課題は以下の点です。
1️⃣ 顧客基盤の拡大 – 競合と同等の利用率を達成するために、より多くの企業を取り込む必要があります。
2️⃣ 価格競争のリスク – 将来的にGPU供給が追いついた際、価格競争が激化する可能性があります。
これらの課題を乗り越えられるかどうかが、ネビウス・グループの成長が持続するかを決める重要なポイントとなります。
(出所:ネビウス・グループの2024年10月の投資家向け資料)
また、業界の指標によると、クラウドGPUサービスの粗利益率は、稼働率が高ければ60%程度と健全な水準を維持できるとされています。しかし、同社は初期段階では稼働率が低く、利益率が抑えられる可能性が高いと見ています。
一方、ハイパースケーラー(AWS、Azureなど)は、他の事業の利益を活用してAIサービスを支えています。これに対し、同社は自社のスケールメリットのみで効率的な成長を実現する必要があります。
そのため、今後12~18か月の進捗が極めて重要であると考えています。そして、同社は、AIコミュニティにおいて「特定のAIワークロードに最適なクラウド」としての地位を確立する必要があります。
もし競争が激化し、他社が類似サービスを展開したり、大幅な価格引き下げに踏み切ったりすれば、同社の成長は大きな影響を受ける可能性があります。そのため、早期に市場での確固たるポジションを築くことが求められます。
ネビウス・グループのTolokaのAIデータ戦略:競合が苦戦する中で市場シェアを拡大
AIデータラベリング(Toloka)とサービス事業の展開:ネビウス・グループ(NBIS)のToloka事業は、AIデータアノテーション市場で事業を展開しています。この分野は近年、大きな変動が起きており、業界トップ企業だったオーストラリアのAppenは、かつて40億ドルの時価総額を誇ったものの、現在は2億ドル未満にまで縮小しました。
Appenは生成AI(GenAI)への対応が遅れ、売上が急激に減少したことで、市場での地位を失いつつあります。
✅ 2022年の売上は前年比13%減少
✅ 2023年上半期にはさらに24%減少
これは、大手顧客の予算削減や品質管理の課題が要因とされています。
この業界の混乱を背景に、Tolokaは急成長を遂げています。
✅ 2024年の成長率は140%
✅ 主要なAI研究機関を新規顧客として獲得
特に、Tolokaは生成AI向けの専門データ提供を強化しており、具体的には以下のようなサービスを展開しています。
✅ モデルの「レッドチーミング」(脆弱性テスト)
✅ AIの推論評価
これらの取り組みは、現在のAI開発者が求めるニーズと合致しており、競争力を高めています。
一方で、Appenは生成AI向けのニッチなデータ獲得に苦戦し、組織の統合性も欠けていました。
対照的に、TolokaはYandexからスピンアウトしたテクノロジー主導のアジャイルな組織として、素早く高付加価値の分野に集中し、競争力を強化しています。
この市場では、米国のScale AI(未上場)やCloudFactoryなどの企業も競争相手となっています。
多くの競合企業は未上場のため財務情報が不透明ですが、業界の動向を見ると、2022~2023年にデータアノテーション市場は低迷し、その後、生成AIプロジェクトの増加により需要が回復していると考えられます。
同社の開示情報もこれを裏付けており、Tolokaは2024年第4四半期に世界最大級のAIモデル開発企業を複数顧客として獲得しました。具体的な社名は明かされていませんが、OpenAI、Anthropic、あるいは大手テクノロジー企業のAI研究部門が含まれている可能性があります。
もしこれが事実であれば、Tolokaにとって極めて価値の高い顧客基盤となり、今後の追加契約や長期的な取引へと発展する可能性があります。
この市場では、高品質なトレーニングデータを、より短期間で提供できる企業が勝者となります。
Tolokaの強みは、Yandexのクラウドソーシング技術を基盤に持つことです。もともとYandexが社内向けクラウドワーカー基盤としてTolokaを開発しており、既にグローバルなクラウドワーカーを擁し、独自のツールを備えている点は競争上の優位性となります。
今後もTolokaが年間100%以上の成長率を維持できるか注視していきます。もしこの成長が続けば、同社はポートフォリオの中に「隠れた宝石」を持っていることになるでしょう。
また、データラベリング事業は、適切にスケールすれば高い利益率を確保できるビジネスです。
例えば、Appenは好調な年にはEBITDAマージン35%を達成していました。しかし、事業の拡大には分散型ワークフォースの管理や、データセキュリティの確保が不可欠です。
同社の評価基準としては、Tolokaが競合他社(特にAppen)と比較してどの程度成長しているかが鍵となるでしょう。
例えば、Appenの2024年の年次報告書(2025年3月発表予定)で売上減少や成長の鈍化が示される一方で、Tolokaが100%以上の成長を続けている場合、同社が市場シェアを拡大していることが明確になるでしょう。
ネビウス・グループのTripleTenの急成長:EdTech市場の停滞を打破する積極的な拡大戦略
教育事業:TripleTenは、オンラインのコーディングブートキャンプおよびテクノロジー教育サービスであり、以前は「Yandex Practicum」として運営されていました。
西欧のEdTechブートキャンプ業界にはCoursera、Udacity、General Assemblyなど多くの競合が存在し、市場の成熟とともに成長ペースが鈍化しています。しかし、TripleTenは米国および特定市場において、テクノロジー分野のリスキリング(再教育)をリードする企業の一つであると主張しています。
2024年には、新規学生登録数が前年比149%増加しており、これは業界の成長鈍化をものともせず、多くの競合を上回る成長速度であることを示しています。
比較対象として、Courseraの登録ユーザー数は2023年に約21%増加し、売上は約26%成長しました(ただし、CourseraはMOOC全般を提供するため、ブートキャンプとは異なる市場セグメントです)。
その一方で、TripleTenは学生数を倍増させており、これは以下のいずれか、またはその両方が要因となっていると考えられます。
1️⃣ 新しい地域市場への積極的な拡大
2️⃣ 競争力のある価格設定による市場シェアの獲得
特に、TripleTenは「業界で最も手頃な授業料の一つ」としており、新しい学生向けの融資オプションも提供している点を強調しています。これがコスト面での競争力を生み、成長を加速させている可能性があります。
(出所:ネビウス・グループの2024年10月の投資家向け資料)
TripleTenは一定の収益をもたらしているものの、同社全体の売上に占める割合は1桁台と推定されます。
この事業の戦略的な価値は、直接的な収益貢献ではなく、同社のエコシステムの強化にあります。具体的には、AI時代の人材育成を担い、技術者のパイプラインを形成する役割を果たしています。
競争環境を踏まえると、TripleTenの成長率は堅調ですが、同社の企業価値においては、AIクラウドやデータ事業ほどの重要性はありません。
注目すべき点は、多くのEdTech企業がパンデミック後に苦戦する中、TripleTenは成長を維持していることです。
この成長の背景には、Yandexのコンテンツ資産を活用し、米国市場への素早いシフトを成功させたことがあると考えられます。
今後も年間100%前後の成長率を維持できるかが焦点となります。
もし継続的な成長が確認されれば、将来的にスピンオフ(独立企業化)の候補となる可能性や、安定した収益を生み出す事業として定着する可能性があります。
一般的にブートキャンプ型の教育サービスは、講師のコストを差し引いた後でも20~30%の粗利益率を維持できるビジネスモデルのため、適切に運営すれば同社にとって収益貢献のある事業へと成長する可能性があります。
ネビウス・グループのAvrideの高リスク投資:巨額の賭けか、それとも未来のAI資産か?
自動運転技術:Avrideは、ネビウス・グループにとって「ムーンショット(大胆な挑戦)」とも言えるプロジェクトであり、自動運転車や配送ロボットの開発を手がけるチームです。
この分野では、Waymo(Alphabet傘下)、Cruise(GM傘下)、AmazonのZoox、さらに多くのスタートアップが競争を繰り広げています。
また、自動運転業界は統廃合や撤退が相次いでおり、例えば、FordとVWが支援していたArgo AIは2022年に事業を終了しました。
同社のAvrideは、Yandexの自動運転開発プログラムを継承しており、Yandexはロボタクシーや配送ロボットを管理された環境下で運用するなど、高度な技術を持っていたことが強みです。
この分野での競争優位性は技術力にあります。
Yandexの自動運転チームは、世界的にも高い技術力を持つと評価されており、同社がこのチームを維持できることは、長期的に見れば大きなメリットとなる可能性があります。
特に、適切なパートナーや市場を見つけることができれば、将来的に大きなリターンをもたらす可能性があります。
しかし、短期的にはAvrideは研究開発(R&D)資金を消費するだけの事業であり、収益はゼロと見られます。
現状、競合の多くも同じようなR&D段階にあるか、大手企業に吸収されています。
現時点で、Avrideは同社のポートフォリオの中で「コールオプション(将来的な価値を持つ可能性があるが、現時点ではコスト負担が大きい投資)」と位置付けられます。
もし、Avrideの技術が商業化できる、あるいは自動車メーカーなどに技術を売却できるようになれば、大きな価値を生む可能性があります。
しかし、現段階では継続的にコストが発生する事業であり、投資リスクが高いプロジェクトであることも事実です。
そして、競合他社の開示情報(例:Waymoの報告書)によると、ロボタクシーの大規模な商業化は依然として数年先になると見られています。
このため、Avrideの存在はNebiusのリスクプロファイルをやや引き上げる要因となります。つまり、さらなる資本投下が必要な事業であるため、Nebiusはコア事業との投資バランスを慎重に管理する必要があります。
ただし、リスクを軽減できる要素として、以下の点が挙げられます。
- 同社のクラウドインフラを活用し、自動運転(AV)アルゴリズムのトレーニングを効率化できる可能性がある(シナジー効果)。
- Tolokaを活用し、自動運転向けのデータラベリングを行うことで、開発のスピードと精度を向上できる可能性がある。
しかし、Avrideが市場投入の具体的な道筋(例:特定都市でのパイロット展開や外部資金調達など)を示せない限り、投資家は同社に対し、この事業への支出を抑えることを求める可能性があるでしょう。
ネビウス・グループのコスト優位性:GPUコストを25%削減し、AIクラウド市場を変革
ネビウス・グループ(NBIS)は、AIクラウドインフラ市場においてコストリーダーシップを確立しており、競合他社と比較してGPUの総所有コスト(TCO)を20~25%低く抑えることが可能です。
このコスト効率の高さは、以下の要因によるものです。
✅ サーバー償却費の最適化
✅ データセンターのコロケーションコストの削減
✅ 効率的なデータセンター管理による資本の有効活用
多くのハイパースケーラーやAIクラウド特化型プロバイダーは、外部のコロケーション(データセンターの間借り)に大きく依存しています。
一方、同社は自社データセンターとコロケーションの両方を統合的に活用しており、これにより電力コストやインフラコストを抑えることが可能となっています。
対照的に、競合他社は以下の要因によって運用コストが高くなり、GPUサービスの価格競争力が低下しています。
✅ コロケーションへの依存度が高い
✅ 電力消費量が多い
✅ 設備の償却負担が大きい
このコスト優位性により、同社はAWS、Google Cloud、CoreWeaveといった業界大手に対抗できる強力な挑戦者となります。
特に、AIスタートアップやコスト意識の高い企業にとって、ハイパフォーマンスなクラウドコンピューティングをプレミアム価格なしで提供できる点が大きな魅力です。
低価格でありながらAI最適化されたクラウドサービスを提供することで、急成長中のGPU-as-a-Service市場でのシェア拡大を狙い、機械学習ワークロードを効率的に拡張したい企業を引きつけることができます。
ネビウス・グループは競合他社よりも総所有コストが低い
(出所:ネビウス・グループの2024年10月の投資家向け資料)
Part 2は以上となります。Part 3では、同社の財務パフォーマンスと同社を取り巻くリスクに関して詳しく解説していきますのでお見逃しなく!
🚀お気に入りのアナリストをフォローして最新レポートをリアルタイムでGET🚀
イアニス・ ゾルンパノス氏はバリュー・インカム関連、並びに、テクノロジー銘柄に関するレポートを毎週複数執筆しており、プロフィール上にてフォローをしていただくと、最新のレポートがリリースされる度にリアルタイムでメール経由でお知らせを受け取ることができます。
さらに、その他のアナリストも詳細な分析レポートを日々執筆しており、インベストリンゴのプラットフォーム上では「毎月約100件、年間で1000件以上」のレポートを提供しております。
そのため、ゾルンパノス氏の最新レポートに関心がございましたら、是非、フォローしていただければと思います!
その他のネビウス・グループ(NBIS)関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、ネビウス・グループのページにてご覧ください。
📢 知識は共有することでさらに価値を増します!
✨ この情報が役立つと感じたら、ぜひ周囲の方とシェアをお願いいたします✨
アナリスト紹介:イアニス・ゾルンパノス氏
📍バリュー&インカム・テクノロジー担当
ゾルンパノス氏のその他の配当関連のレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、ゾルンパノス氏のプロフィールページにアクセスしていただければと思います。
インベストリンゴでは、弊社のアナリストが「高配当銘柄」から「AIや半導体関連のテクノロジー銘柄」まで、米国株個別企業に関する分析を日々日本語でアップデートしております。さらに、インベストリンゴのレポート上でカバーされている米国、及び、外国企業数は「250銘柄以上」(対象銘柄リストはこちら)となっております。米国株式市場に関心のある方は、是非、弊社プラットフォームより詳細な分析レポートをご覧いただければと思います。