09/25/2024

【前編】ラティス・セミコンダクター(LSCC)の将来性:巨額報酬の新CEO就任で株価上昇!報酬の詳細と今後の株価見通しに迫る!

a computer processor with the letter a on top of itダグラス・ オローリンダグラス・ オローリン
  • 本稿では、注目の米国半導体銘柄であるラティス・セミコンダクター(LSCC)の新CEOの詳細と同社の将来性、並びに、今後の株価見通しを詳しく解説していきます。
  • フォード・タマー氏がラティス・セミコンダクターの新しいCEOに就任し、株価が上昇しましたが、同社は依然として業績不振に直面しています。 
  • タマー氏はInphi社、さらに、ブロードコムにおいて成功経験を持ち、ラティス・セミコンダクターの通信分野において適任とされています。 
  • 新しい報酬パッケージは、タマー氏を少なくとも3年間引き留めることを目的としており、業績や株価目標に応じた巨額の報酬が含まれています。

ラティス・セミコンダクター(LSCC)は新CEOフォード・タマー氏就任で株価上昇

お気に入りの半導体企業のCEOが「引退」から復帰して再びCEOに就任する瞬間は、やはり心躍るものです。私にとってその人物はフォード・タマー氏。彼はInphi社を率いて、業界の大手競合を相手に、驚くほど速いペースで最高のDSPを市場に送り出しました。個人的には、Inphi社は半導体業界における奇跡のような存在だったと思います。まさに「ダビデ対ゴリアテ」のような状況で、そのチームを導いたのがタマー氏でした。

そんな彼が再び半導体企業に戻ってきたと聞けば、注目しないわけにはいきません。今回彼が加わったのはラティス・セミコンダクター(LSCC)で、ちょうどサイクルの底近くにあると考えられる時期です。このニュースで同社の株価は当然のごとく上昇しました。

(出所:Koyfin)

ただ、もう少し広い視点で見ると、今年のラティス・セミコンダクターは異例の不振に見舞われています。これまでiシェアーズ半導体ETF(SOXX)を上回るパフォーマンスを見せていたものの、今年に入ってから約40%下落しています。

(出所:Koyfin)

しかし、フォード・タマー氏が再び指揮を執ることで、サイクルの底が近づいているのかもしれません。この件については、最近のレポートでも取り上げており、私は下記のように言及しています。

「これは、収益がほとんど自由落下のように減少している状況です。FPGA市場は2020年に大きな成長を遂げましたが、今年に入ってからようやく調整が始まりました。今回の供給過剰は、過去と比べても急激で深刻なものになりそうです。これで3四半期連続の業績予想下方修正となり、他社でも1年以上在庫の過剰に苦しんでいる状況です。そして、ラティス・セミコンダクターも同じような状況に陥るでしょう。」

「彼らはほぼ、後半にかけて回復基調を見せつつも、後半には在庫を減らすために需要を満たせないほど出荷を抑える状況に移行しました。」

「他社よりも混乱が大きくなるかもしれませんが、いずれこの株は非常に有望になると思います。ただ、正直に言えば、それが今かというと疑問です。」

以前のレポートでは、上記のように私は述べていますが、今回のフォード・タマー氏の就任が状況を一変させる存在であるかもしれません。そして、タマー氏の報酬パッケージが通常とは異なることからも、彼と取締役会の強い意図が感じられます。


関連用語

Inphi社: 高速データ伝送技術に特化した半導体企業で、主にデータセンターや通信インフラ向けのソリューションを提供していました。2021年にマーベル・テクノロジーに買収されました。

DSP (デジタル信号処理): 音声や画像、通信データなどのアナログ信号をデジタル形式に変換して高速に処理する専用のプロセッサ。通信機器や音声処理、画像処理などでよく使われています。

FPGA (フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ): ユーザーが後から設定やプログラミングを変更できる半導体チップ。用途に応じた柔軟な設計が可能で、通信、データセンター、自動車産業などで活用されています。


ラティス・セミコンダクター(LSCC)の新CEOの報酬パッケージについて

報酬パッケージについて気になった点をお話しします。まず、フォード・タマー氏が62歳だとは知らず、これが彼にとって最後の挑戦になるのではないかと感じました。また、彼の経歴を紹介することは、特にネットワーク分野での豊富な経験を知る上で役立つと思います。

まず、AgereはLucentに買収され、その後スピンオフされてLSIに買収され、最終的にはブロードコム(AVGO)にリブランドされました。Telegentはあまり成功しませんでしたが、タマー氏は2000年代初頭の厳しい時期にブロードコムの売上高を5倍に成長させました。これは大変な偉業です。

タマー氏の専門分野はネットワーキングであり、幸いにもラティス・セミコンダクター(LSCC)の売上高の約44%が通信分野に依存しているため、非常に適した役職だと言えます。また、今回の就任、並びに、報酬パッケージの詳細はこちらです。

(原文)Prior to joining the Company, Mr. Tamer, age 62, served as a Senior Operating Partner of Francisco Partners, a private equity company, which he joined in September 2022. Prior to that, he served as the President and Chief Executive Officer and as a director of Inphi Corporation from February 2012 to April 2021, when it was acquired by Marvell Technology Inc. (“Marvell”). Prior to that, he served as Chief Executive Officer of Telegent Systems, Inc. (this failed) from June 2010 until August 2011. Prior to joining Telegent, Mr. Tamer was a Partner at Khosla Ventures from September 2007 to April 2010. Mr. Tamer also served as Senior Vice President and General Manager — Infrastructure Networking Group at Broadcom Corporation from June 2002 to September 2007. He served as Chief Executive Officer of Agere Inc. from September 1998 until it was acquired by Lucent Technologies in April 2000, which Lucent then spun out as Agere Systems Inc. in March 2001. Mr. Tamer continued to serve as Vice President of Agere Systems until April 2002. Mr. Tamer currently serves on the board of directors of Teradyne, Inc. and Groq, Inc. and until the Start Date, served on the board of directors of Marvell. Mr. Tamer holds an M.S. degree and Ph.D. in engineering from Massachusetts Institute of Technology.

(日本語訳)タマー氏(62歳)はラティス・セミコンダクターに加わる前に、2022年9月からプライベートエクイティ企業フランシスコ・パートナーズのシニア・オペレーティング・パートナーを務めていました。その前は、2012年2月から2021年4月までInphi社の社長兼CEO、取締役として活躍し、その後マーベル・テクノロジー(MRVL)に買収されました。さらに2010年6月から2011年8月まではTelegent SystemsのCEOを務めましたが、この会社は失敗しました。それ以前は、2007年9月から2010年4月までKhosla Venturesのパートナーを務めていました。2002年6月から2007年9月までブロードコムのインフラネットワーキンググループのシニアバイスプレジデント兼ゼネラルマネージャー、そして1998年9月から2000年4月までAgere Inc.のCEOを務めました。AgereはLucent Technologiesに買収され、その後2001年3月にAgere Systemsとしてスピンオフされました。タマー氏は2002年4月までAgere Systemsのバイスプレジデントを務めました。タマー氏は現在、テラダインTER)とGroq, Inc.の取締役を務めており、就任日まではマーベル・テクノロジーの取締役も務めていました。彼はマサチューセッツ工科大学(MIT)で工学の修士号と博士号を取得しています。

彼の報酬パッケージはシンプルで、基本給は約80万ドル(約1.15億円)と控えめです。ボーナスは基本給の125%、つまり年間約100万ドル(約1.44億円)の見込みで、現金報酬としては少なめだと感じています。

さらに、タマー氏は、2024年に約340万株(残り3か月)、2025年には1,000万株を受け取る資格があります。これらは50%が譲渡制限付き株式、残りの50%がPSU(業績連動型株式報酬)で構成されています。なかなか良い条件です。

しかし、注目すべきは、タマー氏がサインオンボーナスとして3,000万ドル(約43.3億円)を受け取る点です。このボーナスは、1/3が時間経過による付与、1/3が収益成長に連動、そして1/3が株価目標の達成に連動しています。

(出所:筆者作成)

ここで彼の報酬パッケージを簡単にまとめます。いくつか感じた点がありますが、まず、このパッケージは彼を数年間、具体的には少なくとも3年は引き留めることを目的としているように思います。タマー氏は、1年勤務で約600万ドル(約8.6億円)を得る見込みで、その後は時間経過に応じて報酬が徐々に減少する形になっています。

また、株価目標を達成しなくても加速がつく200%のCiC(Change in Control)支払いは、会社売却の大きなインセンティブには感じません。タマー氏がここにいる理由は、会社を数年間運営することであり、その意図が報酬パッケージにも表れています。

(原文)In case of a Qualifying Termination during the Change in Control Period then, subject to Mr. Tamer’s timely execution and non-revocation of a release of claims, he will be eligible to receive severance payments and benefits set forth in the Offer Letter, which include (i) a lump sum payment equal to 200% of Mr. Tamer’s base salary plus 200% of Mr. Tamer’s target bonus, (ii) up to18 months of COBRA benefits for Mr. Tamer and any eligible dependents under the Company’s group health plans, and (iii) 100% of accelerated vesting of any equity awards that vest based solely on continued service with any equity awards that remain subject to performance goals treated as set forth in the applicable award agreement.

(日本語訳)もし、Change in Control期間中に「適格解雇」が発生した場合、タマー氏がタイムリーにクレームの放棄に関する契約を締結し、取り消さなければ、オファーレターに記載された退職金と福利厚生を受けることができます。これには、(i) 基本給の200%とターゲットボーナスの200%相当の一括支払い、(ii) タマー氏および扶養家族のために最長18か月間の会社健康保険プランのCOBRA給付、(iii) 継続的な勤務に基づく株式報酬の100%の加速付与が含まれます。なお、業績目標に基づく株式報酬については、該当する報酬契約に基づいて処理されます。

※続きは「【後編】ラティス・セミコンダクター(LSCC)の今後の株価見通し:足元の業績は軟調も来年以降は増収?直近の株価下落の理由に迫る!」をご覧ください。


関連用語

譲渡制限付き株式: 企業が従業員に付与する株式で、一定期間や条件が満たされるまで売却や譲渡が制限される株式です。主に従業員の長期的なインセンティブとして使われます。

PSU(業績連動型株式報酬): 業績に応じて従業員に付与される株式報酬。企業の目標(収益や株価)を達成することで、報酬として株式を受け取ることができます。

CiC(Change in Control)支払い: 企業が買収や合併などで経営権が変更された際に、従業員が退職金や特別報酬を受け取る仕組みです。

Agere: 半導体メーカーで、通信機器向けチップを製造していました。後に独立企業として運営されましたが、最終的にLSIに買収されました。

Lucent: AT&Tからスピンオフした通信機器メーカーで、電話交換機やネットワーク機器を提供していました。2006年にフランスのAlcatelと合併し、Alcatel-Lucentになりました。

LSI: 半導体およびデータストレージ向けソリューションを提供していた企業で、2014年にAvago Technologies(現在のブロードコム)に買収されました。

Telegent: 携帯電話向けのテレビ受信チップを開発していた半導体企業で、フォード・タマー氏がCEOを務めましたが、大きな成功は収められませんでした。


アナリスト紹介:ダグラス・ オローリン / CFA

ダグラス・オローリン氏は、自身が2020年に設立した半導体調査会社ファブリケイティド・ナレッジ社のチーフアナリストを務め、主に半導体関連銘柄とAIセクターの最新動向の分析に焦点を当てています。

ファブリケイティド・ナレッジ社設立以前は、テキサス州ダラスを拠点とする投資会社Bowie Capitalで投資アナリストを務めていました。そして、Bowie Capitalでは、コンパウンダー(長期間にわたって一貫して高いリターンを生み出し、その価値を複利で成長させる能力を持つ企業)とクオリティ重視の投資に焦点を絞って分析 / 投資活動に従事しておりました。

その経験を通じて、オローリン氏は半導体、特にムーアの法則の終焉という変化するストーリーと、それが半導体業界/ 銘柄にとってどのような意味を持つのかに興味を持つようになりました。結果、半導体セクターに対する理解を一層追求するためのプロジェクトとして、ファブリケイティド・ナレッジ社を設立しました。

また、オローリン氏のその他の半導体関連銘柄のレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、オローリン氏のプロフィールページにアクセスしていただければと思います。


半導体銘柄関連レポート

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