08/26/2024

AMDがZT Systemsを買収!49億ドルでのAIインフラ企業買収のメリットとデメリットとは?

a close up of a speaker with lights in the backgroundウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)によるAIインフラ提供企業「ZT Systems」の買収の詳細と、買収によるAMDへのメリットとデメリットを詳しく分析していきます。
  • AMDは、49億ドルでZT Systemsを買収することで、AIインフラ市場でのリーダーシップ強化とデータセンター向けAIソリューションの展開加速を目指しています。
  • 買収によってAMDは約1,000人のデータセンター設計エンジニアを獲得し、ZT Systemsのクラウド向けソリューションの経験を活用して、AIインフラの導入スピードを向上させる予定です。
  • ZT Systemsの製造部門は分社化が検討されており、AMDはその製造事業を売却する戦略的パートナーを模索しています。

アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)によるZT Systemsの買収に関して

今週初め、アドバンスト・マイクロ・デバイセズAMD)はハイパースケールソリューションを提供するZT Systemsを、49億ドルで現金と株式を組み合わせた形で買収する意向を発表しました。

(原文)SANTA CLARA, Calif., Aug. 19, 2024

(日本語訳)2024年8月19日:カリフォルニア州サンタクララ

(原文)AMD today announced the signing of a definitive agreement to acquire ZT Systems, a leading provider of AI infrastructure for the world’s largest hyperscale computing companies. The strategic transaction marks the next major step in AMD’s AI strategy to deliver leadership AI training and inferencing solutions based on innovating across silicon, software and systems. ZT Systems’ extensive experience designing and optimizing cloud computing solutions will also help cloud and enterprise customers significantly accelerate the deployment of AMD-powered AI infrastructure at scale.

(日本語訳)AMDは本日、世界最大級のハイパースケールコンピューティング企業向けにAIインフラを提供するリーディングカンパニー、ZT Systemsを買収するための最終合意に至ったことを発表しました。この戦略的な買収は、AMDのAI戦略における大きな一歩となり、シリコン、ソフトウェア、システムの革新を通じて、AIトレーニングおよび推論ソリューションでのリーダーシップを目指すものです。また、ZT Systemsのクラウドコンピューティングソリューションに関する豊富な経験は、クラウドやエンタープライズのお客様がAMDの技術を活用したAIインフラを大規模に導入する際のスピードアップに大いに貢献するでしょう。

取引条件では、ZT Systemsの株主は購入価格の75%を現金で、残りの25%をAMDの株式で受け取ることになります。現金部分は、手持ちの現金と新たな借入金で賄われる予定です。

また、AMDのCEOのリサ・スー氏は、CNBCの独占インタビューで、AIデータセンターの市場規模が2027年までに4000億ドルに達すると見込んでおり、今回の買収がその市場でのAMDのシェア拡大に寄与することを目指していると語りました。

また、リサ・スーCEOは、ZT Systemsの製造部門を分社化する計画があることを明らかにしました。これは、スーパー・マイクロ・コンピューターSMCI)などの競合他社にとって、安心材料となることでしょう。

今回の取引は、AMDが2020年に約500億ドルでXilinx(ザイリンクス)を買収して以来、最大の規模となります(この買収は2022年初頭に完了しました)。さらに、7月にSilo.Aiを買収したばかりで、2023年にはNod.AiとMipsologyを、2022年には1.9億ドルでPensando Systemsを買収しています。

ZT Systemsは、AMDによる買収が発表されるまであまり知られていませんでしたが、私たちはこの取引の概要を説明する投資家向け会議に参加しました。以下、その会議で得た情報をお伝えします。それでは、詳しく見ていきましょう。


関連用語

ZT Systems:クラウドやデータセンター向けに高性能なサーバーやコンピューティングソリューションを提供する企業。特に、ハイパースケールコンピューティング環境で使用されるAIインフラの設計や最適化に強みを持っている。

Xilinx(ザイリンクス):プログラマブル・ロジック・デバイスで有名な企業で、通信、データセンター、産業機器、自動車など多くの分野で使用される製品を開発しており、2020年にAMDにより買収された。

プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD):設計者が自分で動作をプログラムできる電子部品の一種。具体的には、ユーザーが自ら回路の構成を決められるため、特定の用途に合わせて自由にカスタマイズできる。FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ)は、その代表的な例で、幅広いアプリケーションに利用されている。


まず、投資家向けの電話会議は、CEOのリサ・スー氏とCFOのジーン・フー氏が共同で進行しました。会議のスライド資料は、こちらからご覧いただけます

リサ・スーCEOは、冒頭でAMDの技術的なリーダーシップについて、次のスライドを示しながら説明しました。

テクノロジー上のリーダーシップ

興味深いことに、PCについてはほんの一言触れるだけで、データセンターのリーダーシップが中心に据えられています。この点については、リサ・スーCEOはが「“AI is the most transformational technology of the last 50 years and is our #1 strategic priority”(AIは過去50年で最も革新的な技術であり、私たちの最優先事項です)」と強調したことで、さらに明確になりました。

大規模データセンター向けのAIアクセラレーターにおける獲得可能な最大市場規模

$45B:450億ドル以上

>70% CAGR:70%超の年平均成長率

$400B+:4000億ドル以上

リサ・スーCEOは、AMDのMI300アクセラレーターが同社史上最速で成長している製品であり、2024年だけで45億ドル以上の売上を達成する見通しであることを強調しました。

AMD Instinct™ MI300アクセラレーターは、AMD史上最速で成長している製品

また、リサ・スーCEOは、シリコン、ソフトウェア、サーバーレベルでリーダーシップを発揮するコンポーネントを提供するだけでなく、急速に進化するAIの環境に対応するため、サーバーラック、ノード、クラスター、そしてデータセンター自体の設計にも注力する必要があると指摘しました。

進化するAIの環境

イノベーションがシリコンからノード、ラック、そしてクラスターへと移行

(原文)Performance demands of next gen-AI models requires optimizing across silicon, software and systems

(日本語訳)次世代AIモデルのパフォーマンス要求に対応するためには、シリコン、ソフトウェア、システム全体での最適化が必要です。

そして、ZT Systemsは、この分野で重要な役割を担っています。同社は、データセンター設計のあらゆる側面、アーキテクチャからネットワークに至るまで、豊富なエンジニアリングの専門知識を持ち合わせています。

AMDがZT Systemsを買収

データセンター向けAIソリューションの能力を大幅に拡充

ZT Systemsは1994年に設立されましたが、リサ・スーCEOによると、過去15年間はハイパースケールデータセンターソリューションに専念してきたとのことです。ZT Systemsの従業員は約2,500人おり、そのうち1,000人ほどがデータセンター設計のさまざまな分野で活躍しています。この規模をスーパー・マイクロ・コンピューターと比較すると興味深いです。スーパー・マイクロ・コンピューターの2023年の年次報告書によれば、

(原文)As of June 30, 2023, we employed 5,126 full time employees, consisting of 2,448 employees in research and development, 585 employees in sales and marketing, 465 employees in general and administrative and 1,628 employees in manufacturing. Of these employees, 2,291 employees are based in our San Jose facilities. We consider our highly qualified and motivated employees to be a key factor in our business success. Our employees are not represented by any collective bargaining organization, and we have never experienced a work stoppage.

(日本語訳)2023年6月30日時点で、当社は5,126人のフルタイム従業員を抱えており、その内訳は、研究開発部門に2,448人、営業およびマーケティング部門に585人、一般管理部門に465人、製造部門に1,628人です。このうち2,291人はサンノゼの施設で働いています。当社は、高い能力と意欲を持つ従業員をビジネス成功の鍵と考えています。従業員はどの労働組合にも属しておらず、ストライキを経験したことはありません。

このように、スーパー・マイクロ・コンピューターの従業員数はZT Systemsの約2倍ですが、スーパー・マイクロ・コンピューターの時価総額は350億ドルで、AMDがZT Systemsに支払った金額の7倍に達します。

また、リサ・スーCEOは、AMDが過去7年間にわたり、ZT SystemsとAIおよび一般コンピューティングシステムの両方で協力してきたことを明かしました。この話を聞いて、AMDが2020年にXilinxを買収した時のことを思い出しました。

ZT Systemsと同様に、AMDはXilinxを買収する前から、すでに長年にわたる協力関係を築いていました。そして、私はこれは非常に重要なポイントだと思います。買収自体は比較的簡単に行えますが、統合は非常に難しいことが多いです。しかし、両社がすでに長い協力関係を持っている場合、統合が成功し、スムーズに進む可能性が大幅に高まると考えられます。

リサ・スーCEOは、ZT SystemsがAMDのAIデータセンターの目標達成にどう貢献するかについて説明し、同社が主要なハイパースケーラーと既に協力関係を築いていること、そしてAIシステムのデータセンターへの展開を加速させる上で重要な役割を果たすことを強調しました。

AMD + ZT Systems

(日本語訳)

・約1,000人のシステム設計および支援エンジニアによって、AMDはOEMやODMパートナーのエコシステムを通じて、世界最高水準のAIインフラを設計・提供することが可能になります。

・ZT Systemsの豊富なクラウドソリューションの経験は、クラウド顧客向けにAMDのAIインフラを大規模に展開するスピードを大幅に向上させるでしょう。

・AMDは、CPU、GPU、ネットワーキング、そして新たに加わるシステムソリューションを組み合わせて、最適化されたソリューションを市場に提供するため、幅広いOEMおよびODMパートナーと引き続き緊密に連携していきます。

・AMDは、ZT Systemsの米国拠点のデータセンターインフラ製造事業を取得するための戦略的パートナーを探す予定です。

当電話会議の中で、そしてQ&Aセッションでも、リサ・スーCEOは繰り返し、AMDが既存のOEMやODMパートナーと競合するつもりは全くないことを投資家に強調しました。彼女の計画は、信頼性が高く検証済みのリファレンスデザインを作成し、パートナーがそれをそのまま利用するか、あるいはそのリファレンスデザインを基に自社の独自技術を加えてさらに改良するかを選べるようにする、というものです。

私の見解では、AMDは結局、両方のアプローチを取ることになるでしょう。基本的には既存のパートナーシップを継続しつつ、ケースバイケースで、社内で開発したリファレンスデザインを活用して、ハイパースケールの顧客と直接取引する機会を積極的に模索するのではないかと思います。その理由としては、必要がない限り、第三者のOEMやODMを介する理由がないためです。

一つ明らかなのは、1,500人の従業員を抱える製造部門が売却されるということです。売却までの間、この部門は「売却予定」の事業として扱われ、財務上は「廃止事業」として報告されることになります。

取引概要

(日本語訳)

取引対価

・購入価格は49億ドルで、取引完了後の特定のマイルストーンに基づいて、最大4億ドルの追加支払いが含まれています。

・ZT Systemsの株主は、購入価格の75%を現金で、25%をAMDの株式で受け取ることになります。

資金調達と財務

・この取引は、手元資金と新たな借入で資金調達される予定です。

・システムやデータセンターサービスに関する専門知識を持つ約1,000人のエンジニアが加わり、年間約1億5000万ドルの運営費が発生すると見込まれています。

・Non-GAAPベースで2025年末までに収益にプラスになると予想されています。

製造部門の売却

・ZT Systemsの創設者兼CEOであるフランク・チャン氏が製造部門を引き続き率いる予定です。

・AMDは、この製造部門を取得する戦略的パートナーを探す予定です。

・ZT Systemsの製造部門を売却予定の事業として分類し、製造部門の業績を「廃止事業」として報告する予定です。

承認と取引完了

・この取引は2025年上半期に完了する見込みです。

規制当局の承認やその他の通常の条件が整うことが前提となります。

当然ながら、AMDが製造部門の売却でどれだけの価格を得られるかは、1,000人の研究開発エンジニアを獲得するためのAMDの全体的なコストを把握する上で非常に重要です。簡単に計算してみると、ZT Systemsの製造部門とスーパー・マイクロ・コンピューターを比較した場合、ZT Systemsが著しく低く評価されているか、スーパー・マイクロ・コンピューターが過大評価されているか、もしくはその両方であると結論せざるを得ません。

ここで少し大胆な仮定をしてみますが、ZT Systemsは赤字を抱えていた可能性があります。1,000人のR&DチームがAMDに移るものの、ほとんど売上高は伴わず、年間1億5,000万ドルの運営費がかかることになります。

AMDによれば、ZT Systemsの年間売上高は100億ドルを超えると言いますが、そのほとんどは製造部門からの売上高です。ここに矛盾が生じます。なぜ1,500人の製造部門のスタッフを支えるのに1,000人ものエンジニアが必要なのか?年間100億ドル以上の売上高を上げる企業が、今回の取引価格に見合ったより高い評価を受けないのはなぜなのでしょうか?スーパー・マイクロ・コンピューターの2023年の年間売上高は70億ドル強に過ぎませんが、それでも同社の時価総額は非常に高い水準にあります。


関連用語

サーバーラック:サーバーを物理的に設置するための専用のラック(棚)で、データセンターで多数のサーバーを効率的に管理するために使用されます。

ノード:ネットワーク内やコンピュータシステム内で、特定の機能を持つ1台のコンピュータやデバイスを指します。データセンターでは、サーバーの一台一台が「ノード」として機能します。

クラスター:複数のノード(サーバー)をまとめて1つのシステムとして動作させる仕組みで、高可用性や高パフォーマンスを実現するために使われます。

ハイパースケール:非常に大規模なコンピュータシステムやデータセンターのことを指し、主に巨大なクラウドサービスを提供する企業が運営するデータセンターに使われます。

ハイパースケーラー:ハイパースケールのデータセンターを運営する企業を指し、例えばAmazon Web Services (AWS)、Microsoft Azure、Google Cloudなどが該当します。

OEM(Original Equipment Manufacturer):他社ブランド向けに製品を製造する企業を指す。

ODM(Original Design Manufacturer):他社ブランド向けに製品の設計から製造までを行う企業を指す。

CPU(Central Processing Unit):コンピュータの頭脳とも言われる、データ処理の中心となる部分。

GPU(Graphics Processing Unit):主にグラフィックス処理を担当するプロセッサだが、AIや科学計算などでも利用される。

リファレンスデザイン:特定の製品やシステムを構築するための標準的な設計図やモデルで、他社がそれを基に製品を開発するための参考として提供される。


アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)によるZT Systemsの買収に対する結論

結論として、アドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)は一度に1,000人もの経験豊富なデータセンター設計エンジニアを手に入れることになりました。AMDがこの4000億ドル規模のAIデータセンター市場でより大きなシェアを確保するために、この分野での体制強化が必要だと強く感じているのは明白です。

この取引の性質上、製造部門が売却されるまで、AMDがこの優秀なチームに最終的にいくら支払うことになるのかは正確にはわかりません。実際のところ、その売却価格がどうなるかは、私たちには知ることができないかもしれません。しかし、リサ・スーCEOにとっては、最終的なコストはそれほど重要ではないのかもしれません。彼女にとって、このようなチームを短期間で確保することが最優先だったのです。そして、この取引がそれを可能にしました。この決断は、結果的に素晴らしい選択だったと証明されることになると私は見ています。では、2年後に振り返って、その成果を確認してみたいと思います。

さらに、その他のアドバンスト・マイクロ・デバイスAMD)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクよりアドバンスト・マイクロ・デバイスのページにアクセスしていただければと思います。


アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング

📍半導体&テクノロジー担当

キーティング氏のその他の半導体関連銘柄のレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、キーティング氏のプロフィールページにアクセスしていただければと思います。


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