AI需要増加で注目の米国「半導体」「ネットワーク」「データセンター」「電力」関連銘柄を徹底解説!
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- 本稿では、2025年以降も継続するAI需要を踏まえ、「半導体」、「ネットワーク」、「データセンター」、「電力」の4つのカテゴリーにおける注目の米国企業を詳しく解説していきます。
- AI業界の資本サイクルは「コンピュートとネットワーキング」「電力」「データセンター」に分類され、特に電力とデータセンターが過剰投資の焦点となっています。
- 電力供給とデータセンター建設のリードタイムが長いため、需要と供給のバランスが崩れ、業界全体で二重注文や供給ボトルネックが生じています。
- ZRやデータセンター建設関連企業の受注動向が重要な先行指標となり、電力会社や独立系発電事業者の設備投資が今後の供給能力を左右する要素であると見ています。
※「AIと半導体の関係とは?OpenAIのo3モデルの登場がAI業界の資本サイクルに与え得る影響を徹底解説!」の続き
前章では、「AIと半導体の関係とは」という疑問に答えるべく、足元でリリースされたOpenAIの最新のo3モデルがAI業界の資本サイクルに与え得る影響に関して詳しく解説しております。
本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。
現在の資本サイクルに対する私の見解
鉄道やインターネットバブルの資本形成にはさまざまな側面がありました。現在の資本サイクルにも、いくつかの具体的な資本形成のカテゴリーがあります。それを簡単に表現するなら、「コンピュートとネットワーキング」「電力」「データセンター」に分類できるでしょう。興味深いのは、過去を思い起こさせる点です。鉄道時代には「鉄道と土地」、インターネット時代には「インターネットと通信」という構図があったのです。
AIの場合、主な過剰投資の対象となるのは電力とデータセンターだと思います。この過剰投資はさらに悪化する可能性が高く、その原因として両市場間に大きなタイムラグがあることが挙げられます。一方、コンピュートとネットワーキングのサイクルはより反応が速いため、需要の増加から供給が追いつくまでのリードタイムは約12か月程度だと考えています。
問題は、電力とデータセンターの反応サイクルが非常に遅いことにあります。データセンターの建設には数か月から数年、電力供給の拡充にはさらに数年を要します。今年(2024年)は、コンピュートやネットワーキングが電力不足によって制約を受けるため、電力予算の再編成が大きな課題となるでしょう。データセンターと電力の部分が市場に反応し始めたのはようやく昨年(2024年)からであり、このことは資本サイクルが転換するまでにはまだ時間がかかることを示していると考えられます。
ここで、伝統的な半導体サイクルの考え方を適用してみましょう。この場合、データセンター向け電力が「ゴールデンスクリュー(特定のプロセスやシステムにおいて、全体の進行や完成を決定づける最も重要でクリティカルな要素)」に相当します。つまり、これが全体のソリューション提供を阻む重要な要素であり、ボトルネックとなるため、最も多くの過剰注文とリードタイムの集中が発生する部分です。
そして、実際に今その通りのことが起きています。たとえば、GE Vernovaは2027年や2028年のスロットをすでに予約しています。これは、現時点で約2.5~3年のリードタイムを示しており、長期ではありますが驚くほどではありません。
(原文)Even though the contracts are for slots in '27 and '28 is, in some cases, these customers haven't built power plants before. There's complexity in making this happen, and we didn't want to put them into our financial framework until things like the air permits and the EPC and the sites were further along. I expect that to happen next year.
(日本語訳)契約が2027年や2028年のスロット向けであっても、これらの顧客の中にはこれまで発電所を建設した経験がないケースもあります。このプロジェクトを実現するには多くの複雑な要素が絡んでおり、たとえば環境許可(エアパーミット)やEPC(設計・調達・建設)、建設地の準備がさらに進むまでは、これを私たちの財務計画に組み込むことを避けていました。これらの進展が来年には見込めると考えています。
注文は売上を、売上は力を生む
(出所:GE Vernovaの2024年度第3四半期決算資料)
現在、電力が最もリードタイムの長い分野です。ガスタービンの電力供給注文は、すでに2027年から2028年まで予約されています。アマゾン(AMZN)は、小型モジュール炉(SMR)の建設に参入する意向を示しており、古い原子力発電所も再稼働の動きが進んでいます。石炭火力発電所でさえ建設には約4~6年かかり、最も短いリードタイムを持つガス火力発電所でも約2年を要します。では、これが業界全体に何を意味するのでしょうか?答えは「二重注文」です。
半導体業界全体を考えることにはあまり意味がありません。なぜなら、電力というはるかに長いボトルネックが、実際の需要過剰(過剰注文)の全体像を決定づけるからです。
私が推測する注文リードタイムや反応速度
(出所:筆者作成)
将来のアップグレードを見据えて適切な量の電力を確保したいと考えるでしょうし、将来のチップは現在のものよりも多くの電力を消費します。では、それが何を意味するのか?おそらく、必要以上の電力容量を注文し、大量注文で優先的な供給を確保しようとしているのではないでしょうか。
これは半導体サイクルそのものと言えます。自動車産業での不足時に8ビットMCUが主要なボトルネックとなったように、今度は発電所が新たな供給不足の焦点になるでしょう。8ビットMCUは、供給増加の余地がほとんどないという独特の問題を抱えていましたが、これはアメリカの電力事情と共通する点があります。
こうした状況を述べる理由は、業界の注目が現在データセンターの需要に向けられていると考えるからです。需要を測る最も確実な方法は、どこに最も大きなボトルネックがあるのかを把握することです。この分野での注文パターンが、供給が需要を超え始めるタイミングを知る鍵になるでしょう。
現在の状況では、熱狂的な動きがあっても、株式投資の急増が即座に供給拡大に直結するような重要なフィードバックループは存在していません。CoreWeaveのIPOがこれを変えるかもしれませんが、今のところこれを「バブル」と断言するのは難しく、むしろ巨大な資本形成といった方が適切です。最良のバブルは、供給拡大の即時的な利益還元が特徴ですが、それが2025年に実現する可能性はあるものの、現在の市場はまだ極端な投機的状態には至っていません。
2025年もAI関連の複数年にわたる資本投資が続くでしょう。いずれ供給過剰に陥る時が来るはずですが、現時点ではその時期がまだ来ていないと感じています。なお、来年はチップや電力供給の増加に伴い、実質的な供給が市場に登場するでしょう。しかし、o3がo1のタスクに比べて1000倍もコストがかかる現状を考えると、まだ需要が優位に立っています。
ただし、フロンティアはそこにあります。資本が無分別に「土地の争奪戦」に向かう時が来ました。リードタイムが最も長い部分を注視すれば、すべての資金がどこに向かうのかが見えてくるでしょう。このサイクルを示す「風向計」についていくつか考えがあり、このサイクルを見極めるための詳細なガイドに関して詳しく解説していきます。
そして、これを2つの部分に分けてお話しします。「恩恵を受ける企業」と「注目すべき具体的な指標」です。
半導体業界で注目の指標と企業
この内容が私が6つの章から成る長編の半導体セクターの年次見通しを執筆した直後に出てきたのは偶然ではありません。また、半導体セクターの2024年度の振り返りと2025年度の見通しに関心がございましたら、下記のシリーズを併せてご覧いただければと思います。
そして、私が特に注目しているのは、AI関連の半導体企業で在庫が増加しつつ、収益成長が鈍化している兆候です。幸いなことに、この問題が本格化するのは2025年後半以降になると思われますが、いずれ現実の課題となるでしょう。在庫成長率と収益成長率の比較は、重要なKPI(重要業績評価指標)です。
AI関連半導体の売上高(X軸)対在庫成長率(Y軸)
(出所:SemiAnalysis)
特に、半導体市場におけるODM(委託設計製造)の在庫に注目する価値があると考えています。たとえば、スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)や他の企業では、在庫の増加が売上高の成長を上回っており、これは健全ではありません。しかし、市場の最大の関心事は主にBlackwellの生産拡大に向けた動きにあります。
ネットワーク関連で注目の企業
ここからが面白い部分です。テレコムのZR関連は、テールウィップ(大きな動きや変化の末端にある、極端で激しい動きや影響)の極端な部分であり、非常に注目に値すると考えています。ZRは電力制約を回避し、スーパークラスターを構築する手段の一つです。そのため、ZRはバックログを緩和し得ると同時に、もう一つの先行指標と見ることができます。要するに、ZRは電力に関する先行指標なのです。
現在、ZRの在庫は増加しており、収益も加速しているため、優れた先行指標となっています。ZRの動きが鈍化するようなことがあれば、それは電力制約が解消されつつある兆候かもしれません。注目すべき企業としては、アリスタ・ネットワークス(ANET)、ファブリネット(FN)、シエナ(CIEN)、そしてマーベル・テクノロジー(MRVL)があります。これらの企業はZR関連の加速を示しており、この「風向計」は依然として力強く機能しています。
データセンター関連で注目の企業
いくつかの企業が、データセンター業界の動向を示す指標として注目されています。たとえば、スターリング・インフラストラクチャー(STRL)は非常に優れた企業で、データセンターや半導体工場の建設に伴う土木工事を手掛けています。同社の受注残高(バックログ)は、電力供給の拡大を示す先行指標であり、従来のデータセンター容量拡大に比べて数四半期先行します。
注目すべきは、2024年第3四半期において、受注残高がわずかではありますが初めて減少に転じたことです。これは見逃せないポイントです!
バックログとは、高い収益性を持つ業務のパイプラインのこと
(出所:スターリング・インフラストラクチャーの2024年11月のプレゼンテーション資料)
他に注目すべき「風向計」企業としては、コンフォート・システムズ(FIX)やバーティブ(VRT)があります。これらの企業はデータセンター内部の製品を供給しており、コンフォート・システムズは受注残高のような明確な指標はないものの、バーティブには受注残高があります。バーティブでは注文の減少が投資家を不安にさせましたが、絶対的な受注残高は依然として高水準にあります。
(日本語訳)
顧客需要
・第3四半期の直近12か月(TTM)ベースでの受注成長率は、前年同期比で約37%増加し、第2四半期末時点の約37%増と同水準を維持しました。また、第3四半期単独では、2023年第3四半期比で約17%の成長を記録し、当初の予測範囲の上限を上回る結果となりました。
・2024年第3四半期末時点のバックログは74億ドルで、2023年第3四半期末比で約47%増、第2四半期末比で5%増加しました。なお、この成長は全3地域での拡大によるものです。
・販売パイプラインは第2四半期から引き続き成長を続けており、特にAIが強力な推進力となっています。データセンター容量拡張計画が全3地域でさらに進展していることに支えられており、特にEMEA(欧州・中東・アフリカ)地域では、AI関連需要の加速に対する可視性が改善された点が顕著です。
注目すべき電力会社
最後に取り上げるのは電力会社です。ビストラ(VST)とコンステレーション・エナジー(CEG)は非常に注目すべき企業であり、独立系発電事業者(IPP: Independent Power Producers)として活躍しています。これらの企業は「発電所をサービスとして提供」しており、これまでの歴史的には非常に厳しいビジネスとされてきましたが、現在では状況が変わっています。
独立系発電事業者は、グリッドにおける究極の調整役です。電力供給が余裕のある状態では、これらの企業の収益性は低迷しますが、電力不足が発生すれば、超過利益を得ることができます。
ビストラとコンステレーション・エナジーは現在の設備基盤で大きな利益を上げていますが、設備容量を増やすにつれて、状況は一筋縄ではいかなくなると思われます。来年以降、これまでと比較して設備投資(Capex)が増加し、グリッドも拡大する見込みです。設備投資は重要な先行指標と言えるでしょう。
つまり、これらの企業は、先に述べたガスタービンのGEV(ガスエンジンタービン)の消費者であり、彼らの設備投資(Capex)決定が、将来的な供給能力の増強に直結します。そのため、その変化率に注目することが重要です。ソーラー、ガス、原子力への設備投資(ユーティリティを含む)は、このサイクルの「最終ボス」とも言える存在です。これらの分野に多額の投資を行う場合、サイクルにおける最も劇的な転換点が見られるでしょう。
現状ではどうか?まだその段階には達していないと思いますが、これは今後の四半期ごとの分析で取り上げるべき最重要課題の一つになると考えています。3年間の電力計画やリードタイムの変化率を注視することが必要です。これこそが最大のボトルネックだからです。
以下に参考となる簡易ガイドを示します。
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アナリスト紹介:ダグラス・ オローリン / CFA
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