ASMLホールディングの株価下落理由:ASMLショックの影響は?最新の2024年3Q決算分析を通じて同社の将来性に迫る!
ウィリアム・ キーティング- 本稿では、最新の2024年第3四半期決算後に株価が大幅下落した、注目の欧州半導体銘柄であるASMLホールディング(ASML)の最新決算とASMLショックの分析を通じて、同社の今後の株価見通しと将来性を詳しく解説していきます。
- ASMLホールディングは決算発表前日に誤って決算情報を公開し、その内容が悲観的だったため、株価が大幅に下落しました。
- 2024年第3四半期の売上は好調で、特にDUVの売上やインストールベース事業が予想以上の結果を示しました。
- 2025年の売上見通しは300億〜350億ユーロと予測されていますが、半導体業界全体に慎重な姿勢が見られています。
ASMLショック:ASMLホールディング(ASML)は最新決算を受けて株価大幅下落
ASMLホールディング(ASML)は昨日、2024年10月16日(水)に第3四半期の決算を発表を予定していました。
ところが、朝目を覚ますと、すでにメールボックスにはASMLの決算内容が山のように届いていて驚きました。
どうやら、発表前夜に「誤って」同社のウェブサイトに決算情報が公開されてしまったようです。
さらに悪いことに、その内容には2025年の見通しについてかなり悲観的な記述がありました。
この影響で、ASMLの株価は一気に16%も急落しました。
(出所:Yahoo Finance)
これに加え、今夏の中頃から続く株価の緩やかな下落もあり、現在の同社の株価は2021年末とほぼ同じ水準にまで下がっています。
(出所:Yahoo Finance)
さらに状況を悪化させたのは、この同社のニュースが他の半導体関連株にも大きな打撃を与えたことです。
特にKLA(KLAC)が大きな影響を受けました。
(出所:Yahoo Finance)
奇妙なことに、ちょうど1年前にもASMLホールディングが2024年の収益見通しとして前年比ゼロ成長を初めて示した際、同様の影響を半導体市場全体に与えたことがありました。
この際に執筆したレポートにおいて、私は下記のように述べています。
「半導体業界全体に目を向けると、ASMLの最新の決算は、在庫問題が引き続き業界に影響を与えていることを改めて示しています。メモリー(Memory)分野は依然として低迷しており、スマートフォンやPCといった主要分野の成長も振るいません。V字回復の兆しは見えず、力強い成長を取り戻すには長い時間をかけて徐々に回復していく必要がありそうです。この先の決算シーズンがどう展開するか、注目しましょう。」
さて、同社の悪いニュースは2025年の見通しだけにとどまりませんでした。一体何が起きているのか、詳しく見ていきましょう。
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ASMLホールディング(ASML)の最新の2024年第3四半期決算に関して
まず、悪いニュースに触れる前に、ASMLホールディング(ASML)の2024年第3四半期の決算を見てみましょう。
同社の売上は75億ユーロで、前四半期比で19%増、前年同期比で11.9%増加しました。
この数字はガイダンスの上限を2億ユーロ上回り、好調な結果となりました。
この背景には2つの理由があります。
下記は、決算説明会における遣り取りです。
(原文)A couple of reasons for that. First off, we had stronger DUV sales, but also the Installed Base Management business was higher than expected at €1.54 billion.
(日本語訳)理由はいくつかあります。まず、DUV(Deep Ultraviolet Lithography:深紫外線リソグラフィー)の売上が好調だったことに加え、インストールベース管理事業(既に導入された製品や設備のメンテナンスやアップグレード、サポートを提供する事業)も予想以上の成果を上げ、15億4000万ユーロに達したことが挙げられます。
用途別に見ると、ロジックチップ(Logic:コンピューターやスマートフォンなどのデバイスで、データ処理や制御を行うための半導体チップ)の売上が第2四半期の54%から第3四半期には64%に増加しました。
また、中国向けの売上も依然として好調で、全体の47%を占めており、前四半期からわずか2ポイント減少しただけです。
(出所:ASMLホールディングの2024年第3四半期決算資料)
メモリー関連の売上に目を向けると、今年の売上はすでに昨年の水準にほぼ達しており、57億8000万ユーロに上っています。
この数字があまりに高くなると、メモリー分野での供給過剰が懸念されるため、注視が必要です。
(出所:ASMLホールディングの2024年第3四半期決算資料)
しかし、今回のケースでは、このメモリー関連の支出の大部分が中国、特にChangXin Memory Technologies(CXMT)から来ていると考えられます。
この点については後ほど詳しく触れます。
次の四半期については、ASMLホールディングは売上が90億ユーロに達すると予測しており、楽観的な見通しを示しています。
(出所:ASMLホールディングの2024年第3四半期決算資料)
この前向きな見通しは、事前に発表されたコメントでいくつかの重要な要因として説明されています。
(原文)For Q4 we expect a significant step up in sales. We expect total net sales between €8.8 billion and €9.2 billion. Part of that big step up again in the Installed Base revenue. We expect that to arrive around €1.9 billion. A couple of reasons for that again. First off, we expect to meet certain very specific performance targets for EUV and that should translate into revenue directly related to that. We also have a few EUV performance upgrades or productivity upgrades that we expect to kick in Q4. So that's the reason why we're looking at an Installed Base revenue number that is quite a bit higher than what we've seen in the past couple of quarters
(日本語訳)第4四半期では、売上が大幅に増加する見通しです。総売上は88億〜92億ユーロを予測しています。その中でもインストールベース収益が大きく伸び、約19億ユーロに達すると見込んでいます。この増加の理由はいくつかあります。まず、EUV(極端紫外線リソグラフィー)に関して特定のパフォーマンス目標を達成できる見通しがあり、それが直接的に売上に繋がると考えています。また、第4四半期にはEUVの性能や生産性の向上に関連するアップグレードが実施される予定です。これらの要因により、インストールベース収益は過去数四半期と比べて大幅に増加することが予想されます。
この見通しをもとに、同社は2024年の年間売上を280億ユーロと予測しています。これは2023年の276億ユーロをわずかに上回る数字で、ほぼ1年前に同社が示した予測と一致しています。
(原文)If you then take that guidance and translate that into the full performance for 2024, we're looking at the midpoint at around €28 billion in revenue
(日本語訳)このガイダンスをもとに2024年全体の業績を推測すると、売上は約280億ユーロになると見込まれます。
ASMLホールディング(ASML)の問題点
一応言っておきますが、ASMLホールディング(ASML)が決算発表前日に決算資料を公開したのは、偶然のミスだとは私は思っていません。
私の見解では、これはニュースの流れを先取りし、反応を確認してから、実際の決算発表に向けた広報戦略を準備するために、意図的に行ったものだと考えています。
今回の決算で特に気になるのは、システム受注額が大幅に減少している点です。
今四半期の受注額は26億ユーロで、前四半期の55億ユーロから大幅に落ち込んでいます。
(出所:ASMLホールディングの2024年第3四半期決算資料)
同社が2025年に向けた楽観的な見通しを維持するためには、今回の受注額が50億ユーロを超える必要がありました。
下のグラフは、2020年第4四半期以降の四半期ごとのシステム受注額の推移を示しています。
(出所:筆者作成)
今年の累計システム受注額は118億ユーロで、前年同期の108億ユーロに対し、わずか約10%の増加にとどまっています。
昨年の第4四半期には大きな受注増がありましたが、同社は今期も同様の状況が起こることを強く期待しています。
要するに、同社はまたしても来年に向けたガイダンスを示しているということです。
(原文)At our Investor Day in 2022, we looked at 2025 and we provided market scenarios for 2025 between €30 billion and €40 billion. If you recognize the recent market dynamics that I just alluded to, we do see the 2025 revenue actually moving to the lower half of that range. So therefore our expectation now is that we're going to see net sales in 2025 between €30 billion and €35 billion.
(日本語訳)2022年のインベスターデーでは、2025年の市場予測として売上を300億〜400億ユーロと見込んでいました。しかし、最近の市場動向を踏まえると、実際にはその下限に近づくと予想しています。したがって、2025年の売上は300億〜350億ユーロになると見込んでいます。
中央値の325億ユーロの場合、前年同期比で約16%の成長となります。
これは決して無視できる数字ではありません。
昨日、このニュースが出る前に2025年の半導体製造装置(WFE:シリコンウェハー上に半導体を製造するために使われる装置のこと)の成長率を予測するなら、5〜10%と答えたでしょう。
しかし、ここで同社が16%の成長を予測しているにもかかわらず、半導体市場全体が急落しているのは、少し過剰反応に見えます。
「最近の市場動向」について詳しく見ていくと、まず良いニュースがあります。
(原文)There have been quite some market dynamics in the past couple of months. Very clearly, the strong performance of AI clearly continues and I think it continues to come with quite some upside.
(日本語訳)過去数カ月間、AIのパフォーマンスは引き続き好調で、今後も成長の余地があると考えています。
次に、少し残念なニュースです。
(原文)We will also see that in other market segments, it takes longer to recover. Recovery is there, but it's more gradual than what we anticipated before and it will continue in 2025. That does lead to some customer cautiousness.
(日本語訳)他の市場セグメントでは、回復により時間がかかっています。回復自体は進んでいるものの、当初の予想よりも緩やかで、2025年までこの傾向が続くと見られています。その結果、一部の顧客が慎重な態度を取るようになっています。
さらに詳しく言えば、この緩やかな回復がロジックセグメントに特に影響を与えています。
(原文)If you take that element, you translate that to the different market segments, then clearly this more gradual recovery has an impact on Logic. If you combine that with very specific competitive issues in the foundry business, you do see that for some customers there is a slower ramp of new nodes and that leads to some fab pushouts and obviously also leads to a change and a delay in litho demand timing.
(日本語訳)この要素を他の市場セグメントに当てはめると、回復の緩やかさがロジック分野に影響を与えていることがわかります。さらに、ファウンドリ業界では特定の競争上の問題もあり、一部の顧客で新しいプロセスノードの導入が遅れており、その結果、工場の稼働スケジュールが後ろ倒しになり、リソグラフィー装置の需要時期にも変更や遅れが生じています。
これは明らかにインテル(INTC)の課題を指しており、同社が装置の納入を遅らせている可能性が高く、ASMLホールディングだけでなく他の企業にも影響が出ているようです。
ロジックだけでなく、メモリ分野でも慎重な姿勢が見られます。
(原文)If you look at the Memory business, this customer cautiousness that I talked about, leads to limited capacity additions. While at the same time, we do see a lot of focus and strong demand when it comes to technology transitions and particularly as it is related to High Bandwidth Memory and to DDR5. So again, there anything related to AI is strong, but other than that there are limited capacity additions.
(日本語訳)メモリ事業に関して言えば、顧客の慎重な姿勢が原因で、設備投資の拡大は限定的です。しかし一方で、技術の移行、特に高帯域メモリやDDR5に対しては大きな注目と強い需要があります。AI関連は依然として強い需要がありますが、それ以外の分野では設備投資の拡大は抑えられています。
さらに大きな問題として、中国市場の動向も見逃せません。
(原文)We do expect the China business and the percentage of the China business as part of our total business to show a more normalized percentage in our order book and also in our business. We do see China trending towards more historically normal percentages in our business. So we expect China to come in at around 20% of our total revenue for next year. Which would also be in line with its representation in our backlog.
(日本語訳)中国向け事業の割合が、当社全体の売上において、より通常の水準に戻ると予想しています。ビジネス全体で、中国の比率はこれまでの歴史的な水準に近づいている状況です。したがって、来年の総売上に占める中国の割合は約20%になると見込んでおり、これは受注残高の割合とも一致しています。
2023年の中国向けシステム売上は全体の29%を占め、前年の14%から大きく増加しましたが、これが今後どう影響するかも注視する必要があります。
(出所:ASMLホールディングの2023年第4四半期決算資料)
2024年、中国向けの売上は急増しました。
これまでの各四半期で、それぞれ49%、49%、そして47%を占めています。
大幅な減少のように見えるかもしれませんが、これはASMLホールディングの予測にすでに織り込まれていたと考えています。
そもそも、売上の約50%が中国向けという状況が長く続くわけがないですからね。
ASMLホールディング(ASML)の最新決算に対する結論
2年連続でASMLホールディング(ASML)の来年の見通しが半導体業界全体に影響を与えています。
表面的には状況が悪く見え、中国向け売上の減少や2025年の見通しが予想の下限に落ち込んでいることが目立ちます。
しかし、少し掘り下げてみると、2025年のガイダンスは2022年11月に示されたものであり、その後の環境変化がネガティブな方向に進むのはある意味当然のことです。
それでも、2025年には前年同期比で16%の成長が見込まれていることは重要な点です。
確かに、今年のシステム受注額は懸念材料です。
昨年と同様、この時期には不安要素がありましたが、同社が最新の2025年予測を実現するには、今四半期で受注が大幅に増加する必要があります。
半導体業界全体の売り圧力、特に半導体製造装置(WFE)セグメントでは、インテルのスケジュール遅延や設備投資の延期が明らかに影響を与えています。
また、ファウンドリやIDM(垂直統合型デバイスメーカー:インテルやサムスン等、半導体の設計から製造までを自社で一貫して行う企業)に関わらず、ほとんどの工場がまだ最大稼働率には達しておらず、30%ほどの余剰能力がある状況です。
そのため、半導体製造装置の設備投資に慎重な姿勢が続いているのも不思議ではありません。
以上より、ASMLホールディングの決算発表に注目が集まることは間違いなく、本日のTSMC(TSM)の発表も同様に注目されるでしょう。
今期の決算シーズンは非常に注目すべき展開になりそうです。
アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング
ウィリアム・キーティング氏は、インテル、AMD、サムスン、アップル、マイクロン・テクノロジー等の企業の製品、ロードマップ、技術、および、それらの企業の主要な装置サプライヤーである、ASML、AMAT、キヤノン、ニコン等を専門とする半導体 / テクノロジー・リサーチ・コンサルティング会社、Ingenuity (Hong Kong) Ltd.の創立者兼最高経営責任者(CEO)です。
キーティング氏は、半導体業界において重要性の高いニッチなテーマを専門としています。具体的には、ムーアの法則の将来性、特にムーアの法則(EUV、SDA、NanoImprint)を維持するためのリソグラフィの重要性、音声、画像、パターン認識、暗号通貨マイニングのためのディープラーニング(ニューラルネットワーク)などの特殊なアプリケーションにおけるGPUやその他のカスタムアーキテクチャの役割と成長などが挙げられます。また、メモリの将来、特に3D NANDの台頭と新しいメモリ技術の出現について、定期的にクライアントとのディスカッションを開催しています。
Ingenuity (Hong Kong) Ltd.を設立する以前は、1992年から2014年までインテル・コーポレーションに勤務していました。当初はAIシステムのスペシャリストとして採用され、その後、同社の最先端の300mmファクトリーネットワークをグローバルにサポートするファクトリーオートメーションシステム(ロボット、データベース、ネットワーク、サーバー、クライアント等)の責任者となりました。2000年には、社内にITコンサルティング・グループ(IT Flex Services)を設立し、500人規模のグローバルチームに成長させ、同グループは現在もインテルのIT部門の中核を担っています。2005年には、APAC、中国、日本担当のIT部門のディレクターに任命され、同地域にあるインテルの全オフィスと製造施設のITシステム(インフラ、ネットワーク、データセンター、ERP、セールス、マーケティングシステム、ビジネスインテリジェンスなど)を統括していました。
また、キーティング氏のその他の半導体関連銘柄のレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、キーティング氏のプロフィールページにアクセスしていただければと思います。
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