ASMLホールディング(ASML)の将来性:最新決算後に株価は20%下落!中国輸出規制と最先端技術に関する懸念とは?
ダグラス・ オローリン- 本稿では、ASMLホールディング(ASML)の最新の2024年度第3四半期決算分析を通じて、足元懸念される中国への輸出規制の影響と同社の最先端技術に関する問題を深掘りし、今後の株価見通しと将来性を詳しく解説していきます。
- ASMLホールディングは2024年第3四半期の決算で予想を上回る業績を報告しましたが、来年以降の見通しは厳しく、特に注文の減少と中国市場からの売上縮小が問題視されています。
- リソグラフィ技術のピークが近づいており、EUV技術の成長が鈍化し始め、ASMLの株価は過去10年で最悪のパフォーマンスを記録しました。
- 半導体製造装置業界全体は依然として成長していますが、ASMLのプレミアムバリュエーションは崩れ、他の競合企業と同じ評価に戻る可能性があります。
ASMLホールディング(ASML)の最新の2024年度第3四半期決算
私は以前からASMLホールディング(ASML)のリソグラフィ技術(半導体製造において微細な回路パターンをシリコンウェハーなどの基板に転写するための技術)のピークに対して懐疑的な立場であることは、周知の事実だと思います。
そして、ついに、同社や同社の株価に現実が突きつけられたと感じます。
今回はASMLホールディングの決算内容について話した後、リソグラフィ技術のピークとTSMC(TSM)の最新の決算について詳しく解説していきたいと思います。
先週、ASMLホールディングは誤って決算情報をリークしましたが、その内容は芳しくありませんでした。
2024年度第3四半期の業績は予想を上回ったものの、問題は来年の見通しと、期待を大きく下回る注文の状況にありました。
面白いことに、第4四半期の売上が加速する見通しにもかかわらず、ほとんど誰もそこには注目していません。
2024年度第3四半期決算
・純利益:20億8000万ユーロ(コンセンサス予想:19億1000万ユーロ)
・売上高:74億7000万ユーロ(コンセンサス予想:71億5000万ユーロ / ガイダンスは67億〜73億ユーロ)
2024年度第4四半期のガイダンス
・売上高:88億〜92億ユーロ
2025年度のガイダンス
・売上高:300億〜350億ユーロ(コンセンサス予想:358億ユーロ)
下記の図にある通り、2.6億ユーロの受注のうち、半分はメモリ関連で、その大半はロジック用の高NA(レンズや光学系の性能を示す指標)技術ではなく、HBM向けのDUV(深紫外線リソグラフィ:紫外線の波長を使用してシリコンウェハー上に回路パターンを描くリソグラフィ技術)が要因のようです。
(出所:ASMLホールディングの2024年度第3四半期決算資料)
さらに、下記の図からも分かる通り、中国が依然として売上の大部分を占めていますが、今後はその割合が縮小していくでしょう。
今回の発表を受けて、株価は約20%下落しており、足元の2日間の20%の急落は、過去10年で最悪のパフォーマンスかもしれません。
(出所:ASMLホールディングの2024年度第3四半期決算資料)
それでは、何が問題だったのか見ていきましょう。
ASMLホールディングは、まさに逆風の中に立たされていると言えます。
要するに、サムスン電子(005930.KS)やインテル(INTC)からの先端ロジック技術の注文が減少したことで売上予測を下方修正しました。
さらに、2025年には中国市場からの売上が全体の20%に縮小すると見込まれており、昨年の45%から大幅に減少することになります。
つまり、両方の柱が揺らいでいる状態です。
ASMLホールディング(ASML)の最先端技術に関する問題
ニュースが漏れたとき、18A(半導体業界で使われる製造プロセス技術の一つで、「18オングストローム(Å)」の略。1.8ナノメートルの回路幅を指す)のファウンドリー(半導体チップを製造する企業や施設)が完全に失敗したという憶測が広まりました。
しかし、実際はもっと複雑な状況です。
ロイターによると、テキサス州テイラーのサムスン工場では、すでに遅れが出始めています。
サムスンは顧客を獲得できていないため、注文を保留しており、建物が完成していないため、ツールも納品できない状態です。
一方で、18Aに関する話題も似たようなものです。
ブロードコム(AVGO)は18Aプロセスに対して否定的な発言をしており、20Aノード(半導体製造プロセスで使われる技術ノードの一つで、回路幅が20オングストローム(Å)、つまり2ナノメートルに相当)は18Aを「前進させる」ためにキャンセルされました。
しかし、別の見方では、内部ノードの需要が足りず、それを18Aに振り替えたという可能性もあります。
結局のところ、18Aの成功は「戦場の霧」の中にあります。
そして、ASMLの「ロジックにおける競争の動き」に関するコメントが、さらに混乱を招いています。
(原文)I think we also indeed mentioned as well some competitive dynamic on Logic. And this also contributed to some of the pushout. So I think those two things are really the two dynamics that have come up in the last few months to a level where our customers basically started to really make, I would say, a decision that were in line with their expectations, both on the total market but also maybe, in some cases, on the share they may end up having in some of the Logic market.
(日本語訳)ロジック市場における競争の動きについても話したと思いますが、これが一部の遅延の原因となりました。ここ数か月で、この2つの要因が大きく影響し、顧客は市場全体、そしてロジック市場においてどれだけのシェアを得られるかを踏まえた上で、自分たちの期待に沿った意思決定を行い始めたと感じています。
この状況は、TSMCに対する強硬な交渉の一部だと考えられます。
サムスン電子とインテルは高NAの機械を注文していますが、TSMCは価格交渉を進めるために慎重に動いているようです。
TSMCは高NA機や低NA機(比較的低解像度のプロセスに使用され、特に最先端ではない半導体製造に利用される)を収益化できる唯一の顧客であり、大きな交渉力を持っています。
最終的には導入すると思いますが、価格が下がった後になるでしょう。
TSMCは、アリゾナの工場の進捗についても公然と不満を述べていましたが、CHIPs法が承認された途端、工場の進捗が突然改善しました。
TSMCはこうした交渉を公に行う企業で、今回も同じような手法を取っているようです。
それでは次に、決算説明会の内容に移りましょう。
ASMLは、AIを除く分野での需要が鈍化していると考えています。
(原文)The relatively low order intake is a reflection of the slow recovery in the traditional end markets as customers remained cautious in the current environment.
(日本語訳)低調な受注は、従来の市場の回復が遅れていることを反映しており、顧客が現状に慎重な姿勢を維持していることが原因です。
(原文)So we are still quite optimistic about AI. I think today without AI, the market will be very sad, if you ask me. But for the rest, I think our customer continues to confirm that when it comes to mobile, when it comes to PC, when it comes to automotive, the recovery is not what I think everyone had wished for. And that affect, I would say, a large part of our customer on all segments and application.
(日本語訳)AIについては、依然としてかなり楽観的に見ています。もし今、AIがなかったら、市場は非常に厳しい状況にあると思います。ただ、それ以外に関しては、モバイルやPC、自動車分野での回復は、期待されていたほどではないとお客様から確認を受けています。この影響は、多くのセグメントやアプリケーションにおいて、顧客にとって大きなものだと感じています。
また、最初のリークでは最先端技術に関する問題に焦点が当てられていましたが、実際には中国の売上が20%に戻るというのが大きなニュースでした。
これは、今後のさらなる輸出規制を見据え、中国のウェハー製造装置(WFE)需要が永続的ではないという認識によるものです。
(原文)We also now expect our China sales to be around 20% of our total revenue next year, trending back towards our historical China percentage and in line with its share of the backlog.
(日本語訳)来年の中国での売上は、全体の約20%になると見込んでおり、これは過去の中国市場の割合に戻る傾向があり、受注残のシェアとも一致しています。
一方で、中国以外のDUV(深紫外線リソグラフィ)は、新しいメモリやロジックの生産能力拡大とともに成長する見込みです。
2ナノメートルの生産には大量のEUV(極紫外線リソグラフィ)が必要ですが、成長ペースはDUV機器と同様です。
(原文)I mean with the China business going down, as we've indicated, that means that the non-China part of the deep UV business will go up. And the main reason is that if you look at the more advanced nodes and if you do the math on the growth that you might anticipate in the EUV business for next year, you will see that there is quite some growth there.
(日本語訳)中国でのビジネスが縮小する一方で、非中国地域でのDUV事業は拡大していくことになります。主な理由として、より先進的なノードに着目し、来年のEUV事業の成長を予測すると、かなりの伸びが期待できる点が挙げられます。
(原文)And I think what you're going to see is that the non-China part of the deep UV business is sort of following that trend. So the attach rate, if you want to call it like that, of the deep UV business to the EUV business will be kind of similar. So the growth rate you will see on EUV, you will sort of see back also in the growth rate for the non-China part of the deep UV business.
(日本語訳)非中国地域でのDUV事業も同じような傾向をたどると思います。言い換えれば、DUV事業とEUV事業の導入率はほぼ同じような推移をするでしょう。ですので、EUVの成長率が見込まれる一方で、非中国地域のDUV事業の成長も同様に期待できるということです。
別の解釈として、DUVの導入率がEUVと同じくらい速く伸びているとすれば、EUVの需要はすでにピークに達している可能性があります。
これは以前から指摘されていたことで、アプライド・マテリアルズ(AMAT)のスライドにもあるように、3ナノメートルがリソグラフィ市場のシェア拡大の頂点です。
これはASMLホールディングやEUVにとって好ましい状況ではありません。
WFEの構成において、材料工学の重要性が今後さらに高まると予想
(出所:アプライド・マテリアルズ)
この点に関しては、驚くべきことではありませんよね。
これまでの技術革新の多くは、EUV層の削減に明確に焦点を当ててきました。
以前から繰り返し言ってきましたが、SculptaやTSMCでのEUV層の削減、さらにはBSPDNまでも、すべてEUV層を減らすことに向けられています。
業界全体がEUVの使用を減らす方向に進んでいる以上、リソグラフィの成長はピークに達しつつあります。
この10年はリソグラフィの時代でしたが、次の10年ではリソグラフィ関連の支出はWFE(半導体製造装置)全体の成長よりも緩やかになるでしょう。
EUVが登場する前の10年間、リソグラフィへの支出はWFE全体の15〜20%に過ぎませんでしたが、これからはその水準に戻り、25%前後になると考えています。
投資家にとって、リソグラフィの時代が終わったことを受け入れる時が来たと思います。
ASMLホールディングがこれまでの10年間で得てきたプレミアムの株価バリュエーションは、リソグラフィの時代の終焉とともに消えるべきでしょう。
最近の株価下落は、このプレミアムが崩れている証です。
私はリソグラフィ技術がWFEの成長を上回ることはないと考えているため、ASMLホールディングは他の半導体装置メーカーと同じ水準で取引されるべきだと思います。
ただし、その強固な独占的地位は評価され続けるでしょう。
(出所:Koyfin)
ASMLホールディングは確かに独占企業で、優れた会社ですが、他の半導体製造装置メーカーも同様に優れています。
財務リターンの観点では、ROEで見るとKLA(KLAC)の方が優れており、実際に、ほとんどの企業がASMLホールディングよりも資本効率が高いです。
ラムリサーチ(LRCX)やアプライド・マテリアルズは、より速く株式数を減らしてきました。
そのため、成長が鈍化しても高品質な企業であるため、他の競合と同じように評価されるべきです。
一方で、ASMLのプレミアムは崩れるべきでしょう。
しかし、中国での売上が前年比で30%減少し、EUVの最先端ロジックの後退があるにもかかわらず、状況はそれほど悪くありません。
ASMLホールディングは17%の売上成長を見込んでおり、すでにその大半はバックログ(受注残)に入っています。
今後は、リソグラフィ単独の成長よりもWFE全体の成長が速くなるでしょう。
見出しだけを見ると世界が終わるかのように思えますが、実際には想定内のことが次々と起こっているだけです。
中国の売上が全体の20%に縮小し、最先端ロジックはTSMCに集中しているにもかかわらず、来年は17%の成長を見込んでいます。
懸念すべきは、注文状況が2026年に悪化することを示唆している点ですが、AIや従来の市場が成長すれば、この状況はすぐに変わる可能性があります。
来年の売上目標の上限である350億ユーロを達成するには、38億ドルの受注が必要です。
バックログに対する不安は現実的な懸念です。
しかし、長期的な視点で見ると、ASMLホールディングの問題は技術や成長にあるのではなく、期待されている30%以上の成長率と、同業他社に対する50%のプレミアムにあります。
ここ数年、半導体装置業界は好調でしたが、リターンへの期待を下げれば、半導体装置グループ全体としてのバリュエーションは妥当だと思います。
ただし、ASMLのプレミアムは今後も崩れていくべきだと思いますし、他の半導体製造装置メーカーと同じようにプレミアムが縮小していくでしょう。
一方で、今は半導体装置株を「平均的に買い時」だと考える方もいるかもしれません。
仮にバリュエーションが下がったとしても、株は十分に魅力的であるのも事実です。
飛び抜けて「買い時」とまでは言えませんが、明らかな売り時でもないように見えることから、引き続き、半導体装置関連市場の変動には注目しています。
輸出規制に関連してもう一段の下落があるかもしれませんが、30%程度の下落リスクを見込んでもリスクとリターンのバランスは悪くありません。
しかし、今回の下落後の同社の株価倍率は、過去の調整時よりも高いという点は考慮すべきでしょう。
(出所:Koyfin)
ASMLホールディングは、長期的に見れば問題はないと思いますが、現時点ではリスクと不安が伴います。
輸出規制がさらなる下落を招く可能性はありますが、半導体装置業界は長年にわたり年率20%以上のトータルリターンを提供してきました。
もし再び下落することがあれば、長期投資の好機になるかもしれません。
これらの企業は強固な基盤を持ち、将来的にも問題なく成長すると見ています。
さて、次章では、リソグラフィに最も多く投資しているTSMC(TSM)の最新の決算に関して解説していきたいと思います。
※続きは「TSMCの株価は10年後も堅調?最新の業績とガイダンスは好調で、年初来で100%上昇した今でも株価は魅力的?」をご覧ください。
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