【半導体】ASMLホールディング(ASML)とは?最新の2024年第4四半期決算分析を通じて、今後の株価見通しと将来性に迫る!

- 本稿では、注目の欧州半導体銘柄であるASMLホールディング(ASML)の2025年1月29日発表の最新の2024年第4四半期決算の分析を通じて、同社の今後の株価見通しと将来性を詳しく解説していきます。
- ASMLの2024年第4四半期決算は、売上高が93億ユーロと過去最高を記録し、ガイダンスを上回る好調な結果となっています。特にインストールベース事業が通年売上を押し上げ、前年比2.7%増の283億ユーロに達しています。
- 2025年の見通しとして、ASMLは第1四半期売上を77.5億ユーロと予測し、通年では300億〜350億ユーロの範囲を示しています。AIが成長の主要因とされる一方、市場の不確実性も依然として存在するとCEOは指摘しています。
- ASMLはネットシステム受注額の大幅増加を発表したが、四半期ごとの発表を今後取りやめ、年間の受注残(バックログ)開示に移行する方針を示しています。中国市場の影響や輸出規制の影響が引き続き注目されています。
ASMLホールディング(ASML)の最新の2024年第4四半期決算発表に関して
ASMLホールディング(ASML)は、オランダに本社を置く半導体製造装置メーカーであり、特にリソグラフィ装置の開発・製造において世界をリードする企業です。半導体の微細化が進む中で、より高精度な回路パターンをシリコンウェハ上に形成するための技術が求められており、ASMLはこの分野で最先端の技術を提供しています。
特に、極端紫外線(EUV)リソグラフィ装置の唯一の供給元として知られ、TSMC(TSM)やサムスン電子(005930.KS)、インテル(INTC)といった世界の主要半導体メーカーがASMLの装置を使用しています。EUV技術は、半導体のさらなる微細化を可能にし、次世代の高性能チップの製造に不可欠な要素となっています。ASMLはこの最先端技術の開発を牽引し、半導体業界における重要な役割を担っています。
そして、ASMLは2025年1月29日に最新の2024年第4四半期決算を発表しており、売上高が93億ユーロとなり、ガイダンスの上限をわずかに上回りました。前四半期比で24%増、前年同期比では28.5%増となり、四半期としては過去最高の売上を記録しました。また、第1四半期(2024年Q1)の底を打って以来、3四半期連続で成長を続けています。
四半期の粗利益率は51.7%となり、ガイダンスを上回りました。
下記は決算説明会での遣り取りの一部です。
(原文)due to a combination of additional upgrade business and lower than planned costs associated with the new product introduction of High NA systems in the field.
(日本語訳)これは、追加のアップグレード事業と、High NAシステムのフィールド導入に伴う新製品導入コストが計画よりも低く抑えられたことが要因です。
2024年通年の売上高は283億ユーロとなり、前年比2.7%増と、当初予想されていたゼロ成長を上回る結果となりました。
(原文)For the full year, we're looking at €28.3 billion of revenue. Again, higher than last year. Primarily driven by the Installed Base business, which in total came in at €6.5 billion, which is about 16% growth in comparison to 2023.
(日本語訳)通年の売上に関しては、283億ユーロとなり、前年を上回りました。特にインストールベース事業(Installed Base business)が牽引し、全体で65億ユーロに達し、2023年比で約16%の成長を遂げました。
今後の見通しとして、ASMLは2025年第1四半期の売上を中央値で77.5億ユーロと予測しており、前四半期比では16%減となるものの、前年同期比では46%増を見込んでいます。また、2025年通年の売上高については300億~350億ドルの範囲になるとガイダンスを示しており、中央値では前年比15%の増加となります。
(出所:ASMLの2024年度第4四半期決算資料)
2025年の展望について、CEOのクリストフ・フーケ氏はAIを主な成長要因としつつも、市場には依然として「かなりの不確実性」があると指摘しました。
(原文)AI is the clear driver. I think we started to see that last year. In fact, at this point, we really believe that AI is creating a shift in the market and we have seen customers benefiting from it very strongly. Others maybe a bit less. So, for AI, if the demand remains strong and our customers are capable to build some capacity, we see the opportunity towards the highest part of the range. On the other hand, there's still quite some uncertainty on the other customers and this also justifies the lowest part of the range.
(日本語訳)AIが成長の明確な原動力です。昨年からその兆候が見られました。現時点では、AIが市場に変化をもたらしていると確信しており、それによって大きな恩恵を受ける顧客もいます。一方で、そうでない顧客もいるのが現状です。AI需要が引き続き堅調で、顧客が設備投資を進められるならば、売上は予想レンジの上限に近づく可能性があります。しかしながら、一部の顧客には依然として不確実性が残っており、それがレンジの下限を正当化する要因となっています。」
総じて、今回の決算は市場予想を上回る好結果となり、加えて昨年11月の投資家向け説明会からガイダンスに変更がなかったことが好感され、ASMLの株価は時間外取引で4.3%上昇しました。これは、月曜日にDeepSeekの売りによる7.5%の下落を受けた後の安堵感をもたらしました。
(出所:Yahoo Finance)
しかし、2024年がASMLにとって厳しい年であったことは否めず、同社の株価は2024年7月のピークから約36%下落したままとなっています。
今回の決算発表で最も注目を集めたのは、四半期ごとのネットシステム受注に関する最新データでした。これは市場予想を大幅に上回る結果となりましたが、同時に同社は来年以降、四半期ごとのネットシステム受注の公表を取りやめる方針を発表しました。この決定の背景には何があるのでしょうか?
また、中国市場の見通しや、2024年のメモリ関連売上に見られる大きな懸念点についても分析していきます。さらに、決算説明会のQ&Aセッションからの重要ポイントについても掘り下げていきましょう。
では、早速詳細に入っていきましょう!
ASMLホールディング(ASML)のネットシステム受注
ASMLホールディング(ASML)の2024年第4四半期のネットシステム受注額は70.88億ユーロとなり、前四半期の36億ユーロから大幅に増加しました。
(出所:ASMLの2024年度第4四半期決算資料)
(出所:筆者作成)
これは、ASMLにとって歓迎すべき結果だったと言えます。ASMLについては、2024年10月にも下記のレポートにおいて詳細に解説しております。
同社への理解を一層深めるために、下記のレポートも併せてご覧いただければと思います。
そして、その際、以下の点を指摘しました。
「同社が2025年に向けた楽観的な見通しを維持するためには、今回の受注額が50億ユーロを超える必要がありました。」
「昨年の第4四半期には大きな受注増がありましたが、同社は今期も同様の状況が起こることを強く期待しています。」
そして、まるで計ったかのように、ASMLは2024年第4四半期に再び大幅な受注増を実現しました。今回の受注額は好結果ではあるものの、2023年第4四半期に記録した92億ユーロには及びませんでした。
ASMLの四半期ごとのネットシステム受注は、近年、同社にとって「重荷」となっていると言っても過言ではありません。過去2年間にわたり、その数値は特に変動が激しくなっており、経営陣はついに「これ以上続ける必要はない」との判断を下しました。
(原文)Talking about net bookings. Net bookings, and we said this before, can be lumpy. Particularly if you look at it from one quarter to the other. In fact, the way we do it, the way we work with our customers and the way we come up with our expectations for the business, really is based on an ongoing review cycle that we have with customers. So, it's much less influenced by bookings. It's much more based on regular reviews that we have with customers. So, recognizing that PO bookings can be lumpy and are not necessarily a good reflection or an accurate reflection of the business momentum, we said we'll continue to provide a number throughout this year. But after this year, we will stop providing this number. What we will do, is provide a backlog. So, on an annual basis we will provide you with the total backlog.
(日本語訳)ネット受注についてですが、これまでもお伝えしているとおり、受注額は四半期ごとに大きく変動することがあります。特に、四半期単位で見るとそのばらつきが顕著です。実際のところ、当社のビジネス運営や顧客との関係、事業見通しの策定は、継続的なレビューサイクルに基づいています。そのため、受注額そのものがビジネスの勢いを正確に反映するとは限りません。むしろ、顧客との定期的なレビューの方が、より重要な指標になっています。こうした背景を踏まえ、発注(PO)ベースの受注額は変動が大きく、事業の実態を適切に反映しない場合があるため、今年いっぱいは引き続き受注額を公表しますが、来年以降はこの数値の公表を取りやめる予定です。その代わりに、年間ベースでの総受注残(バックログ)を開示する形に変更し、より長期的なビジネスの動向を示していきます。
この決定は直感的には理解できますが、半導体市場全体の状況を考えると、やはりネガティブな側面も否めません。
つまり、過去数年には見られなかった不確実性が市場に存在していることを示唆しています。この背景には、ASMLの主要顧客であるインテル(INTC)とサムスン電子(005930.KS)の業績の先行き不透明感が大きく影響している可能性が高く、ASML自身にできることは限られていると言えます。
ASMLホールディング(ASML)の2024年のメモリ関連売上
ASMLホールディング(ASML)の四半期および年間の売上を、メモリ関連とロジック関連に分けて分析することを重視しており、今回も最新のデータを確認していきます。
最終用途別の総売上高
(出所:ASMLの2024年度第4四半期決算資料)
2024年のメモリ関連支出は、前年比で44%増の86億ユーロと、大幅に増加しました。マイクロン・テクノロジー(MU)、SKハイニックス(000660.KS)、サムスン電子(005930.KS)といった主要企業は2024年にメモリの設備投資(CapEx)を抑制していたため、この増加は主に中国での売上によるものと考えられます。
2024年を通じて明らかになったのは、中国のメモリメーカーによる競争が急激に激化しているという事実です。2024年に記録された異常なほど高いメモリ関連の設備投資を踏まえると、2025年には大幅な供給過剰に陥る可能性が非常に高いと考えられます。
特に、遅れた技術やレガシー製品のセグメントではこの影響が最も顕著に表れ、価格は30~50%の下落が予想されます。
この動向については、以前マイクロン・テクノロジーの最新決算に関する下記のレポートでも取り上げました。
現在の焦点は、マイクロン・テクノロジーやその競合企業が、十分な速さで最先端技術やHBM(高帯域幅メモリ)へ移行できるかどうかにあります。
既存のレガシーメモリ市場の崩壊を補うことができなければ、業績に大きな影響を与える可能性があります。特にマイクロン・テクノロジーはこのリスクが最も高い企業と見られており、それは同社の株価が52週高値から43%下落し、2021年初頭の水準にまで戻っていることにも表れています。
(出所:Yahoo Finance)
HBM関連の売上が今後数十億ドル規模で増加する可能性があるため、現在の株価水準では投資妙味があるように見えます。しかし、次回の決算発表後の市場の動向を確認するまで、新規投資を控えるのが賢明かもしれません。
ASMLホールディング(ASML)の中国向け売上高
2024年のASMLホールディング(ASML)の売上のうち41%が中国向けとなり、2023年の29%から大幅に増加しました。
年間のシステム販売内訳
(出所:ASMLの2024年度第4四半期決算資料)
これは、米国による対中半導体装置輸出規制が拡大し続ける中での出来事として、非常に注目すべき数字です。しかし、この状況は2025年に大きく変化すると見られています。
(原文)Well, we had a lot of discussion about China in 2023-2024 because our revenue in China was extremely high. We have explained that this was caused by the fact that we are still working on some backlog created in 2022, when our capacity was not big enough to fulfil the whole market. 2025 will be a year where we see China going back to a more normal ratio in our business. So I think we're going to see again numbers people used to see before 2023
(日本語訳)2023年から2024年にかけて、中国について多くの議論がありました。なぜなら、当社の中国向け売上が異常に高かったからです。その要因について、2022年に生じたバックログの処理が続いていたためだと説明してきました。2022年当時、当社の生産能力が市場全体の需要を満たせるほど十分ではなかったため、未処理の注文が積み上がっていたのです。2025年は、中国向け売上がより通常の比率に戻る年になると考えています。したがって、2023年以前に見られた水準へと回帰するでしょう。
では、2022年の中国向け売上比率はどの程度だったのでしょうか?
わずか14%です。
この数字の推移を考えると、ASMLは2025年に中国以外の市場で大幅な売上増加を計画していることになります。しかし、特にインテルやサムスン電子の状況を踏まえると、こうした楽観的な見通しが果たして妥当なのか疑問が残ります。
輸出規制の影響
また、最近の輸出規制の強化について、ASMLはすでに2025年のガイダンスにその影響を織り込んでいると説明しました。
(原文)Quite a few moving parts when it comes to export controls from the US. As you know, the US articulated a number of new regulations in December. Actually, two big parts there. One was they included a number of new technologies on the list of restricted technologies. And they also added a number of fabs to the list of restricted fabs, where restrictions apply. You also know that the Dutch government very recently came out with new regulation there as well. But I would say that the combination and the impact of those, both US and Dutch measures, has been appropriately reflected in the guidance that we've given before. So, the €30 to €35 billion properly reflects the limitations that we see from an export controls perspective.Quite a few moving parts when it comes to export controls from the US. As you know, the US articulated a number of new regulations in December. Actually, two big parts there. One was they included a number of new technologies on the list of restricted technologies. And they also added a number of fabs to the list of restricted fabs, where restrictions apply. You also know that the Dutch government very recently came out with new regulation there as well. But I would say that the combination and the impact of those, both US and Dutch measures, has been appropriately reflected in the guidance that we've given before. So, the €30 to €35 billion properly reflects the limitations that we see from an export controls perspective.
(日本語訳)アメリカの輸出規制に関しては、さまざまな要素が絡んでいます。ご存じのとおり、アメリカは昨年12月に新たな規制をいくつか発表しました。大きく分けて2つのポイントがあります。ひとつは、規制対象の技術リストに新たな技術が追加されたこと、もうひとつは、制限が適用される半導体工場(ファブ)が新たに指定されたことです。さらに、最近になってオランダ政府も新たな規制を発表しました。ただ、アメリカとオランダのこれらの措置を総合的に考慮した上で、当社がこれまで示してきた業績見通しには、これらの影響が適切に反映されていると考えています。そのため、300億〜350億ユーロの見通しには、輸出規制による制約が十分に織り込まれています。
ASMLホールディング(ASML)に対するDeepSeekの影響
今回の決算シーズンがDeepSeekのR1発表の影響を色濃く反映することは、多くの人が予想していたことだと思います。そして実際に、決算説明会のQ&Aセッションの最初の質問でこの話題が取り上げられました。
これに対し、CEOのクリストフ・フーケ氏は「ジェボンズの逆説(Jevons Paradox)」の観点から回答しました。彼の主張は、AIのコストが低下すれば、より広範な導入が進み、結果として半導体の需要が増加するというものでした。
(原文)more AI models, even if they're lower cost, will drive more overall demand for chips, which benefits ASML
(日本語訳)低コストのAIモデルが増えたとしても、全体的な半導体需要は増加し、それがASMLの利益につながるでしょう。
また、DeepSeekが技術的ブレークスルーを達成した事実を踏まえ、輸出規制の有効性について意見を求められた際には、慎重に回答を控える姿勢を取りました。
(原文)I don’t know to be honest, I think that would be highly speculative
(日本語訳)正直なところ、分かりません。それについて推測するのは難しいと思います。
ASMLホールディング(ASML)に対する結論
2024年第4四半期の決算において、ネットシステム受注の急増がASMLホールディング(ASML)の「救い」となったと言えます。同社はAIを主要な成長ドライバーと位置付けており、その成長を支える要素としてジェボンズの逆説に大きな期待を寄せています。今後の決算シーズンでは、この概念についてさらに多く語られることになるでしょう。
さらに長期的な視点で見ると、ASMLの最大顧客であるTSMC(TSM)が年間20%のCAGR(年平均成長率)を維持していることを考慮すると、ASMLが発表した2030年の売上予測(440億〜600億ユーロ)はやや控えめに思えます。
仮にレンジの上限600億ユーロを取った場合でも、CAGRは13.5%にとどまります。これは、2015年から2024年のCAGR(18%)と比較すると低い水準です。
ASMLは意図的に控えめな成長予測を出しているのでしょうか?
それが本当かどうかは、今後の展開を見守るしかありません。
さて、どうなるのでしょうか?ASMLに関しては、今後も引き続き注目していきたいと思います!
その他のASML(ASML)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、ASMLのページにアクセスしていただければと思います。
また、私は半導体&テクノロジー銘柄に関するレポートを毎週複数執筆しており、私のプロフィール上にてフォローをしていただくと、最新のレポートがリリースされる度にリアルタイムでメール経由でお知らせを受け取ることができます。
加えて、その他のアナリストも詳細な分析レポートを日々執筆しており、インベストリンゴのプラットフォーム上では「毎月約100件、年間で1000件以上」のレポートを提供しております。
そのため、私の半導体&テクノロジー銘柄に関する最新レポートを見逃さないために、是非、フォローしていただければと思います!
アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング
📍半導体&テクノロジー担当
キーティング氏のその他の半導体&テクノロジー銘柄のレポートに関心がございましたら、こちらのリンクより、キーティング氏のプロフィールページにてご覧いただければと思います。
インベストリンゴでは、弊社のアナリストが「高配当銘柄」から「AIや半導体関連のテクノロジー銘柄」まで、米国株個別企業に関する分析を日々日本語でアップデートしております。さらに、インベストリンゴのレポート上でカバーされている米国、及び、外国企業数は「250銘柄以上」(対象銘柄リストはこちら)となっております。米国株式市場に関心のある方は、是非、弊社プラットフォームより詳細な分析レポートをご覧いただければと思います。