リセッション(景気後退)とは?米国経済のリセッションは近い?リセッションを予測する上で注目すべき10の指標を徹底解説!
ジェームズ・ フォード- リセッション(景気後退)やベアマーケット(弱気相場)は正しいアプローチとデータを使うことで、ある程度予測可能であるとされています。
- MacroMicro社のプラットフォームを用いた「マクロ・マトリックス」は、10の主要指標を活用して市場の転換点を予測するシステムであり、製造サイクルや台湾の輸出データ等、様々な指標が経済予測において重要な役割を果たしています。
- 本稿では、「リセッションとは?」という基本的内容から、上記の10の指標を総合的に分析し、米国経済のリセッションの確率や米国株式市場の動向を判断する手法、さらに、実際に足元の米国経済がリセッションに向かっているのかを詳しく解説していきます。
リセッション(景気後退)とは?
リセッションとは、経済全体が縮小し、景気が後退する状態を指します。一般的には、GDP(国内総生産)が2四半期連続でマイナス成長を記録することがリセッションの基準とされています。
リセッションは、企業の利益の減少、失業率の上昇、消費支出の低下など、経済活動全般の停滞が原因となります。この状況が続くと、企業は生産を抑え、従業員の解雇を行うことが増え、失業率が高まり、さらに消費が減少するという悪循環が発生します。
リセッションは、通常、金利の上昇や外部的な経済ショック、金融市場の不安定さなどが引き金となり、長期にわたる経済成長の停滞に繋がることがあります。政府や中央銀行は、リセッションを抑制するために金融政策や財政政策を通じて経済を刺激しようと試みますが、回復には時間がかかることもあります。
リセッションは予測できるのか?
ベアマーケット(弱気相場)を予測できることは、投資家にとって夢のような話です。多くの人が「市場のタイミングを読むのは不可能だ」と言いますが、もしそれができたらどうでしょう?
長期投資のメリットとしてよく言われるのは「複利の効果」です。しかし、損失を避けることもまた、大きな成果を生むのです。
例えば、10%の下落を回避し、その後、底値近くで再投資できたとしたら、買い持ち戦略よりもはるかに高いリターンを得られるでしょう。さらに、下落相場でも利益を上げることが可能です。
しかし、市場のタイミングを読むのは「不可能だ」とか、「できるのは機関投資家で、特別なデータや内部情報を持っている人だけだ」とよく言われます。でも、これは本当なのでしょうか。
実際には、正しいアプローチと、適切なデータやテクノロジーを活用すれば、私たちはベアマーケットやリセッションをある程度予測できると考えています。そこで、本稿では、その手順を解説していきたいと思います。
このプロセスにおいて、私は「マクロ・マトリックス」を導入します。MacroMicro社の独自のインサイトをもとにしたシステムで、次のベアマーケットが訪れる前にその兆候をつかむことができると考えています。
より具体的には、マクロ・マトリックスは、毎週更新される10の主要指標から成り立っています。これらの指標を総合的に分析することで、リセッションが近いか、差し迫っているかを判断できると見ています。
では、それらの各指標を紹介し、マクロ・マトリックスがどこで確認できるかを解説していきます。
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MM製造サイクル指数 / MM Manufacturing Cycle Index
最初に紹介するのは、MacroMicro社が独自に開発した指標です。
(出所:MacroMicro)
MacroMicroは、世界中の製造業、小売、輸送、貿易関連のデータを統合して、MM製造サイクル指数を作成しています。この指数は、製造業のサイクルを以下の4つの段階に分けて示しています。
1. 回復期: 指数が低い状態から上昇を始め、景気が回復していることを示します。
2. 拡大期: 指数がゼロを超えて成長がピークに達し、ビジネス活動が最も活発であることを示します。
3. 減速期: 指数はまだゼロを上回っているものの、下落を始め、成長が鈍化していることを示します。
4. 在庫削減期: 指数がゼロを下回り、景気が大幅に悪化していることを示します。
このサイクルはおおよそ3~4年ごとに繰り返され、世界市場に影響を与えます。特に、MSCI ACWI指数(MSCI全世界株指数:世界中の先進国と新興国を含む株式市場のパフォーマンスを測る指数)の動きに影響を与え、景気の下降や上昇局面で顕著に表れます。
ご覧の通り、この指標は市場の転換点をかなり正確に予測しています。
例えば、この指数は2000年のベアマーケット前にピークを迎えて下落し始めました。また、2008年に向かう過程で「ダイバージェンス(価格の動きとテクニカル指標の動きが異なる方向に進む現象)」を示し、製造業の指数が下落しているのに対し株価は上昇しており、その後指数がゼロを下回った時に崩壊の兆しがはっきり現れました。
台湾の輸出 / Taiwan Exports
(出所:MacroMicro)
台湾の輸出成長は、MSCI ACWI指数の重要な先行指標として機能しており、台湾が世界のサプライチェーンにおける上流の役割を果たしていることを示しています。
これまでの歴史を振り返ると、2010年、2014年、2017年、2021年に見られたように、台湾の輸出がピークに達する時期は、世界の株式市場の高値に先立って現れています。台湾は製造業の需要変動を敏感に捉えるため、その輸出動向は、世界の企業利益や株式市場の動きを予測するうえで信頼できる指標となっています。こうした理由から、台湾の輸出データは、世界経済の変化や株式市場のパフォーマンスを分析する際に非常に有効なシグナルとされています。
リビジョン・インデックス / Earnings Revision Index
(出所:MacroMicro)
シティグループのリビジョン・インデックスは、企業の収益予想の変化を測定する指標です。これは、前週と比べてEPS(1株当たり利益)の上方修正をした企業の割合から、下方修正をした企業の割合を差し引いて算出されます。指数がゼロを超えると、アナリストが企業収益に対して楽観的であることを示し、株価にプラスの影響を与える可能性があります。
一方、指数がゼロを下回ると、悲観的な見方が広がっていることを意味し、株式市場が今後弱含む可能性を示唆します。この指数は、企業の収益見通しに基づいた市場のセンチメントを測る指標として機能します。
シティグループの収益修正指数は、過去に2018〜2019年の貿易戦争や2021年後半など、世界の企業利益の転換点を的確に捉えてきました。
クレジットスプレッド / Credit Spreads
(出所:MacroMicro)
クレジットスプレッドは比較的シンプルな指標です。
クレジットスプレッドは、企業のデフォルトリスクを測るためのもので、企業により発行された社債とリスクフリーと見なされている政府により発行された国債(米国10年債など)の利回り差を示します。
高利回り債、いわゆる「ジャンク債」は、信用格付けが低い企業によって発行される債券です。デフォルトのリスクが高いため、その分利回りが高く設定されています。例えば、米国のCCC格付けのクレジットスプレッドは、メリルリンチ証券のCCC格付けの高利回り債の利回りと、リスクフリーレートの基準である米国10年債の利回りとの差を指します。
企業の財務状況が安定していると、その企業の債券のデフォルトリスクは低く、利回りも低くなります。しかし、経済が不安定になったり危機が訪れると、デフォルトリスクが高まり、債券価格が下落し、利回りが上昇、クレジットスプレッドが拡大します。
クレジットスプレッドは株式市場と逆相関の関係にあります。スプレッドが拡大すると、デフォルトリスクや金融の不安が高まっていることを示し、株価が下落する傾向があります。逆に、スプレッドが縮小する場合は、経済が安定しており、株価が上昇しやすい状況を示しています。
これまでに、市場の下落を事前に予測するのに役立つ4つの指標を紹介してきました。
次のセクションでは、残りの6つの指標について解説し、毎週更新されるマクロ・マトリックスを完成させます。
これらの情報を、以前のポートフォリオや取引情報と同じように、より分かりやすいExcelシートにまとめました。
各指標には1〜10のリセッションスコアを設定し、私の見解も付け加えています。
それでは、マクロ・マトリックスを完成させましょう。
MMリセッション確率 / MM Recession Probability
(出所:MacroMicro)
MacroMicroは、NBER(全米経済研究所)やOECD(経済協力開発機構)などの機関による研究や定義を基に、米国のリセッション(景気後退)の確率を推定する指標を開発しました。
この指標が50%を大きく上回ると、これまでの実績ではリセッションの前兆として信頼性の高いシグナルとなっています。9月時点でこの指標は35.5%を示しており、リセッションが迫っている可能性があることを示唆しています。
CLIディフュージョン・インデックス / CLI Diffusion Index
(出所:MacroMicro)
CLI(総合先行指標)は、OECD諸国の予想される経済活動を示す指標です。ディフュージョン・インデックスが上昇すると、多くの国で経済状況が改善していることを意味し、MSCI ACWI指数の上昇に寄与します。一方で、拡散指数が下落している場合、複数の国で経済が悪化していることを示し、MSCI ACWI指数に下落圧力がかかる可能性があります。
年次のディフュージョン・インデックスが反転すると、MSCI ACWI指数の転換点を示すことがよくあります。また、月次のディフュージョン・インデックスの転換点は、年次よりも先行することが多く、月次のディフュージョン・インデックスはMSCI ACWIの変動を予測する先行指標として役立ちます。
現在のOECDのCLIディフュージョン・インデックスの動向では、世界経済が減速し始めている兆しが見られます。月次(MoM)と年次(YoY)の両方のディフュージョン・インデックスが下落しており、特にメキシコ、ブラジル、スペイン、フランス、中国が月次ベースで先行して下落しています。
もしこの傾向がさらに多くの国に広がれば、世界的な経済状況の変化が一層明確になり、景気の循環的なピークが近づいていることを示す可能性があります。
サーム・ルール / Sahm Rule
(出所:MacroMicro)
FRB(連邦準備制度)のエコノミスト、クラウディア・サーム氏が提唱した「サーム・ルール」は、リセッションの始まりを検出する方法として知られています。彼女の分析によると、過去12ヶ月間の最低失業率から3ヶ月平均の失業率が0.5ポイント以上上昇した場合、その時点で経済がリセッションに入っているか、近くリセッションが始まる可能性が高いというものです。このルールは、リセッションを早期に予測する信頼性の高い指標として評価されています。
しかし、以前の記事でも触れたように、サーム・ルールは技術的にはすでに発動していますが、今回は労働市場の状況が異なるため、必ずしも信頼できるとは言えません。特に、移民による労働力供給の増加が、その違いを生み出している要因の一つです。
半導体販売 / Semiconductor Sales
(出所:MacroMicro)
2023年のAIブームを背景に、半導体は経済データ、業界の収益、株価の動向において重要な役割を果たすようになりました。ここ数年の世界的な半導体売上の成長サイクルは、株式市場の動きと密接に関連しています。
通常、半導体売上がピークに達すると、まずアジア太平洋地域で大きな変動が現れ、その後、米国の売上成長が反転し、それが株式市場の下落と連動することが多いです。
現在、米国の半導体売上は記録的な水準を更新し続けている一方、アジア太平洋地域の売上は横ばいとなっており、今後の動向を注意深く見守る必要があるでしょう。
流動性 / Liquidity
(出所:MacroMicro)
流動性を測る方法はさまざまありますが、この指標はS&P 500指数の変動と非常に密接に関連していると感じています。
MacroMicroでは、米国、欧州、日本、中国の4大中央銀行のM2マネーサプライを集計し、世界市場の流動性を測る指標として使用しています。M2のマネーサプライは、資金需要やインフレ圧力の変化を示すために重要な指標です。
また、為替変動の影響を排除するため、チャートには固定為替レートでのM2供給量が表示されています。
・M1(狭義のマネーサプライ): 流通している通貨や当座預金などのチェック可能な預金を含みます。
・M2(広義のマネーサプライ): M1に加え、定期預金や個人の貯蓄預金も含まれており、経済全体の流動性をより幅広く捉えます。
米国 - AAII投資家センチメント調査 - Zスコア / US - AAII Investor Sentiment Survey - (Z-Score)
(出所:MacroMicro)
アメリカ個人投資家協会(AAII:American Association of Individual Investors)が実施する「AAII投資家センチメント調査」は、今後6か月間の株式市場の動向に対する投資家の見通しを測る週次アンケートです。投資家は、市場が上昇する(強気)、横ばい(中立)、または下落する(弱気)と予想するかを回答します。この結果は毎週木曜日に発表されます。
さらに深い分析のために、調査結果は「ネット強気指数(Net Bullishness Indicator)」として変換され、強気と弱気の回答の差をZスコア(データが平均からどれだけ離れているかを標準偏差で示す指標)で表します。Zスコアが1年間の平均値より1.5標準偏差以上上回る場合、市場が過度に強気であることを示し、逆にZスコアが-1.5を下回る場合、市場が極端に弱気で、過度な悲観論が広がっていることを意味します。
最後に
まとめると、これら10の指標は、堅実なマクロ経済の理解を築くための強力な基盤になると考えています。
これらの情報は、ポートフォリオや取引のデータと同様に、分かりやすいExcelシートにまとめています。
また、各指標には1から10のリセッションスコアを付け、「プラグマティック投資家」としての見解も加えました。
とはいえ、データだけでは限界があるため、質的なインサイトも欠かせません。そこで、私が毎週配信しているマクロ経済の要約も、ぜひインベストリンゴのプラットフォーム上でご覧いただければと思います。
アナリスト紹介:ジェームズ・ フォード
📍米国マクロ経済&テクノロジー担当
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