10/09/2024

セレブラス(Cerebras)のIPOは要注意?米国で上場申請中の注目の半導体企業を取り巻く輸出規制と地政学リスクとは?

us a flag on top of buildingウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、足元で注目の集まる、米国のAI向け半導体企業であるセレブラス(Cerebras)のIPOにおけるリスクを詳しく解説していきます。
  • セレブラスは、アラブ首長国連邦に拠点を置くAIとクラウド技術に特化したテクノロジー企業であるG42に大きく依存しています。
  • そして、米国での上場の一貫としてSECに提出されたForm S-1(証券登録届出書)では、G42が2023年と2024年に同社の売上の大半を占めることが明らかになりました。 
  • 一方で、セレブラスは、ドイツのAleph Alphaやサウジアラビアのアラムコとの新たな提携を通じて、生成AIモデルやAI導入の加速を目指しています。 
  • 米国の輸出規制や地政学リスクがセレブラスにも影響を与えており、特にG42との取引やシステムの設置場所には注意が必要です。

※「セレブラス(Cerebras)とG42の関係性:注目の米国AI半導体企業がIPO申請もG42への過度な依存が懸念材料?」の続き

セレブラス(Cerebras)のIPO申請に関して

セレブラス(Cerebras)が上場手続きの一環として、米国証券取引委員会(SEC)に提出したForm S-1(証券登録届出書)には、興味深い情報が多く含まれています。ここでは、特に重要な点を見ていきましょう。

セレブラス(Cerebras)の財務状況

セレブラス(Cerebras)は2022年に17780万ドル、2023年に12710万ドルの純損失を記録しました。同社が成長段階にあることを考えれば、これは特に驚くことではありません。さらに、2023年は2022年と比べて大きな改善が見られました。

(出所:FormS-1

また、売上も2022年の2460万ドルから2023年には7870万ドルへと大幅に増加しています。この増加は主にG42(アラブ首長国連邦に拠点を置くAIとクラウド技術に特化した企業)との取引によるものと考えられます。

セレブラス(Cerebras)の特定顧客への過度な依存

昨年末のレポートでも触れた通り、セレブラス(Cerebras)がG42に大きく依存している点は非常に懸念されるところです。今回のForm S-1で、その具体的な状況が明らかになりました。

(原文)Group 42 Holding Ltd (together with its affiliates, “G42”) accounted for 83% and 87%, respectively, of our total revenue for the year ended December 31, 2023 and six months ended June 30, 2024.

(日本語訳)Group 42 Holding Ltd(関連会社を含む「G42」)は、20231231日までの会計年度でセレブラスの総売上高の83%を、2024630日までの6か月間で87%を占めています。

さらに、リスク要因のセクションでも、このG42への依存について直接言及されています。

(原文)Our dependence on our relationship with G42 subjects us to a number of risks. Any negative changes in the demand from G42, in G42’s ability or willingness to perform under its contracts with us, in laws or regulations applicable to G42 or the regions in which it operates, or in our broader strategic relationship with G42 would harm our business, financial condition, results of operations, and prospects.

(日本語訳)私たちのG42への依存は、いくつかのリスクを伴います。G42からの需要の変化、G42の契約履行能力や意欲の低下、G42やその事業地域に適用される法律や規制の変更、またはG42との戦略的関係における変動が生じた場合、当社の事業、財務状況、業績、将来の見通しに悪影響を与える恐れがあります。

加えて、G42がセレブラスに満足していたとしても、今後のAI計算能力の購入先を他社に切り替える可能性があることも指摘されています。

(原文)Even if G42 remains satisfied with our offerings, it is possible that it will no longer need to purchase additional AI compute or services at the same quantity as prior periods, or that G42’s ability to purchase our products may change for reasons outside of its control. G42 may also choose to purchase more of its AI compute from our competitors.

(日本語訳)たとえG42が当社の提供する製品に満足していたとしても、これまでのような量のAI計算能力やサービスを今後は購入しない可能性があります。また、G42の購買能力が、G42自身では制御できない理由によって変わることもあり得ます。さらに、G42が当社ではなく競合他社からAI計算能力を調達する選択をする可能性もあります。

この最後の部分は、前回のレポートでも詳しく述べた通り、マイクロソフト(MSFT)とG42との契約を暗示していることは明らかです。

また、セレブラスは最近、2社の新たな顧客との契約を発表しました。1つはドイツの企業Aleph Alphaとの提携で、ドイツ軍向けに次世代の主権型生成AIモデルを構築するプロジェクトです。詳しくは以下をご覧ください

Aleph Alpha、次世代主権AIモデル開発にセレブラスを採用

Aleph Alpha、BWI GmbH向けの初の主権型生成AIモデルの訓練に、セレブラスのAI技術とCS-3 AIスーパーコンピュータを活用

(原文)SUNNYVALE, Calif. & HAMBURG, Germany–(BUSINESS WIRE)–Cerebras Systems, a pioneer in accelerating generative artificial intelligence (AI), today announced a multi-year partnership with world-leading AI company Aleph Alpha to develop secure sovereign AI solutions. The first deliverables of the collaboration will produce cutting-edge generative AI models trained to the industry’s highest degree of accuracy with BWI for the German Armed Forces.

(日本語訳)生成AIの分野で先駆的な存在であるセレブラス・システムズは、世界的なAI企業Aleph Alphaと複数年にわたるパートナーシップを締結したことを発表しました。この提携により、安全かつ主権性のあるAIソリューションの開発を目指します。協業の初期成果として、ドイツ連邦軍向けにBWIと協力し、業界最高水準の精度を誇る最先端の生成AIモデルを構築・提供する予定です。

もう1社はサウジアラビアのアラムコで、こちらはまだ基本合意書(MoU)段階にとどまっています。詳細は以下をご覧ください

アラムコとセレブラス、AI導入の加速に向けた協力覚書を締結

(原文)This MoU with Cerebras aims to accelerate our abilities to develop an AI-powered digital innovation economy in Saudi Arabia by helping to support the integration of advanced AI solutions, unlocking new opportunities for the country and localizing cutting-edge technologies with regional expertise.

(日本語訳)このセレブラスとの基本合意書(MoU)は、先進的なAIソリューションの導入をサポートすることで、サウジアラビアにおけるAI主導のデジタルイノベーション経済を加速させ、新たな機会を創出するとともに、最先端技術を地域の専門知識と結びつけて現地化を進めることを目指しています。

セレブラス(Cerebras)を取り巻く輸出規制

G42が購入した最初のCondor Galaxyスーパーコンピュータは米国に設置されました。当時、G42が追加で注文したシステムがどこに設置されるのか、米国かアブダビかといった憶測がありましたが、今、その答えがわかりました。

(原文)While we have obtained an export license from BIS to export, reexport, or transfer (in-country) our CS-2 systems to G42 in the United Arab Emirates, all of the systems we have sold to G42, or for which purchase orders have been placed by G42, to date have been or are expected to be deployed in the United States, which does not require an export license from BIS.

(日本語訳)当社は、アラブ首長国連邦においてG42に対してCS-2システムを輸出、再輸出、または国内移転するための輸出許可を米国商務省産業安全保障局(BIS)から取得しましたが、これまでにG42に販売された、または発注されたすべてのシステムは、米国に設置される予定であり、米国内に設置される場合にはBISの輸出許可は不要です。

エヌビディア(NVDA)が中国に対して販売できる製品が輸出規制によって制限されているのと同様に、セレブラス(Cerebras)も同じような規制を受けています。実際、202310月時点で、アラブ首長国連邦は特定の先端技術の輸出に関して許可が必要な国となっています。

(原文)In particular, in October 2023, BIS announced updated licensing requirements for exports of certain semiconductors and other items, including certain components of our products, to countries in the EAR’s Country Groups D:1, D:4 (which includes the United Arab Emirates, where our strategic partner and largest customer, G42, is headquartered), and D:5. The licensing requirements also apply to the export of these items to a party headquartered in, or with an ultimate parent headquartered in, Country Group D:5.

(日本語訳)特に、202310月にBISは、特定の半導体やその他のアイテム(当社製品の一部を含む)を、EARの国別グループD:1D:4G42の本社があるアラブ首長国連邦を含む)およびD:5に属する国々への輸出に関する許可要件を更新しました。また、これらのアイテムを国別グループD:5に本社を置く企業、もしくは最終的な親会社が所在する企業への輸出にも許可が必要です。

セレブラス(Cerebras)のIPOへの結論

以前から懸念していたセレブラス(Cerebras)のG42への依存は、G42がマイクロソフトとの戦略的パートナーシップを結んだことで、さらに深刻になりました。これまで述べたように、セレブラスは主にスーパーコンピュータの分野に限られており、注目は集めているものの、この分野だけでは事業を維持・拡大するには十分な規模とは言えないでしょう。

今後、セレブラス、マイクロソフト、G42の関係が技術面や地政学的な観点からどのように展開していくのか、非常に興味深いところです。また、IPOの進展も見逃せません。今後どうなるのか、楽しみに見守りたいと思います。

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アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング

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