12/31/2024

ゼネラル・モーターズ(GM)の将来性とは?Cruise(クルーズ)への資金提供停止による今後の株価見通しへの影響に迫る!

a car parked in front of a red buildingウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、注目の米国自動車関連銘柄であるゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転部門「Cruise(クルーズ)」への資金提供停止による同社の今後の株価見通しと将来性への影響を詳しく解説していきます。
  • ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転部門「Cruise」は、持続的な損失と限られた資金状況により、追加資金調達が不可欠な状態にありましたが、投資家からの支援を十分に得られず、事業縮小に追い込まれました。
  • GMの競合であるアルファベット(Waymo)との比較において、Cruiseは年間損失規模が半分程度であるものの、同様に巨額の損失を抱え、資金調達の困難さが明らかになりました。
  • GMとCruiseの失敗は、投資家にとって自動運転事業のリスクを再認識させる一方で、生成AI投資ブームとの類似点が指摘され、将来の教訓となる可能性があります。

※「ゼネラル・モーターズ(GM)自動運転部門「Cruise(クルーズ)」への資金提供停止の理由とは?」の続き

前章では、ゼネラル・モーターズ(GM)の自動運転部門「Cruise(クルーズ)」への資金提供の停止の理由に関して詳しく解説しております。

本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。

なぜゼネラル・モーターズ(GM)は、今、自動運転部門「Cruise(クルーズ)」に対する方針を転換したのか?

ゼネラル・モーターズ(GM)がCruise子会社に関する方針を転換した理由を理解するには、この発表後に同社の株価がどのように反応したかを見ると分かりやすいです。

(出所:Yahoo Finance)

答えは簡単で、ほとんど反応がなかったということです。つまり、市場はすでにCruiseのゼネラル・モーターズに対する価値をほぼゼロと見なしていたのです。さらに重要なのは、Cruiseがゼネラル・モーターズの収益に与える継続的なコストです。これについては、GMの2024年第3四半期決算報告書に掲載されている以下のグラフを参照してください。

(出所:ゼネラル・モーターズの2024年度第3四半期決算資料

2024年の年初来(YTD)において、CruiseはEBIT(営業損益ベース)で13億ドルの損失を計上しました。昨年同期の19億ドルからは大幅に減少しており、これは昨年末に実施された大規模なレイオフの影響によるものです。しかし、それでも依然として多額の損失であり、現金および現金等価物などが7億ドルしか残っていないことを考えると、その規模は軽視できません。つまり、GMは追加資金を調達する必要が生じるまでに、わずか1四半期分の運転資金しか残されていない状況にありました。

ここで、もう一つ重要な基準があります。それは、Cruise部門が収支均衡に達するまで、GMがどれだけの損失拡大を許容できるか、という点です。この答えは明確ではありませんが、Waymoの例が一つの手がかりを与えてくれます。2024年第3四半期の決算説明会では、Waymoがどれほど現金を消耗しているのかが明らかになっています。

(原文)As to our Other Bets, for the third quarter, revenues were $388 million, and operating loss was $1.1 billion.

(日本語訳)「Other Bets」部門の第3四半期の収益は3億8800万ドル、一方で営業損失は11億ドルに上りました。

アルファベット(GOOG)によると、「Other Bets」部門の「大半」をWaymoが占めているとのことです。「大半」を80%と仮定すると、1四半期あたり約9億ドル、年間では36億ドルの営業損失に相当します。一方、Cruiseの年初来(YTD)のEBIT損失13億ドルを年間ベースに換算すると、約17億ドルとなります。

要するに、GMの主要な競合であるアルファベットは、自動運転(AD)への取り組みで年間36億ドルという巨額の損失を受け入れているのに対し、GMはその半分程度にとどまっているのです。この現実は重く受け止めるべきでしょう。

そして、では、なぜ今なのか?その理由について私の見解をお伝えします。今年6月25日、CruiseはMarc Whitten氏を新しいCEOに任命したと発表しました。その詳細はこちらをご覧ください

(原文)Cruise today announced the appointment of Marc Whitten as the company’s Chief Executive Officer, effective July 16. Marc is a proven leader with decades of experience on the frontlines of technology transformations. His experience leading teams at scale and his deep expertise across software, hardware, platform and services will be crucial to fulfilling Cruise’s vision of offering technology and services that provide tangible benefits to society.

(日本語訳)Cruiseは本日、Marc Whitten氏が7月16日付で同社の最高経営責任者(CEO)に就任することを発表しました。Marc氏は、技術革新の最前線で数十年の経験を持つ実績あるリーダーです。大規模なチームの指揮経験に加え、ソフトウェア、ハードウェア、プラットフォーム、サービス全般における豊富な専門知識を備えており、Cruiseが社会に具体的な利益をもたらす技術とサービスを提供するというビジョンを実現する上で不可欠な存在となるでしょう。

もしGMがその時点でCruiseから撤退する予定だったのであれば、わざわざ注目度の高いCEOを子会社に迎えるような手間をかけることはまずなかったはずです。そのCEOの経歴について、以下に重要なポイントをお伝えします。

(原文)Marc was a founding engineer at Xbox and Xbox Live where he scaled three generations of technology to serve millions of gamers.

(日本語訳)Marc氏は、XboxおよびXbox Liveの創設時からエンジニアとして携わり、3世代にわたる技術の発展を主導し、数百万人のゲーマーにサービスを提供する体制を確立しました。

そうです、彼は元マイクロソフト(MSFT)のベテランで、同社に17年間在籍した後、Sonosを経てアマゾン(AMZN)に移りました。この件についての詳しい話は後ほどお伝えします。

一方で、Cruiseの資金が不足している中、GMは新たな資金調達ラウンドのために投資家との交渉を開始しました。実は、2021年1月に実施された前回の資金調達ラウンドでは、マイクロソフトが主要な投資家の一つでした。その詳細はこちらをご覧ください

CruiseとGM、マイクロソフトと提携し自動運転車の商用化を推進

(出所:マイクロソフトのHP)

(原文)Microsoft will join General Motors, Honda and institutional investors in a combined new equity investment of more than $2 billion in Cruise, bringing the post-money valuation of Cruise to $30 billion.

(日本語訳)マイクロソフトは、GMやホンダ、機関投資家とともに、Cruiseに対して合計20億ドル以上の新たな株式投資を行います。これにより、Cruiseの資金調達後の評価額は300億ドルとなります。

(原文)“Advances in digital technology are redefining every aspect of our work and life, including how we move people and goods,” said Satya Nadella, CEO, Microsoft. “As Cruise and GM’s preferred cloud, we will apply the power of Azure to help them scale and make autonomous transportation mainstream.”

(日本語訳)「デジタル技術の進化は、人やモノの移動を含め、私たちの仕事や生活のあらゆる側面を再定義しています」と、マイクロソフトのCEO、サティア・ナデラ氏は語りました。「CruiseとGMの優先クラウドパートナーとして、Azureの力を活用し、両社が規模を拡大し、自動運転の普及を実現できるよう支援していきます。」

数か月前に話を戻すと、GMは再び投資パートナーを探していました。この間に、特にマイクロソフトにとって2つの大きな変化がありました。1つ目は、OpenAIへの投資が(少なくとも現時点では)驚異的な成功を収めたこと。2つ目は、CruiseのCEOに元マイクロソフトのベテランが就任していたことです。この1年間でCruiseに起きたさまざまな出来事を踏まえると、マイクロソフトは他により良い投資先があると判断し、Cruiseへの投資を見送ったことは明らかです。

もう一つ注目すべき要因があります。それは、インテル(INTC)のCEOであるパット・ゲルシンガー氏の「辞任」によって、同社の取締役会(BoD)が注目を浴びていることです。ここ数週間、インテルの取締役会は各方面から厳しい批判を受けています。具体的な経緯が明らかになる中で一つ確かなのは、インテルの取締役会が、見返りの見えないプロジェクトに白紙小切手を切るようなやり方を今後は取らないという姿勢を明確にしたということです。この動きにより、米国の大型ハイテク株を抱える多くの企業の取締役会が注目し始めているようです。例えば、GMの取締役会もその一つでしょう。

いずれにしても、Cruiseの最新の資金調達ラウンドには投資家がほとんど集まらなかった、または十分な出資が得られなかったようです。そして、GMの取締役会もついに限界に達し、撤退を決断したと考えられます。

ゼネラル・モーターズ(GM)に対する結論

ゼネラル・モーターズ(GM)のCruise子会社の終焉は、自動運転の歴史における重要な節目を示しています。それは、華々しい成功からの劇的な転落であり、同時に投資家資本の大規模な損失を象徴しています。確かに、GMはCruiseの技術の一部を活用できるかもしれませんが、その価値は元の額に対してわずかなものに過ぎません。一方、マイクロソフト(MSFT)はすでにCruiseへの8億ドルの投資を完全に損失処理しています。その詳細はこちらをご覧ください

マイクロソフト、Cruiseのロボタクシー事業終了で8億ドルの損失計上へ

(出所:TechCrunch

(原文)Microsoft, which in 2021 made an investment into Cruise, will take $800 million impairment charge as a result of GM’s actions, according to a regulatory filing. Microsoft said the charge will be recorded in other income and expense and was not included in its second quarter guidance provided on October 30, 2024. It is estimated to have a negative impact of approximately $0.09 to second quarter diluted earnings per share, according to the filing.

(日本語訳)2021年にCruiseへ投資を行ったマイクロソフトは、GMの決定を受けて8億ドルの減損処理を実施すると、規制当局への提出書類で明らかにしました。この減損額は「その他の収益および費用」として計上され、2024年10月30日に発表された第2四半期の業績ガイダンスには含まれていなかったとのことです。また、この処理により、第2四半期の1株当たり希薄化後利益に約0.09ドルのマイナス影響を与えるとされています。

(原文)Minority investor Honda said Wednesday it will stop funding a joint venture with General Motors and Cruise to launch a robotaxi service in Japan.

(日本語訳)少数株主であるホンダは、水曜日にGMおよびCruiseとの共同事業で日本におけるロボタクシーサービスを展開する計画への資金提供を打ち切ると発表しました。

ここから得られる教訓は数多くあり、その多くは現在の生成AIへの投資ブームにも通じるものがあります。ただし、投資家たちがこのCruiseの失敗から学ぶかどうかは、かなり疑わしいところです。さて、どうなるでしょうか……。

今後のゼネラル・モーターズの動向には引き続き注視していきたいと思います。

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さらに、直近では、上述のインテルに関する下記の詳細な分析レポートを執筆しておりますので、インベストリンゴのプラットフォーム上より、こちらも併せてご覧いただければと思います。

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