米国の景気後退(リセッション)はいつ来るのか?トランプ政権は関税導入や政府支出削減等、景気後退容認姿勢もその影響とは?
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- 本稿では、ドナルド・トランプ新政権の景気後退への容認姿勢に対する市場の懸念を踏まえ、「米国の景気後退(リセッション)はいつ来るのか?」という点に関して詳しく解説していきます。
- トランプ政権は関税導入や政府支出削減を進め、景気後退を容認する姿勢を示しています。その背景には、低金利での債務リバランスや財政赤字の均衡化を目指す意図があります。
- 10年債の利回りを引き下げるため、銀行規制の緩和や成長予測の下方修正が進められています。雇用市場の脆弱性や貿易関税の影響も相まって、景気減速のリスクが高まっています。
- 以上を踏まえ、今後の投資戦略として、景気後退局面でも安定性が期待される債券ETFやゴールドへのシフトに注目しています。市場の変動に備えつつ、今後の雇用データや経済指標を注視することが重要であると考えています。
はじめに
ドナルド・トランプ大統領とその政権は、公約の実現に向けて一切時間を無駄にしていません。
関税は次々と導入され、DOGE(米政府効率化省)は政府支出の削減に取り組んでいます。
つまり、トランプ氏は以下のような動きを見せています。
✅ 世界の貿易を混乱させる可能性のある政策を打ち出す
✅ 米経済最大の雇用主である政府の規模を縮小しようとする
✅ 債務をより長期の利回りへと「リバランス」しようとする
さらに、トランプ氏は「アメリカ国民が短期的な痛みを感じることになるかもしれない」と発言しており、それを受け入れる姿勢を明確に示しています。
では、これが市場にどのような影響を及ぼすのでしょうか?
✅ 株式市場は短期的な痛みを受けるのでしょうか?
✅ それとも、市場はすでに長期的な利益を織り込み始めているのでしょうか?
✅ トランプ氏とスコット・ベッセント財務長官は、軽度の景気後退によって10年債の利回りを引き下げようとしているのでしょうか?
そして、最も重要な点として、これをどう活用すれば利益を得られるのか。市場はグローバル・マクロの観点で何を誤って評価しているのでしょうか?
私はこの点についてある程度の見通しを持っているため、新たに2つの銘柄を自身が運用するポートフォリオへのの1つである「マクロETFポートフォリオ」に追加する予定です。
本稿で学べること
💡 なぜインフレは収束するのか
💡 雇用市場が抱える隠れた問題
💡景気後退から利益を得る方法
では早速詳細に入っていきましょう!
トランプ氏は景気後退(リセッション)を望んでいるのか?
2016年のトランプ氏であれば、このような考えは持たなかったでしょう。しかし、現在のトランプ氏は新たなアドバイザーに囲まれ、異なる戦略を打ち出しています。
では、なぜトランプ氏は景気後退を望むのでしょうか?
最も明白な理由は、トランプ氏とベッセント氏が財政赤字を均衡させたいと考えているからです。そのためには、低金利かつ長期の債務へと借り換えを進める必要があります。
「「彼はFRBに利下げを求めているわけではありません」とベッセント氏は水曜日にFox Businessで語りました。その代わりに、トランプ政権は10年債の利回りを引き下げることに注力しているとのことです。「経済の規制を緩和し、減税法案を成立させ、エネルギー価格を抑えれば、金利は自然に下がり、ドルも安定するでしょう」と彼は述べています。」
(出所:CNN)
米国10年物国債の利回りを下げる方法とは?
1️⃣ 需要を増やす
2️⃣ 成長予測を下方修正する
トランプ氏はすでに米国の銀行規制を緩和する動きを見せています。
具体的には、最新のバーゼル合意の一部を撤回することで、米銀が国債をより多く保有できるようにする方針を示しています。これにより、銀行は資本要件を満たしつつ、より多くの国債を担保として保有できるようになります。
これは国債市場や株式市場にとって好材料となる可能性がありますが、最終的に問題を引き起こす懸念もあります。
10年債の利回りを下げるもう一つの方法は、成長予測を下方修正し、場合によっては景気後退を引き起こすことです。
10年債の利回りは将来のGDP成長率を反映しています。そのため、不景気になれば、長期金利は低下します。なぜなら、市場は将来の成長が低迷することを織り込むからです。
(出所:FRED)
しかし、たとえトランプ氏が景気後退を望んでいたとしても…
トランプ氏は望む結果を得られるのか?
ここで重要な要素は、次の3つが密接に絡み合っていることです。
✅ インフレ
✅ 雇用
✅ 関税
インフレに関しては、専門家の意見が大きく分かれています。それぞれの主張にはそれなりの根拠があり、異なる見解が成立する状況です。私自身も先週インフレについての見解を述べましたが、最新のデータはその予想と矛盾するものでした。
1月の消費者物価指数(CPI)は前月比0.5%上昇し、市場予想を上回る結果となりました。それでも、私はこのチャートの示すトレンドを支持しています。
(出所:Labor Department)
このチャートは、新規賃貸住宅の価格指数の前年比変化を示しています。CPIにおける住居費は遅行指標であるため、このデータを見ると今後数カ月で住居費がインフレ率を抑える可能性があることが分かります。
しかし、本当に鍵を握るのは雇用です。
雇用が予想よりも弱い可能性
アメリカの労働市場は、一見すると堅調に見えますが、実際には脆弱な兆候を示しています。最近の雇用データ、政府の景気刺激策の影響、そしてより広範な経済トレンドを詳しく見ると、多くの人が考えているほど雇用の伸びは強くない可能性が浮かび上がってきます。
関税と米国経済政策の影響
最近の貿易関税や経済政策の議論は、雇用市場に不確実性をもたらしています。アメリカ政府がメキシコ、カナダ、中国からの輸入品に関税を課す方針を進めていることにより、サプライチェーンの混乱や製造業の雇用への悪影響が懸念されています。
過去の事例を振り返ると、このような政策は経済成長の鈍化を招き、主要な産業での失業率を押し上げる傾向があります。
(出所:Visual Capitalist)
米国政府による雇用創出の影響は縮小
近年、雇用増加を支えてきた主要な要因の一つが政府雇用です。特に州政府や地方自治体での採用が進んでいました。
しかし、これは新型コロナウイルス対策として配布された連邦政府の景気刺激策によるものでした。この資金はすでにほぼ使い果たされており、一部の州では採用の凍結や人員削減が進んでいます。
これにより、公務員の雇用が今後は増加しにくい状況となっています。
(出所:Kevin Drum)
ギグワークが米国の雇用指標を歪めている
雇用市場の実態を評価するうえで、ギグワーク(短期・非正規労働)の増加も重要なポイントです。
ここ数年でUber(UBER)やDoorDash(DASH)のドライバーの数は急増しており、これが一種の「雇用のクッション」となっています。しかし、これは長期的な雇用の安定性を示すものではありません。
多くの人が失業保険の申請をせずにギグワークに流れているため、新規失業保険申請件数などの従来の指標では、実際の雇用状況が適切に反映されていない可能性があります。
さらに、ギグワークは福利厚生がない上に雇用の安定性が低いため、景気が悪化すれば深刻な経済的困難に直面する人が増えると考えられます。しかし、この影響は従来の雇用統計にはすぐには現れません。
(出所:JPMorgan Chase Institute)
不安定な労働市場
最近発表された雇用コスト指数や労働市場レポートによると、失業期間が長期化する傾向が見られます。
新規失業保険申請件数は依然として比較的低いものの、継続受給者数は増加しており、一度仕事を失うと新たな職を見つけるのが難しくなっていることを示しています。
さらに、賃金インフレも鈍化しており、企業が労働者の確保に対して以前ほど積極的ではなくなっていることが伺えます。
これは求人数の減少とも一致しており、高学歴で優れた職歴を持つ人ですら、仕事探しに苦戦しているという報告が増えています。
企業の投資動向と雇用市場
企業投資は経済の先行指標として機能します。
直近の四半期では、企業の設備投資が2020年以来初めて縮小しました。これは極めて不吉な兆候です。
企業が支出を削減するということは、新規雇用の機会が減少し、経済の勢いが鈍ることを意味します。
この傾向が続く場合、労働市場は予想以上に早く悪化する可能性があります。
強い雇用市場を維持するには、企業が事業を拡大し、新たなプロジェクトに投資し、より多くの労働者を雇用する必要があります。しかし、現在の状況を見る限り、そのような楽観的な見通しは難しいと言わざるを得ません。
(出所:BEA、LSEG Datastream、J.P. Morgan Asset Management)
マクロETFポートフォリオの最新動向:新たに2つの取引を追加
🆕 新規追加:iシェアーズ米国債7-10年ETF(IEF)
🆕 新規追加:SPDRゴールド・シェアーズ(GLD)
簡単に言えば、景気後退に必要な要素がすべて揃っている状況です。さらに、市場の流動性が枯渇しつつあることを考慮すると、これは経済的な大混乱につながるリスクがあると言えます。
以前の私のマクロ経済に関するレポートにおいて、私はFRBが流動性不足による急落を未然に防ぐ可能性が高いと指摘しました。
しかし、それでも景気後退を避けることは難しいでしょう。もしかすると、パウエル議長とトランプ氏は市場の崩壊を意図しているのかもしれません。
以下で詳しく見ていきますが、私は引き続き株式をロングで保有しています。ただ、現状の市場は過熱感が否めません。
現在、真のアルファ(超過リターン)が見込めるのは、債券とゴールドだと考えています。
(出所:Steno Research, Bloomberg and Macrobond)
そのため、ポートフォリオにiシェアーズ米国債7-10年ETF(IEF)を追加することにしました。
iシェアーズ米国債7-10年ETFの株価推移
(出所:TrendSpider)
ダブルボトムを形成した後、さらなる上昇の余地があると見ています。市場がどのように動こうとも、IEFは堅調に推移すると考えています。
SPDRゴールド・シェアーズの株価推移
(出所:TrendSpider)
そして、SPDRゴールド・シェアーズ(GLD)に関してですが、すでにGLDを一部保有していますが、ここでさらに追加購入することにしました。現在、買われ過ぎの状態で一時的な調整が入る可能性はありますが、関税の影響を考慮すると、GLDの投資価値はこれまで以上に高まっているように見えます。
米国市場に対する結論
(出所:Snowball Analytics)
私は依然として強気スタンスを維持しており、株式のロングポジションも続けています。ただし、すぐに投入できるキャッシュも確保してあります。
もし今後3カ月間で市場がさらに上昇し、雇用データが弱含んでくるようなら、大きな売りに備えてポジションを調整するタイミングになると考えています。
本編は以上となります。
また、私はマクロ経済、並びに、注目のテクノロジー銘柄に関するレポートを毎週複数執筆しており、私のプロフィール上にてフォローしていただければ、最新のレポートがリリースされる度にリアルタイムでメール経由でお知らせを受け取ることが出来ます。
加えて、その他のアナリストも詳細な分析レポートを日々執筆しており、インベストリンゴのプラットフォーム上では「毎月約100件、年間で1000件以上」のレポートを提供しております。
私のテクノロジー関連銘柄やマクロ経済に関する最新レポートを見逃さないために、是非、フォローしていただければと思います!
アナリスト紹介:ジェームズ・ フォード
📍米国マクロ経済&テクノロジー担当
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