インテル(INTC):アポロとのFab 34における110億ドルの第2弾半導体共同投資プログラム(SCIP)を発表
ウィリアム・ キーティング- インテル(INTC)は2024年6月4日に、アポロとの共同投資による第2弾半導体共同投資プログラム(SCIP)を発表した。
- アポロはインテルのアイルランドにあるFab 34の49%の持分を取得するために110億ドルを投資する。
- インテルは2022年8月にブルックフィールド・アセット・マネジメントとの最初のSCIPを発表しており、今回の取引も同社の資金調達の一環であると言える。
インテル(INTC)の第2弾半導体共同投資プログラム(SCIP)に関して
2024年6月4日、インテル(INTC)はいわゆる半導体共同投資プログラム(SCIP)の第2弾を発表し、今回は高成長を誇る世界的なオルタナティブ資産運用会社であるアポロとの共同投資となった。
そして、今回問題となった施設はアイルランドにあるFab 34である。
(原文)SANTA CLARA, Calif. & NEW YORK--(BUSINESS WIRE)-- Intel Corporation (Nasdaq: INTC) and Apollo (NYSE: APO) today announced a definitive agreement under which Apollo-managed funds and affiliates will lead an investment of $11 billion to acquire from Intel a 49% equity interest in a joint venture entity related to Intel’s Fab 34
(日本語訳)インテル・コーポレーション(Nasdaq: INTC)とアポロ(NYSE: APO)は本日、アポロが運用するファンドと関連会社が110億ドルの投資を主導し、インテルのFab 34に関連する合弁事業体の49%の持分をインテルから取得する最終合意を発表しました。
また、インテルがSCIPルートに初めて進出したのは2022年8月のことである。
この取引は、アリゾナ州に建設される2つの新しい最先端チップ工場に共同で投資するための、ブルックフィールド・アセット・マネジメントとの類似したJVに関するものだった。
(日本語訳)インテルがスマート・キャピタルを推進、世界初の製造ビルドアウト向け半導体共同投資プログラムを導入
(日本語訳)インテル、アリゾナ州の最先端チップ工場に最大300億ドルを共同投資する契約をブルックフィールドと締結
(日本語訳)インテルが本日午前5時45分(PDT)に投資家向けウェブキャストを開催
(日本語訳)インテルコーポレーションは本日、資本集約的な半導体業界に新たな資金調達モデルを導入する初の半導体共同投資プログラム(SCIP)を発表しました。このプログラムの一環として、インテルは世界最大級のオルタナティブ資産運用会社であるブルックフィールド・アセット・マネジメントのインフラストラクチャー関連会社と正式契約を締結し、インテルに製造設備増強のための新たな資金プールを提供します。
その最初のSCIPの発表の際には、デビッド・ジンスナーCFOが投資家向けに(やや)深く掘り下げた内容を提供するウェビナーへの招待があったが、今回のSCIPの発表の際にはその様なウェビナーは開催されておらず、どうやらSCIPはインテルにとって新たな常態となったようである。
インテルの最初のSCIPが発表された時は、我々はかなり否定的な見方を示しており、現在もその見解に変更はない。
そして、この最新のSCIPの発表には、インテルに対する我々の見通しをさらに悪化させる新たな材料も含まれている。
なぜなら、アポロとの取引の対象としてFab 34を選んだためである。
なぜ現在建設中のオハイオ工場ではないのだろうか?
或いは、なぜドイツで計画されているファブではないのだろうか?
この点に関して詳しく深堀していきたい。
インテル(INTC)の半導体共同投資プログラム(SCIP)についての我々の見解
インテル(INTC)が2022年に最初のSCIPを発表した当時、私は執筆活動を休止していたため、残念ながら参照できるレポートは手元にないというのが現状である。
しかし、エキスパート・ネットワークの通話で何度かこのトピックについて意見を交わしており、当時の私の考えを大まかにまとめると以下のようになる。
1. SCIPは単なる資本調達の手段ではない
SCIPは非常に複雑な取り決めである。
最初のSCIPは2022年8月に発表され、2022年12月中旬までクローズしなかったことを思い出していただきたい。
SCIPには多くの事務手続きと弁護士費用がかかり、非常に複雑なビジネス・フローであり、これを社債発行による資金調達の容易さと比較するとその複雑さは明らかである。
2. インテルはSCIPのルートを通る必要がなければ、通らないだろう
SCIPを実行するということは、最初から弱気な立場に立っているということであり、それは決して良い兆候ではないと見ている。
3. いずれにせよ、SCIPのルートに入るのであれば、そもそも、その拡張計画は大きすぎる可能性がある
元々、インテルは一度もSCIPを行う必要なく、間違いなく地球上で最も成功した半導体企業に成長することが出来た。
しかし、足元では何が変わったのだろうか、良い方向には向かっていないのは確かである。
4. TSMC(TSM)はSCIPを行っていない
実際、私はSCIPを行う他の半導体会社を知らないが、なぜインテルだけがSCIPを行っているのだろうか?
この点において、インテルの選択は同業他社よりも賢い選択と言えるのだろうか?
残念ながら、私はそうは思っていない。
5. SCIPの不透明性
投資家の観点からすると、SCIPはグロスマージンや収益性など、重要なもの全てにおいて、私たちが将来何を期待できるかという点で、水を濁しているように見える。
我々の様な通常の投資家は、SCIPに関する正確な条件を知ることはできないことからも、私の率直な意見では、SCIPは株主に優しくない選択であると見ている。
アポロによる半導体共同投資プログラム(SCIP)がインテル(INTC)に意味することは?
アポロによるSCIPがアイルランドのFab 34への投資をベースにしているという事実は、すぐに私の関心を引いた。
なぜなら、アイルランドは、私がインテル(INTC)で1992年にFab 10に入社した場所だからである。
実際、ブルックフィールド・アセット・マネジメントによる最初のSCIPは、アリゾナ州、より正確にはフェニックス郊外のオコティロ(Ocotillo)に新しく計画された2つのファブへの投資を対象としていた。
この流れを踏まえると、今回これに相当するのは、インテルが現在建設中のオハイオ州の工場をターゲットにすることだろう。
或いは、インテルがドイツに建設すると言っているファブでもいいだろう。
しかし、Fab 34を選択することは全く別の問題である。
インテルのプレスリリースによれば、このFab 34はすでに量産体制に入っており、まさに初期段階にある。
(原文)Construction of Fab 34 is largely complete, and high-volume manufacturing of Intel® Core™ Ultra processors on Intel 4 technology began there in September 2023. The ramp of Granite Rapids, Intel’s next-generation data center product on Intel 3 technology, is also well underway.
(日本語訳)Fab 34の建設はほぼ完了し、2023年9月にインテル® 4テクノロジーによるインテル® Core™ Ultraプロセッサーの量産を開始しました。また、インテル3テクノロジーによるインテルの次世代データセンター製品Granite Rapidsの立ち上げも順調に進んでいます。
ブルックフィールド・アセット・マネジメントとの契約について改めて考えてみると、アリゾナ工場は契約締結時に建設が始まったばかりであったため、インテルは建設が進むにつれて同ファンドから段階的な現金注入を受けることになったと思われる。
言い換えれば、インテルはブルックフィールド・アセット・マネジメントから150億ドルを前倒しで受け取ることはなかっただろう。
今回は、2023年9月から既に生産が開始されているファブを扱っている。
つまり、アポロがコミットした110億ドルは、取引が成立すれば実質的に全額前払いされる可能性が高いと見ている。
そして、インテルはすでにFab 34に184億ドルを費やしている。
それらを踏まえて簡単に計算をしてみると、アポロとの取引が示すFab 34のバリュエーションである220億ドルまで、あと数十億ドルしかないことがわかるだろう。
要するに、今回のSCIPの対象としてFab 34を選んだことで、インテルは、ブルックフィールド・アセット・マネジメントとの取引のように長期間にわたって少額の現金を注入するよりも、できるだけ早く巨額の現金を注入することを優先しているということである。
言い換えれば、インテルはキャッシュフローの観点からますますプレッシャーにさらされており、今回のアポロとの契約はそれに対する解決策なのである。
一方で、インテルが今後もSCIP取引を継続するかどうかについては、同社のプレスリリースによると、今のところ見通しは立っていないようである。
(原文)Intel’s SCIP program has supported the company’s period of accelerated manufacturing investment that commenced in early 2021. With the signing of this second SCIP agreement, the company is not contemplating further SCIP transactions in the near term.
(日本語訳)インテルのSCIPプログラムは、2021年初頭に始まった製造投資の加速期間を支えてきました。この2つ目のSCIP契約の締結により、インテルは当面、さらなるSCIP取引は考えておりません。
勿論、「当面」という言葉には解釈の余地があるという点にはご留意いただきたい。
インテル(INTC)における半導体共同投資プログラム(SCIP)の意味
ブルックフィールド・アセット・マネジメントとの最初のSCIP契約において、インテル(INTC)は次のように語っている。
(原文)Over the next several years, the structure is expected to provide a $15 billion cumulative benefit to Intel’s adjusted free cash flow and is expected to be accretive to Intel’s earnings per share during the construction and ramp phase.
(日本語訳)今後数年間で、このストラクチャーはインテルの調整後フリー・キャッシュフローに累積150億ドルの利益をもたらし、建設と立ち上げの段階においてインテルのEPS(一株当たり利益)に増加効果をもたらすと予想されます。
フリーキャッシュフローへの恩恵は当然だが、「EPS(一株当たり利益)に増加効果をもたらす」というコメントが「建設と立ち上げの段階において」に修飾されていることに注目していただきたい。
ここでの意味合いとしては、工場が立ち上がり段階を超えると、EPSへの増加効果はなくなるということである。
これは、インテルがブルックフィールドのウェハーのシェアをコスト+マージン・ベースで購入するという事実のため避けられないことである。
そのマージン(金額は不明)がインテル全体の売上総利益率の足を引っ張ることになる。
また、アポロとの最新の契約では、EPSへの影響については言及されていないが、それは、Fab 34がすでに立ち上がり段階にあるからであると見ている。
そして、本当に大量生産されるようになれば、EPSと売上総利益率の足を引っ張ることになるだろう。
最後に
まだお分かりでない方のために繰り返すが、私はインテル(INTC)のSCIP資金調達モデルを良くは思っていない。
そして、SCIPの利用は、ゲルシンガーCEOの指導のもとで、インテルが自分たちの限界以上のことに手を出している兆しだと私は見ている。
そのため、ゲルシンガーCEOが着任した際に、インテルの悪い点を改善することに集中していたらと思うと残念でならないというのが本音である。
なぜなら、当時のインテルは技術的にはまだ素晴らしい会社だった。
ゲルシンガーCEOは、単にプロセスの問題を整理し、長年にわたって蓄積され、すでに特定され、認識されていたアーキテクチャーの問題を改善するだけでよかったのである。
しかし、残念ながら、実際にはそうなっておらず、むしろインテルは良い投資先を求める世界中の資本(投資家)の受け皿となりつつあるといのが現状である。
直近の最新のインテルの決算に関心のある読者には、是非、下記のレポートもご覧いただければと思う。
インテル / INTC / 弱気:最新の2024年第1四半期決算分析と今後の株価見通し・将来性 - 前編(Intel)
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