11/29/2024

インテル(INTC)の倒産リスクとは?新たに提出された8-Kは経営権の変更等のリスクにも言及!

a close up of a computer chip with the intel core logo on itウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、「インテル(INTC)の倒産リスクとは?」という疑問に答えるべく、新たにインテルにより提出された8-Kの分析を通じて、同社の将来性を詳しく解説していきます。
  • インテルは米国商務省から78億ドルの助成金を受けるが、資金の分配には施設完成やプロセス技術の開発、外部顧客獲得など厳しい条件が付随しています。 
  • 助成金契約には配当や株式買い戻しの制限、研究開発への投資義務、経営権の変更制限など、多くの運営上の制約が含まれています。 
  • インテルの助成金受領に伴う厳格な条件と米国商務省の介入は、企業の自主性や潜在投資家に対する魅力に影響を及ぼしているように見えます。

※「インテル(INTC)は本当にやばいのか?米国CHIPS法により78億6,000万ドルの助成金を獲得もその真相に迫る!」の続き

前章ではインテル(INTC)が直面する課題と米国CHIPS法の詳細について詳しく解説しています。

本稿での内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧いただければと思います。

インテル(INTC)の8-Kの詳細に関して

前章で解説した通り、インテル(INTC)の米国CHIPS法に関するプレスリリースはポジティブな内容でまとめられていましたが、2024年11月25日にインテルが提出した8-Kには、まったく異なる現実が記されています。

因みに、8-Kとは、アメリカの証券取引委員会(SEC: Securities and Exchange Commission)に提出される公式な報告書の一つで、企業が重要な出来事(マテリアルイベント)や取引を投資家に通知するために使用される書類です。

そこに記載された条件や条項を見ると、インテルが今にも事業を閉じる可能性があるのではないかと思わせる内容となっています。

そこで、本稿では、その提出された8-Kの詳細に迫っていきたいと思います。

ご参考までに、8-Kの全文はこちらから確認できます

冒頭の段落はプレスリリースとほぼ同じ内容ですが、今回はアリゾナ州、ニューメキシコ州、オハイオ州、オレゴン州にまたがる合計12の施設について言及されています。

(原文)Under the Direct Funding Agreement, the DOC has agreed to award Intel up to $7.8 billion in direct funding and $65 million in workforce development funding (collectively, the “Awards”) related to (i) the construction, modernization, tool purchase and installation in, and operation of, twelve microchip fabrication facilities and advanced packaging facilities located in Arizona, New Mexico, Ohio and Oregon (the “Projects”) and (ii) workforce activities related to the Projects.

(日本語訳)直接助成契約に基づき、米国商務省(DOC)は、以下に関連してインテルに最大78億ドルの直接助成金と6500万ドルの人材育成助成金(総称して「助成金」)を提供することに合意しました。(i) アリゾナ州、ニューメキシコ州、オハイオ州、オレゴン州にある12の半導体製造施設および先進パッケージング施設の建設、近代化、装置の購入・設置、運営(「プロジェクト」)、および (ii) プロジェクトに関連する人材育成活動です。

ここから、インテルにとって状況はさらに複雑になっていきます。

以前から、インテルが約束された数十億ドルを受け取るためには、工場の建設完了や設備投資(CapEx)といった具体的なマイルストーンが必要になるだろうと考えられていました。

しかし、現在ではそれに加えて、プロセス技術の開発、ウェハーの生産(おそらく一定量の達成)、インテル製品の自社生産、外部ファウンドリ顧客の獲得などが条件に含まれるようになっています。

(原文)The DOC will disburse the Awards funding to Intel based on the achievement of various milestones, with each disbursement reimbursing Intel for eligible uses of funds already incurred and paid by Intel or its subsidiaries. Disbursements are Project-specific and subject to the achievement of various capital expenditure, facility completion, process technology development, wafer production, Intel products insourcing and external foundry customer acquisition milestones, the receipt of applicable permits and other governmental approvals, and various other conditions.

(日本語訳)米国商務省(DOC)は、インテルに助成金を分割して支給しますが、その支給はさまざまなマイルストーンの達成に基づいて行われます。各支給額は、インテルやその子会社がすでに発生させて支払った適格な費用を補填する形で提供されます。支給はプロジェクトごとに行われ、資本的支出、施設の完成、プロセス技術の開発、ウェハ生産、インテル製品の自社生産、外部ファウンドリ顧客の獲得といったマイルストーンの達成に加え、必要な許認可やその他の政府承認の取得、さらにその他のさまざまな条件の達成が求められます。

これらの条件は、CHIPS法の趣旨からすれば理にかなっていますが、インテル自身が当初からこうした厄介な領域、例えばTSMC(TSM)からウェハーを国内に戻すといった「自社製品の内製化」まで踏み込まれることを想定していたとは思えません。

次の段落では、インテルがCHIPS法の助成金を受け取った後に課される運営面での制約について主に説明していますが、特に驚くような内容はありません。

(原文)

(i) restrictions on dividends and share repurchases,

(ii) restrictions on the expansion of semiconductor manufacturing capacity in certain foreign countries,

(iii) restrictions on joint research and technology licensing with certain foreign entities,

(iv) restrictions on the use or installation of prohibited equipment that is manufactured or assembled by certain foreign entities,

(v) spending at least $35 billion on research and development within the United States cumulatively from 2024 through 2028,

(vi) compliance with various federal regulations and requirements and

(vii) limitations on dispositions of the Projects, including through dispositions of equity interests in the Projects.

(日本語訳)

(i) 配当や自社株買いの制限

(ii) 特定の外国における半導体製造能力の拡大の制限

(iii) 特定の外国機関との共同研究および技術ライセンス契約の制限

(iv) 特定の外国機関が製造または組み立てた禁止された設備の使用や設置の制限

(v) 2024年から2028年までの間に米国内で合計350億ドル以上を研究開発に投資する義務

(vi) 各種連邦規則や要件への遵守義務

(vii) プロジェクトの譲渡に関する制限(プロジェクトに関連する持分の譲渡を含む)

次の段落では、「経営権の変更」に関する制限リストが記されており、インテルにとって状況が一段と厳しくなります。

インテルに起こり得るさまざまなネガティブなシナリオをかなり詳細に想定しているようです。

(原文)

The Direct Funding Agreement contains restrictions on certain “change of control” transactions:

(i) third party acquisition of 35% or more of the ownership of or voting rights with respect to Intel or otherwise acquiring control of Intel;

ii) Intel ceasing to own at least 50.1% of the ownership of or voting rights with respect to Intel Foundry if separated into a new legal entity (“Intel Foundry Corporation”) so long as Intel Foundry Corporation remains a private company;

(iii) if Intel Foundry Corporation becomes a public company, third party acquisition of 35% or more of the ownership of or voting rights with respect to Intel Foundry Corporation at any time Intel is not its largest shareholder;

(iv) Intel ceasing to have control of Intel Foundry Corporation; or (v) with respect to other Recipient Parties, Intel ceasing to own at least 50.1% of the ownership of or voting rights with respect to the Recipient Party equity or voting rights or otherwise ceasing to have control of the Recipient Party.

(日本語訳)

直接助成契約には、特定の「経営権の変更」に関する取引を制限する条項が含まれています:

(i) 第三者がインテルの持分または議決権の35%以上を取得する、またはその他の方法でインテルの支配権を取得する場合

(ii) インテルが「Intel Foundry Corporation」という新しい法人として分離されたインテルのファウンドリー事業に対し、その所有権または議決権の少なくとも50.1%を維持しなくなった場合(ただし、Intel Foundry Corporationが非公開企業である場合に限る)

(iii) Intel Foundry Corporationが上場企業となり、インテルが最大株主でない状況で、第三者がIntel Foundry Corporationの持分または議決権の35%以上を取得した場合。

(iv) インテルがIntel Foundry Corporationの支配権を失う場合、または、

(v)  他の受領者について、インテルがその受領者の持分または議決権の50.1%以上を保有しなくなる、あるいは支配権を失う場合。

このような契約ではあまり見たくない内容ですが、実際に含まれています。

そして、これらの「経営権の変更」が発生した場合、米国商務省が注目するポイントは以下の通りです。

(原文)Any “change of control” transaction must satisfy certain requirements as to the nature and financial resources of the counterparty, the impact to the creditworthiness of Intel and Intel Foundry Corporation, continued wafer purchases by Intel from Intel Foundry Corporation, and continuation of the Projects, the business strategy of manufacturing leading-edge semiconductors in the U.S. and the investment in U.S. semiconductor research and development, or would require DOC consent.

(日本語訳)「経営権の変更」に関する取引は、以下の条件を満たす必要があります。取引相手の性質や財務基盤、インテルおよびインテル・ファウンドリー・コーポレーションの信用力への影響、インテルがインテル・ファウンドリー・コーポレーションからウェハーを継続的に調達すること、プロジェクトの継続、米国内での最先端半導体製造という事業戦略の維持、そして米国内での半導体研究開発への投資の継続です。これらの条件を満たさない場合、米国商務省の承認が必要となります。

これで、インテルとインテル・ファウンドリーが分離された場合、両者間のウェハー購入などに米国商務省が関与する可能性が生じました。

これでは、製品部門が自社のニーズに最適なプロセス技術を選択する自主性が大きく制約されることになります。

そして最後の段落では、インテルが破産した場合にどうなるのかについても検討されています。

(原文)In the event of certain significant breaches under the Direct Funding Agreement by Intel and the other Recipient Parties (e.g., CHIPS Act program requirements, change of control restrictions, bankruptcy of Intel, etc.), the DOC may have termination rights and other remedies. Such rights and remedies vary depending on the nature of such breach, but can include: (i) requiring the repayment of some or all of the Awards; (ii) imposing additional conditions on the Awards; (iii) suspending or terminating all or any portion of the Awards; (iv) withholding or suspending a disbursement of the Awards; (v) terminating the Direct Funding Agreement and the Awards; and (vi) taking other actions available to the DOC.

(日本語訳)

インテルやその他の受給者企業が直接助成契約において重大な違反をした場合(例:CHIPS法プログラムの要件違反、経営権変更の制限違反、インテルの倒産など)、米国商務省(DOC)は契約を終了する権利やその他の救済措置を取ることができます。これらの措置は違反の内容に応じて異なりますが、以下が含まれる可能性があります:

(i) 助成金の一部または全額の返還を要求する

(ii) 助成金に追加条件を課す

(iii) 助成金の一部または全額の支給を一時停止または終了する

(iv) 助成金の支払いを保留または停止する

(v) 直接助成契約および助成金を終了する

(vi) DOCが利用可能なその他の措置を講じる

これらの対応は、違反の内容や状況に応じて実施される可能性があります。

インテル(INTC)に対する結論

プレスリリースの明るい内容とは対照的に、インテル(INTC)のCHIPS法助成金に関する8-Kの提出内容は、同社が置かれている厳しい立場を浮き彫りにしています。

この助成金に「ただで手に入る」ような甘い話はなく、インテルは資金を受け取るために、常にその約束を守り続ける必要があります。

さらに、この助成金に伴う制約には2つの大きな問題があります。

第一に、インテルはもはや自社の将来を完全に掌握することができなくなっています。

例えば、外部委託と内製化の戦略についても、米国商務省(DOC)が関与する可能性があるのです。

第二に、インテルへの潜在的な投資家にとって、DOCの監督下での運営を余儀なくされることは、喜んで受け入れられるものではないでしょう。

現状のインテルは、株主ではなく米国商務省の利益を優先して動いているかのように見えます。

さて、今後どのような展開になるのか、注目していきましょう。

また、直近では、元インテル取締役4名がインテルの経営再建策として同社を2つに分割することを提案しており、この件に関しても下記のレポートで詳細に解説しております。

そして、インテルは足元で技術開発責任者アン・ケリハー氏の突然の後任を発表しており、この決定が同社に与え得る影響に関しても、下記のレポートで詳細に解説しております。

一方で、直近では、インテルの元CEOクレイグ・バレット氏が現CEOのパット・ゲルシンガー氏への支持を表明しております。

そして、バレット氏のインテルに対する見解に関しましても、下記のレポートで詳しく解説しております。

その他のインテル(INTC)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、インテルのページにアクセスしていただければと思います

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