【Part 4】インテル(INTC)の取締役会の失態:Glass LewisやISS等の議決権行使助言会社が取締役会に与える影響とは?
ダグラス・ オローリン- 本稿は、注目の米国半導体企業であるインテル(INTC)のパット・ゲルシンガーCEOの退任と取締役会の詳細と役割、並びに、同社の将来性を詳細に分析した長編レポートとなります。
- 本稿は「Part 1:ゲルシンガーCEOの退任の背景」「Part 2:取締役会のメンバーの詳細」「Part 3:取締役会に対する私の見解」「Part 4:取締役会の失態」「Part 5:インテルの将来性」の5つの章で構成されています。
- そして、本稿【Part 4】では、インテルの取締役会の失態に関して詳しく解説していきます。
- インテルの取締役会は半導体分野の知識や経験が不足しており、適切な経営判断ができていないことが問題視されています。特に、ガバナンスの欠如により「自動操縦」のような運営が続いています。
- 投資家の多くは議決権助言企業の推奨に従い、経営改革の介入がほとんど行われていません。その結果、不適格な取締役が選出され、インテルの経営危機が深刻化しています。
- ゲルシンガーCEOの壮大な計画は現実離れしているとの批判があるものの、同氏にはインテルを立て直す意志がありました。一方で、取締役会の遅すぎる改革が進行中であり、効果は限定的であるように見えます。
※「【Part 3】インテル(INTC)の取締役会は改革が必要?取締役会の今後の動向を徹底分析!」の続き
前章ではインテル(INTC)の取締役会に対する私の見解を詳しく解説しております。
本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。
インテル(INTC)の取締役会の失態
インテル(INTC)の取締役会には適切なメンバーがいません。
上記の理事たちの経歴とゲルシンガーCEOの経歴を比べてみましょう。
ゲルシンガーCEOは、インテルが最盛期だった頃にCTO(最高技術責任者)を務め、会社を救ったi486(第4世代のx86アーキテクチャを採用したマイクロプロセッサ)の設計を主導した人物です。
彼は、歴史上最も優れた電気工学者の一人と言っても過言ではないでしょう。
一方で、現在の取締役会は半導体に関する知識や経験をほとんど持たない人たちで構成されており、中にはボーイング(BA)やオートデスク(ADSK)、ペイパル(PYPL)といった企業で経営上の問題を抱えてきた人物もいます。
現在の取締役会の会長は、2009年以来この混乱のすべてに関与してきました。
2009年にゲルシンガー氏ではなくブライアン・クルザニッチ氏を選ぶことに反対票を投じることもできたはずです。
しかし、ここで注目すべきなのは、取締役会は会社を統治する仕組みであるにもかかわらず、決して完璧ではないということです。
取締役会は、会社を毎年のように大きな失敗へと導きながらも、ほぼ全会一致で「賛成」の決議を続けています。
一体なぜそんなことが起きているのでしょうか?
取締役会の問題をさらに深掘りすると、投資家の責任に行き着きます。
多くの大手投資家は、投資家向けに議決権助言を行う代表的な企業であるGlass Lewis(GL)やISSの推奨に従って投票しています。
この2つの企業は、基本的に取締役会の提案を支持することが多く、よほどの大きな変化がない限り、そのスタンスを変えることはほとんどありません。
特にパッシブ投資家の場合、これら2つの助言企業の推奨に従って投票する傾向が強いのです。
インテルの取締役会は、長い間「自動操縦」のような状態で運営されてきました。
本来であれば、もっと早い段階でアクティビスト投資家が介入していてもおかしくありません。
しかし、問題なのは(実際にアクティビスト投資家と話した経験からも)、インテルの立て直しは非常に難しく、そのために動いても収益を上げられる可能性が低いという点です。
リスクとリターンのバランスが悪く、同社を立て直すことは、株式の大きな利益を得る「ホームラン」ではなく、せいぜい現状維持のために水面に浮かび続けるようなものにすぎないのです。
皮肉なことに、多くの投資家はインテルの現状を見て、「これはどう考えても手に負えない」と正しく判断しています。
それが問題の核心です。
なぜ、わざわざ困難な立て直しに取り組む必要があるのでしょうか?
他に何千もの企業の株式がある中で、そちらに乗り換えるほうがはるかに簡単です。
その結果、インテルの株を保有し続けているのは主にパッシブ投資家であり、彼らはGlass LewisやISSの推奨に従って投票する傾向があります。
下記の図からも分かる通り、上位3位の株主はすべてパッシブ投資家(インデックスファンド等)で、全体の30%の投票権を握っています。
さらに株主リストを見ても、積極的に経営に関与している投資家はほとんどいないことが明白です。
(出所:Bloomberg)
たとえば、Primecap、UBS、Capital Groupもパッシブ投資家と見なされる可能性があります。
さらにCharles Schwab、Invesco、Van Eckを加えると、合計で約33%に達し、この少数派を覆すのは極めて困難な状況です。
株主という船長は眠りについており、インテルのような「問題だらけの地域」を避けるべきだと知る賢い投資家たちは、すでに関与を避けています。
一方で、取締役会は毎年投票の推奨を行い、Glass LewisやISSはその提案に従ってきました。
その結果、現在のようなまったく不適格な理事たちが揃う状況が生まれました。
これこそ、取締役会がどのようにして失敗するかを示す典型的な例です。
誰も「自動操縦」を止めようとせず、かつてアメリカで最も偉大だった半導体企業は今や崩壊寸前です。
そして、インテルを立て直すために必要だった技術系リーダーを解任してしまいました。
確かに、ゲルシンガー氏の楽観的すぎる姿勢には問題があり、時には現実離れしているように見えることもありました。
彼は目の前の問題を十分に認識しているようには見えず、かつてのインテルの栄光を夢見ているかのようでした。
しかし、彼には会社を立て直そうという強い意志があり、それを持つ人は多くありません。
一方で、今日公開された議事録では「適正規模化と活用率の調整」について言及されています。
これは、取締役会がゲルシンガー氏のIFS(インテル・ファウンドリー・サービス)に対する過度に楽観的な壮大な計画を好まなかったことを示唆しています。
取締役会は、製品が崩壊しかけていると見ており、その間CEOは赤字を出している事業に力を注いでいました。
でも、それが問題なんです。
収益を上げている事業部分はすでにコモディティ化していて、これからさらに悪化するでしょう。
もともと独占的な地位にあった企業が、コモディティ化した上に今後はさらに厳しい状況になる、そう言ってもいいでしょう。
未来に目を向けるべきなのは間違いありませんし、IFS(インテルファウンドリーサービス)は、多くの製品グループの一つとして埋もれるのではなく、TSMC(TSM)のような存在になれたはずです。
ずっと目指していたのはIFSでしたが、今やプランBに移行する時です。
でも正直なところ、プランBにはあまり魅力を感じません。
状況はどんどん変わっています。
つい最近、元ASML(ASML)のCEOと現マイクロチップ(MCHP)の暫定CEOが取締役に加わりました。
これは正しい方向への素晴らしい一歩です。
実際には、手遅れかもしれませんが、それでも進むべき方向性は間違っていないように見えます。
そして、最終章である次章では、インテルの新体制下で想定されるシナリオの詳細な分析を通じて、同社の将来性を詳しく解説していきます。
※続きは「【Part 5】インテル(INTC)の将来性は明るい?新体制下で想定されるシナリオを徹底解説!」をご覧ください。
さらに、インベストリンゴの半導体セクター担当のアナリストであるウィリアム・ キーティング氏も、元インテルの取締役による提言に関する下記の詳細な分析レポートを執筆しております。
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アナリスト紹介:ダグラス・ オローリン / CFA
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