02/02/2025

【半導体:決算】インテル(INTC)業績悪化理由:Falcon Shores開発中止やClearwater Forest延期の影響とは?

a close up of a computer chip with the intel core logo on itウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、注目の米国半導体銘柄であるインテル(INTC:Intel)の最新の2024年度第4四半期決算分析を通じて、Falcon Shoresの開発中止やClearwater Forestの延期の影響を含め、同社の業績悪化理由に関して詳しく解説していきます。
  • インテルはEUVノードへの移行を進めており、2024年のEUVウェーハ売上比率は5%超に増加。しかし、TSMCの3nm移行と比較すると進捗は遅く、十分な歩留まりを確保できていないことが課題となっています。
  • インテルの2025年の総設備投資は約200億ドルとなる見込みで、その半分は政府助成金やパートナー出資によるものであり、過去の過剰投資により、今後は既存資産の活用を重視し、支出の抑制を図る方針を取っています。
  • インテルはFalcon Shoresの市場投入を中止し、Clearwater Forestの発売を2026年に延期。これにより加速コンピューティング市場での競争力が低下し、技術リーダーシップの回復がより困難になっています。

※「【半導体:決算】インテル(INTC)の業績見通しとは?2025年第1四半期の見通しは前年同期比、並びに、前期比で減少もその真相に迫る!」の続き

前章では、注目の米国半導体銘柄であるインテル(INTC:Intel)の2025年1月30日発表の最新の2024年度第4四半期決算、並びに、2025年度第1四半期見通しの詳細な分析を通じて、同社の業績見通しに関して詳しく解説しております。

本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。

インテル(INTC:Intel)のEUV移行について

インテル(INTC:Intel)の最新の2024年度第4四半期決算説明会では、EUV(極端紫外線リソグラフィ) に関する話題が多く取り上げられました。主な内容は、インテルが従来のプロセスからEUVノードへのウェーハ移行を進めている点です。

事前に用意された発言の中で、デビッド・ジンズナーCFOは次のデータを共有しました。

(原文)EUV wafer revenue grew from 1% of total revenue in 2023 to greater than 5% in 2024.

(日本語訳)EUVウェーハの売上は、2023年の総売上の1%から、2024年には5%以上に増加しました。

ご存じのとおり、Intel 4 は同社にとって初めてのEUVノードでした。このプロセスは、インテルによると2023年9月下旬に本格的な量産が開始されたと報告されています。その詳細は以下のとおりです。

(原文)On Sept. 29, 2023, Intel announced the start of high-volume manufacturing using Intel 4 technology in Leixlip, Ireland. Made possible by the extreme ultraviolet (EUV) technology, the use of Intel 4 will help Intel deliver future products, including the upcoming Intel® Core™ Ultra processors (code-named Meteor Lake) and future-generation Intel® Xeon® processors.

(日本語訳)2023年9月29日、インテルはアイルランド・レイクスリップ工場において、Intel 4テクノロジーを用いた本格的な量産開始を発表しました。EUV技術を活用したIntel 4の導入により、インテルは次世代製品を提供していく予定です。その中には、開発コード名「Meteor Lake」とされる次世代Intel® Core™ Ultraプロセッサーや、今後のIntel® Xeon®プロセッサーが含まれます。

2024年のEUVウェーハが 5倍に増えたというのは一見すると目覚ましい成長に思えますが、実際にはそれほど驚くべき数字ではありません。これをTSMC(TSM)の 3nmプロセスへの移行と比較すると、その違いがより明確になります。

2023年度第4四半期のテクノロジー別売上高

(出所:TSMCの2023年度第4四半期決算資料)

そのとおりです。TSMCはわずか2四半期で3nmプロセスの売上比率を0%から15%にまで引き上げました。一方、インテルは1年かけても4nmプロセスの売上比率をわずか5% にしか伸ばせていません。

本来、インテルはできるだけ早く7nmプロセス(実質的には失敗した10nmプロセスの名称変更)を脱却し、4nmプロセスへ移行する強い動機があったはずです。もしそれが可能だったなら、間違いなくそうしていたでしょう。しかし、現実にはそうできませんでした。なぜでしょうか?

理由はただ一つ、十分な歩留まり(収益性のある生産効率)を確保できなかったからです。その結果、インテルは過去4年間、新しいプロセスを本格的な量産に移行できていないという厳しい現実に直面しています。

そして、今もなお問題を先送りにし、「18Aではすべてが劇的に改善する」と信じさせようとしているように見えます。しかし、インテルがIntel 4 や Intel 3についてほとんど言及しないことに注目してください。本来これらはインテルの最新鋭のフラッグシップノードであるはずですが、ほぼ話題にすら上がりません。これは、18Aの成功に対しても不安要素が多い ことを示唆しているのではないでしょうか。

2025年のEUVウェーハへの移行についての質問に対し、デビッド・ジンズナーCFOは次のように答えました。

(原文)Probably, it'd be tough for me to hazard a guess on exactly how we'll exit the year in terms of our percentage of EUV. It's definitely going to go up. You know Granite is on Intel 3, Meteor Lake is on Intel 3 or 4. Panther Lake is on 18A this year. So, we'll see a pretty meaningful jump in the percentage of wafers that will be EUV as we exit '25.

(日本語訳)正確にどの程度のEUV比率で2025年を終えることになるのかを予測するのは難しいですが、確実に上昇することは間違いありません。Granite は Intel 3、Meteor Lake は Intel 3、または、Intel 4で製造されています。そして、Panther Lake は今年18Aで生産されます。そのため、2025年末にはEUVを使用するウェーハの割合が大幅に増加することになるでしょう。

今回の回答も、「割合は増加する」 という点以外には、確固たる確信が感じられるものではありません。

インテル(INTC:Intel)の2025年の設備投資(CapEx)について

インテル(INTC:Intel)のデビッド・ジンズナーCFOは、2025年の設備投資計画について次のように述べました。

(原文)We anticipate that our 2025 gross capital investments will be approximately $20 billion at the low end of our previous guide of $20 billion to $23 billion reflecting further capacity adjustments to Ohio and Ireland, as well as better utilization of what we call our construction in progress.

(日本語訳)2025年の総設備投資は約200億ドルとなる見込みで、これは以前のガイダンスで示した200億〜230億ドルの下限にあたります。これは、オハイオ州やアイルランドでのさらなる生産能力調整、および『建設中の設備(construction in progress)』のより効率的な活用を反映したものです。

インテルが引き続きTSMCへの外部委託に依存していることを考えれば、設備投資額がガイダンスの下限にとどまるのは特に驚くことではありません。

また、この200億ドルのうち105億ドルは政府からの助成金や「パートナー」の出資によるもの となります。

(原文)We expect 2025 net capex of $8 billion to $11 billion, with roughly half of the offsets expected to come from government incentives and tax credits and half from partner contributions.

(日本語訳)2025年の純設備投資額は80億〜110億ドルを見込んでおり、そのうちおよそ半分は政府の助成金や税額控除、もう半分はパートナーからの出資によって補填される予定です。

この文脈での「パートナー」とは、インテルが締結した2つの SCIP(半導体共同投資プログラム) に関係する企業を指します。1つ目は Brookfield との契約で、アリゾナ州の新しい工場建設に関するもの、2つ目はApolloとの契約で、アイルランドのFab34に関するものです。

しかし、これらの契約はインテルにとって新たな問題となる可能性があります。最初の契約が結ばれたのは2022年8月ですが、当時の状況は今とは大きく異なり、インテルがプロセス技術のリーダーシップを取り戻す道筋はまだ十分に現実的でした。

今、もし BrookfieldやApolloに対して同じ契約を持ちかけた場合、果たして彼らは応じるでしょうか?私は非常に疑わしいと思います。

冷静に考えてみましょう。もしインテルの計画通りに進み、高い歩留まりでプロセス技術のリーダーシップを確立できた場合、将来の利益はこれらのパートナーと分け合う必要があります。一方で、計画通りに進まなかった場合、契約には何らかの 違約条項 が含まれている可能性が高く、インテルにとって状況をさらに悪化させるリスクがあります。

設備投資(CapEx)戦略について、ジンズナー氏は、過去数年間にわたってインテルが設備投資を過剰に行ってきたため、2025年の支出を削減する余地がある と説明しました。

(原文)Specifically, we invested ahead of demand over the past few years, and these capital investments will enable us to meet expected demand at a lower level of spending as we drive to more efficiently deploy our capital.

(日本語訳)具体的には、過去数年間にわたり、需要に先行して投資を行ってきました。これらの設備投資により、今後はより効率的に資本を活用しながら、低水準の支出で想定される需要に対応できる ようになります。

インテルがどれほど過剰投資を行ったのかについてですが、ジンズナー氏によると、その規模は相当大きい ようです。

(原文)So, our philosophy has been to invest kind of ahead of what was required, and we built up a pretty significant balance in assets under construction, I mean, to the tune of greater than $50 billion.

(日本語訳)私たちの方針としては、必要とされる水準を超えて先行投資を行う というものでした。その結果、建設中の資産の残高が500億ドル以上 という相当な規模にまで膨らみました。

(原文)So, we actually have a lot of capital on the balance sheet that really hasn't been deployed. And so, what we pushed the teams to do in an effort to drive better ROA and return on invested capital is to have them digest as much of that as possible and limit the amount of purchases that we make externally

(日本語訳)つまり、まだ実際に活用されていない資本がバランスシート上に多く残っている 状態です。そのため、ROA(総資産利益率)や投資資本利益率の向上を図るため、チームには可能な限り既存の資産を活用し、新たな外部からの購入を抑制するよう指示しました。

これは非常に衝撃的な事実です。私は以前から、インテルの工場の稼働率が極めて低いのではないかと推測していました。その理由は、インテルが全ウェーハ生産量の約30%をTSMCに外部委託している一方で、新工場への投資を続けているからです。そして今回、その証拠が明らかになりました。

さらに、ジンズナー氏はCapEx(設備投資)に関して、もう一つの戦略を用意していることを示唆し、次のように述べています。

(原文)We're not doing any funky financing around this, but I would be in the spirit of transparency, say that capex is two things, right? It's what you place in terms of orders on equipment, and it's when you give them the cash.

(日本語訳)私たちは、特別な財務手法を使っているわけではありません。ただ、透明性を重視する立場から申し上げると、設備投資(CapEx)には2つの側面があります。それは、設備に対する発注と、それに対して実際に支払いを行うタイミングです。

彼は一体、何を意図しているのでしょうか?

(原文)And so, for sure, we are working the payment terms of suppliers to improve our -- to improve our capex, lower our capex, that is pushing spend out even as we're getting the assets in.

(日本語訳)実際、私たちはサプライヤーとの支払い条件を調整することで、CapExの改善、つまり支出の削減を進めています。資産を受け取りながらも、支払いを後ろ倒しにするという形です。

つまり、インテルはサプライヤーとの支払い条件を再交渉し、設備投資の支出を遅らせることでキャッシュフローを調整しようとしているようです。

しかし、これは簡単なことではありません。半導体製造装置(WFE)サプライヤーがインテルのためだけに支払い条件を大幅に変更するとは考えにくいでしょう。うまくいくことを祈るばかりです。

インテル(INTC:Intel)のFalcon Shoresの開発中止、矛盾、遅延

インテル(INTC:Intel)のMJ氏は事前に準備発言の中で、Falcon Shoresの開発中止を発表しました。

(原文)Many of you heard me temper expectations on Falcon Shores last month. Based on industry feedback, we plan to leverage Falcon Shores as an internal test chip only without bringing it to market. This will support our efforts to develop a system-level solution at rack scale with Jaguar Shores to address the AI data center.

(日本語訳)先月、Falcon Shoresに対する期待を抑えるようお伝えしましたが、多くの方がその話を聞いているかと思います。業界からのフィードバックを踏まえ、Falcon Shoresは市場に投入せず、社内テストチップとしてのみ活用する計画です。これにより、Jaguar Shoresとともに、ラックスケールでのシステムレベルのソリューションを開発し、AIデータセンター向けのニーズに対応していきます。

この件に関する質問を受けた際、彼女はこの決定についてさらに詳しく説明しました。

(原文)But one of the things that we've learned from Gaudi is it's not enough to just deliver the silicon. We need to be able to deliver a complete rack scale solution, and that's what we're going to be able to do with with Jaguar Shores. Falcon Shores will help us in that process of working on the system, networking memory, all the component functions of that, but what customers really want is that full-scale rack solution. And so, we're able to get to that with Jaguar Shores.

(日本語訳)Gaudi から学んだことの一つは、シリコンを提供するだけでは不十分だということです。私たちは、ラックスケールの完全なソリューションを提供できる必要があります。そして、それを実現するのが Jaguar Shoresです。Falcon Shoresは、システム、ネットワーク、メモリ、その他の各コンポーネント機能の開発を進める上で役立ちますが、顧客が本当に求めているのは フルスケールのラックソリューションです。そのため、私たちは Jaguar Shoresによって、それを提供できるようになります。

はっきり言って、これは非常に悪いニュース です。インテルは加速コンピューティング市場で足場を築くことが急務でした。Gaudiは完全な失敗であり、その問題を解決するはずだったFalcon Shoresも消滅しました。

さらに悪いニュースがあります。それは、Sierra Forestの後継となるClearwater Forestについてです。このサーバー向け製品は2025年にリリース予定で、Intel 18Aを採用する最初のサーバープロセッサーになるはずでした。

(出所:インテルの2023年3月の投資家向けプレゼンテーション資料)

しかし、MJ 氏の発言によって、このローンチが2026年に延期されたことが明らかになりました。

(原文)This year is all about improving Xeon's competitive position as we fight harder to close the gap to competition. The ramp of Granite Rapids has been a good first step. We are also making good progress on Clearwater Forest, our first Intel 18A server product that we plan to launch in the first half of next year.

(日本語訳)今年は、Xeon の競争力を向上させることに注力し、競合との差を縮めるために全力を尽くす年になります。Granite Rapids の立ち上げは、その第一歩として順調に進んでいます。また、Intel 18A を採用する初のサーバープロセッサーである Clearwater Forest についても、順調に進捗しており、来年の前半に発売する予定です。

この話題はQ&Aセッションでも取り上げられ、MJ氏からさらに詳しい説明がありました。

(原文)So, you also asked me about Clearwater Forest. So, I really look at the data center market in two buckets. We have our P-core products, which you know is Granite Rapids and then we have our E-core products, which equates to Clearwater Forest.

(日本語訳)Clearwater Forest についてもご質問をいただきましたので、お答えします。私はデータセンター市場を大きく2つのカテゴリに分けて考えています。1つは P-core(パフォーマンスコア)製品で、これはご存じのとおり Granite Rapids です。そしてもう1つが E-core(効率重視のコア)製品であり、これに該当するのが Clearwater Forest です。

(原文)And what we've seen is that's more of a niche market, and we haven't seen volume materialize there as fast as we expected.

(日本語訳)この市場はよりニッチな領域であり、当初の想定ほど早く大規模な需要が生まれていない というのが現状です。

(原文)But as we look at Clearwater Forest, we expect that to come to market in the first half of 2026. And 18A is doing just fine on a performance and yield for Granite Rapids, but it does have some complicated packaging expectations that move it to 2026. But we expect that to be a good product and continue to close the gap as well.

(日本語訳)Clearwater Forestについては、2026年前半に市場投入する予定です。18Aは Granite Rapidsにおいて性能や歩留まりの面では順調に進んでいます が、パッケージングの複雑な要件があるため、リリースが2026年にずれ込むことになりました。それでも、優れた製品になると考えており、競争力の差をさらに縮めていくことができると期待しています。

よりニッチな市場?一体どういう意味なのでしょうか?数週間前に言っていた「透明性」はどこへ行ったのでしょうか?いずれにせよ、「複雑なパッケージング要件」が理由で、Clearwater Forestの発売は2026年に延期されました。

また、別の点にも注目すべきです。先ほどの発言の中で次のような一文がありました。

(原文)And 18A is doing just fine on a performance and yield for Granite Rapids,

(日本語訳)18Aは Granite Rapidsにおいて、性能や歩留まりの面で問題なく進んでいます。

しかし、Granite RapidsはIntel 3を採用している製品であり、18Aではありません。

(出所:インテルの2023年3月の投資家向けプレゼンテーション資料)

インテル(INTC:Intel)の最新の決算に対するまとめ

市場がインテル(INTC:Intel)の決算をこれほど好意的に受け止めたのは、非常に驚くべきことでした。確かに予想を上回る決算となりましたが、それ以上の大きな成果があったわけではありません。もしかすると、市場の期待値が極端に低かったのかもしれません。

N4/N3の立ち上げは異常なまでに遅れ、Falcon Shoresは開発中止、Clearwater Forestは延期。 インテルにとって、蛇年の幕開けは決して良いスタートとは言えません。

この先、今年はどんなサプライズが待っているのでしょうか?見守ることにしましょう…。

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