04/04/2025

インテル(INTC)業績不振の理由:新CEOは経営陣の刷新という大きな課題に直面?

a close up of a computer chip with the intel core logo on itウィリアム・ キーティングウィリアム・ キーティング
  • 本稿では、「インテル(INTC)の業績不振の理由とは?」という疑問に答えるべく、最新の委任状説明書(プロキシステートメント)の分析を通じて、同社の将来性を詳しく解説していきます。
  • インテルは年次株主総会に向けた委任状説明書を提出し、その中で取締役会の構成変更や経営課題への対応など、過去1年の重要な動きが明らかになりました。
  • 取締役会は、AI PCや先端プロセス技術への注力、コスト削減、配当一時停止などを通じて業績改善を図っており、ファウンドリー事業の完全分離は現時点で見送られているようです。
  • 2024年の業績評価では、経営陣のスコアは低調で、特に財務面の目標未達が目立ちましたが、高額のボーナスが支給されたことに対しては違和感の残る結果となっています。

インテル(INTC:Intel)の委任状説明書(プロキシステートメント)

2025年3月27日、インテル(INTC)は2025年5月6日に開催予定の年次株主総会に関する委任状説明書(プロキシステートメント)を提出しました。詳細はこちら。文書の大部分はいつものように退屈でお決まりの内容ですが、その中にいくつか注目すべき“宝石”のような情報が隠されており、インテルがこの1年で経験してきた激動の歩みを垣間見ることができます。

特に注目すべきは、インテルのエグゼクティブ・リーダーシップ・チーム(ELT)が2024年の業績をどのように評価したかという点です。そして、インテル・ファウンドリーの完全な分離は、現時点では見送られている可能性があることを示唆する内容もあります。さらに、インテルの物議を醸してきた取締役会における最初の変更点も確認することができます。

それでは、詳しく見ていきましょう!


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インテル(INTC:Intel)の取締役会会長からの書簡

インテル(INTC)の取締役会会長であるフランク・イヤリー氏は、前向きなトーンで書簡を始めています。

(出所:インテルのプロキシステートメント)

「インテルは、今まさに歴史の転換点に立っています。私たちがこの偉大な企業を再構築しようと決意してから、すでに数年が経過しました。世界中の従業員とパートナーの皆様のたゆまぬ努力のおかげで、ここまで大きな前進を遂げることができました。私たちは、AI搭載PCの分野で市場をリードする地位を築き上げ、Xeon製品群を刷新して中核事業の強化を図ってまいりました。また、プロセス技術の競争力も高めており、本年後半にはIntel 18Aを採用した初の製品を投入する予定です。」

それから、気まずい部分に差しかかります。

「これらは重要な前進である一方で、私たちは否定できない課題にも直面してきました。率直に申し上げて、当社の業績はインテルが本来持つ可能性を十分に反映しているとは言えません。そのため、取締役会および経営陣は、業績の改善、お客様への価値提供、そして株主価値の創出に向けて、引き続き迅速かつ真剣に取り組んでおります。」

新しいCEOや、以前の暫定共同CEOたちへの賛辞を述べた後、イヤリー氏は書簡を次のように締めくくっています。

「リップ・ブー氏が新たに加わったことで、私たちはインテルの数多くの強みを活かしながら、収益性の向上と段階的な投資による追加リターンの創出を目指して、事業の現状を率直に見つめ直す取り組みを継続しています。私たちは、インテルの将来に対する信念をいささかも揺らぐことなく持ち続けています。ただし、即効性のある解決策は存在しません。私たちには、継続的かつ安定した実行力と成果を、長期にわたって示していくことが求められています。」

つまり、事業の見直しは現在も進行中であり、即座に解決できるような手段はないということです。まあ、これは予想通りと言えるでしょう。

インテル(INTC:Intel)の取締役会の変更について

インテル(INTC)の取締役会は、その規模(大きすぎる)と構成(学術的すぎる)という点で、以前から議論の的となってきました。この課題に対する第一歩として、昨年12月5日に2名の新たな取締役が任命されました。詳細はこちらをご覧ください。

「インテル、半導体業界の重鎮エリック・ムリス氏とスティーブ・サンギ氏を取締役に任命」

(出所:インテルのウェブサイト)

「カリフォルニア州サンタクララ、2024年12月5日 — インテルは本日、ASMLホールディングN.V.(ASML)の元社長・最高経営責任者(CEO)・会長であるエリック・ムーリス氏、およびマイクロチップ・テクノロジー社(MCHP)の会長兼暫定CEOであるスティーブ・サンギ氏が、即日付けでインテルの取締役会に加わることを発表しました。両氏は、社外取締役として就任します。」

最新の委任状説明書によると、両氏はすでにインテルに対して影響を与え始めているとのことです。

「エリック氏とスティーブ氏は、半導体業界において高く評価されている優れたリーダーであり、深い技術的専門知識、豊富な経営経験、そして卓越した業務遂行力を兼ね備えていることから、インテルの取締役会にとって極めて有益な人材です。そして、彼らはすでに即座に大きな影響をもたらしています。」

この対応によって半導体業界での経験の偏りは是正されましたが、その一方で、取締役の総数は13名となり、学術的な経歴を持つ取締役が過剰であるという課題が残されました。この点については、今後開催される年次株主総会で対処される予定です。委任状説明書によれば、現在の取締役のうち3名が再任を求めない方針を示しています。

「オマール・イシュラク氏、ツー・ジェイ・キング・リュー氏、リサ・ラヴィッツォ=モウリー氏の3名は、取締役会を退任し、年次株主総会での再任には立候補されません。オマール氏、ツー・ジェイ氏、リサ氏はいずれも優れたリーダーであり、長年にわたって取締役として深い知見と豊富な経験を取締役会にもたらしてくださいました。取締役会を代表して、これまでのご尽力とインテルへの多大なる貢献に心より感謝申し上げます。」

インテル(INTC:Intel)のゲルシンガー氏は「辞任」か「退任」か?

すでに過去のことではありますが、インテル(INTC)の取締役会が彼の退任時に述べた内容と、今回の委任状説明書に記載されている内容を比較すると、興味深い違いがあります。退任時の発表では、「退任」であるとはっきりと伝えられていました。詳細はこちらです。

「インテル、パット・ゲルシンガーCEOの退任を発表」

(日本語訳)デビッド・ジンスナー氏とミシェル・ジョンストン・ホルツハウス氏が暫定共同CEOに就任。ホルツハウス氏は新設された「インテル・プロダクツCEO」にも任命。フランク・イエーリー氏が暫定エグゼクティブ・チェアに就任。

(出所:インテルのウェブサイト)

しかし、今回の委任状説明書によると、彼は「退任」ではなく、「辞任」したと記載されています。

「2024年12月1日、パトリック・P・ゲルシンガー氏が当社の最高経営責任者(CEO)を辞任しました。」

このニュアンスについて深掘りするつもりはありませんが、インテルの取締役会が一貫した説明をできていないのは正直なところ非常に煩わしく感じます。「辞任」と「退任」では、意味合いが大きく異なります。

インテル(INTC:Intel)のゲルシンガー氏の「辞任」パッケージ

では、ゲルシンガー氏の「辞任」に関するパッケージの内容は具体的にどういったものだったのでしょうか?

「取締役会は、ゲルシンガー氏の退社に関して同氏と協議を行い、その結果、同氏に対して一定の退職金を支給することを決定しました。この退職金は、同氏の雇用が会社都合で終了した場合にオファーレターに基づき支給される予定であった給付内容と整合するものであり、加えて、2024年の業績に基づいて算出された比例配分のボーナスも支給されました。これは、同氏が2024年の業績評価期間のうち11か月間という長期間にわたりCEOとして勤務していたこと、そして長年にわたるインテルへの貢献を考慮したものです。」

つまり、ゲルシンガー氏は最終的に、会社から正当な理由なく解雇された場合に受け取るはずだった金額とまったく同じ額を受け取ったことになります。これだけでも、彼の退任の実情がよくわかるのではないでしょうか。では、その具体的な金額をご紹介します。

(出所:インテルのプロキシステートメント)

彼が受け取った780万ドルという金額は非常に大きな額ではありますが、彼が合意された業績目標を達成していれば得られていたはずの報酬と比べれば、もちろん微々たるものです。

インテル(INTC:Intel)の指名執行役員(Named Executive Officers)の給与について

インテルの上級経営陣がどれほどの給与を得ているのか気になりますか?

(出所:インテルのプロキシステートメント)

興味深い点として、リップ・ブー・タン氏の基本給は100万ドルであり、最近インテル・プロダクツのCEOに昇格したMJ氏も同様に100万ドルの基本給となっています。

インテル(INTC:Intel)の取締役会の注力領域

委任状説明書によると、2024年における取締役会の注力分野と主な対応事項としては、以下のような点が挙げられています。

「AI PCという新たに成長しつつある分野を含む主要市場において、製品競争力を取り戻すこと。これには、従来のデータセンター市場や、アクセラレーター向けに進化するデータセンター市場も含まれます。」

「プロセス技術における競争力を再獲得すること。具体的には、当社初となるEUVリソグラフィーによる量産プロセスノード「Intel 4」と「Intel 3」への移行、ならびに次世代の先端プロセス技術である「Intel 18A」の開発を指します。このIntel 18Aでは、ゲート・オール・アラウンド型トランジスタやバックサイド電源供給の商用量産実装が初めて行われます。」

「また、これまで計画していた製造拡張プロジェクトについては、需要の見直しと「Shell Ahead(先行インフラ整備)」の状況を再評価した結果、最近の財務実績を踏まえて資本支出の抑制を図るため、規模を縮小することとしました。」

「インテル本体の従業員数を約15%削減するというコスト削減計画の実施。」

「事業戦略の遂行と長期的な価値創出に必要な重要投資に注力するため、配当の一時停止。」

「モービルアイ(MBLY)およびAlteraに関して、より高い事業の自立性と分離性を確保し、他の戦略的優先事項の推進に必要な追加資金を調達するための持分売却の可能性。」

「米国政府の支援を受ける形で、研究開発および製造設備への投資を目的とした「CHIPS法」に基づく契約の締結と実行。」

ここに記載されている製造拡張計画の縮小やコスト削減に関する言及は、取締役会がゲルシンガー氏の辞任の理由としてどのような点を重視していたかを明確に示していると思われます。なお、インテル・ファウンドリーの分離に関する言及は一切ありません。ゲルシンガー氏の退任後、インテルはオハイオ・キャンパスに関して非常に大規模な計画の延期を正式に発表しました。詳細はこちらをご覧ください。

「オハイオへの投資は、当社が進めている米国内での製造拡張計画の一環です。米国各地の拠点への投資を継続する中で、ファブの生産開始時期を当社の事業ニーズおよび市場全体の需要と整合させることが重要です。これは常に私たちの基本方針であり、資本を責任ある形で管理しつつ、お客様のニーズに柔軟に対応することを可能にしています。」

「この方針に基づき、オハイオに建設中の2つのファブのスケジュールを見直すこととしました。具体的には、Mod 1の建設は2030年に完了し、2030年から2031年の間に操業を開始する予定です。Mod 2については、2031年に建設を完了し、2032年に操業を開始する見込みです。」

インテル・ファウンドリーの分社化について

フランク・イヤリー氏は、冒頭の書簡の中で次のように述べています。

「私たちは現在、Intel Productsを世界トップクラスの製品企業として再構築すること、そしてインテル・ファウンドリーを世界トップクラスのファウンドリーへと成長させることに注力しています。その実現のために、私たちは最も重要な使命――お客様へのより良いサービスの提供――に集中しています。お客様が成功すれば、私たちも成功するのです。」

表面的には、この発言から、インテル・ファウンドリーを完全に分社化する差し迫った計画は存在しないように見受けられます。この見方は、2025年2月にM&A委員会が解散されたことに関する以下の情報によっても裏付けられています。

(出所:インテルのプロキシステートメント)

ご覧のとおり、この委員会の注力分野の一つとして「ファウンドリー事業の分離」が挙げられていました。さらに、イヤリー氏の冒頭の書簡の中にも、インテル・ファウンドリーに関する別の言及があります。

「私たちは現在、2つの事業の間で業務上の分離をさらに推進しています。これは過去数年間にわたり取り組んできた道であり、財務の分離を進め、インテル・ファウンドリーを独立した子会社とするための準備を開始し、さらにIntel Productsには専任のCEOを任命してきました。こうした取り組みにより、外部のファウンドリー顧客との信頼関係を構築するだけでなく、両事業の分離をより明確にすることで、資本構成の最適化や高いリターンの実現を目指す中で、さまざまな資金調達モデルを柔軟に検討できるようになります。」

上記の段落で(私が強調した)部分は、インテルがファウンドリー事業に対して今後もさまざまな資金調達モデルを検討し続けていることを示唆しています。これが将来的にどうなるかは、誰にも予測できないことです。

インテル(INTC:Intel)のエグゼクティブ・リーダーシップ・チーム(ELT)の2024年スコアカード

インテル(INTC)のエグゼクティブ・リーダーシップ・チーム(ELT)の2024年スコアカードには、3つの見方があります。まず1つ目は、年初に彼ら自身が設定した4つの主要な財務指標に対する実績です。下記の図表が示す通り、4つのうち3つはスコアがゼロであり、唯一スコアがあった「会社全体の売上高」でも、最大200%のうちわずか32%しか達成できませんでした。

(出所:インテルのプロキシステートメント)

2024年の初めに、ELTのメンバーたちはそれぞれの目標を100%達成できるとかなり自信を持っていたと考えるのが自然でしょう。たとえば粗利益率(Gross Margin)の場合、46%の達成を目指していたのに、実際の結果はそれより10ポイントも低い水準でした。また、インテル全体の営業利益については、目標値が64億ドルだったにもかかわらず、実際は3億ドルの赤字に終わりました。これは極めて大きな乖離であり、次の2つのどちらかの結論に至ると思われます。すなわち、ELTの能力不足か、もしくは年の途中で何か重大な問題が発生したということです。どちらかの結論を導き出すのは、読者である皆様にお任せします。

そして、このような厳しい財務実績の下で、次に明らかになるのは、ELTが5つの主要な業務目標に対して自らどのような評価を下したかです。その内容は、以下の図表で示されています。

(出所:インテルのプロキシステートメント)

これらの目標のうち、ポイントが付与されているのは4つのみです。その中で「財務規律の再構築」だけが22.5点中7.2点という低いスコアを記録しました。一方で、「製品リーダーシップ」という目標には35点中29.7点という非常に高いスコアが与えられていますが、実際にはインテルはデータセンター市場でシェアを失い、自社のAIアクセラレーターが完全な失敗であったことを認めざるを得ませんでした。では、全体スコアである72.3%(100点満点)は、昨年のインテルの実際の業績を正当に反映していると感じられるでしょうか?私には、そうは思えません。

さらに驚くべきことに、指名執行役員(Named Executive Officers)の評価に関しては、状況はさらに悪化しています。その詳細は、以下の図表に示されています。

(出所:インテルのプロキシステートメント)

ここでは、インテルの上級執行役員5名のうち、最も低いスコアでも200点満点中90%という結果でした。では、この評価が彼らのボーナス支給額にどのように影響したのでしょうか?

(出所:インテルのプロキシステートメント)

結論として、2024年におけるELTメンバーの最低ボーナス額は、おおよそ50万ドル(約7,500万円)となっていました。

まとめ

タン氏がインテル(INTC)の新CEOとしての役割に本格的に取り組む中で、彼の前には数多くの緊急課題が立ちはだかっています。私たちが最も関心を寄せているテーマ――つまり、18Aプロセスが今年後半に収益性のある形で本格量産に移行できるかどうか――は、実のところ彼が最も影響を及ぼしにくい分野であり、彼にとっての最大の懸念事項ではないかもしれません。

むしろ、彼が注目すべきは、インテルのVisionイベント2日目にELT(エグゼクティブ・リーダーシップ・チーム)から見えたものだと思われます。イベントの内容はあまりに印象が薄く、意味のないものであったため、私はそれについて書く気すら起きませんでした。

タン氏はまた、2024年のELTスコアカードを見て、2025年に同じ結果を繰り返さないために何が必要なのかを考えていることでしょう。彼は経営陣の刷新という大きな課題に直面しており、その第一歩はすでに取締役会(BoD)から始まっていますが、そこからさらに踏み込んで多くの変革を進めていかなければなりません。

今後の動向に注目したいと思います!


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