原子力エネルギー分野の現状と今後の見通し:AIブームによりエネルギー需要急騰!マイクロソフトもスリーマイル島を再稼働!
ダグラス・ オローリン- マイクロソフトのスリーマイル島再稼働のニュース等、AIブームによるエネルギー需要の急騰を受けて、原子力エネルギー分野に注目が集まっています。
- 本稿では、原子力エネルギーに関する入門編として、同分野の現状と今後の見通し、並びに、将来性を詳しく解説していきます。
- 原子力は、AIの増大する電力需要に応える手段として再び注目されており、特に小型モジュール炉(SMR)などの技術が期待されています。
- ウェスティングハウスの加圧水型原子炉(PWR)は、商業用原子炉の標準設計となり、多くの企業がその設計を基に供給業者として参加したが、経済的な課題も抱えています。
- 原子力技術は、民間や軍事目的で進化しており、様々な設計が存在するが、PWRとBWRが現在最も広く使われている主流の原子炉となっています。
AIブームを受けた原子力エネルギーへの需要増
AIには膨大な電力が必要です。そこで、本稿では原子力エネルギーについて詳しく掘り下げ、なぜ将来的にAIの電力を担う存在になると考えているかをお話しします。
原子力は今、大きな注目を集めています。先月、米国のエネルギー省(DOE)が先進的な原子力技術の商業化に関するレポートを発表しました。また、オラクル(ORCL)の共同創業者兼元CEOであるラリー・エリソン氏は、将来データセンターを小型モジュール炉(SMR)が動かすと語り、マイクロソフト(MSFT)も経済的理由で閉鎖されたスリーマイル島(アメリカ・ペンシルベニア州にある原子力発電所の所在地で、1979年にアメリカで最も深刻な原子力事故が発生した場所)を再稼働させ、残った燃料をもう一度活用しようとしています。
原子力への関心は高まりつつあり、私自身もその一人です。この動きの背景には、AIの膨れ上がるエネルギー需要と、それに応えるための難しい電力供給の課題があります。今回からスタートする原子力シリーズの第一回目として、今日は原子炉の基本についてお話しします。次回は、SMRと核燃料について書く予定です。
原子力エネルギーは、長年にわたって革命を起こすと期待されてきました。1970年代には、ガソリン価格の高騰や技術の進歩を背景に、一時的に大きな注目を集めました。しかし、1986年のチェルノブイリ事故やスリーマイル島での危機的状況、そして2011年の福島第一原発事故を受けて、多くの原子炉が廃炉となり、その勢いは80年代後半に一気に失速しました。
大きな問題の一つは、意外にも経済的な要因でした。実際、1970年代の原子力産業は少しバブル的な側面がありました。これらの問題をどう解決するかが、業界の未来を左右する鍵となります。この点については、今後のレポートで詳しく触れる予定です。
福島第一原発で使われていたGE製(GE)の沸騰水型軽水炉に代わる新しい設計の原子炉が開発されていました。これらの新世代原子炉は、安全性が高く、より効率的で、旧式の沸騰水型や加圧水型原子炉を置き換える存在として期待されていました。その代表例がAP1000です。しかし、新しい原子力時代を切り開くはずだったこの原子炉は、結果的にウェスティングハウス(Westinghouse:アメリカの大手電機・エネルギー関連企業で、特に原子力発電技術で知られている)を破産に追い込みました。
ウェスティングハウスの栄光と衰退
正直言って、原子力エネルギーの入門としてウェスティングハウスを掘り下げるとは思っていませんでした。しかし、調べるうちに、ウェスティングハウスの歴史こそがアメリカにおける原子力発電の歴史そのものだと感じ、彼らの物語を語ることが最適なフレームになると考えるようになりました。
まず、ウェスティングハウスの加圧水型原子炉(PWR)の歴史については、カルロス・バリエントス氏に感謝したいと思います。彼が執筆した内容はまさに決定版であり、もし彼と連絡が取れたら(試してみましたがまだつながっていません)、ぜひ直接話してみたいですね。
カルロス氏の書いた歴史の部分はかなり要約しますが、彼の記述に必要な答えがすべて詰まっているように見えます。ですので、この内容がオリジナルだと主張するつもりはありません。彼が最初に手がけ、素晴らしくまとめ上げたものです。私は彼の仕事を引き継ぎ、その内容に繰り返し言及しながら話を進めていきます。
最初に、米国原子力委員会(AEC)は、第二次世界大戦後、アメリカ国内のすべての原子力活動を政府が独占する体制を確立しました。戦後、原子力技術はゼロからのスタートで、技術的には大きな変革をもたらし、明確な進化の道筋が見えていました。これがまさにAECが目指したことでした。
(出所:ウェスティングハウスのPWR)
原子炉の歴史には、民間用と軍事用の2つの技術ツリーがあります(民間用は点線で表記)。ここでは原子力爆弾に関する議論は行いませんが、原子炉の歴史はMark 1から始まります。
Mark 1と潜水艦
ハイマン・リッコーバー提督(アメリカ海軍の軍人で、「原子力海軍の父」として知られている)が開発したS1W/Mark 1は、世界初の加圧水型原子炉(PWR)です。この原子炉は1953年に初めて臨界に達し、ウェスティングハウスは1957年に商業用として最初のPWRを製造しました。
このPWR設計は、歴史上最も成功した原子炉デザインのひとつとされています。1989年時点で、ほとんどの原子炉がこの設計に基づいており、現在でもその主流は変わっていません。
(出所:ウェスティングハウスのPWR)
現在に至るまで、PWRは世界中の原子炉の大半を占めています。ウェスティングハウスは、自社の設計をB&W(バブコック&ウィルコックス:アメリカの工業企業で、主にボイラーや原子力発電システムの設計・製造を手掛けている)やコンバッション・エンジニアリング(アメリカの企業で、原子力発電や火力発電設備の設計・製造に携わっていた)など多くの企業にライセンス提供することで、多くの供給業者が参加するエコシステムを構築しました。B&Wは、その中でも主要な供給業者のひとつとなりました。
アメリカで学習効果があまり見られない理由の一つは、50種類以上もの異なる原子炉設計が導入されたことにあるかもしれません。
そこで、PWRについてもう少し掘り下げてみましょう。過去のゴールドスタンダードを理解することで、未来を見据えることができます。また、BWR(沸騰水型原子炉)やその他の設計についても簡単に触れていきます。
ウェスティングハウスのPWR:加圧水型原子炉
PWR(加圧水型原子炉)は、原子炉の基本設計とも言える存在です。PWRは2つの循環回路を持ち、一次回路では軽水(通常の水「H₂O」のことで、特に原子力発電において、核燃料の冷却材や減速材として使用される)を中性子を減速させる減速材および冷却材として使用します。燃料には、ジルカロイ(ジルコニウムを主成分とした合金で、主に原子力発電所の燃料棒を覆う被覆材として使用される)で覆われた酸化ウランが使われ、ウランは3.0%に濃縮されたU235です。
酸化ウランは、より多くの核分裂性ウラン同位体(U235)を含む加工ウランです。燃料棒(原子炉内で核燃料を収める細長い筒状の容器。中には、ウランやプルトニウムなどの核燃料がペレット状で入っており、これが核分裂を起こしてエネルギーを発生させる)はジルカロイで被覆されており、連鎖反応が始まると、中性子が核分裂を持続させることで、膨大な熱が生じます。この熱で燃料棒は12~24か月ごとに交換する必要があります。
一次回路では160バール(1バールは大気圧にほぼ等しい圧力。つまり、160バールは地上の大気圧の約160倍の圧力を意味する)の圧力がかけられた軽水を使用し、この圧力で水は蒸気にならない状態が保たれます。この熱を二次回路に送って蒸気を発生させ、発電に利用します。二次回路はいくつかのループに分かれ、効率的にエネルギーを回収します。
(出所:United States Nuclear Regulatory Commisionによる図解)
オリジナルのPWR設計は非常にシンプルで、160バールの圧力を維持する加圧器により閉じた循環系が作られ、外部への放射線漏れがほとんどないのが特徴です。二次回路は蒸気タービンだけで構成され、蒸気自体はほとんど放射線を運ばないため、一次回路以外への汚染リスクが低いのが人気の理由のひとつです。PWRでは信頼性の高い水を減速材兼冷却材として使用し、160バールの圧力下では水が蒸気化しないというシステムが非常に便利です。
PWRはウェスティングハウスが手がけた代表的な技術です。このオリジナル設計はMark 1から改良され、他の多くのPWR設計もウェスティングハウスの派生型となっています。ウェスティングハウスは、熱交換の仕組みや圧力設定など基本的な設計を決定し、ほとんどのPWRがその基盤に基づいています。
ウェスティングハウスはこの設計で成功を収めました。PWRの開発をライセンス供与することで、バブコック&ウィルコックスや三菱、コンバッション・エンジニアリングなどが派生型を製造するエコシステムを作り上げ、供給業者を育て、規模の経済を実現しました。これにより、複数の企業が原子炉や核熱供給システム(NHSS)、タービンの製造に参加できる体制が整えられました。
特定の供給業者に依存しないこの仕組みは、ある業者が納品できなくても他が代わりに対応できるという利点がありました。各部品はそれぞれ独立して機能し、どの企業も全体を一社で作る必要がなかったのです。この体制は合理的でしたが、後にいくつかの問題を引き起こすことにもなりました。ウェスティングハウスは設計を手がけるだけで、他の企業が製造を担うという形は、まるでウェスティングハウスが設計者であり、他の企業が「製造工場」だったかのようです。これをGEと比較してみましょう。
BWR(沸騰水型原子炉)設計:GEのデザイン
GEはウェスティングハウスとは異なる経済モデルを採用していました。GEは自社で開発したBWR(沸騰水型原子炉)を自社で独占的に供給する体制をとっており、当時のIDM(統合デバイスメーカー)に似たビジネスモデルを持っていました。この垂直統合型の戦略によって、GEは大きな利益を上げていたと考えられます。GEのBWRは、1956年にアルゴンヌ国立研究所(アメリカのエネルギー省が運営する研究施設で、主にエネルギー技術や原子力研究を行っている)で開発されたEBWR原子炉(Experimental Boiling Water Reactor:アルゴンヌ国立研究所で開発された実験用の沸騰水型原子炉)に基づいており、1957年にそのプロトタイプが完成しました。最初の商業用原子力発電所であるドレスデン1号機も、BWR/1型でした。
BWR(沸騰水型原子炉)は、PWR(加圧水型原子炉)と同様に軽水を減速材および冷却材として使用しますが、二次回路を作らず、発生した蒸気を直接タービンに送り、ループ内に戻すという仕組みです。冷却された水は、冷却塔で水蒸気として排出されるか、再び循環水として利用されます。
(出所:Nuclear Power.com)
この原子炉は単一ループ式で、一部の水が一次閉鎖構造の外に出る仕組みです。しかし、問題点として、この外に出る水は放射性を帯びているため、もし一次ループが破損すると大きな問題が発生する可能性があります。ただし、蒸気の放射性は短時間しか持続しないうえ、複数の保護層が備わっており、そのリスクを最小限に抑える設計がされています。
単一ループ式はシンプルな設計ですが、放射性の水を扱うことによる複雑さもあります。実際に、BWRは幾度も改良が重ねられ、安全性が大幅に向上しました。例えば、発電密度の向上、バルブ制御の精度向上、緊急炉心冷却システムの改善、そして最近では自然循環を利用した受動的な安全機能が追加されています。
BWR(沸騰水型原子炉)技術:国際的な状況と英国での経験
(出所:GE日立ニュークリア・エナジー)
BWR(沸騰水型原子炉)とPWR(加圧水型原子炉)は、現在最も広く使われている原子炉設計です。どちらも熱効率は約35%台中盤で、当初は小型の原子炉としてスタートしましたが、設計が改良されるにつれて1000MWh以上の発電容量を持つ大型原子炉へと進化しました。
もちろん、PWRやBWRが唯一の原子炉設計というわけではありませんが、これらが主流である理由があります。どちらも軽水を使用し、構造がシンプルだからです。しかし、これが唯一の原子炉タイプというわけではありません。以下の図は、減速材、冷却材、燃料の種類を示しています。
さまざまな原子炉の技術ツリー
(出所:ウェスティングハウスのPWR)
ここで、他の設計についても少し見ていきましょう。原子炉には水冷式やガス冷却式があり、使用する燃料や冷却材、減速材も異なります。
原子炉の大きな違いは、減速材に重水、軽水、または黒鉛が使用される点です。減速材は、中性子を減速させて核分裂反応を促進し、中性子が過剰に吸収されて反応が止まるのを防ぐ役割を持っています。冷却材は、原子炉から熱を取り出し、その熱を蒸気タービンでエネルギーに変換します。
特定の設計では、天然ウランを燃料として使用できるものもあります。代表的な例として、Magnox型(初期の英国の原子力発電に使用されたガス冷却型原子炉で、ウラン燃料を使用し、炭酸ガスを冷却材、マグネシウム合金「Magnox」を燃料被覆材として使用)やPHWR(加圧重水型原子炉)があります。
PHWRはD2O(重水)を使用しており、重水は密度が高く、融点も高いため、冷却材や減速材として非常に適しています。しかし、軽水に比べて扱いが難しく、コストも高いのが難点です。このタイプの原子炉はカナダやインドで多く利用されており、天然ウランを燃料とするため、ウランの精製が不要です。ただし、重水のコストが非常に高いことが課題となっています。
(出所:ウェスティングハウスのPWR)
LWHR(軽水黒鉛減速炉)という原子炉も存在しますが、これは非常に珍しい設計で、チェルノブイリ原発事故を引き起こしたことで有名です。この原子炉はコストが安い一方、空洞係数に設計上の欠陥がありました。それでもソビエト連邦は建設を進めましたが、PWRやBWRに比べて安全性が低い設計でした。これが従来の原子炉タイプの概要です。
ウェスティングハウスのPWRは、シンプルな設計、二次回路に放射線が存在しないこと、多様な供給業者ネットワーク、そして効率性の高さから最終的に主流となりました。それでも、なぜ1970年代後半に原子力の進展が止まってしまったのでしょうか?次章ではその詳細に迫ります。
※続きは「原子力発電の課題と将来性:原子力エネルギーはコスト負担が大きいが、安定性はAIブームによる電力需要を支える上で不可欠?」をご覧ください。
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