10/14/2024

【Part 1:前編】AzureとAWSの比較:AzureとAWSの違いとは?マイクロソフト(MSFT)のクラウド業界における強みに迫る!

a close up of a cell phone with icons on itコンヴェクィティ  コンヴェクィティ
  • 今回のシリーズは2部構成で、まず、マイクロソフト(MSFT)のクラウド事業を詳しく理解し、それを基に同社のクラウド業界とサイバーセキュリティ業界における強みと業界への影響を詳しく解説していきます。 
  • 本稿、Part 1では、マイクロソフトのAzureの成功を支えた競争環境とサティア・ナデラCEOのリーダーシップに焦点を当てます。Azureがなければ、同社のセキュリティ事業は現在ほど成長していなかったため、これが重要なポイントとなります。 
  • 特にPart 1では、AzureとアマゾンのAWSとの詳細な比較を通じて、両サービスの違い、さらに、Azureのクラウド業界における優位性を深掘りしていきます。 
  • そして、Part 2では、マイクロソフトがAzureを活用してどのようにして世界最大のサイバーセキュリティ事業を構築したのかに加え、今後の業界全体への影響についても分析します。
  • また、グーグルのサイバーセキュリティ分野での展望についても触れていきます。

マイクロソフト(MSFT)のクラウド業界とサイバーセキュリティ業界における地位

私たちはサイバーセキュリティを専門とする株式調査アナリストです。マイクロソフト(MSFT)については、取り上げるのが遅れていると感じる方もいるかもしれません。

同社は、世界最大規模のサイバーセキュリティ事業を展開し、年間200億ドル以上の売上を上げています。

これまで同社については他社との比較を中心に取り扱ってきましたが、同社のセキュリティ事業そのものに焦点を当てたことはありませんでした。

しかし、33%の成長を遂げるこの200億ドル規模の事業は、世界全体で2,000億ドルのサイバーセキュリティ市場においてますます重要な存在となっていることからも、マイクロソフトは今後ますます注目すべき企業となるでしょう。

オンプレミスからクラウドへ:マイクロソフト(MSFT)が成功を収めた理由とは?

マイクロソフト(MSFT)のセキュリティ事業の成功を理解するためには、同社のクラウド戦略全体を振り返ることが必要です。

もしAzure(マイクロソフトが提供するクラウドコンピューティングサービスのプラットフォーム)がなかったら、同社のサイバーセキュリティ事業は現在ほど大きくなっていなかったでしょう。

そのため、Azureを理解することは、分散化が進むサイバーセキュリティ業界における同社の未来を考える上で不可欠です。

マイクロソフトのクラウドの道のりは、2008年に始まったProject Red Dogからスタートし、2010年にWindows Azureという名前でリブランドされました。

このサービスは、Windows NTやWindows Serverの技術をベースに構築され、同社が得意とするOSとサーバーインフラの専門知識を活かしたものです。

最初はPaaS(プラットフォーム・アズ・ア・サービス)として、開発者がインフラの管理をせずにアプリケーションを作れるようにしていましたが、2012年にはIaaS(インフラストラクチャ・アズ・ア・サービス)にも対応し、仮想マシンの制御が可能になり、アマゾン(AMZN)のAWSに直接対抗できるようになりました。

大きな転機は2014年、サティア・ナデラ氏がマイクロソフトのCEOに就任し、「クラウドファースト、モバイルファースト」の戦略を掲げて同社のクラウド重視を加速させたときでした。

ナデラCEOのもとで、Azureはオープンソース対応を拡大し、MySQL(オープンソースのリレーショナルデータベース管理システム)やApache(オープンソースのWebサーバーソフトウェア)などの人気ツールをサポートすることで、より多くの開発者を惹きつけました。

また、AzureはOffice 365、Dynamics、LinkedInなどのマイクロソフト製品とも統合され、クラウド導入を促す統合されたエコシステムを構築しました。

さらに、ナデラCEOは2010年に導入されたAzure Hybridを推進しました。

これにより、企業はオンプレミス(企業が自社内のサーバーやデータセンターにITシステムやアプリケーションを設置・運用する形態のこと)のデータセンターとクラウドサービスをシームレスに統合できるようになり、災害復旧やワークロード分散などのユースケースをサポートし、クラウドとオンプレミス環境の両方でアプリケーションを稼働させる柔軟性を提供しました。

2017年にはAzure Stack(Azureのクラウド機能を自社のデータセンターに導入できる製品)が登場し、Azureのクラウド機能をオンプレミス環境にも拡張しました。

また、2008年にリリースされたマイクロソフトのハイパーバイザー(1台の物理的なコンピュータ上で複数の仮想マシンを作成・管理するためのソフトウェア)であるHyper-Vは、Azureの成功に大きく貢献しました。スケーラブルな仮想化を可能にし、同社はクラウド競争に後発で参入したものの、相互運用性の強化や独立系ソフトウェアベンダー(ISV)とのパートナーシップ、そしてオンプレミスでの強い地位を活用することで、Azureは急速に成長しました。

結果として、Azureはクラウド市場に遅れて参入したにもかかわらず、現在ではAWSに追いつきつつあり、成長率はほぼ2倍に達し、競争の激しいクラウド業界でその差を縮めています。

(出所:theCUBE Research

マイクロソフト(MSFT)のAzureとアマゾン(AMZN)のAWSの比較

クラウドコンピューティングの初期、マイクロソフト(MSFT)のAzureはアマゾン(AMZN)のAWSに大きく遅れをとっていました。

しかしながら、同時に社会におけるクラウドの導入スピードそのものも遅かったというのも現状です。

当時、アマゾンのクラウドモデルは非現実的だと批判され、ウォール街もアマゾンが新たなリスクのある市場に進出するより、収益性の高いオンライン書店事業に集中するべきだと考えていました。

(出所:X.com)

クラウドの普及が進むにつれ、2010年から2012年にかけてセキュリティに関する懸念が浮上しました。企業は、クラウドへの移行でデータの管理や可視性が低下することを恐れていたのです。

このセキュリティの懸念はAWSの成長を一時的に鈍化させ、マイクロソフトが2014年に「クラウドファースト」戦略を採用することで追い上げる機会を生みました。

マイクロソフトはクラウド市場への遅れを補うために、特にアイデンティティ管理(ユーザーの身元を認証・管理するシステムやプロセスのこと)の分野で強みを活かしました。

Azure Active Directory(AD)を開発し、顧客のセキュリティ上の不安を解消するサポートを提供したのです。

これがマイクロソフトのセキュリティ製品群の基盤となり、COVID-19パンデミックでリモートワークが増加する中で、アイデンティティ管理の重要性がさらに高まりました。

また、Azure HybridやAzure Stackといったハイブリッドソリューションも提供し、オンプレミスのインフラをクラウドとシームレスに統合できる点で、同社は優位に立ちました。

AWSが類似のサービス(AWS Outpost)を導入したのは2019年になってからです。

さらにマイクロソフトは、既存のエンタープライズ顧客との関係を活用し、既存のソフトウェアライセンスをAzureでも使用できるようにしました。

これにより、企業はAzureへの移行時に新たなライセンスを購入する必要がなく、大幅なコスト削減が可能になりました。

一方、AWSでは新たなマイクロソフトライセンスを購入する必要があったため、Azureを選ぶ企業が増えました。

マイクロソフトはまた、無料のAzureリソースを提供し、企業がテストや開発段階でクラウドを試すことができるようにし、それが最終的に本格的な利用につながることが多かったのです。

当初、マイクロソフトは従来の価格モデルを採用し、顧客にリソースを事前に契約させる方式を採用していましたが、クラウドの柔軟性が広く認識されるようになると、AWSが導入していた「使った分だけ支払う」モデルに移行しました。

この変更により、クラウドに詳しい企業を引きつける一方で、長期契約を選ぶ企業には割引を提供するなど、多様なニーズに対応しました。

また、マイクロソフトの国際的な展開もAzureの成功に大きく寄与しました。

AWSが主に北米市場に集中していたのに対し、マイクロソフトは早期からグローバルに展開しており、EMEA(「Europe, Middle East, and Africa」の略で、ヨーロッパ、中東、アフリカの地域を指す)やアジアなどの市場でAzureが優位に立ちました。

同社は現地の規制やデータ主権法、そして顧客ニーズに対する深い理解を持っており、これがこれらの地域でのAWSに対する優位性につながったのです。

さらに、Azureの顧客層もAWSとは異なっていました。マイクロソフトは、ウォルマート(WMT)などアマゾンの競合企業を含む大規模なエンタープライズ企業を多く引きつけました。

一方、AWSはSaaSスタートアップやマイクロソフトのレガシーソフトウェアに依存しないテクノロジー企業をターゲットにしていました。

まとめると、サティア・ナデラCEOのもとでのマイクロソフトのクラウド移行は非常に成功したと言えます。

ハイブリッドクラウド戦略(オンプレミスのデータセンター「自社内のサーバー」と、パブリッククラウド「外部のクラウドサービス」を組み合わせて利用するクラウド環境のこと)、エンタープライズとの強固な関係、そしてグローバルなプレゼンスを活用して、AzureはAWSとは異なる存在として差別化されました。

AWSがスタートアップや完全なクラウドソリューションに注力する一方で、Azureはオンプレミスのインフラを維持しながら段階的にクラウドへ移行できる柔軟性を提供しました。

この戦略と、マイクロソフトの国際的な展開、柔軟な価格設定が組み合わさることで、Azureはクラウド市場においてAWSに匹敵する強力な競争相手へと成長したのです。

次章では、マイクロソフトのAzureを、他の競合であるグーグル(GOOG/GOOGL)のGCP(Google Cloud Platform)とオラクル(ORCL)のOCI(Oracle Cloud Infrastructure)との比較を通じて、同社のクラウド業界における優位性をさらに深掘りしていきます。

※続きは「【Part 1:後編】AzureとGCPとOCIの比較:AzureとGCPとOCIの違いとは?マイクロソフトのクラウド業界での優位性に迫る!」をご覧ください。

また、その他のマイクロソフト(MSFT)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、マイクロソフトのページにアクセスしていただければと思います。


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