【半導体】マイクロン・テクノロジー(MU)の株価下落理由とは?レガシー市場における中国からの競争激化が原因?
ウィリアム・ キーティング- 本稿では、注目の米国半導体銘柄であるマイクロン・テクノロジー(MU)の最新の2025年度第1四半期決算説明会での遣り取りの分析を通じて、決算直後の株価下落理由、並びに、今後の株価見通しと将来性を詳しく解説していきます。
- マイクロン・テクノロジーは、中国のDRAMおよびNAND市場での競争激化に直面し、旧世代製品市場を譲り、高利益率の最先端製品、特にHBMに注力する戦略を取っています。
- HBMの収益成長が中国市場での旧世代製品の売上減少を補えるかが課題であり、生成AIの需要拡大が同社の明るい未来を後押しすると期待されています。
- 半導体市場は変革期にあり、今後発表される競合他社の業績や市場動向がマイクロンの戦略に与える影響が注目されています。
※「【半導体】マイクロン・テクノロジー(MU)の将来性とは?最新の2025年度第1四半期決算分析を通じて今後の株価見通しに迫る!」の続き
前章では、マイクロン・テクノロジー(MU)の最新の2025年度第1四半期決算の詳細と、決算後に株価が下落した理由の1つである在庫問題に関して詳しく解説しております。
本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。
マイクロン・テクノロジー(MU)が直面する中国企業との競争環境とは?
マイクロン・テクノロジー(MU)は、競合他社が決算説明会で触れたように、中国からの競争が激化していることを指摘し、それが今四半期の業績見通しを下方修正する一因になっていると示唆しました。メフロトラCEOは、準備された発言の終わりにこの点について率直に言及しました。
(原文)Consistent with analyst reports, we have seen an increase in bit supply at legacy technology nodes from a China-based DRAM and a China-based NAND supplier. In calendar 2024, analyst reports indicate that China-based supply will represent a mid-single-digit percentage of industry bit supply for DRAM and a high single-digit percent of supply for NAND.
(日本語訳)アナリストの報告によれば、中国のDRAMおよびNANDサプライヤーによる旧世代技術ノードでのビット供給が増加していることが確認されています。2024年には、中国拠点の供給が、DRAM業界全体のビット供給の約5%台、NANDでは約10%近くを占めると予測されています。
ここで言及されているDRAMメーカーは長鑫存儲技術(CXMT)、NANDメーカーは長江存儲科技(YMTC)です。マイクロン・テクノロジーが中国の競合企業による市場シェアについて具体的な数字を示したのは今回が初めてです。この競争が同社にどのような影響を与えているのか、気になるところです。
(原文)We expect Micron's worldwide revenue related to LP4 and D4 DRAM products for the remainder of fiscal 2025 to be approximately 10%.
(日本語訳)マイクロン・テクノロジーのLP4およびD4 DRAM製品による世界全体の売上は、2025会計年度の残り期間でおおよそ全体の10%程度になると予想しています。
そして、ご参考までに、マイクロン・テクノロジーの2023年における中国での売上は、全世界売上の約25%に相当していました。詳しくはこちらをご覧ください。
(原文)As previously disclosed, Micron’s revenue with companies headquartered in mainland China and Hong Kong, including direct sales as well as indirect sales through distributors, is approximately a quarter of Micron’s worldwide revenue and remains the principal exposure. We now believe that approximately half of that China HQ customer revenue, which equates to a low-double-digit percentage of Micron’s worldwide revenue, is now at risk of being impacted.
(日本語訳)これまでに公表された情報によると、マイクロン・テクノロジーの売上のうち、中国本土および香港に本社を置く企業向けの売上(直接販売および代理店を通じた間接販売を含む)は、全世界売上の約4分の1を占めており、これが主なリスク要因となっています。現在、その中国本社の顧客向け売上のおよそ半分、つまりマイクロン・テクノロジー全世界売上の10%台前半が影響を受ける可能性があると見ています。
また、マイクロン・テクノロジーが直面しているのは、中国国内の競争だけではありません。中国のサイバーセキュリティ管理局が現地企業に対し、マイクロン・テクノロジー製品の使用を控えるよう勧告したことも影響を与えています。
(原文)The impact of the May 21, 2023, conclusion by the Cybersecurity Administration of China (“CAC”) on the business of Micron Technology, Inc. (“Micron”) continues to remain uncertain and fluid. Several Micron customers, including mobile OEMs, are being contacted by certain Critical Information Infrastructure (“CII”) operators or representatives of the government in China concerning the future use of Micron products
(日本語訳)2023年5月21日に中国サイバーセキュリティ管理局(CAC)が下した決定が、マイクロン・テクノロジー(以下「マイクロン」)の事業に与える影響は、依然として不透明で流動的な状況にあります。モバイルOEMを含む複数のマイクロンの顧客が、中国の重要情報インフラ(CII)運営者や政府関係者から、マイクロン製品の今後の利用について問い合わせを受けています。
通常であれば、メモリ分野における中国からの競争の急速な拡大は、一面を飾るような大きなニュースになるはずです。実際、メモリ市場での中国の競争激化について全く報じられていないわけではありません。昨年11月18日のこの記事では、中国のメモリメーカーがDDR4を超低価格で市場に投入しているとされています。
(日本語訳)中国のメモリメーカーがDDR4メモリを市場に供給しており、その価格は再利用チップよりも安く、韓国メーカーの価格を50%も下回っています。
(日本語訳)既存の主要メーカーがDDR5やHBM3に移行する中で、長鑫存儲技術(CXMT)や福建省晋华集成电路有限公司(Fujian Jinhua)は大幅なディスカウント価格で販売を行っています。
(出所:Tom's Hardware)
(原文)Chinese DRAM makers Changxin Memory (CXMT) and Fujian Jinhua are aggressively expanding production and cutting prices, reports DigiTimes. Right now, the two manufacturers sell their DDR4 components with a 50% discount compared to similar ICs made by South Korean makers and in some cases, these DRAMs are even cheaper than reballed (recycled/re-used) memory chips.
(日本語訳)DigiTimesによると、中国のDRAMメーカーである長鑫存儲技術(CXMT)と福建省晋华集成电路有限公司(Fujian Jinhua)は、生産を積極的に拡大すると同時に、価格を大幅に引き下げています。現在、両社が販売しているDDR4コンポーネントは、韓国メーカー製の同等品と比べて50%も安く、一部ではリボール(再利用された)メモリチップよりもさらに低価格となっています。
いずれにせよ、マイクロン・テクノロジーも競合他社も、中国からの競争について大きく取り沙汰しているわけではありません。マイクロン・テクノロジーの場合、この状況を次のように見ています。
(原文)Competition from China supply is focused on China market demand: in DRAM with DDR4 and LP4 products; and in NAND with consumer, client, and lower-performance mobile products.
(日本語訳)中国からの供給競争は、中国市場の需要に特化しています。DRAMではDDR4やLP4製品が、NANDではコンシューマー向け、クライアント向け、そして低性能モバイル製品が対象です。
(原文)We expect Micron's sales of products to China-headquartered customers to be concentrated in the high end of our customers' portfolio, leveraging our technology and product leadership and the performance and quality requirements of our customers
(日本語訳)一方、マイクロン・テクノロジーの中国本社の顧客向けの製品販売は、顧客ポートフォリオのハイエンド製品に集中すると見込まれています。これは、当社の技術力と製品のリーダーシップを活かし、顧客の性能や品質に対する高い要求を満たすことを目指したものです。
言い換えれば、マイクロン・テクノロジーは旧世代製品市場を中国メーカーに譲る一方で、高い利益率と需要が見込まれる最先端製品に注力しているようです。これは、中国国内の顧客だけでなく、世界中の顧客に向けた取り組みでもあります。
そして、もしこれが突然マイクロン・テクノロジーに押し付けられた状況だと思っているなら、それは誤解です。この方針は以前から一貫した戦略であり、最近では2022年の投資家向け説明会でも改めて強調されています。
(原文)At our 2022 Investor Day, we had laid out a bold plan to shift our portfolio mix and to increase our share of high-growth and less seasonal segments from approximately 45% in fiscal 2021 to 62% in fiscal 2025. In fiscal Q1 2025, we have already significantly exceeded that goal, driven by strong demand for AI-enabled solutions and reflecting Micron's technology, product, and manufacturing leadership. Micron is in the strongest competitive position in its history, and we continue to gain share in all high-margin, strategically important product categories in our industry while maintaining overall stable bit share in both DRAM and NAND.
(日本語訳)2022年の投資家向け説明会で、私たちはポートフォリオ構成の大幅な見直しを計画し、高成長で季節変動の少ないセグメントの比率を2021会計年度の約45%から2025会計年度には62%に引き上げるという大胆な目標を掲げました。そして2025会計年度第1四半期には、AI対応ソリューションへの強い需要に後押しされ、この目標を大幅に超える成果をすでに達成しました。これは、マイクロン・テクノロジーの技術力、製品力、そして製造力を反映しています。マイクロン・テクノロジーは、これまでで最も強力な競争力を持つ状況にあり、高利益率で戦略的に重要なすべての製品カテゴリーにおいて市場シェアを拡大し続けています。また、DRAMとNANDのビットシェアも全体的に安定を維持しています。
私としては、特にマイクロン・テクノロジーの投資家の立場から、この方向性は非常に好ましいと感じています。メモリ市場の旧世代製品分野は、最近のメモリ不況で見られたように、非常に厳しい競争が繰り広げられています。一方で、需要が高く、利益率も高い最先端製品に注力するという戦略転換は、非常に理にかなっています。それに加えて、HBM(高帯域幅メモリ)の登場によって、マイクロン・テクノロジーと顧客との関係がさらに緊密になりつつあるのも大きな利点です。
(原文)HBM4E will introduce a paradigm shift in the memory business by incorporating an option to customize the logic base die for certain customers using an advanced logic foundry manufacturing process from TSMC. We expect this customization capability to drive improved financial performance for Micron.
(日本語訳)HBM4Eは、TSMC(TSM)の高度なロジックファウンドリ製造プロセスを活用し、一部の顧客向けにロジックベースダイをカスタマイズできるオプションを導入することで、メモリ業界に新たな変革をもたらすでしょう。このカスタマイズ機能により、マイクロン・テクノロジーの財務パフォーマンスの向上が期待されています。
さらに、以前にも述べた通り、マイクロン・テクノロジーは2025年分のHBM供給をすでに事前に合意された価格で全て販売済みです…。
(原文)As we have said before, our HBM is sold out for calendar 2025, with pricing already determined for this time frame.
(日本語訳)これまでにお伝えしたように、当社のHBMは2025年分がすでに完売しており、その期間の価格もすでに決定済みです。
これは、マイクロン・テクノロジーと顧客との関係が変化していることを示す最も分かりやすい例です。事実上、長期契約(LTA)に相当します。マイクロン・テクノロジーは以前にも顧客との間で最大70%をカバーするLTAを締結していましたが、それらは拘束力がなく、価格も固定されていませんでした。その結果、最近の景気後退が始まった際には、これらの契約は実質的に機能せず、同社(およびその競合他社)は数十億ドル規模の損失を被ることになりました。
マイクロン・テクノロジー(MU)に対する結論
メモリ業界は現在、大きな変革の真っただ中にあります。中国からの競争は、DRAMとNANDの旧世代ノードで急速に激化しています。しかし、マイクロン・テクノロジー(MU)やその競合他社は、この市場セグメントを中国メーカーに譲り、より収益性の高い最先端製品、特にHBMに注力する戦略を取っています。
マイクロン・テクノロジーにとっての課題は、HBM収益の成長と、中国の旧世代製品市場での収益減少とのバランスを取ることです。現時点では、このバランスが崩れた状態が四半期ガイダンスに反映されています。もしかすると、次の四半期でも同様の状況が起きるかもしれませんが、それはまだ分かりません。
それでも、生成AIの加速という流れに乗ることで、同社やその競合他社にはより明るい未来が広がっていると思います。もちろん、この変革の過程では予期せぬ揺らぎが生じることもあるでしょう。たとえば、来月発表されるSKハイニックス(000660.KS)やサムスン電子(005930.KS)の業績には、何か驚くような内容があるかもしれません。どうなるのか見守りましょう…。
その他のマイクロン・テクノロジー(MU)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、マイクロン・テクノロジーのページにてご覧いただければと思います。
さらに、マイクロン・テクノロジーの進捗を把握し、同社に対する理解を一層深めるために、前回の決算に関するレポートも併せてご覧いただければと思います。
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📍半導体&テクノロジー担当
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