01/10/2025

エヌビディア(NVDA)AIスーパーコンピュータ「Project Digits」とは?株価急落の理由と併せて徹底解説!

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  • 本稿では、注目の半導体銘柄であるエヌビディア(NVDA)の自動車用プロセッサ「Thor」とAIスーパーコンピュータ「Project Digits」、そして、同社の株価がCES後に急落した理由を詳しく解説していきます。
  • エヌビディアは、自動車向け次世代プロセッサ「Thor」を発表し、自動運転分野での存在感を高めつつ、前世代モデルOrinの20倍の性能を持つことを強調しました。
  • デスクトップ用AIスーパーコンピュータ「Project DIGITS」を発表し、MediaTekと共同開発した極秘チップ「GB10」を搭載した新たな可能性を示しました。
  • 市場はデータセンター分野に注目する一方、他事業への関心が薄く、これが株価下落の一因とされるものの、エヌビディアの成長ストーリーは今後も期待されています。

※「エヌビディア(NVDA)の株価急落の理由とは?ジェンスン・ファンCEOのCESでの基調講演の詳細を徹底解説!」の続き

前章では、エヌビディア(NVDA)のジェンスン・ファンCEOのCESでの基調講演の詳細、特に、新しいゲーミングGPU「GeForce RTX 50シリーズ」、オープンソース基盤モデル「Cosmos」に関して詳しく解説しております。

本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。

エヌビディア(NVDA)の自動車用プロセッサ「Thor」

エヌビディア(NVDA)がデータセンター分野で圧倒的な存在感を誇る一方で、自動車分野はしばらく注目を浴びていませんでした。しかし、今週発表された次世代自動運転向けプロセッサ「Thor」によって、その状況が変わりました。

(原文)well today we're announcing that our next generation processor for the car our next generation computer for the car is called Thor. I have one right here, okay this is Thor. This is a robotics computer that takes sensors data and just a madness amount of sensor information process it you know umteen cameras, high-resolution radars, LIDARs etc.

(日本語訳)本日、次世代の車載用プロセッサ、つまり次世代の車載コンピュータ「Thor」を発表します。ここにその実物があります。これが「Thor」です。このロボティクスコンピュータは、膨大な量のセンサーデータを処理します。無数のカメラや高解像度レーダー、LIDARなど、あらゆるセンサーからの情報を処理する能力を備えています。

ジェンスン氏の基調講演によれば、Thorは前世代モデルであるOrinの20倍の性能を誇るとのことです。

(原文)this AV computer is now in full production Thor is 20 times the processing capability of our last generation Orion which is really the standard of autonomous vehicles today and so this is just really quite quite incredible

(日本語訳)この自動運転向けコンピュータは現在、完全生産体制に入っています。Thorは、現在の自動運転車の標準となっている前世代モデルOrinの20倍の処理能力を誇ります。これはまさに驚異的と言えるでしょう。

ジェンスン氏のプレゼンテーションでは、自動運転分野が好調であり、今後大きな成長が見込まれるという強い印象を与えました。2017年に彼が行った予測を覚えていますか?詳しくはこちらをご覧ください

Nvidia、2021年までに自動運転車に全力を注ぐ

CEOのジェンスン・フアン氏、小規模なAIプロジェクトには関心なしと発言

(出所:Nikkei Asia)

しかし、現実には、自動運転はエヌビディアだけでなく、インテル(INTC)やモービルアイ(MBLY)、BMW、テスラ(TSLA)、ウーバー・テクノロジー(UBER)、ゼネラル・モーターズGM)など、業界全体で当初の期待(あるいは誇大広告?)を大きく裏切る結果となっています。最近では、ゼネラル・モーターズがロボタクシー事業から撤退を決定した件についてもレポートを書きました。詳細は下記のレポートをご覧ください:

そして、こちらのレポートにおいて、下記のように述べています:

ゼネラル・モーターズ(GM)のCruise子会社の終焉は、自動運転の歴史における重要な節目を示しています。それは、華々しい成功からの劇的な転落であり、同時に投資家資本の大規模な損失を象徴しています。確かに、GMはCruiseの技術の一部を活用できるかもしれませんが、その価値は元の額に対してわずかなものに過ぎません。一方、マイクロソフト(MSFT)はすでにCruiseへの8億ドルの投資を完全に損失処理しています。その詳細はこちらをご覧ください

近いうちに、自動運転分野全体のレビューを公開する予定です。特に、わずか6年前のCESで話題をさらった数々のスタートアップやパートナーシップ、投資が、その後どのような運命をたどったのかに焦点を当ててお伝えします。

エヌビディア(NVDA)のAIスーパーコンピュータ「Project Digits」

私の考えでは、これがエヌビディア(NVDA)のCES 2025基調講演の中で最も重要な発表です。それは一体何か?ジェンスン氏によると、このプロジェクトは10年以上もの間、秘密裏に進められてきたものだそうです:

(原文)this is an AI supercomputer, it runs the entire NVIDIA AI stack. It’s connected to your computer it's even a workstation if you like it to be and you could access it like a cloud supercomputer. It's based on a super secret chip that we've been working on called GB10, the smallest Grace Blackwell. This is a top secret chip we did in collaboration on the the CPU with MediaTek, the world's leading SOC company and they worked with us to build this CPU this CPU SOC, and connected it chip to chip NV Link to the Blackwell GPU and this little this little thing here is in full production. We're expecting this computer to be available around May time frame

(日本語訳)これはAIスーパーコンピュータで、エヌビディアのAIスタック全体を実行することができます。お使いのコンピュータに接続することも可能で、必要に応じてワークステーションとしても利用できます。また、クラウドスーパーコンピュータのようにアクセスすることもできます。このスーパーコンピュータは、「GB10」と呼ばれる極秘のチップを基盤にしています。このチップは、エヌビディアが10年以上かけて開発してきた「Grace Blackwell」の最小版です。さらに、この極秘チップは、世界をリードするSoC企業であるMediaTekと共同開発されました。MediaTekと協力して、このCPU SoCを設計し、Blackwell GPUとチップ間をNV Linkで接続しています。この小型デバイスは現在、完全生産体制に入り、2025年5月頃に市場に登場する予定です。

基調講演で言及された2つ目の企業名はMediaTek(2454.TW)でした。マイクロン・テクノロジー(MU)の場合と同様に、この発表を受けてMediaTekの株価も上昇しました。

(出所:Yahoo Finance)

コンセプトは非常にシンプルです。デスクに置けるAIスーパーコンピュータです。デスク上のどんなデバイスからでもワイヤレスで接続でき、それだけで自分専用のスーパーコンピュータを手に入れることができます。この詳細は、関連するプレスリリースをご覧ください

(日本語訳)エヌビディア、Grace BlackwellをすべてのデスクとAI開発者の手元に届ける

(日本語訳)新型GB10スーパーコンチップを搭載した「Project DIGITS」発表――2000億パラメーターのモデルを実行可能な世界最小のAIスーパーコンピューター

(出所:エヌビディアのHP)

一見、このコンセプトは突飛に思えるかもしれません。「なぜすべてのデスクにスーパーコンピュータが必要なのか?」「普通の人がそれを何に使うのか?」といった疑問が湧くでしょう。この話を聞いて思い出すのが、1997年にDigital Equipment Corporationの共同創設者、ケン・オルセンが語った言葉です。詳しくはこちらをご覧ください

(日本語訳)「自宅にコンピューターを置きたいと思う人なんていないだろう」と、デジタル・イクイップメント社(Digital Equipment Corp.)の創業者ケン・オルセン氏は1977年に語りました。

(日本語訳)この発言がされたのは、Appleがパーソナルコンピューターを発表した翌年のことでした。

彼がその発言をした当時、多くの人が同意し、私が今「デスク上のスーパーコンピュータ」について投げかけたのと同じ疑問を持ったのではないかと思います。現状では、デスク上にスーパーコンピュータがあっても、ほとんどの人にとっては役に立たないでしょう。しかし、10年後には実用的で意味のある用途が見つかり、20年後には欠かせない存在になっていると容易に想像できます。これは、何か大きな変化が訪れる予感がしてなりません…。

エヌビディア(NVDA)CEOのCESでの基調講演に関するまとめ

CES 2025でのエヌビディア(NVDA)の基調講演をインテル(INTC)やAMD(AMD)のプレゼンと比較するのは、まるで昼と夜、またはリンゴとオレンジを比べるようなものです。確かに、ジェンスン氏の発言には一定の慎重さをもって受け止めるべき部分もありますが、彼が率いるエヌビディアは、競合他社を完全に置き去りにし、追随の余地を与えない存在であることは明らかです。

では、なぜ市場がネガティブに反応したのでしょうか?それは、投資家たちがエヌビディアの事業の中でも特にデータセンター向け加速分野にしか注目しておらず、他の事業にはほとんど関心を持っていないからだと思います。その理由は、四半期ごとの収益チャートを見れば明白です:

エヌビディアの四半期毎セグメント別売上高(単位:10億米ドル)

正直に言えば、エヌビディアの自動車分野なんて、データセンターと比べれば微々たるものです。同じことはゲーミング分野にも当てはまります。ゲーマーにとっては重要かもしれませんが、投資家にとってはそれほど注目されていません。もちろん、CESはコンシューマーエレクトロニクスをテーマとしたイベントですが、その定義はかなり広範囲に及びます。6〜7年前に自動運転技術がCESを席巻したのを見れば、それが明らかです。

市場が注目しているのは、エヌビディアのデータセンター分野の成長軌道だけだと思います。しかし、それがジェンスン氏のプレゼンの焦点ではありませんでした。そして、むしろそれが正しい選択だったのではないかとも思います。しかし、データセンターの成長へのフォーカスが欠けていたことで、市場は将来的な業績に対する不安を感じ、ネガティブなサプライズがあるのではと懸念し、その結果として株価が下落したのかもしれません。これはあくまで私の仮説ですが。

個人的には、エヌビディアの成長ストーリーはまだ始まったばかりだと考えています。この株価下落はむしろ買いのチャンスになるのではないでしょうか。これからどうなるのか、注目していきたいと思います。

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