【Part 1:後編】半導体業界の将来性とは?大手テクノロジー企業の半導体業界における取り組みを徹底解説!
コンヴェクィティ- 本稿では、大手テクノロジー企業各社の半導体業界における取り組みの詳細な分析を通じて、半導体業界の将来性を詳しく解説していきます。
- 領域特化型アーキテクチャ(DSA)や特化型チップは、高性能と効率性を実現する鍵であり、エヌビディアやアップルなどの企業がその分野でリーダーシップを発揮しています。
- ハイパースケール企業は、独自のカスタムシリコンを開発して長期的なコスト削減とインフラ効率化を目指しており、ASICベンダーの支援を受けて競争力を強化しています。
- 先端ノード設計の高コストがスタートアップの参入を妨げ、大手企業が圧倒的に有利な状況となっており、一般投資家が得られる投資機会は限られているように見えます。
※「【Part 1:前編】SysMooreとは?次の10年の半導体業界の見通しとムーアの法則が直面する課題を徹底解説!」の続き
【Part 1:前編】ではムーアの法則が直面する課題と、SysMooreへと移行している現状について詳しく解説しています。
その為、本稿での内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、【Part 1:前編】も併せてご覧いただければと思います。
DSA・RISC-V・異種コンピューティング
性能向上の鍵は、特化型チップにあります。
ASICは一般的なCPUと比べて最大100倍の効率を発揮しますが、汎用性が低いという課題があります。
ASICとは、特定用途向け集積回路(Application-Specific Integrated Circuit)の略で、特定のタスクを効率的に実行するために設計された専用ハードウェアです。
これに対し、RISC(Reduced Instruction Set Computer:縮小命令セットコンピュータ)の提唱者であるデビッド・パターソンが提唱した領域特化アーキテクチャ(DSA: Domain Specific Architecture)は、高い性能と一定の汎用性を両立するアプローチです。
RISCとは、コンピュータアーキテクチャの設計手法の一つで、シンプルで効率的な命令セットを採用することで、処理速度を向上させ、ハードウェア設計を簡素化することを目的としています。
彼の構想では、小型CPUがタスク管理を行い、複数の領域特化型アクセラレータを搭載したSoC(システムオンチップ)を活用します。
この設計では、重要な領域を見極めて最適化し、さらにオープンソースのRISC-V CPUコアを使用することで、コスト削減と迅速な開発を実現します。
エヌビディア(NVDA)のGPU、特にA100やH100は、DSA SoCの代表例です。
これらの製品は、汎用CUDAコア(エヌビディアのGPUに搭載されている並列計算処理ユニットで、主にグラフィックスや計算処理を高速化するために使用される)に加え、テンソルコア(エヌビディアがAI計算を高速化するために設計した専用ハードウェアユニットで、主に行列演算に特化)やトランスフォーマーコア(エヌビディアが生成AIや自然言語処理向けに最適化した専用ハードウェアユニット)といった特化型コアを組み合わせることで、AIの高度な要求を満たしています。
この仕組みにより、開発者はCUDAツールを使い慣れたまま100倍の性能向上を達成できます。
エヌビディアはジェンスン・フアンCEOのリーダーシップのもと、この分野での優位性を確立し、DSA市場での競争を抑えています。
一方、ハイパースケール企業(クラウドコンピューティングや大規模なデータセンターを運営する企業)は豊富な資金と専門知識を活かし、独自のカスタムシリコン(特定の用途やワークロードに最適化された半導体チップ)を採用しています。
ブロードコム(AVGO)やマーベル・テクノロジー(MRVL)、Alchip Technologies(3661.TW)などの企業と連携してソリューションを開発しており、中でもブロードコムはアルファベット(GOOG/GOOGL)のTPU(テンソル処理ユニットの略で、アルファベットがディープラーニングのために独自開発したハードウェア)開発を通じてリーダー的存在となっています。
マーベル・テクノロジーはAWSとの関係が限定的で、やや遅れを取っています。
台湾のAlchip Technologiesは生成AIへの関心の高まりを受けて成長していますが、AIトレーニングクラスタ向けのIP(チップ設計やシステム設計で再利用可能な設計モジュール)や大規模ネットワークといった包括的なソリューションでは、ブロードコムには及びません。
ただし、一般投資家にとってDSA分野はアクセスが難しい領域です。
その一因が、膨大なコストです。
5ナノメートル・チップの設計には約5億4200万ドルが必要で、3ナノメートルや2ナノメートル・ノードになるとさらにコストが増加します。
こうした状況は、イノベーションへのハードルをますます高くしています。
(出所:Semiconductor Engineering)
チップのコストに関する詳細はこちらの記事をご覧いただければと思います。
そして、スタートアップにとって、高度なノード設計への挑戦は非常に高いハードルとなっています。
シードラウンドやシリーズAの資金調達額は通常最大でも1億ドル程度であり、先端ノード設計に必要な約5億ドルには遠く及びません。
また、数千万個規模のチップを出荷しない限り、コストを回収するのは極めて難しく、市場での採用も進みにくいのが現状です。
その結果、こうしたノードでの革新を実現できるのは、強固な競争優位性を持ち、効率的にスケーリングできる業界の大手企業に限られています。
DSA(領域特化型アーキテクチャ)の分野でも、最先端設計のコストやリスクが高騰しているため、新規参入者よりも既存の大手企業が圧倒的に有利な状況です。
このような背景から、一般投資家がDSA関連分野で得られる投資機会は限られているのが現実です。
カスタムチップの統合設計
アップル(AAPL)
アップル(AAPL)は、Apple Silicon(アップルが自社設計したプロセッサ)を通じてカスタムチップ設計で他を圧倒しています。
2016年に登場したA11以降、NPU(ニューラルエンジン)などのアクセラレータを統合し、ソフトウェアとの高い互換性や開発者支援を活用しています。
これにより、使いやすさと高性能を実現し、競争優位性を確立しています。
テスラ(TSLA)
テスラ(TSLA)のカスタムチップ開発は2019年のHW3(自動運転用のハードウェアプラットフォーム)から始まり、AMD(AMD)出身のジム・ケラーの知見を活かしています。
自社開発の自動運転チップやDojoトレーニングチップ(自動運転AIモデルのトレーニング向けに独自開発した高性能アクセラレータチップ)でエヌビディア(NVDA)への依存を減らそうとしていますが、Dojoは独自の設計や経営陣の入れ替わりが影響し、進展が遅れています。
HW5(AI5)はINT8(8ビットの整数表現を用いた計算フォーマット)で2000~4000TOPS(コンピューティングデバイスが1秒間に実行できる演算回数を示す指標で、1兆回/秒を表す)を実現し、エヌビディアのH100(2022年に発表した次世代GPU「Hopperアーキテクチャ」を採用した、ディープラーニングや高性能コンピューター向けの高性能GPU)に匹敵する性能を持ちながら、コスト削減と特定用途への最適化を図っています。
フォーティネット(FTNT)
フォーティネット(FTNT)のカスタムシリコンは、ネットワークやセキュリティタスクを加速し、10倍の性能向上と2倍のコスト削減を達成しています。
そして、これが市場シェアの拡大と利益率の向上につながっています。
Huawei
長年のカスタムチップ開発の経験を持つHuaweiは、特にAIチップ分野で高性能かつコスト効率の高い製品を提供しています。
制裁下でもその競争力は揺らいでいません。
シスコ・システムズ(CSCO)
シスコ・システムズ(CSCO)のSilicon Oneチップは、ブロードコム(AVGO)のスイッチチップ(ネットワーク機器やデータセンターで使用されるハードウェアで、膨大なデータを高速かつ効率的に転送するために設計されている)に対抗し、AI駆動型データセンターネットワーキングでのリーダーシップを維持しています。
パートナー支援による設計
ハイパースケーラー企業は、独自のカスタムシリコンを活用してインフラを最適化する動きを加速させています。
その背景には以下の要因があります:
1. 高度な技術力:シリコン管理を支える優れたソフトウェア能力を保有。
2. 膨大な設備投資:年間投資額は300億ドルを超え、将来的には1,000億ドル規模に達すると予想されます。
3. エンドアプリケーション重視:CUDAのようなミドルウェアを介さず、直接ユーザー向けのサービスに特化。
4. 特定用途向けワークロード:DLRM(メタ・プラットフォームズが開発したレコメンデーションシステム用のディープラーニングモデル)やハイパーバイザー(仮想化技術の中心的なコンポーネントであり、物理的なハードウェアを抽象化し、複数の仮想マシンを同時に動作させるためのソフトウェアまたはファームウェア)など、専用ハードウェアで効率を最大化できるタスクへの適応。
ただし、半導体分野の専門知識が限られているハイパースケーラー企業は、Alchip Technologies(3661.TW)、ブロードコム(AVGO)、マーベル・テクノロジー(MRVL)といったASICベンダーの支援を受けています。
これらのベンダーは、半導体設計の専門知識や重要なIPを提供し、開発の効率化とコスト削減を可能にしています。
生成AI(GenAI)の急成長や設備投資の拡大に伴い、ハイパースケーラー企業は長期的なコスト削減を実現するため、カスタムシリコンへの投資をさらに増やしています。
AIトレーニングではCUDAのようなミドルウェアが不可欠ですが、推論向けチップは安定したワークロードを対象としており、ハイパースケーラーが独自設計しやすい分野です。
このアプローチにより、AIワークロードの高速化が一層進むことが期待されています。
AWS(AMZN)
AWS(AMZN)は2015年、イスラエルのチップスタートアップAnnapurnaを買収し、カスタムシリコン開発を本格化しました。
同社のArm(ARM)ベースのサーバーチップは、インテル(INTC)やAMD(AMD)の製品に比べ、コストあたりの性能が30%優れています。
さらに、Alchip Technologiesと協力してAIトレーニング用のTranium(AWSが開発したAIトレーニング用アクセラレータ)チップや推論用のInferentia(AWSが設計したAI推論用プロセッサ)チップを開発しました。
また、Nitro DPU(データプロセシングユニット)は、AWSが開発したハードウェアで、EC2インスタンスの仮想化とセキュリティを効率化するためのデータ処理ユニットであり、ハイパーバイザーの負荷を軽減し、CPUオーバーヘッド(システムやプロセスが本来の目的を達成するために必要な追加的な負担やコスト)を20%削減することで、大幅なコスト優位性を実現しています。
アルファベット(GOOGL)
アルファベット(GOOG/GOOGL)は2015年以降、ブロードコムと共同でTPU(Tensor Processing Unit)を開発しており、生成AI(GenAI)の需要増加により、年間100億ドル規模の注文に達する可能性があります。
TPUは機械学習(ML)や深層学習(DL)のワークロードを加速し、検索サービスのような低コストのサービス提供を支えています。
しかし、サムスン電子(005930.KS)と開発したTensor G4は、4ナノメートル・プロセスの性能不足により苦戦しており、次世代のTensor G5ではTSMC(TSM)への移行を決定しました。
TPU自体は競争力がありますが、その複雑さからエヌビディア(NVDA)のソリューションに比べやや劣ると見られています。
さらに、アルファベットはArmベースのCPU「Axion」を開発し、インテルと共同でIPU(Infrastructure Processing Unit)の開発にも取り組んでいます。
マイクロソフト(MSFT)
マイクロソフト(MSFT)はこれまでエヌビディアのチップに依存してきましたが、エヌビディア製品のコスト増に対応するため、独自のカスタムシリコンの開発を進めています。
今年、ArmベースのCPUと、マーベル・テクノロジー、および、Alchip Technologiesと共同開発した推論用チップ「Maia」を発表しました。
また、ジュニパー・ネットワークス(JNPR)の共同創業者が主導するEthernet(コンピュータネットワークにおいて、デバイス間を有線で接続するための通信規格の一つ)ベースのAIネットワークチップの開発にも取り組んでいます
メタ・プラットフォームズ(META)
メタ・プラットフォームズ(META)とByteDanceは、AIチップの開発においてブロードコムのASICサービスを活用しており、特にコンテンツ推奨を加速するための専用チップに注力しています。
両社はAIへの投資を拡大し、主要業務の効率化を進めています。
以上より、ハイパースケーラーによるカスタムシリコンの導入は、長期的なコスト削減とインフラ効率の向上を目指した大きな戦略転換を象徴していると言えます。
今回のレポートは以上となります。
次章Part 2では、チップレベルのスケーリングが物理的な限界に近づく中で、PCB(プリント基板)の重要性とインテル(INTC)とアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)が採用しているチップレベルのパッケージング手法の違いを詳しく解説していきますので、是非、ご覧いただければと思います。
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