01/04/2025

【半導体:Part 1】最新の半導体市場動向:2024年度はAI関連が驚異的な成長を遂げた一方で、AI関連以外の半導体分野は停滞!

a computer generated image of a ball of stringダグラス・ オローリンダグラス・ オローリン
  • 本編は、注目の半導体セクターの2024年度の振り返りと今後の見通しに関する詳細な長編レポートであり、6の章で構成されています。
  • 本稿Part 1では、2024年度末時点のAIやスマートフォン関連等を含む、最新の半導体市場動向に関して詳しく解説していきます。
  • 2024年はAI分野が驚異的な成長を遂げた一方で、半導体業界や自動車分野などAI以外の分野は停滞し、特に半導体の旧型技術は供給過剰の影響を受けた年となりました。
  • エヌビディア(NVDA)の株価が約200%上昇するなど、AI関連企業は圧倒的な成功を収めた一方で、半導体業界全体のパフォーマンスは大きな格差が生じた年となり、主要分野のばらつきが顕著でした。
  • AIの急成長に伴い、テクノロジー業界では固定費と高い限界費用の新たなコスト構造が生じ、これまでのビジネスモデルが根本的に変化しつつあることが2024年の特徴となっています。

最新の半導体市場動向とは?

昨年、私は2024年を「AIの思春期」と呼びました。それは大胆な予測でしたが、実際には驚異的な成長が現実のものとなりました。この1年は、まさにAIの年と言っても過言ではありません。

皮肉なことに、AI関連分野が驚異的な成功を収める一方で、それ以外の分野は停滞していました。特に驚きだったのは、SOXX(半導体株指数)がSPY(S&P 500 ETF)のパフォーマンスを下回ったことです。SOXXの主要構成銘柄が軒並み100%以上の上昇を記録した年に、こうした結果になるとは想像もつかなかったでしょう。

(出所:Koyfin)

これが、2024年で一番印象深い話だと思います。まさに「AI対その他すべて」という年でした。今年、エヌビディア(NVDA)の株価はほぼ200%も上昇しましたが、半導体業界全体の中央値は下落していました。この驚異的な格差は、歴史に残る出来事と言えるでしょう。1997~1999年の市場を振り返ったとき、業績が悪くても株価が上がった企業が多くありましたが、今回ほど結果の差が極端だったことはこれまでに見たことがありません。そして、この恩恵を受けたのは主に大手企業だけでした。

そこで本稿では、AI(もちろん今年の主役で、私の担当分野でもあります)の話ではなく、半導体業界全体にとって「失われた年」となった状況についてお話ししたいと思います。そしてその後、再びAIの話に戻ります。下記のチャートをご覧いただければわかるように、自動車関連分野にとってはまさに「破滅の年」とも言えるものでした。ウルフスピード(WOLF)は破産するかもしれません。

2024年半導体のトータルリターンパフォーマンス

(出所:SemiAnalysis)

自動車、通信、スマートフォン関連の半導体市場は停滞の谷底に

AI以外の分野を見渡すと、皮肉なことに半導体業界全体は決して良い状況ではありません。TSMC(TSM)は最先端のAI分野では力を発揮していますが、一方で旧型技術分野は歴史的な供給過剰に直面しています。現在、旧型技術を扱うファブはどこも過剰な生産能力を抱えており、この状況はもはや修正不可能だと言えるでしょう。

特に自動車分野は非常に厳しい年を迎えました。2022年には市場の「スター」のような存在で、2023年には市場平均に踏みとどまりましたが、2024年には完全に崩壊してしまいました。

2024年度のリターン(X軸)対2023年度のリターン(Y軸)

(出所:SemiAnalysis)

この混乱を詳しく見てみると、最も大きな打撃を受けたのは自動車、アナログ、スマートフォン分野です。これらの企業は昨年の驚異的な成長(60%以上!)では成功を収めていましたが、今年は大きく後れを取っています。その結果として、半導体業界の中央値は「良い年」どころか、「厳しい年」だったと言わざるを得ません。

(出所:SemiAnalysis)

皮肉なことに、私は以前から半導体業界では分野ごとのパフォーマンスのばらつきがさらに顕著になるだろうと考えていました。そして今年はまさにその典型例です。製品ラインごとに異なるサイクルが現れ始めており、それが非常にはっきりとした形で表れた年でした。

また、半導体業界が本質的に景気循環の影響を受けやすいという点も強調しておきたいです。過去を振り返ると、「安値で買う」ことがしばしば成功の鍵となってきました。自動車分野には懸念材料がいくつもありますが、それでも現在では最も注目すべきセグメントの一つだと思います。来年は、もしかするとAIが不調に陥り、その代わりに自動車、電力、IoT、通信分野が特に好調になる、という逆転のシナリオが見られるかもしれません。

(出所:SemiAnalysis)

一方で、メモリ、PC、モバイル分野はその中間に位置しています。昨日の遅れを取った分野が明日には勝ち組になり、その逆もあり得るのがこの業界です。しかし、こうしたニッチな半導体の話はここまでにして、本題に移りましょう――AIです。

AIの快進撃は継続、AI関連の半導体市場は好調!

エヌビディア(NVDA)は今年、驚異的な成果を挙げましたが、これは驚くべきことではありません。同社は今もなお、他社が基準として比較する「標準的存在」であり続けています。そのGB200製品は、これからの市場需要にほぼ完璧に応えるものと言えるでしょう。マーベル・テクノロジー(MRVL)やブロードコム(AVGO)も優れた業績を残しましたが、エヌビディアのレベルにはまだ達していません。

エヌビディアのテクノロジー上の強みに関しては、下記のレポートにおいて詳しく解説しておりますので、同社への理解を一層深めるために併せてご覧いただければと思います。

正直に言うと、AI関連の取引がこの2年間で驚異的な成功を収めた後、年末にはその勢いが衰えるのではないかと心配していました。しかし皮肉にも、年末に非常に強気な材料が登場しました――それが「O3」です。世界がスケーリング法則に注目する中、まだ多くの改善の余地が残されていることを実感させる出来事であり、O3はその未来の一端を垣間見せてくれました。

(出所:ARC AGI

私は、モデルの改善には経済的な制約を除けば実質的な限界は存在しないと考えています。そして、将来的にはこの経済的制約が最大の課題になるでしょう。無限の資金を投入すればモデルが改善されるのは当然ですが、それがビジネスとして成立するのかという問題が残ります。

これが2025年の重要な課題になるでしょう。AIの経済性をどのように成立させるのか?これまでのインターネットに関する基本的な前提のひとつが崩れました。それは「限界費用が存在しない」という考えです。しかし、現在では限界費用が再び生じており、その結果、多くのハイパースケーラーはより資本集約的なビジネスモデルに移行せざるを得なくなっています。

(出所:@fchollet)

アグリゲーション理論の時代は終わりを迎え、AIの進展によってテクノロジーは再び高コスト化しています。消費の増加に伴いコストが増えるという関係は、これまでのインターネット時代の考え方とは正反対です。そして、これが今年直面する大きな課題になるでしょう。ハイパースケーラーのビジネスモデルは「限界費用がゼロである」という前提に支えられてきました。つまり、一度インフラを整え、インターネット規模で製品にユーザーを集めさえすれば利益を生み出せるという構造でした。

しかし、この時代は間もなく終わりを迎えます。そして、未来はこれまで以上に複雑で、計算資源を大量に消費する時代になるでしょう。2010年代を振り返ると、その時代が技術の長い歴史の中で「素朴でシンプルだった時代」として語られる可能性があります。私たちがこの期間に当然と考えていた基本的な前提が、今まさに崩れつつあるのです。この変化こそが、今後のテクノロジーの風景を大きく塗り替える、最も重要な転換点となるでしょう。

Web1.0からWeb2.0、そして、Web3.0への移行に関しては下記のレポートで詳細に解説しておりますので、こちらも併せてご覧いただければと思います。

Part 1

Part 2

ZIRP(ゼロ金利政策)の下で資本コストは非常に低く抑えられ、一部の投資ではほぼ無限に近いリターンが得られる時代が続いていました。しかし、その時代は終わりを迎えました。AIの台頭により、新たなコスト構造が生まれています。これまでのテクノロジー企業は、極めて高い固定費と限界費用ゼロというパラダイムの中で成長してきました。しかし今では、「極めて高い固定費」に加え、「高い限界費用」も伴う状況に変わっています。この変化は、これまでのビジネスモデルを根本から覆すものです。

この変化が経済にどのような影響を及ぼすのかはまだ不透明ですが、私自身、この新しい資本サイクルについて多くの考えを持っています。近いうちに、この資本サイクルに焦点を当てたフォローアップ記事を書きたいと考えています。

そして、次章では、2024年度の半導体関連銘柄の株価パフォーマンスに関して詳しく分析していきます

また、半導体&テクノロジー銘柄に関するレポートを「毎月約10件、年間で約100件程度執筆しており、私のプロフィール上にてフォローをしていただくと、最新のレポートがリリースされる度にリアルタイムでメール経由でお知らせを受け取ることができます。

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※続きは「【半導体:Part 2】2024年度の半導体関連銘柄の株価パフォーマンスを徹底分析!」をご覧ください。


アナリスト紹介:ダグラス・ オローリン / CFA

📍半導体&テクノロジー担当

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