【Part 3】パランティア・テクノロジーズ(PLTR)とOpenAIの比較:フロンティアモデルへのアクセスやセキュリティ面が今後の鍵?

- 本編は、注目の米国AI企業であるパランティア・テクノロジーズ(PLTR:Palantir Technologies)の将来性を詳細に分析した3つの章から成る長編レポートとなります。
- 本稿は「Part 1:財務&バリュエーション分析とDOGE(政府効率化省)の影響」「Part 2:パランティア・テクノロジーズとエヌビディア(NVDA)の比較」「Part 3:パランティア・テクノロジーズとOpenAIの比較」の3つの章で構成されています。
- 本稿Part 3では、注目の米国発のAI企業であるOpenAIとの比較を通じて、パランティア・テクノロジーズが抱えるテクノロジー上のリスクと将来性を詳しく解説していきます。
- OpenAIは、収益性や投資対効果を重視し、基盤モデル開発から消費者向けアプリやエンタープライズ向けAIプラットフォームへの戦略転換を進めています。
- 同社は「ChatGPT」を中心とする高収益なインターフェース事業に注力しつつ、自社モデルの開発を縮小し、他社モデルの活用も視野に入れています。
- 一方で、パランティアやxAIとの競争が激化しており、特にエンタープライズ導入の柔軟性やセキュリティ面での課題が今後の成長の鍵を握っています。
※「【Part 2】パランティア・テクノロジーズ(PLTR)とエヌビディア(NVDA)の比較:パランティアはエヌビディアの2年前?」の続き
前章では、パランティア・テクノロジーズ(PLTR)の最新決算を踏まえた財務とバリュエーション分析、並びに、イーロンマスク氏率いるDOGEが同社に与え得る影響の詳細な分析を通じて、同社の今後の株価見通しに関して詳しく解説しております。
本稿の内容への理解をより深めるために、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上にて、前章も併せてご覧ください。
パランティア・テクノロジーズ(PLTR)の競合OpenAI:基盤モデルからAIアプリケーションと消費者向けインターフェースへと戦略を転換
OpenAIの戦略における大きな転換点は、同社が非営利のAI研究機関というよりも、営利を目的としたテック企業の姿に近づきつつあるという点です。この方向転換は、おそらく基盤モデル(FM:Foundational Model)の開発に対する投資家のROI(投資対効果)への懸念が高まっていることに起因しています。特に、DeepSeekやxAIのような新規参入企業がトップレベルの成果を上げる中で、競争が激化している状況です。
投資家が懸念しているのは、FMの開発には莫大な資本が必要でありながら、そのモデルがわずか数四半期で陳腐化してしまう可能性が高いことです。新しい世代のモデルがすぐに登場するため、開発したモデルの価値が急速に減少するからです。こうした事情から、FMラボ単体での事業は財務的に魅力の乏しいものとなっています。
OpenAIが現在の1,500億ドルという企業評価額を正当化し、年間経常収益(ARR)を40億ドル以上に拡大し続けるためには、より高収益な事業領域へと進出する必要があります。その最も論理的な選択肢が、「ChatGPT」アプリおよびWebサイトです。現在、ChatGPTは月間アクティブユーザー数(MAU)が4億人を超えており、モデル研究を超えた同社の企業価値を支える中核的な柱となっています。
実際、OpenAIは将来的に自社でFMを開発することから徐々に撤退し、代わりにDeepSeekやxAIなど他社のモデルを活用する方向へと移行する可能性すらあります。この戦略は、株主にとってより高いリターンをもたらす可能性があります。というのも、モデルを提供するインターフェースの課金モデルでは、粗利益率が80%を超えることもあり、FM開発に比べて圧倒的に収益性が高いからです。一方、FM開発では、最良のケースでも利益率は50%前後にとどまり、最悪の場合には大規模なキャッシュバーン(資金の消耗)を招くことになります。
現状、APIによる収益だけではモデルのトレーニングコストを完全に回収することは困難と見られており、OpenAIがAIアプリケーションおよび消費者向けインターフェースへと戦略をシフトしているのは、財務的により持続可能な方向性であると考えられます。
OpenAIの2024年の予想支出
同社は、株式報酬を除いた今年の損失が50億ドルにのぼると見込んでいます。
(出所:The Information)
OpenAIは、消費者向けAIインターフェース分野での支配的な地位を確立するだけでなく、基盤モデルを補完するかたちでエンタープライズ向けのAIプラットフォームスタックの構築を進めています。当初、OpenAIはマイクロソフト(MSFT)の成熟したエンタープライズ向けのGTM(Go-To-Market)体制とAzureインフラを活用していました。しかし、マイクロソフトのAI Studioが期待されたほどのスケーラビリティを実現できなかったことを受け、OpenAIは次第に独自のエンタープライズ展開を模索するようになりました。
この動きは、2023年11月に開催されたOpenAI初の「Dev Day」で発表された「Assistant API」から始まり、現在ではOpenAIをAIアプリケーション開発のデフォルト選択肢とすることを目的とした、より広範な「エージェントスタック」へと進化しています。
OpenAIのAI PaaS(Platform-as-a-Service)に対するアプローチは、同社の基盤モデルに関する専門性を出発点とし、AI開発の効率化を図るプラットフォーム機能を段階的に追加するという戦略に基づいています。一方で、ハイパースケーラーやスノーフレーク(SNOW)、Databricksは、自社のクラウドデータプラットフォームを基盤としてAI PaaSを構築しています。
これに対して、パランティア・テクノロジーズ(PLTR)はまったく異なるアプローチを採用しています。最初にエンドユーザー向けアプリケーションから出発し、そこからSDDIやオントロジー、Foundryといった社内ツールを製品化し、堅牢なエンタープライズ向けAIスタックとして完成させました。
たとえば、パランティア・テクノロジーズのAIPは、多国籍企業が分断されたデータサイロを統合し、RAG(検索拡張生成)によって関連情報をLLMエージェントに提供することを可能にします。これに対して、OpenAIのファイル検索機能は現在100GBのファイルまでしか対応しておらず、制約があるため回避策が必要です。さらに、OpenAIのファイル検索を利用するには、データをセキュリティ境界の外に送信する必要があり、金融や医療のような厳格なコンプライアンスが求められる業界にとっては、機密データを外部AIサービスにさらすリスクとなります。
OpenAIのAI PaaS戦略は、消費者向けAI事業と同様に、高付加価値で競争優位性のある市場において利益性の高いポジションを確保しようとするものであり、一方で基盤モデルの開発は徐々にコモディティ化が進んでいます。
このような動向は、パランティア・テクノロジーズがAIスタック全体においていかに独自のポジションを築いているかを、改めて浮き彫りにしています。
パランティア・テクノロジーズ(PLTR)のAIPとOpenAIはどちらが優れているのか?
パランティア・テクノロジーズ(PLTR)のAIP(Artificial Intelligence Platform)とOpenAIの競争は、「勝者がすべてを手にする」というような直接的な勝負ではなく、ユースケースに応じて使い分けられる性質のものです。OpenAIのアプローチは、アップル(AAPL)のiPhoneに似ており、最初は洗練されつつも機能を最小限に絞り、そこから徐々に機能を拡充していくスタイルを取っています。
一方、パランティア・テクノロジーズは、AndroidでもAppleでもなく、独自のカテゴリに位置づけられる存在です。長年にわたる先行投資と研究開発によって、AIPは初期段階から非常に完成度が高く、エンタープライズ用途にも即対応できるプラットフォームとして設計されています。ただし、アジャイル開発のアプローチにより、継続的に新機能が追加されており、その中には発展途上のものも含まれています。
パランティア・テクノロジーズはAndroidやDatabricksとは異なり、厳格なガバナンスとセキュリティ層を維持しており、すべてのコンポーネントがデフォルトで統制・テスト・安全確保されている点が特徴です。
同社のプラットフォームは、さまざまなデータソース、環境、導入シナリオに柔軟に対応できるよう設計されています。これに対して、OpenAIのエンタープライズ向け導入は、社内にAIチームを抱えており、複雑な導入プロセスやローカルモデルのホスティングを必要としない企業に限られる可能性があります。
また、OpenAIのソリューションでは、機密性の高いデータが外部に共有されるリスクを避けたい企業にとって、厳格なセキュリティ境界を維持する上での課題もあります。これは、ファインチューニングに使用されるデータの外部送信を防ぐ必要がある金融業界や医療業界などにとって、特に重要な問題となります。
AI分野は非常に広大であり、複数の企業が共存できる余地がありますが、パランティア・テクノロジーズはその技術の幅広さ、成熟度、市場浸透率、パフォーマンス、そして「フォワードデプロイ型エンジニアリング(現場常駐型エンジニア)」といった強みを有しており、大きな市場シェアを獲得する有力な立場にあります。
ただし、例外的な存在として考えられるのがxAIです。同社は、基盤モデル(FM)の開発だけでなく、消費者向けAIインターフェースやAIスタックの分野においても急速に追い上げを見せています。Grok-3のリリース後、xAIのAIアシスタントは同カテゴリーで最も多くダウンロードされたアプリとなり、現在はOpenAIに対抗できるAI開発スタックの構築と、ARR(年間経常収益)の成長加速を次の目標としています。
特筆すべきは、xAIが現在「フォワードデプロイ型エンジニア」の採用を開始している点です。これはパランティア・テクノロジーズの導入モデルを参考にして、企業導入の推進およびエンタープライズ対応の強化を図るものです。
さらに、xAIはパランティア・テクノロジーズと同様、創業者、ベンチャーキャピタル、優秀な人材が密接に連携するエコシステムの中で運営されています。これは、イーロン・マスク氏が「PayPalマフィア」と呼ばれる非公式な人脈ネットワークに属しており、パランティア・テクノロジーズのテクノロジーや政策に対する価値観とも強く一致していることが背景にあります。
したがって、パランティア・テクノロジーズの優秀な人材がxAIに移籍し、xAIが本格的なエンタープライズ向けAIプロダクトを構築する上で、その信頼性をさらに高めるという展開があっても、何ら不思議ではありません。
パランティア・テクノロジーズ(PLTR)にとっての重要な変数:フロンティアモデルへのアクセス
パランティア・テクノロジーズ(PLTR)のAIP(Artificial Intelligence Platform)にとって極めて重要な要素は、フロンティアモデルへのアクセスです。ここで言う「フロンティアモデル」とは、必ずしも最も高性能なモデルではなく、「コストあたりの性能」が最も優れているモデルを指します。実際の業務用途では、仮にあるモデルが他のモデルより50%高性能であっても、コストが10倍かかるのであれば、両方が同じ成果を達成できる場合には、コスト効率の良い方が魅力的と判断されます。
そのため、性能・コスト効率・導入の柔軟性をバランス良く兼ね備えているかどうかが、どのAIプラットフォームがエンタープライズ導入をリードするかを左右する極めて重要な要因となります。
パランティア・テクノロジーズはエンドユーザー向けアプリケーションから逆算してAIPを構築してきたことで大きな成功を収めてきましたが、一方で、基盤モデル(FM)層を自社で直接保有していない点にはリスクが残ります。
現時点では、DeepSeekが「性能あたりのコスト(perf/$)」の面で業界をリードしており、もしこの傾向が今後も続く場合、パランティア・テクノロジーズにとっては懸念材料となる可能性があります。というのも、パランティア・テクノロジーズは中国および中国のテック業界に対して強硬なスタンスを取っており、もしDeepSeekが政治的に利用されるようになれば、同社のオープンソースモデルに制限が加えられる恐れがあるからです。
たとえば、MITライセンスが修正されたり、新たなライセンスが導入されたりして、軍事用途の排除や、年間収益が1億ドルを超える企業による商用利用に対して事前承認を義務づけるといった制限が課される可能性があります。
仮に、米国が大規模言語モデル(LLM)における性能あたりのコスト競争で主導権を維持できず、そのリードをパランティア・テクノロジーズが敵対的と見なすベンダーに譲るような状況になれば、あるいは米国が主導権を保ったとしても、メタ・プラットフォームズ(META)のような企業が市場を独占し、高価格を設定するような事態となれば、パランティア・テクノロジーズの将来的な利益率には大きな圧力がかかることになります。
最終的に、基盤モデル(Foundational Model)の開発は、資本と専門知識を大量に必要とする領域であり、限られた少数の研究機関によって管理され続けると考えられます。パランティア・テクノロジーズのAIPにおける長期的な成功は、このFM業界における競争環境およびコモディティ化(汎用化)の進行状況に大きく左右されます。
仮にFM開発がメモリ産業のようなモデルに従い、激しい競争やオープンソースの取り組みによって価格競争が進み、コモディティ化が加速するのであれば、パランティア・テクノロジーズはモデルコストの低下という恩恵を受け続けることが可能です。
しかし逆に、FM市場が少数の支配的プレイヤーによる寡占状態に集約され、そのプレイヤーたちが価格を引き上げる方向で協調するようになれば、業界全体の収益性は改善するかもしれませんが、パランティア・テクノロジーズのマージンは圧迫され、OpenAIなどとの競争圧力も高まる可能性があります。
こうしたリスクは、言語モデルにとどまらず、他のAI領域にも広がっています。コンピュータビジョン、実世界で動作する物理エージェント、動画、音声、コンピュータとのインタラクションといった分野でも、継続的なコモディティ化が進むことが重要です。
もしOpenAIやその他の統合型AIベンダーが、これらのモデルを支配するようになれば、エンド・ツー・エンドでAIソリューションを提供する上で大きな優位性を持つことになります。
一方で、独自のFMスタックを持たないパランティア・テクノロジーズにとっては、基盤モデルがボトルネックとなり、システム全体のパフォーマンスを制限する要因となるリスクに直面する可能性があるでしょう。
3つの章から成る長編レポートはこちらで以上となります。今後もパランティア・テクノロジーズの動向は、日々のレポートの執筆を通じて皆様にアップデート出来ればと思っておりますので、次回のレポートもお見逃しなく!
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