【Part 1:前編】スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)はどんな会社?足元の株価急落の理由とエヌビディアとの関係について徹底解説!
コンヴェクィティ- 今回はスーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)に関する全3回のレポートです。Part 1では同社の詳細とOEMやODMとの差別化について、Part 2ではSysMooreへの影響力について、Part 3では現在の詐欺疑惑について解説します。
- Part 1の前編である本稿では、特にスーパー・マイクロ・コンピューターが「どんな会社か」という疑問に答えながら、同社の株価急落の理由とエヌビディアとの関係性について詳しく解説していきます。
- スーパー・マイクロ・コンピューターは、特にエヌビディアとの戦略的パートナーシップと革新的なビルディングブロックアーキテクチャにより、急成長を遂げています。
- しかし、強固な事業基盤を持ちながらも、売上減速の噂や空売りレポートによる詐欺疑惑、エヌビディアからの支持を失う可能性等の憶測により、株価は急落しています。
- スーパー・マイクロ・コンピューターは、OEMとODMの要素を併せ持つ独自のビジネスモデル、アグレッシブな営業文化、そしてシリコンバレーに拠点を置くという戦略的な立地を活かし、サーバー市場での競争優位性を確保しています。
- さらに、Open Compute Project(OCP)への参加や予測保守とAI成長に注力することで、将来の拡張性と効率性に向けた強固な基盤を築いています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)に関して
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)は、生成AIブームにより急成長を遂げています。その背景には、データセンターでのエヌビディア(NVDA)製GPUの需要急増があり、エヌビディアのパートナーであり大手サーバーベンダーであるスーパー・マイクロ・コンピューターは、力強い売上成長と株価上昇を享受してきました。
しかし、2024年3月に株価が1,200ドル(株式分割前)のピークに達した後、同社の株価は急落しています。その原因としては、以下の点が挙げられます。
1. 売上減速の噂
2. 空売り業者による詐欺疑惑の指摘
3. デル・テクノロジーズなどの競合にエヌビディアの支持を奪われる懸念
特に、8月にHindenburg Researchによる同社に関する空売りレポートが発表され、株価にさらなる影響を与えました。
そこで、本稿では、スーパー・マイクロ・コンピューターが上場廃止や大きな財務リスクに直面しないことを前提に、そのビジネス基盤について考察します。
同社は1993年にチャールズ・リャン氏によって設立され、当初は投資家から疑念を持たれましたが、家族の支援を受けて成長しました。リャン氏の兄弟たちはAblecomやCompuwareなどの会社を立ち上げ、スーパー・マイクロ・コンピューターの製品ラインを補完しました。
スーパー・マイクロ・コンピューターは、モジュール設計のマザーボードによりインテル(INTC)製CPUの迅速な採用を実現し、それが成長の一因となりました。また、献身的な企業文化と長時間労働を厭わない姿勢が、同社をサーバー技術のリーダーに押し上げたのです。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)のビルディングブロックアーキテクチャ
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)のビルディングブロックアーキテクチャ(モジュールごとの部品を組み合わせることで、カスタマイズ可能なシステムを構築するアプローチ)は、サーバーのカスタマイズに革新をもたらしました。この仕組みにより、モジュール単位で部品を選択でき、標準的な製品ではなく、ニーズに応じたオーダーメイドのサーバーを提供することが可能となっています。このモジュール化こそが同社の大きな競争優位であり、他社との差別化や高い利益率を実現しています。
また、この設計により新しいマザーボードの開発スピードが向上し、改良した部品だけをテストすれば良いため、時間とコストを削減できます。一方、競合他社の一体型アーキテクチャではカスタマイズが難しく、新しいサーバーの導入にも時間がかかってしまいます。同社のアプローチは、他に類を見ないカスタマイズ性、迅速な市場投入、効率的なデバッグを可能にし、サーバー業界での優位性を維持しています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)のエヌビディア(NVDA)との提携
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の成長はインテルなどの大手企業の注目を集め、優先的なパートナーとしての地位を確立し、新しいチップの仕様やサンプルに早期からアクセスできるようになりました。サーバー市場におけるスーパー・マイクロ・コンピューターの柔軟な対応力は、AMD(Zen1)やエヌビディア(CUDA、テスラ)等の主要プレイヤーとの戦略的提携を重視してきました。
特にエヌビディアとは、両社が台湾系アメリカ人技術者によって設立されたこともあり、非常に密接な関係を築いており、市場投入前からGPUシステムの共同開発を進めてきました。スーパー・マイクロ・コンピューターは早い段階からGPUに特化したサーバーへの投資を行い、競合よりも先んじて最大16基のGPUを搭載するシステムを構築しました。この先行投資により、2023年にGPUの需要が急増した際、同社は業界の最前線に立つことができました。また、同社はエヌビディアだけでなく、AMDやインテルともAIサーバーの分野で協力し、SysMoore(システム全体のパフォーマンス向上を目指して、ハードウェアとソフトウェアの最適な組み合わせを開発・統合するアプローチ)の技術革新を進めることで、AIおよび高性能コンピューティングサーバー分野で重要な地位を確立しています。
企業文化、積極的な営業姿勢、権威主義的な経営チャールズ・リャン氏が率いるスーパー・マイクロ・コンピューターの企業文化は、一般的なシリコンバレーのスタイルとは異なります。リャン氏の実践的で集権的な経営手法は、台湾や中国のハードウェア企業に近く、彼の経営スタイルは非常に高い基準を設定しており、一部の幹部はその労働負荷が他のテクノロジー企業よりも厳しいと感じています。
このスタイルの利点は迅速な意思決定と実行にあり、それはイーロン・マスク氏がテスラ(TSLA)やSpaceXなどで成功を収めた手法に通じるものがあります。これは高リスク・高リターンのモデルであり、成長を促進する一方でリスクを集中させるため、内部の自主性を抑え、監視機能が弱まることがあります。スーパー・マイクロ・コンピューターは2017年に売上計上の問題により上場廃止となりましたが、2020年に再上場を果たしました。こうした懸念は今でも残っており、Hindenburg Researchによっても指摘されています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の2017年の会計問題について
2017年にスーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)で何が起こったのかを簡単に説明します。
2017年 - 2018年の遅延:2017年8月、同社は継続中の調査のため、2017年度の10-K報告書を期限内に提出できないと発表しました。この報告書は2019年5月に提出されました。
遅延の理由:売上計上の問題や内部統制の懸念があり、数年間の財務諸表を再検討する必要があったためです。
影響:2018年8月、同社はNASDAQから上場廃止となり、株式は店頭市場(OTC)で取引されることになりました。これにより、同社は調査の対象となり、法的措置の可能性もありました。
解決:2019年5月、同社は遅れていた報告書を提出し、軽微な修正を行いましたが、故意の不正行為は認められませんでした。
再上場とその後:2020年1月にNASDAQに再上場し、会計手続きを強化しました。また、法的問題は1,000万~5,000万ドルの範囲で和解されました。これはテスラがSECと対処したケースに似ています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の営業文化
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の積極的な営業文化は業界の常識を超えており、高い成果を上げた社員には報奨が与えられますが、一般的なアメリカのビジネス慣習とは異なる面があります。
複数のチームが同じ顧客を取り合うことで、従業員に大きなストレスがかかります。この戦略は成長を促す一方で、持続性や従業員の満足度に対する懸念も生じさせています。今後、独自の強みを保ちながら一般的なビジネス慣習とのバランスを取ることが課題となるかもしれません。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)のシリコンバレーに近い立地によるメリット
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)はシリコンバレーに近いことで、地元の大手テクノロジー企業のニーズを的確に把握し、応えることができます。本社と工場を近くに配置することで、素早い対応やカスタマイズが可能となり、迅速な改善を実現しています。また、地元での営業戦略として、レビュアーにサンプルサーバーを提供することで、特に技術に精通した顧客層からの信頼を得ています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の製品戦略
同社はオーダーメイドのサーバーと既製品の両方を提供し、幅広い顧客層に対応しています。メタ・プラットフォームズ(META)のような先進的な顧客にサービスを提供していることによる「ハロー効果」で、他の顧客も同様の構成を求めるようになります。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の営業戦略
エンタープライズ向け製品に関しては、チャネルパートナーを活用してリーチを拡大しながら、高度な営業活動を必要とせずに技術力を維持しています。
以上より、シリコンバレーに拠点を持ち、柔軟な製品展開と戦略的な営業方針を持つスーパー・マイクロ・コンピューターは、カスタマイズサーバーと既製品サーバーの両市場で優位に立ち、成長を続けています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の競合環境:サーバーベンダーの中で独自の存在
ITハードウェアメーカーは大きく分けてOEM(自社ブランドで製品を設計し、他社に製造を委託する企業のこと)とODM(製品の設計と製造を担当し、他社ブランドで販売する企業のこと)の2つに分類されます。
例えば、アップル(AAPL)のiPhoneはアップルが設計し、Foxconnのようなベンダーが製造を担当しています。アップルはOEMとしてブランド管理、製品設計、マーケティングを担い、製造を外部に委託しています。
同じように、デル・テクノロジーズやヒューレット・パッカード・エンタープライズ(HPE)といったOEMも生産をODMに委託していますが、アップルほどハードウェア開発に深く関与していません。アップルが製造技術の共同開発まで行うのに対し、デル・テクノロジーズやヒューレット・パッカード・エンタープライズはハードウェアの仕様決定にのみ注力しています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)はOEMとODMの両方の特徴を組み合わせたビジネスモデルを採用しています。競合には、デル・テクノロジーズやヒューレット・パッカード・エンタープライズ、LenovoといったOEMのほか、Quanta(2382.TW)やFoxconnといったODMもいます。これらの競合は、規模の経済や専門的な生産技術を強みにしています。スーパー・マイクロ・コンピューターがこれらの競合との競争に勝つためには、単なる積極的な営業以上の価値を提供する必要があります。
※続きは「【Part 1:後編】スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)とエヌビディアの関係:OEMとODMの特徴を融合したソリューションとは?」をご覧ください。
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