【半導体】スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)上場廃止でどうなるのか?上場廃止の可能性とその後の展開を徹底解説!
コンヴェクィティ- 本稿では、「スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)は上場廃止でどうなるのか?」という疑問に答えるべく、同社の上場廃止の可能性とその後の想定される展開を詳しく解説していきます。
- スーパー・マイクロ・コンピューターは、会計上の深刻な問題やSEC(米国証券取引委員会)による訴訟の可能性、上場廃止のリスクに直面していますが、AIデータセンター分野での強固な事業基盤と市場でのリーダーシップは依然として維持されています。
- 特に、SMCIの革新的なDirect Liquid Cooling(DLC)技術や高密度GPUラックは、イーロン・マスク氏が率いるX.aiのColossusデータセンターに代表されるように、AIトレーニングクラスターでの優位性を確立しています。
- また、司法省の調査やEYの監査辞任があっても、SMCIの事業は堅調で、AIおよびデータセンター市場における大きな成長が見込まれています。
- 仮に上場廃止となったとしても、中国企業であるLuckin CoffeeのようにOTC市場で回復の道を辿り、財務の透明性と事業の継続性が示されれば、再び強力なパフォーマンスを発揮する可能性があります。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の現状
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の状況は依然として厳しく、株価は下落傾向にあります。
これは、米司法省による調査の深化やEYの監査人辞任が影響しているためです。
市場の信頼も低下しており、会計上の問題やSECによる訴訟、上場廃止のリスクが懸念されています。
それでも、同社はAIトレーニングクラスター(人工知能モデルの学習を効率的に行うために、高性能な計算資源を集中的に配置したコンピュータシステム)での優位性やDirect Liquid Systems(直接液冷システムのことで、コンピュータの高性能部品、特にCPUやGPUから発生する熱を効率的に除去する冷却技術)の運用など、強固な事業基盤を持っています。
そこで、本稿では、以下の点について詳しく見ていきます:
・SMCIのビジネスの可能性
・会計リスクおよび上場廃止のリスク
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の基本性能:DLC・スピード・密度・カスタマイズ性
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)は技術系の顧客に人気があり、特に注目されているのがイーロン・マスク氏が設立したX.aiの「Colossus(世界最大級のAIスーパーコンピューター)」プロジェクトにおける同社の存在です。
そして、このプロジェクトにおいて、同社は重要な役割を果たしています。
Colossusは、世界最大規模のAIトレーニングクラスターで、100,000台のH100 GPUを搭載しており、メタ・プラットフォームズ(META)の24,000台を大きく超えています。
イーロン・マスク氏はAI分野でのリーダーシップを目指しており、その実現にはX.aiの急速な拡大が重要です。
X.aiは、旧Electrolux工場をわずか3か月でAIセンターに改装し、100,000台のGPUと150MWを超える電力容量を確保しました。
さらに、来年夏までに300,500台のGPUクラスターを追加する予定です。
電力供給の制限(8MW)を克服するため、X.aiは現地に2.5MWの発電能力を持つ天然ガスタービンを設置しました。
これにより、電力会社との連携や長いUPSのリードタイムを避け、テスラ(TSLA)のMegapackバッテリーでデータセンターに直接電力を供給しています。
この方法で、規制や供給の課題を回避し、Colossusに最適化された効率的な電力供給を実現しました。
また、X.aiの革新的な設計により、データセンターの迅速な完成が可能になりました。
従来の設計に頼らず、Colossusではラック(データセンターやサーバールームで使用されるサーバーやネットワーク機器を収納するための金属製の棚)内で全ての冷却が完結するシステムを採用し、GPUやCPUにはDLC冷却(Direct Liquid Cooling:サーバーの冷却方法の一種で、液体を直接サーバーの特定のパーツに流して冷却するシステム)を使用しています。
この設計により、従来のデータセンターで必要とされる二重床(床が2層になっているデータセンターの設計)やCRACユニット(データセンター内の空調管理を行う装置)が不要となり、柔軟に改装できるようになっています。
Colossusのスーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)ラック
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)は先進的な冷却ソリューションにより、市場でのリーダーシップを発揮しており、液冷市場のシェアは90%以上を占めています。
Colossusでは、各ラックに8台のHGX H100システム(エヌビディアが提供する高性能なAIスーパーコンピューティングプラットフォーム)が搭載され、1ラックあたり合計64台のH100 GPUを収容しています。
これは、競合他社の2倍の密度です。
SMCIの独自DLC冷却プレートは、GPUから直接水冷パイプラインに熱を移し、冷却はCDU(冷却分配装置)によって管理されています。
そして、エヌビディア(NVDA)の最新のBlackwellアーキテクチャに基づく高性能AIスーパーコンピュータシステムであるGB200 NVL72が登場するまでは、SMCIの高密度H100サーバーが最高のソリューションとなっていました。
Blackwellは、エヌビディアの最新GPUアーキテクチャであり、AIや高性能計算(HPC)向けに設計されています。
このアーキテクチャは、前世代と比較して大幅な性能向上とエネルギー効率の改善を実現しています。
しかし、エヌビディアのパートナー企業は72基のモジュールを1つのラックに収めるのが難しく、エヌビディアはデュアルラック構成のNVL36x2を提案しています。
そのため、将来的にBlackwellチップが登場しても、X.aiの現行のラック構成(1ラックあたり64基のH100 GPU)は依然として競争力があるように見えます。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の革新的な電力・冷却ソリューション
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)のDLC技術を導入したことで、X.aiは次世代AI分野で優位な立場を築いています。
2025年半ばまでには、X.aiのラックの性能密度が今後登場するGB200システムと同等になると見込まれています。
また、エヌビディアのCEOであるJensen Huang氏が、X.aiがBlackwellのFLOPSあたりのコストで競争力を維持できるよう、イーロン・マスク氏に割引を提示する可能性もあります。
因みに、「FLOPSあたりのコスト」は、計算性能の単位であるFLOPS(Floating Point Operations Per Second: 1秒あたりの浮動小数点演算回数)を基準にした費用効率を示す指標です。
これは、スーパーコンピューターやGPU、AI専用のハードウェアの性能を評価する際に重要な尺度となります。
ColossusのSMCIラックの正面図(各白いボックス型キャビネットが1つのラックです)
各ラックの下部に設置されたSMCIのCDU(冷却分配ユニット)
SMCIラックの背面図です。ファンが低回転で動作しているため、騒音が抑えられ、オペレーターがデータセンターで快適に作業できる環境になっています。
SMCIラックの背面パネルには、サーバー後部の冷却ファンが排出する熱を除去するための背面ドア型の熱交換器が設置されています。
データ準備用のCPUコンピュートノード
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)に対する市場の反応と技術的リーダーシップ
X.aiのスーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)を搭載した先進的な設計は、「SMCIが競争力を失っている」という空売りレポートを執筆したHindenburg Research(ヒンデンブルク・リサーチ)社の批判に対する反論となっています。
Hindenburg Research社は、2017年にネイサン・アンダーソン氏によって設立された米国の投資調査会社で、主にアクティビスト・ショートセリング(空売り)を専門としています。
同社は、企業の不正行為や不正会計などを調査し、その結果を公開することで、投資家に警鐘を鳴らす役割を果たしています。
現在のSMCIの供給問題は、将来の注文の80%を占めると見込まれる液冷ラックに注力していることが原因です。
SMCIの柔軟なアーキテクチャにより、さまざまな施設への迅速な導入が可能となり、建設時間やコスト、従来型の冷却インフラも最小限で済みます。
今後、SMCIは競合に先んじてNVL72ラックの拡充を図り、DLCコンポーネントの強力な供給網によってこれを支えています。
そのため、液冷技術の革新を継続することで、進化するAIデータセンター市場での地位を一層強固なものにしています。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の上場廃止リスクとFUDの高まり
Hindenburg Research社は、スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の会計処理について、特にAblecomやCompuwareとの関連取引に疑問を呈しており、その指摘には正当性があるように見えます。
2024年10月30日、SMCIの監査人であるEYが「最近の情報により経営陣への信頼が揺らいだため辞任します」と発表しました。
EYの辞任と司法省の調査によって、SMCIの上場廃止リスクはさらに高まっています。
手続きを避けるためには、SMCIは11月18日までにNASDAQへのコンプライアンス計画を提出しなければなりません。
計画が承認されれば180日間の延長が与えられる可能性はありますが、SMCIには過去に上場廃止の経歴があるため、NASDAQがどこまで寛容に対応するかは不透明です。
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)の上場廃止リスクは株価に織り込み済み?
スーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)は最近、売上がガイダンスをわずかに下回る可能性があると示唆し、調査の結果、「経営陣による不正行為や違法行為の証拠は見つからなかった」と発表しました。
しかし、SMCIは依然として2023年度の年次報告書を提出しておらず、11月16日までにNASDAQへのコンプライアンス計画を提出する必要があります。
計画が認められない場合、上場廃止となり、さらなる売り圧力がかかる可能性が高まります。
このような状況で「SMCIを買うべきタイミング」はいつなのかが気になるところです。
類似のケースとして、Luckin Coffeeがあります。
中国で設立されたLuckinは、国内のコーヒー消費の低さに着目し、2019年5月のIPOで6億9,500万ドルを調達しました。
しかし、バリュエーションを維持するために経営陣が2019年に1億2,300万ドル分の注文を虚偽に計上し、その後、空売りレポートとMuddy Waters(主に企業の不正や財務上の問題を調査し、その情報を公開することで利益を得る米国の投資調査会社)による告発で株価は80%も急落、上場廃止により時価総額は50億ドル失われました。
それでも、Luckinは再編し、新たな投資を確保し、2020年の売上は前年比33.3%増の40億ドルに達し、事業の堅実さを示しました。
年間成長率が約50%に達し、キャッシュロスも減少、営業利益率は約10%、粗利益率も20%ほど改善しました。
しかし、Luckinは業績が回復しても、PSR(株価売上高倍率)やP/GP(Price to Gross Profit ratio:株価粗利益倍率)などのバリュエーションは控えめでした。
2024年7月には20,000店舗を展開し、中国においてスターバックスの店舗数を大幅に超えました。
OTC市場でのバリュエーションは、過去12か月利益で24倍、来期予測の利益ベースで15倍と抑えられていますが、将来を見据えた投資家にはリターンのチャンスとなっています。
もしSMCIの事業基盤が引き続き堅調であれば、OTC市場でも同様の評価を受け、流動性の確保と割安なPER比での取引が可能になるかもしれません。
しかし、上場廃止となれば、機関投資家の売却や個人投資家のパニック売りで価格が急落する可能性があります。
OTC市場に移行した場合、SMCIは財務の透明性を確保するまで「ペナルティボックス」状態に置かれるでしょう。
会計問題があったとしても、それは2億ドルを超える規模にはならず、SMCIの収益は保たれる見込みです。
もしSMCIが最新の財務報告を提出すれば、投資家の関心は再び業績に戻り、ファンダメンタルズに基づいたバリュエーションが復活する可能性があります。
そして、たとえOTCでの上場が続いたとしても、状況が明確になればSMCIには再評価の余地が残っているでしょう。
また、今年の10月初旬に執筆したSMCIに関するレポートに関心がございましたら、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上よりご覧いただければと思います。
また、インベストリンゴのテクノロジーセクターのアナリストであるジェームズ・ フォード氏も、Hindenburg Research社によりSMCIへの空売りレポートが発表された直後に同社に関する下記のレポートを執筆しておりますので、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上より、ご覧いただければと思います。
その他のスーパー・マイクロ・コンピューター(SMCI)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、スーパー・マイクロ・コンピューターのページにアクセスしていただければと思います。
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