01/11/2025

アメリカの金利はなぜ上昇しているのか?債券利回りの上昇が米国株式市場に与え得る影響と併せて徹底解説!

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  • 本稿では、「アメリカの金利はなぜ上昇しているのか?」という疑問に答えるべく、足元の米国、並びに、グローバル経済の動向と債券利回りの上昇が米国株式市場に与え得る影響を詳しく解説していきます。
  • 米国債券利回りが急上昇している主な要因として、好調な経済指標、インフレ懸念、金融政策への期待の変化、政府借り入れの増加、期間プレミアムの上昇が挙げられます。
  • 債券利回りの上昇は株式市場に資本コストの増加やバリュエーション圧力を与える一方で、経済成長を示す場合には一部のセクターや景気循環株に恩恵をもたらす可能性があります。
  • 各国の債券利回りや通貨動向の違いが、米国や英国、中国の経済的な安定性や成長期待に対する市場の見方を反映しており、次の景気後退や市場の下落への影響が注目されています。

はじめに

米国債券利回りが市場が「恐ろしい」と感じるほど急上昇しています。

・では、なぜ利回りが上昇したのでしょうか?

・それが株式市場にどのような影響を与えるのでしょうか?

・アメリカ経済は大丈夫なのでしょうか?

本稿では、これらの疑問に加え、さらに詳しい情報を解説していきます。

さらに、次の景気後退(リセッション)や市場の下落を予測するための重要な私の使用しているマクロ指標セットである「マクロマトリックス」のレビューもお届けします。

では、早速本題に入っていきましょう!

なぜ米国債券利回りが上昇しているのか?

現在、米国債券利回りが上昇している理由として、いくつかの相互に関連する要因が挙げられます。

1. 経済指標の好調

最近の報告では、経済活動が堅調であることが示されています。たとえば、2023年12月のISM非製造業PMIは54.1に上昇しており、サービス業の拡大を示唆しています。また、2023年11月の求人件数は810万件に増加し、労働市場の逼迫がうかがえます。

2. インフレへの懸念

アメリカでは、ISMの支払い価格指数が2023年12月に64.4%まで上昇し、コスト上昇を反映しています。これによりインフレ懸念が高まり、将来のインフレを見越して投資家がより高い補償を求めるため、債券利回りが上昇しています。

3. 金融政策への期待の変化

堅調な経済指標と根強いインフレを背景に、投資家は中央銀行の政策に対する期待を調整しています。アメリカでは、連邦準備制度(FRB)が当初予想されていたよりも利下げを控え、高い金利を維持してインフレを抑制する可能性が高いとの見方が広がっています。

(出所:CME)

5月になるまで、利下げの可能性が50%に達することは期待できない状況です。

4. 政府借り入れの増加

イギリスでは、財政赤字の拡大と大規模な公共投資計画が原因で、政府の借り入れが増加しています。最近、イギリス債務管理局(DMO)は30年物国債を22.5億ポンド発行しましたが、高い利回りが設定され、借り入れコストの上昇を反映しています。同様の状況はアメリカにも当てはまります。

5. 期間プレミアム

これらの要因が積み重なり、期間プレミアムの上昇につながっています。期間プレミアムとは、短期債を繰り返し乗り換える代わりに、長期債を保有することで投資家が要求する追加利回りのことです。このプレミアムは、以下のような長期投資特有のリスクを反映しています:

・金利リスク:将来の金利変動に対する不確実性。

・インフレリスク:インフレによって長期的なリターンが目減りする可能性。

・流動性&市場リスク:長期債が短期間で売却しづらかったり、価格下落に直面するリスク。

期間プレミアムの上昇は、投資家が長期債の保有に対してより高い補償を求めており、不確実性やリスク回避の姿勢が高まっていることを示しています。

(出所:Bloomberg)

これらの要因が相まって、現在の債券利回り上昇を引き起こしており、政府の借り入れコストや投資家の戦略にも影響を与えています。

債券利回りの上昇は株式に悪影響を与えるのか?

答えは一筋縄ではいきませんが、「状況次第」です。

債券利回りの上昇が株式に悪影響を与える場合がありますが、その程度は経済全体の状況や対象となる株式の種類によります。

債券利回りの上昇が株式にマイナスの影響を与える理由は以下の通りです:

1. 資本コストの増加

債券利回りの上昇により、企業の借り入れコストが増加します。これにより、特に負債が多い企業では収益性が低下する可能性があります。

2. 株式との競合

債券と株式は投資家の資金を巡って競合します。債券利回りが上昇すると、債券が株式に代わる魅力的な投資先となり、株式市場から資金が流出する可能性があります。

3. バリュエーションへの圧力

債券利回りの上昇は、将来のキャッシュフローを評価する際の割引率を引き上げます。その結果、特に将来の収益が大きく見込まれるグロース株の魅力が低下する可能性があります。

4. 経済への懸念

債券利回りが金融政策の引き締め(例えば利上げ)の期待から上昇している場合、経済成長の鈍化を示唆している可能性があります。これは一般的に株式にとってマイナス要因です。

例外

セクターごとの影響

一部のセクター、例えば金融業(銀行など)は、利回りの上昇が純金利マージンの改善につながるため、恩恵を受けることがあります。

利回り上昇の背景

債券利回りが経済成長の加速期待によって上昇している場合、株式市場が好調になることがあります。特に、景気循環株やバリュー株は、経済拡大の恩恵を受けやすいです。

以下のチャートでは、債券利回り(米国10年債利回り)と株式(S&P 500)がどのように異なる相関を示してきたかを比較しています。

(出所:TradingView)

1980年代~2000年代初頭(正の相関)

利回りの上昇は、強い経済成長と一致することが多く、株式市場と債券利回りの両方を押し上げました。この時期の高い利回りは、成長やインフレ期待に対する楽観的な見方を反映していました。

2008年金融危機(負の相関)

投資家が安全資産である債券に資金を移したため、利回りが低下。一方で、株式はシステミックな金融リスクにより急落しました。

2010年代(混合)

金融危機後の量的緩和が利回りを抑えました。低利回りがリスク資産を支えたため、景気回復期には緩やかな正の相関が見られましたが、市場ショック時には負の相関が見られました。

2020年以降(負の相関)

インフレやFRBの金融引き締めによる利回りの急上昇で、特に割引率上昇の影響を受けやすいグロース株がバリュエーションの圧力に直面し、株式市場は低迷しました。

債券利回りの上昇が経済成長を示す場合(正の相関)と、インフレや資金調達リスクを示す場合(負の相関)で、相関関係は変化します。

2025年、米国/世界経済はリセッションに突入するのか?

現在、この点について議論が続いています。

一方で、債券利回りの上昇がより高い成長を示しているのであれば、株式市場は上昇すべきではないでしょうか?とはいえ、現在過大評価されているバリュエーション倍率が、少なくとも引き下げられることは避けられません。

さらに興味深い点もあります。

以下は、英国債(GILTS)とポンドの動きを示しています。

(出所:Bloomberg)

英国債(Gilt)の利回りも上昇していますが、イギリスやヨーロッパで本当に成長が加速しているのでしょうか?また、英国債が上昇している一方でポンド(GBP)は下落しており、経済的な不安が示唆されています。一方、アメリカでは金利とドルが同時に上昇しており、このような動きは見られていません。

中国の国債利回りが急落

30年物国債の利回りが日本の水準を下回る

(出所:Bloomberg)

一方で、中国の国債利回りは過去最低水準付近にあり、日本の利回りも上昇しているため、これが大きな問題となる可能性もあります。

次のセクションでは、現在の経済サイクルの位置を把握するため、そして今回の調整が買いのチャンスなのか、それとも大規模な市場下落の始まりなのかを見極めるために、私がマクロ経済の温度感を測るために使用している「マクロマトリックス」を詳しく見ていきます。

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※続きは「2025年度の米国経済見通し:リセッションは目前との声も、米国経済は未だCOVID対策の刺激策やAI効率化の恩恵を享受?」をご覧ください。


アナリスト紹介:ジェームズ・ フォード

📍米国マクロ経済&テクノロジー担当

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