トランプ大統領による関税の影響を徹底解説!新政権による関税はインフレと経済成長の鈍化を引き起こし、米国株にはネガティブ?
ローレンス・ フラー- 本稿では、トランプ大統領が足元で唱える関税策の分析を通じて、新政権による関税が米国経済と米国株式市場へ与え得る影響を詳しく解説していきます。
- トランプ次期大統領の関税政策は、消費者価格の上昇や企業利益の圧迫を招き、米国経済にインフレやスタグフレーションのリスクをもたらす可能性があります。
- 経済指標や株式市場の動向は堅調で、FRBの利下げ期待は低い一方、トランプ新政権の関税措置が実行されれば市場に悪影響を及ぼす可能性があります。
- トランプ氏の政策が交渉戦術としての側面を持つ一方で、投資家心理の楽観度が過去最高水準に達しており、短期的な市場リスクへの警戒も必要です。
トランプ大統領による関税の米国株式市場影響とは?
年末ラリーが続き、S&P 500は2週連続で1%以上上昇し、新たな史上最高値を更新しました。
投資家の期待感を後押ししたのは、トランプ次期大統領が財務長官にウォール街のベテランで市場に精通したスコット・ベセント氏を指名したことです。
同氏は政府の債務や赤字管理において優れた手腕が期待されています。
これを受けて、11月には記録的な1,410億ドルが株式市場に流入し、S&P 500は月間で5.7%上昇、年間で最高のパフォーマンスを記録しました。
一方で、最新の経済データは依然として堅調な景気を示しており、FRBによる利下げサイクルも追い風となっています。
ただし、物価安定への進展が遅れることで、FRBが政策金利を中立水準に戻すタイミングが遅れる可能性があります。
(出所:Edward Jones)
FRBが言う「物価安定」とは、食料とエネルギーを除いたコア個人消費支出(PCE)価格指数が前年比で2%上昇することを指します。
先週発表されたデータによると、10月のコアPCEは月間で0.3%上昇しましたが、これは主に株式市場の上昇によるポートフォリオ管理手数料の増加が要因でした。
年間換算では上昇率が2.8%となり、過去6か月間の2.6~2.8%の範囲内に収まっています。
ただし、PCEにおける住居費の計算は、リアルタイムの賃貸価格データと一致していません。
例えば、Apartment Listの全国賃貸指数によれば、11月の賃貸価格は前年比で0.8%減少しています。
もしPCEがリアルタイムデータを採用していれば、すでに物価上昇率は2%に達していたでしょう。
このため、市場の投資家は12月の利下げを依然として期待しているのではないでしょうか。
米国のインフレは依然として根強く、FRBの慎重な姿勢を裏付けている
10月のコアPCEは2か月連続で0.3%の上昇を記録
(出所:Bloomberg)
CMEのFF(フェッドファンド)先物市場によると、1月の利下げの可能性はわずか16%とかなり低い水準になっています。
ただし、年末に向けて経済は力強い勢いを維持しているという明るいニュースもあります。
Adobe Analyticsによれば、感謝祭の日のオンライン消費額は前年比8.8%増加し、ブラックフライデーのオンライン売上はさらに好調と予想されています。
これらの結果から、2024年第4四半期の経済成長率は年率換算で2.5%以上を7四半期連続で達成する見込みです。
2025年1月29日に予定されているFRB会合での目標金利の確率
(出所:CME)
経済の堅調さのおかげで、FRBはインフレ率が目標に達するかどうかを慎重に見極めるための時間を稼ぐことができています。
しかし、トランプ次期大統領が1月の就任後にカナダやメキシコに対する関税を実際に課す場合、経済成長とインフレの両方に大きな課題が生じる可能性があります。
2023年には、これら2カ国から約9,000億ドル相当の商品を輸入しており、仮に25%の関税が課されると、輸入業者には約2,250億ドルもの追加コストが発生します。
そして、このコストは、最終的に消費者に転嫁される可能性が高いでしょう。
なお、関税は一部の主張とは異なり、カナダやメキシコが負担するものではないことに注意が必要です。
米国の輸入額(商品限定) - 中国、カナダ、メキシコ
2023年(単位:10億ドル)
(出所:MishTalk)
例えば、アメリカはカナダから1日に400万バレル以上の重質原油を輸入しており、これは国内の製油所でガソリンやディーゼル燃料の製造に使われています。
しかし、アメリカ国内の原油は主に軽質で硫黄分の少ない「ライトスイート原油」であるため、この重質原油を国内で代替することはできません。
その結果、製油所は輸入原油に対して25%の関税を負担することになり、このコストが消費者に転嫁されると、ガソリン価格が1ガロンあたり最大50セント上昇する可能性があります。
そして、これはインフレを加速させる要因となります。
カナダとメキシコは、米国にとって主要な原油供給国
輸入された原油の多くは、中西部やメキシコ湾岸の製油所に運ばれている
(出所:Bloomberg)
同じことが、毎年メキシコとカナダから輸入されている約2,000億ドル相当の自動車にも当てはまります。
25%の関税が課されれば、自動車メーカーには約500億ドルの追加コストが発生し、これが企業の利益を圧迫するか、あるいは消費者に価格として転嫁される可能性があります。
どちらが起こりやすいでしょうか?
また、メキシコから輸入される約900億ドル相当の電気機器にも同様の影響があり、25%の関税は、幅広い技術関連の消費財の価格を押し上げることになります。
要するに、関税は企業の利益を削る一方で、消費者にとっては価格上昇をもたらし、その両方が同時に発生する可能性もあります。
関税はインフレ要因であり、FRBが利下げサイクルを停止せざるを得なくなる可能性があり、これは株式市場や債券市場にとって大きな失望となるでしょう。
さらに、トランプ次期大統領が懲罰的関税を課す対象国が報復措置を取る場合、事態はさらに悪化する可能性があります。
アメリカは、メキシコやカナダに輸入する金額とほぼ同額をこれらの国々に輸出しています。
すでにメキシコのシェインバウム大統領は、トランプ氏の関税に対抗してアメリカからの輸出品に25%の関税を課す意向を示しています。
これにより、アメリカの輸出が減少し、収益を失った企業で雇用が失われるという悪影響が生じるでしょう。
このように、貿易戦争はインフレを引き起こすだけでなく、経済成長を鈍化させ、いわゆる「スタグフレーション」(経済停滞とインフレの同時発生)を招く恐れがあります。
米国の輸出額(商品限定) - 中国、カナダ、メキシコ
2023年(単位:10億ドル)
(出所:MishTalk)
私が期待しているのは、トランプ氏が関税の脅しを交渉戦術として利用し、初任期に署名したものよりも優れた貿易協定を目指しているということです。
彼は2018年にNAFTAを廃止し、新たに米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を導入しました。
しかし、これらのトランプ新政権の政策が経済への影響を無視し、不法移民問題だけに焦点を当てている場合、より防御的な投資戦略を取らざるを得ないと思います。
さらに、こうした逆風が予想される一方で、投資家心理が非常に楽観的になっていることにも注意が必要です。
Conference Boardの最新の消費者信頼感調査によると、「1年後に株式市場が今より高くなっている」と考える回答者の割合が、1987年以降のデータの中で最も高い水準に達しています。
これは必ずしも間違いではないかもしれませんし、現時点では私もその見解に同意しますが、このデータを逆張り指標として見ると、短期から中期的な見通しにはあまり良い兆しとは言えません。
カンファレンスボードの消費者信頼感調査:回答者の楽観度が過去最高水準に到達
(出所:Bespoke)
経済カレンダー
火曜日にはJOLTS求人レポートが発表され、求職者数に比例して求人が減少しているかを確認することになります。
その後、水曜日にはADP雇用レポートと11月のISM非製造業指数が発表されます。
そして金曜日には、注目の雇用統計の発表があります!
(出所:MarketWatch)
また、私のプロフィール上にて、私をフォローしていただければ、最新のレポートがリリースされる度に、リアルタイムでメール経由でお知らせを受け取ることが出来ます。
私の米国マクロ経済に関するレポートに関心がございましたら、是非、フォローしていただければと思います。
加えて、トランプ政権の今後の政策が米国経済に与え得る影響に関して関心がございましたら、インベストリンゴのプラットフォーム上より、私が直近執筆した下記のレポートも併せてご覧いただければと思います。
さらに、インベストリンゴのアナリストであるジェームズ・ フォード氏も、トランプ新政権の政策が米国経済に与え得る影響、並びに、トランプ氏の再当選を踏まえた注目の米国株に関する下記のレポートを執筆しておりますので、こちらも併せてご覧いただければと思います。
米国経済への影響
注目のトランプ銘柄
アナリスト紹介:ローレンス・フラー
📍米国マクロ経済担当
フラー氏のその他の米国マクロ経済関連のレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、フラー氏のプロフィールページにアクセスしていただければと思います。
インベストリンゴでは、弊社のアナリストが、高配当関連銘柄からAIや半導体関連のテクノロジー銘柄まで、米国株個別企業に関する動向を日々日本語でアップデートしております。そして、インベストリンゴのレポート上でカバーされている米国、及び、外国企業数は250銘柄以上となっております。米国株式市場に関心のある方は、是非、弊社プラットフォームよりレポートをご覧いただければと思います。