02/12/2025

利下げの織り込み具合とは?米国市場は今年1回の利下げを織り込むも、FRBは0.25%ずつ2回の利下げを想定!

a roll of toilet paperローレンス・ フラーローレンス・ フラー
  • 本稿では、「利下げの織り込み具合とは?」という疑問に答えるべく、最新の1月の消費者物価指数(CPI)の詳細、並びに、米国市場とFRBによる利下げ回数に関する予測の違いを詳しく解説していきます。
  • FRBのパウエル議長は、短期金利の引き下げを急ぐ必要はないと述べ、労働市場の強さがその判断を支える要因となっています。これを受け、市場の利下げ期待は後退しています。
  • 1月の消費者物価指数(CPI)は市場予想を上回る伸びを示しましたが、季節的な要因や統計の調整が影響しており、インフレの鈍化傾向が崩れたとは言えません。
  • 住居費の上昇がCPIの大部分を占めていますが、実際の賃貸価格の変動を反映するまでに時間差があるため、インフレ率の実態を過大評価している可能性があります。

1月CPIを踏まえた米国市場における利下げの折り込み具合とは?

昨日の株式市場はまちまちの動きを見せ、債券利回りはやや上昇しました。これは、FRBのパウエル議長が議会で、FRBは短期金利の引き下げを急ぐ必要はないと述べたことが背景にあります。インフレ率の低下はここ数カ月間停滞していますが、労働市場や経済の堅調さがFRBに時間的余裕を与えています。その強さは、1月の雇用統計にも表れており、過去2カ月分の改定を考慮すると、予想を上回る雇用者数の増加が示されました。賃金の伸びも4.1%と安定しています。このような状況を受け、市場は今年の利下げ回数を1回にまで引き下げて織り込んでいますが、FRBの最新の経済予測では、依然として0.25%ずつ2回の利下げが想定されています。私もこれは合理的な見方だと思いますが、財政政策の動向次第では変わる可能性があります。

(出所:Finviz

現在、この見通しに対する最大のリスクは貿易政策です。FRB当局者は、貿易政策がインフレに影響を及ぼす可能性があると指摘しており、もしそうなれば、景気成長が減速したとしてもFRBが借入コストを引き下げる可能性は大幅に低くなります。FRBは政策決定の際に個人消費支出(PCE)価格指数を重視していますが、消費者物価指数(CPI)も依然として重要な指標です。本日発表された1月のCPIレポートには警戒すべき点があるかもしれませんが、私の見解では、デフレ傾向を崩すほどの影響はないと考えています。

FRBはインフレ加速のリスクを懸念

FOMCの15人のメンバーがインフレの加速リスクを指摘

(出所:Bloomberg

米国の1月の消費者物価指数(CPI)においては、総合CPIは0.5%上昇し、市場予想の0.3%を上回りました。食品とエネルギーを除いたコアCPIも0.4%の上昇となり、こちらも予想の0.3%を超えました。その結果、年間ベースのCPIは、上方修正された2.9%から3.0%へ、コアCPIは3.2%から3.3%へと上昇しました。毎年1月には、多くの企業が価格改定を行うため、多くのカテゴリーで価格の上昇が見られる傾向があります。今年もその影響が出ました。また、季節調整要因の年間更新に伴い、各カテゴリーのウェイト(比重)が変更されたことも、今回のデータに影響を与えた可能性があります。さらに、カリフォルニア州の山火事の影響で、中古車価格が2.2%上昇した可能性もあります。

それでも、コアCPIは1年前の3.9%から3.3%まで低下しており、ここ8カ月間は3.2~3.3%の範囲で推移しています。2025年が進むにつれて、さらなる改善が見込めるでしょう。

(出所:TradingEconomics

CPIの上昇のうち30%を占めたのが住居費で、1カ月間で0.4%、年間ベースで4.4%上昇しました。年間上昇率は徐々に低下していますが、リアルタイムの住居費を大きく上回っており、2025年の残りの期間でデフレ傾向が続くことはほぼ確実と言えます。

(出所:TradingEconomics

CPIの最大の構成要素である賃貸価格の計算は、リアルタイムのデータと最大1年の遅れが生じます。これは、新たに契約された賃貸価格だけでなく、既存の賃貸契約全体の価格変動を反映するためです。そのため、過去の値上げを反映した古い賃貸契約が期限切れとなり、新しい契約と入れ替わるまで、インフレ率の低下を完全には反映しません。実際、賃貸価格のインフレ率は着実に低下しており、1月データの計算に用いられた4.4%という年間上昇率は、リアルタイムのデータとは乖離しています。たとえば、Apartment Listが提供する全国賃貸指数では、過去1年間で賃料が0.5%低下していると示されています。もしリアルタイムのデータがCPIの住居費計算に反映されていれば、コアCPIはFRBの目標である2%にかなり近づいていたはずです。

全国賃貸指数の年間変動(2019年以降)

(出所:Apartment List

それでも、今日の市場では弱気派が「デフレ傾向は終わった」と警鐘を鳴らすでしょう。しかし、彼らはこの2年間ずっと同じ主張を続けてきました。私自身、貿易政策がインフレに影響を与える可能性がある点には懸念を抱いていますが、今のところ、その兆候は見られません。今回のレポートによって、2025年のソフトランディング(景気後退を伴わない経済の安定成長)という基本シナリオが変わるとは考えていません。本日の市場は、今回のCPIが「高い」と受け止められたことで大きく下落して始まる可能性がありますが、基礎的な経済ファンダメンタルズに変化があるとは思いませんし、主要な市場指数の上昇トレンドが崩れるとも考えていません。


私は米国マクロ経済に関するレポートを日々執筆しており、私のプロフィール上にてフォローをしていただくと、最新のレポートがリリースされる度にリアルタイムでメール経由でお知らせを受け取ることができます。

加えて、インベストリンゴのその他のアナリストも詳細な分析レポートを日々執筆しており、インベストリンゴのプラットフォーム上では「毎月約100件、年間で1000件以上」のレポートを提供しております。

そこで、私の米国マクロ経済に関する最新レポートを見逃さないために、是非、フォローしていただければと思います!


アナリスト紹介:ローレンス・フラー

📍米国マクロ経済担当

フラー氏のその他の米国マクロ経済関連のレポートに関心がございましたら、こちらのリンクより、フラー氏のプロフィールページにてご覧いただければと思います。


インベストリンゴでは、弊社のアナリストが「高配当銘柄」から「AIや半導体関連のテクノロジー銘柄」まで、米国株個別企業に関する分析を日々日本語でアップデートしております。さらに、インベストリンゴのレポート上でカバーされている米国、及び、外国企業数は「250銘柄以上」(対象銘柄リストはこちら)となっております。米国株式市場に関心のある方は、是非、弊社プラットフォームより詳細な分析レポートをご覧いただければと思います。