02/25/2025

トランプ大統領はメキシコとカナダへの関税引き上げを予定通り実施する意向を改めて表明で米国株は調整入り?

A newspaper sitting in a red shopping cartローレンス・ フラーローレンス・ フラー
  • 本稿では、トランプ大統領がメキシコとカナダへの関税引き上げを予定通りの実施すると表明した今、関税の影響を踏まえ、今後の米国株式市場の見通しに関して詳しく解説していきます。
  • 米国株式市場は、関税問題や貿易摩擦の影響で調整局面に入りつつあり、市場全体の下落リスクが高まっているように見えます。
  • S&P 500は狭いレンジ内で推移しており、今後の展開次第ではさらに下落する可能性があるため、注意が必要です。
  • FRBの金融政策が市場の下支えとなる可能性はありますが、トランプ政権の関税強行により景気悪化が加速する懸念が広がっています。

米国株式市場では調整が進む中で火遊びをするかのような展開

米国株式市場における主要指数は、金曜日の劇的な急落からの反発を試みましたが、午後遅くになってその希望は打ち砕かれました。トランプ大統領が、メキシコおよびカナダの輸入品に対する関税を来月予定どおり実施する意向を改めて表明したためです。両国は大統領の要求に応じる努力を続けていましたが、その甲斐なく関税措置は継続されることとなりました。さらに、政府関係者は、メキシコやカナダを含むすべての貿易相手国に対する報復関税が予定どおり4月に実施されることを明言しました。

加えて、4月には医薬品、半導体、自動車に対する25%の関税が予定されており、3月12日からは鉄鋼およびアルミニウムに対する関税が25%へ引き上げられることになっています。こうした状況の中、世界中の貿易相手国は、報復措置を協調して講じる構えを見せています。もしこれが単なるトランプ政権のパフォーマンスではないとすれば、本格的な貿易戦争の幕が開いたといえるでしょう。貿易戦争に勝者はなく、最も大きな打撃を受けるのは低所得層や中間層の家庭です。

(出所:Finviz

現在、米国経済の成長基盤と消費者の活力が大きく試されようとしています。消費者と企業の景況感はすでに悪化の兆しを見せており、高頻度で発表される経済指標にも陰りが見え始めています。その結果、第1四半期のGDP成長率や企業収益の予測も下方修正されています。関税が予定どおりすべて実施されれば、こうした悪化傾向はさらに加速する可能性が高いです。

先週、S&P 500が過去最高値を更新した後であることを考えると、市場全体の調整が起こるのは自然な流れかもしれません。そして、今回の関税問題は、そのきっかけとなる格好の材料となったようにも見えます。しかし、現状のタイミングでの政策実施は非常に危険です。トランプ大統領がこのまま強行すれば、市場の一時的な下落が本格的な調整局面へと移行し、さらにはそれ以上の深刻な事態へと発展する可能性もあります。財政政策の実施時期を慎重に見直さなければ、大きなリスクを伴うことになるでしょう。

S&P500、取引終盤に下落

(出所:Bloomberg

S&P 500は狭いレンジ内で推移、下限テストの可能性が高まる

S&P 500は米国大統領選挙以降、4%の狭いレンジ内で推移しており、先週一時的に過去最高値を更新したものの、明らかな理由からその水準を維持することはできませんでした。現在のニュースの流れを考慮すると、おそらくこのレンジの下限である約5,800ポイントを試す展開になるのはほぼ確実と言えるのではないでしょうか。この水準は、200日移動平均線のテストに近づくことになります。これは過去最高値から6~7%の調整、そして昨日の終値から約4%の下落に相当します。

この下落幅自体は、特に昨年7月に記録した約10%の急落と比べれば比較的穏やかに感じられます。しかし、今回の下落の背景を考えると、決して軽視できるものではありません。

S&P500の推移

(出所:Stockcharts

仮に懲罰的関税の脅威だけで、すでに消費者心理がこれほどまでに悪化し、個人消費や企業の支出にも影響を及ぼしているのであれば、実際に関税が発動された場合の影響はさらに深刻なものとなるでしょう。もし個人消費が停滞すれば、労働市場の悪化が進み、さらにDOGE(国防総省)による歳出削減や連邦政府の人員削減の動きと相まって、景気への悪影響が一層強まる可能性があります。

また、株価が下落すれば、それも個人消費に悪影響を及ぼします。現在、全体の消費の約半分を上位10%の富裕層が占めており、彼らは主に投資家層であることを考えると、市場の下落がこの層の消費意欲を減退させることは避けられません。

所得別の累積余剰貯蓄

(出所:Moody's

負の連鎖の可能性と米国株式市場の見通し

この影響は雪だるま式に広がる可能性があり、トランプ政権の関係者はその深刻さを大統領に伝える勇気を持っていないのではないかと思います。経済と市場が大幅に悪化すれば、トランプ政権の残りの政策課題を損なうことになりかねません。残念ながら、投資家は短期的な痛みを伴いながら、そのメッセージを市場を通じて示さざるを得ない状況になるでしょう。

仮にそうなった場合でも、セクターのローテーションが続く中、市場は引き続きレンジ相場の範囲内にとどまる可能性が高いと見ています。テクノロジーセクターにとって新たな逆風となるかのように、「マグニフィセント・セブン」の企業群は2024年から2025年にかけて急激に利益成長が鈍化しています。その影響で、このセクターは2024年には市場を牽引する存在でしたが、今年はこれまでのところ最下位に転落しています。これは予想された動きではありますが、S&P 500におけるこれらの企業の時価総額比率の高さを考えると、依然として割高な株価が収益と釣り合うまでの間、指数全体の上昇余地が制限されることになるでしょう。そのため、私は引き続き「イコールウェイト型のS&P500指数」のほうを好んでいます。

2025年のリターン:マグニフィセント・セブンが出遅れ

(出所:Edward Jones

最後に、私の見方がやや慎重すぎるように感じられるかもしれませんが、それでも市場は「調整局面」へ移行していると考えており、強気相場や経済成長が終焉を迎えるとは見ていません。これまで10%以上の調整局面は、ほぼ例外なくFRB(連邦準備制度)の金融引き締め、あるいは金融引き締めが長引きすぎたことが要因となってきました。しかし、現在のFRBは、インフレ率のさらなる改善が確認され次第、再び金融緩和へと舵を切る姿勢を示しています。これは、必要に応じてトランプ政権の政策による影響を和らげる重要なバランス要因となるでしょう。


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