【2024年9月台湾半導体企業の売上高分析】台湾半導体企業はなぜ減速?台湾半導体メーカーの売上高ランキングを徹底解説!
ウィリアム・ キーティング- 本稿では、2024年9月の台湾の主要半導体企業の売上高分析を通じて、足元で台湾半導体企業がなぜ減速しているのかを探り、さらに、台湾半導体メーカーの売上高ランキングを詳しく解説していきます。
- 2024年9月の台湾の主要半導体企業の売上高データでは、前年同月比で売上が減少した企業が7社に増加しました。
- AI関連ハードウェアの需要が高い企業は成長を続けている一方で、それ以外の企業は成長が鈍化しています。
- 半導体業界全体での売上成長が二極化しており、特にシリコンウェーハ分野では売上減少が予測されています。
2024年9月の台湾の主要半導体企業の月次売上高
私は台湾の主要な半導体企業16社の月次売上高を追跡し、月毎の変化率や前年比の変化率を計算しています。一般的に、業界全体の動向を把握するには、前年比の方が参考になることが多いです。2024年9月のデータが出そろい、8月には3社だった赤信号の企業が、9月には7社に増えたことが分かりました。
ここでいう赤信号とは、その月の売上が前年比でマイナスになっている企業を指します。数ヶ月前までは、GlobalWafers(6488.TW)だけが毎月赤信号でしたが、わずか4ヶ月後の今では、7社が売上の前年比減少を示しています。
一方、月次の売上が前年比で大きく成長している企業も4社あり、回復の勢いに二極化が見られます。AIアクセラレーション・ハードウェア(AIの処理を高速化するために特化されたハードウェア)の展開を支える役割を果たしている企業は順調ですが、そうでない企業は、売上成長率が前年比10%未満の平凡な年になりそうです。それでは詳しく見ていきましょう。
毎月、台湾の主要企業の業績指標を更新しています。是非、以前のレポートもインベストリンゴのプラットフォーム上でご覧いただければと思います。
以下の表は、月次売上高の前年比を比較した最新の結果を示しており、成長率が高い順に並んでいます。
(出所:筆者作成)
トップに立っているのは、ベースボードマネジメントコントローラー(BMC)の世界的リーダーであるASPEED(5274.TW)です。BMCは、ホストシステムをリモートで監視・管理するために必要なデバイスです。
ASPEEDの2023年〜2024年 月次売上高(単位:百万台湾ドル)
(出所:ASPEEDのホームページ)
上記のチャートからも分かる通り、ASPEEDは過去3か月連続で月次売上高の過去最高を更新しており、最新の月次売上は、2023年半ばの最も低調だった時期の3倍以上に達しています。さらに、現在のペースが続けば、2024年の売上は前年比で倍増する見込みです。
(出所:ASPEEDのホームページ)
同様に、規模はやや控えめですが、台湾の主要サーバーODMであるWiWynn(6669.TW)とQuanta(2382.TW)も順調に成長しています。WiWynnは2024年に前年比33%以上の成長が見込まれ、Quantaは約24%の成長が期待されています。
次に挙げられるのは、以前の投稿で取り上げたTSMC(TSM)です。米ドルベースで今年は約28%の成長が予測されています。
さらに、ASUSも順調に推移しており、前年比20%の成長が見込まれています。これは台湾の競合であるAcerほぼ2倍に相当します。ASUSもサーバー事業、特にAIサーバー分野での急成長が要因です。
(出所:ASUSの2024年第2四半期決算資料)
具体的な数値は明示されていないものの、グラフから推測すると、前年比でおよそ5倍の成長が見られそうです。
一方、MediaTekは現時点で台湾ドルベースで年初来30%の成長を記録していますが、米ドルベースでの年間成長率は「10%台半ば」を見込んでいます。下記は同社の2024年第2四半期決算におけるレスポンスの一部です。
(原文)For 2024 full year, our financial targets remain unchanged. Revenue in US dollar is expected to grow in mid-teens %.
(日本語訳)2024年通年の財務目標は変更されておらず、米ドルベースで売上は「10%台半ば」の成長が見込まれています。
これは驚くべきことであり、というのもスマートフォンの出荷台数の成長がはるかに緩やかであると予測されているためです。
(原文)We continue to expect full-year smartphone market to grow low-single digit% in shipments.
(日本語訳)スマートフォン市場全体の年間出荷台数は、1桁台前半の成長にとどまると見込んでいます。
それにもかかわらず、好調な業績の背景には2つの要因があります。1つ目は、主力SoC(System on Chip:コンピュータや電子機器に必要な複数の機能を1つの半導体チップに統合したもの)であるDimensity 9400の売上が大幅に伸びていることです。
(原文)We have received very positive customer feedback on Dimensity 9400. Compared with Dimensity 9300, there are more model adoptions in the first wave of Dimensity 9400 customers. We’re confident to deliver flagship revenue growth of more than 50% in 2024.
(日本語訳)Dimensity 9400は顧客から非常に高い評価を受けています。Dimensity 9300と比べて、Dimensity 9400を採用したモデルが初期段階で増えており、2024年には主力製品の売上が50%以上成長すると自信を持っています。
2つ目の要因は、AIメガトレンドに関連した新たな機会がカスタムASIC(Application Specific Integrated Circuit:特定の用途や機能に特化して設計された集積回路のこと)事業で広がっていることです。
(原文)For example, numerous opportunities are fueled by the AI megatrend, which is unfolding rapidly both at the edge and in the cloud. For data center companies, there are strong needs to customize chips in order to minimize total cost of ownership. We are able to address their needs through our flexible ASIC business model by providing our leading 112G and 224G SerDes IPs, on top of our strong capabilities in complex IC integration, advanced process nodes and advanced packaging. Equipped with those key capabilities, we are actively in discussions for more AI accelerators and Arm-based CPUs opportunities.
(日本語訳)たとえば、AIのメガトレンドによって、エッジやクラウドの両方で急速に多くのチャンスが生まれています。データセンター企業は、総所有コストを抑えるためにチップのカスタマイズを強く求めています。私たちは、複雑なIC統合技術や最先端のプロセスノード、先進的なパッケージング技術に加え、最先端の112Gおよび224G SerDes IPを提供する柔軟なASICビジネスモデルを活用し、これらのニーズに応えています。これらの強みを活かし、AIアクセラレータやArmベースのCPUに関連するさらなる機会についても積極的に議論を進めています。
UnimicronとFoxconnは台湾ドルベースで前年比約9%の成長が期待されていますが、ここから状況が悪化していきます。ASEとUMCもほぼ同じで、成長率は2〜3%にとどまっています。ASEは年間を通して低調な成長が続いており、最も高かった月次の前年比成長率でも7月の6.7%に過ぎませんでした。一方、UMCは7月と8月には成長率が10%近くありましたが、9月にはわずかにマイナスに転じ、私たちのリストの中で最初の「赤信号」となりました。
Chipmosも同様の状況です。7月と8月は前年比で堅調に成長していましたが、9月にはマイナスに転じました。2024年前半に力強い成長を見せていたNanya Technology(2408.TW)も、現在は成長が停滞しています。昨日行われた2024年第3四半期の決算発表では、プレスリリースでかなり厳しい見通しが示されました。詳細はこちらです。
(原文)Gross profit of the quarter, including power outage related loss of NT$475 million, was NT$ 264 million; gross margin was 3.2 percent, a 0.3 percentage points improvement from that in the previous quarter. Operating loss of the quarter was NT$ 2,505 million; operating margin was -30.8 percent; a 7.4 percentage points decrease from that in the second quarter. Non-operating income of the quarter was NT$ 677 million. The Company had net loss of NT$ 1,487 million, with net margin of -18.3 percent.
(日本語訳)今四半期の売上総利益は、停電による損失4億7500万台湾ドルを含めて2億6400万台湾ドルとなりました。売上総利益率は3.2%で、前四半期から0.3ポイント改善しています。しかし、営業損失は25億500万台湾ドルに達し、営業利益率は-30.8%となり、前四半期から7.4ポイント悪化しました。非営業収益は6億7700万台湾ドルで、最終的に純損失は14億8700万台湾ドル、純利益率は-18.3%となりました。
今四半期の停電は収益性に大きな打撃を与えましたが、決算発表資料でも指摘されているように、運営環境には依然として解決すべき課題が残っています。詳細はこちらです。
(出所:Nanya Technologyの2024年第3四半期決算資料)
これらの問題の影響で、Nanya Technologyは2024年の設備投資予算を60億台湾ドル削減することを余儀なくされました。
(原文)In 2024, Nanya’s CapEx is expected to be down from NT$ 26 billion to approximately NT$ 20 billion, which is mainly due to adjusted schedule of equipment delivery and payment.
(日本語訳)2024年、Nanya Technologyの設備投資額は、主に設備の納入スケジュールや支払い時期の調整により、260億台湾ドルから約200億台湾ドルに減少する見込みです。
年末まで残り1四半期という状況で、これほどの大幅な削減は大きな決断です。
ノートパソコン向けタッチコントローラー市場のリーダーであるElanは、3か月連続で前年比マイナス成長が続いており、Compeqも9月に前年比9%減で「赤信号」入りしました。
そして、今年に入ってから毎月「赤信号」となっているGlobalWafersですが、9月には前年比19.9%減という2番目に大きな落ち込みを記録しました。2024年全体では、9月までの時点で前年比14%の減少となっています。
まとめ
AIアクセラレータに関連する企業は、今年好調ですが、それ以外の企業は依然として高い在庫水準や、自動車、産業機器、消費者向け電子機器分野での需要低迷に苦しんでいます。
9月に「赤信号」が7社に増えたこと(8月は3社)は、決して危機的な状況を意味するわけではありません。しかし、多くの半導体企業が今年の成長率を10%未満にとどめる一方で、特にシリコンウェーハ分野の企業は売上減少に直面する可能性があります。
さらに懸念すべき点は、これまでに見られたわずかな回復傾向が、ここにきて停滞しているように見えることです。今期の半導体関連企業の決算発表シーズンは、特に注目すべき展開となりそうです。今後の動向に注目していきましょう。
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アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング
ウィリアム・キーティング氏は、インテル、AMD、サムスン、アップル、マイクロン・テクノロジー等の企業の製品、ロードマップ、技術、および、それらの企業の主要な装置サプライヤーである、ASML、AMAT、キヤノン、ニコン等を専門とする半導体 / テクノロジー・リサーチ・コンサルティング会社、Ingenuity (Hong Kong) Ltd.の創立者兼最高経営責任者(CEO)です。
キーティング氏は、半導体業界において重要性の高いニッチなテーマを専門としています。具体的には、ムーアの法則の将来性、特にムーアの法則(EUV、SDA、NanoImprint)を維持するためのリソグラフィの重要性、音声、画像、パターン認識、暗号通貨マイニングのためのディープラーニング(ニューラルネットワーク)などの特殊なアプリケーションにおけるGPUやその他のカスタムアーキテクチャの役割と成長などが挙げられます。また、メモリの将来、特に3D NANDの台頭と新しいメモリ技術の出現について、定期的にクライアントとのディスカッションを開催しています。
Ingenuity (Hong Kong) Ltd.を設立する以前は、1992年から2014年までインテル・コーポレーションに勤務していました。当初はAIシステムのスペシャリストとして採用され、その後、同社の最先端の300mmファクトリーネットワークをグローバルにサポートするファクトリーオートメーションシステム(ロボット、データベース、ネットワーク、サーバー、クライアント等)の責任者となりました。2000年には、社内にITコンサルティング・グループ(IT Flex Services)を設立し、500人規模のグローバルチームに成長させ、同グループは現在もインテルのIT部門の中核を担っています。2005年には、APAC、中国、日本担当のIT部門のディレクターに任命され、同地域にあるインテルの全オフィスと製造施設のITシステム(インフラ、ネットワーク、データセンター、ERP、セールス、マーケティングシステム、ビジネスインテリジェンスなど)を統括していました。
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