TSMC / TSM:台湾半導体・AI銘柄、インテル同様に米CHIPS法で補助金獲得、アリゾナ州に第3工場建設 - 前編
ウィリアム・ キーティング- TSMC(TSM)は、潜在的な融資や税額控除とともに、米国CHIPS法から66億ドルを受け取ったが、これはインテルの補助金よりわずかに少ない。
- TSMCは、インテルの手の込んだイベントとは対照的に、シンプルなプレスリリースで資金調達を発表し、アリゾナ州に第3の工場を建設する計画について言及した。
- プレスリリースでは、TSMCの成長戦略が強調され、アップル、エヌビディア、AMDといった主要顧客からの推薦も含まれている。
TSMC(TSM)の米国CHIPS法による補助金の概要
長らく待ち望まれていたTSMC(TSM)の米国CHIPS法による補助金に関する発表がついに行われた。
66億ドルの補助金は、インテル(INTC)が最近発表した85億ドルより23%少ない着地となっている。
直接的な補助金とともに、最大50億ドルの融資と、適格な資本支出に対して最大25%の税額控除が行われるとのことである。
原文:In addition to the proposed US$6.6 billion in direct funding, the PMT also proposes to provide TSMC with up to US$5 billion in loans.TSMC plans to apply for U.S. Treasury Department Investment Tax Credits of up to 25% of the qualified capital expenditure at TSMC Arizona.
日本語訳:予備的覚書(PMT)は、提案されている66億米ドルの直接資金に加え、TSMCに最大50億米ドルの融資を行うことも提案している。TSMCは、TSMCアリゾナにおける適格資本支出の最大25%までの米国財務省投資税額控除を申請する予定である。
インテルがCHIPS法からの補助金を発表するために、注目を集めるイベントを演出したのとは対照的に、TSMCはプレスリリースを発表しただけである。
ただし、このアプローチは理にかなっているように思える。
なぜなら、バイデン大統領一行が1ヶ月の間にフェニックスへ2度目の出張をする可能性は極めて低かっただろう。
さらに、世論的な問題もある。
インテルにCHIP法の資金を提供したことを大々的に報じることは、すべての米国民聴衆に対して効果的である。
一方で、同じことを「外国企業」にすれば、ある種の聴衆にはあまりウケないかもしれない。
とは言え、控えめな発表にもかかわらず、TSMCのプレスリリースにはかなりのパンチがあったように見える。
資金調達の詳細以外には、彼らはアリゾナ州に第3の工場を建設することを発表し、3つの工場それぞれに導入するプロセス技術の概要を説明し、年平均成長率(CAGR)、売上総利益率(Gross Margin)、自己資本利益率(ROE)を含む財務モデル/ロードマップを繰り返した。
さらに、アップル(AAPL)、エヌビディア(NVDA)、AMD(AMD)という米国を拠点とする3大顧客からのコメントで締めくくっている。
我々はその詳細を確認し、インテルにとってこれが何を意味するのかについての我々の考えを共有したい。
TSMC(TSM)はなぜアリゾナに第3工場を建設するのか?
TSMC(TSM)が2020年5月にアリゾナに工場を建設すると発表したとき、私を含め多くの人々が驚いた。
同社は長い間、中国本土での生産能力増強に投資してきており、米国に工場を建設すべきだという提案には断固として抵抗してきたように見えた。
しかし、実際には異なっている。
遡ること1996年、当時の米国顧客の要請により、同社は米国顧客とジョイント・ベンチャーを立ち上げ、ワシントン州キャマスにWaferTechと呼ばれる工場を設立している。
原文:TSMC originally brought the pure-play foundry business to the United States in 1996 through a joint venture with customers Altera, Analog Devices, ISSI, and private investors (no government money). Altera is now part of Intel but ADI is still a top TSMC customer and enthusiastic supporter. I have seen the ADI CEO Vincent Roche present at recent TSMC events and his TSMC partnership story is compelling. This joint venture was part of TSMC’s customer-centric approach to business, responding directly to customer requests.
日本語訳:TSMCは1996年、顧客であるAltera、アナログ・デバイセズ(ADI)、ISSI、個人投資家(政府からの出資はない)との合弁事業を通じて、純粋なファウンドリー事業を米国にもたらした。Alteraは現在インテルの傘下にあるが、アナログ・デバイセズは依然としてTSMCのトップ顧客であり、熱心なサポーターである。私は、アナログ・デバイセズのヴィンセント・ロシュCEOが最近のTSMCのイベントでプレゼンをするのを見たことがあるが、彼のTSMCとのパートナーシップに関する話は説得力がある。この合弁事業は、顧客の要望に直接応えるというTSMCの顧客中心のビジネス・アプローチの一環である。
原文:The WaferTech fab was established in Camas Washington (just North of the Oregon/Washington border) in 1996 with an investment of more than $1B which was a huge amount of money at the time. Production started two years later at .35 micron which was part of the Philips technology transfer that TSMC was founded upon. In 2000 TSMC bought out the partners and private investors, taking full control of the Washington fab. It is now called TSMC Fab 11 but clearly this fab was ahead of its time, absolutely.
日本語訳:WaferTech工場は1996年にワシントン州キャマス(オレゴン州とワシントン州の州境のすぐ北)に設立され、当時としては巨額の10億ドル以上を投資した。その2年後、TSMCが設立されたフィリップスの技術移転の一部である0.35ミクロンでの生産が開始された。そして、2000年、TSMCはパートナーと個人投資家を買収し、ワシントン工場を完全に掌握した。現在はTSMCファブ11と呼ばれているが、明らかにこのファブは時代を先取りしていた。
※ファブ:製造工場
TSMCの創業者であるモリス・チャン氏は、TSMCがワシントンでファブを運営することがいかに困難であったかについて、最近では2022年4月に語っている。
原文:“Initially it was chaos. It was just a series of ugly surprises because, when we first went in, we really expected the costs to be comparable to Taiwan. And that was extremely naive,” said Chang, who retired in 2018.
日本語訳:「当初は混沌としていた。 というのも、最初に参入したとき、私達は台湾並みのコストになると本当に期待していたからだ。しかし、実際には、それは非常に甘かった。」と2018年に引退したチャンは言った。
しかし、同社は、最初の米国工場との親和性に欠けていた。
なぜなら、2010年に完全子会社となったにもかかわらず、2023年12月になってようやくTSMCワシントンに社名を変更したからである。(詳細はこちら)
原文:CAMAS, Washington, Dec. 14, 2023—TSMC (TWSE: 2330, NYSE: TSM) subsidiary, WaferTech, today celebrated the announcement of its official name change to TSMC Washington. The name change is a reflection of TSMC’s deep-rooted connection with its subsidiaries. It also aligns with TSMC's strategic efforts to establish a unified corporate identity across all subsidiaries as part of the company's global expansion.
日本語訳:TSMC(台湾証券取引所:2330、NYSE:TSM)の子会社であるWaferTechは本日、TSMCワシントンへの正式名称変更を発表しました。この社名変更は、TSMCの子会社との深いつながりを反映したものです。また、TSMCのグローバルな事業展開の一環として、すべての子会社で統一されたコーポレート・アイデンティティを確立するというTSMCの戦略的な取り組みとも一致しています。
原文:Since its inception in 1996, WaferTech has been an integral member of the TSMC family, and in 2010, it became a wholly-owned subsidiary, playing a pivotal role in shaping TSMC's global manufacturing footprint. The decision to embrace the TSMC Washington identity underscores the company's deep-rooted connection with the TSMC legacy, marking 27 years of unwavering dedication to semiconductor contract manufacturing.
日本語訳:1996年の設立以来、WaferTechはTSMCファミリーの不可欠な一員であり、2010年には完全子会社となり、TSMCのグローバル製造フットプリントを形成する上で極めて重要な役割を果たしています。TSMCワシントンのアイデンティティを採用するという決定は、同社がTSMCの遺産と深く根ざしていることを強調するものであり、半導体受託製造への27年にわたる揺るぎない献身を示すものです。
いずれにせよ、TSMCが米国に工場を建設するという決断を下したのは、その大部分がボックス・ティッキング(価値判断を伴わない、官僚主義的な手続き)であるというのが当時の我々の見方であった。
我々がこのような見解を持ち、今日に至るまでそれを貫いている理由は、TSMCのグローバル生産能力全体と比較して、アリゾナ工場の月産ウェーハ生産開始量が非常に小さかったためである。
そして、我々は、以前のTSMCに関するレポートで下記の様に述べている。
原文:Thus, TSMC's planned fab in the US would be an increase their capacity by 20,000/1,000,000, i.e. 2%! TSMC categorises its fabs into three sizes, Mini, Mega and Giga. There are currently three Giga fabs and each of these has a capacity of over 100,000 wafers per month. Thus, the planned fab in the US would around one-fifth the size of just one of the company's three leading edge fabs in Taiwan.
日本語訳:したがって、TSMCが米国で計画している工場は、100万分の2万、すなわち2%の能力増強となる!TSMCは自社の工場をミニ、メガ、ギガの3つのサイズに分類している。現在、3つのギガ・ファブがあり、それぞれが月産10万枚以上の生産能力を有している。したがって、米国で計画されているファブの規模は、台湾にある同社の3つの最先端ファブのうちの1つだけの約5分の1程度の規模ということである。
せいぜい、TSMCが米国での製造能力を増強するという点で、水面下にやっと足を踏み入れたという程度の規模間である。
このForbesのレポートによると、アリゾナにあるTSMCの最初の2つのファブの生産能力を合計すると、月産約5万枚になるという。
例えば、TSMCの現在の世界的な300mmウェーハ生産能力を例にとると、現在では月産100万枚に達する。
原文:The Company currently operates four 12-inch GIGAFAB® facilities – Fab 12, 14, 15 and 18. The combined capacity of the four facilities exceeded 12 million 12-inch wafers in 2023.
日本語訳:当社は現在、4つの12インチGIGAFAB®施設(ファブ12、14、15、18)を運営している。4施設の合計生産能力は、2023年には12インチウェーハで1,200万枚を超えている。
これは、これら4つのメガファブがフル稼働時にそれぞれ月平均25万枚を処理していることを意味する。
したがって、アリゾナに2番目の工場を追加したとしても、TSMCのアリゾナでのウェーハ生産開始量は、台湾にある4つのギガ・ファブのうち1つの生産量の5分の1に過ぎない。
要するに、注目を集める見出しにもかかわらず、TSMCの米国での製造能力は、台湾での製造能力に比べればまだ小さいということである。
米国当局は当初、TSMCが自腹を切ってアリゾナでファブを建設し始めたことを喜んでいたが、相対的な生産能力がどれほど小さくても、CHIPS法の資金を提供することになると、TSMCに自らももっと多くの資金を投資することを望んだのではないかと推測される。
それゆえ、第3の工場が設立されたのである。
しかし、プレスリリースには、第3工場のウェーハ生産開始数が明記されていないのは興味深い。
ただし、最初の2つの工場と同様の規模になることが示唆されている。
原文:Each of the three fabs, like all of TSMC’s advanced fabs, will have cleanroom area approximately double the size of an industry standard logic fab.
日本語訳:TSMCのすべての先進ファブと同様に、3つのファブはそれぞれ、業界標準のロジックファブの約2倍のクリーンルーム面積を持つことになるだろう。
※続きは「TSMC / TSM:台湾半導体・AI銘柄、インテル同様に米CHIPS法で補助金獲得、アリゾナ州に第3工場建設 - 後編」をご覧ください。