TSMC(TSM)株は買い時?最新の2024年第3四半期決算分析を通じて、今後の株価見通しに迫る!
ウィリアム・ キーティング- 本稿では、10月17日に発表されたTSMC(TSM)の最新の2024年第3四半期決算分析を通じて、「TSMC株は買い時なのか?」という質問に答えるべく、同社の足元の現状と今後の株価見通しを詳しく解説していきます。
- TSMCの2024年第3四半期決算では、売上高が235億ドルで予想をわずかに上回り、粗利益率も予測を超える57.8%に達しました。
- 2024年第4四半期の売上予測は265億ドルで、前四半期比13%増加する見込みとなり、TSMCの2024年通期売上はドルベースで30%増加する予測です。
- TSMCはAI関連の需要に強い期待を寄せており、3nmおよび5nmプロセスの需要が引き続き高く、特にAIプロセッサーによる売上が2024年に大幅に増加する見通しです。
TSMC(TSM)の最新の2024年第3四半期決算に関して
先週、下記のレポートにおいて、TSMC(TSM)の決算発表がどのような内容になるか、私の予想を共有しておりますので、是非、インベストリンゴのプラットフォーム上からご覧いただければと思います。
TSMC(TSM)決算予想:10月17日14時(台湾時間)発表予定の2024年第3四半期決算では売上高は過去最高を記録?
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実際の決算発表は昨日、2024年10月17日の午後に行われ、予想以上の内容が幾つかありました。
特に注目すべきは、今期である2024年第4四半期の売上高が265億ドルとなり、前四半期比で13%の増加を見込んでいることです。
この数字は、私たちが予想していた10%の増加を上回っていおり、ポジティブな内容であると言えます。
質疑応答(Q&A)のセッションはいつもより控えめな印象でしたが、AI関連の需要や設備投資計画、そして他社(たとえばインテル)の工場買収の可能性など、興味深い話題がいくつか出てきました。
それでは、当決算の内容を詳しく見ていきましょう。
まず、第3四半期の売上高は235億ドルで、予測よりわずかに上回りました。
これは、想定していた為替レート32.5に対して実際には32.2が適用されたことが原因です。
また、粗利益率は57.8%と、ガイダンスの53.5%~55.5%を大きく上回りました。
これは、第2四半期に売上の15%を占めていたN3ノード(TSMCが提供する最先端の半導体製造技術で、3ナノメートルプロセス技術)が、第3四半期には20%に増加したにもかかわらず達成された結果です。
テクノロジー別ウェハー売上高
(出所:TSMCの2024年第3四半期決算資料)
今回の決算発表で最も注目されたのは、今期の売上予測でしたが、その期待にしっかりと応えました。
過去の傾向から、私たちは四半期ベースで10%増、つまり257億ドルを予測していましたが、実際の予測は265億ドルで、13%の増加となりました。
このような大幅な増加が見られたのは、7年前の2017年第4四半期以来です。
そのため、今回の予測は非常にポジティブなシグナルだと考えています。
2024年第4四半期の強気な予測を受けて、TSMCは2024年の年間売上予測をわずかに上方修正しました。
そのため、2024年の通期売上は、ドルベースで約30%の増加が見込まれています。
TSMC(TSM)の設備投資について
TSMC(TSM)の2024年の設備投資は300億ドルと予測されており、4月時点で示された予測の範囲内、まさに中間値に当たります。
下記は、2024年4月18日行われた決算説明会における遣り取りの一部です。
(原文)We reiterate our 2024 capital budget is expected to be between USD 28 billion and USD 32 billion as we continue to invest to support customers' growth.
(日本語訳)2024年の設備投資予算は280億ドルから320億ドルの間になる見込みで、引き続き顧客の成長を支えるための投資を行っていきます。
興味深いのは、これまでの支出が185億ドルにとどまっており、第4四半期にはこれまでの四半期の倍以上の支出を予定していることです。
(出所:TSMCの2024年第3四半期決算資料)
これは、ASMLホールディング(ASML)の今週の波乱含みの決算発表を受けて、ウェハー製造装置(WFE)セクターにとって良いニュースと言えるでしょう。
しかし、この支出はすでに計画されていたもので、WFEメーカーの期待にもすでに織り込まれていると考えられるため、TSMCの第4四半期の支出が特別な追加のプラス材料となるとは思いません。
(原文)Do not have a number for 2025 to share yet. Disciplined process. Always review ongoing basis. Higher level CapEx related to higher growth opportunities. 2025 looks to be healthy, very likely CapEx will increase.
(日本語訳)2025年の具体的な数値についてはまだ発表されていませんが、慎重なプロセスで状況を常に見直しています。成長機会が大きければ、設備投資も増える可能性が高く、2025年も堅調な年となる見通しです。
なお、TSMCは2025年の予測については一切語らず、これについては1月中旬の第4四半期決算発表の場で説明するとのことです。
興味深いのは、ASMLが2年前に発表した2025年の予測が問題視されている一方で、TSMCは長期的な年平均成長率(CAGR)目標にフォーカスしている点です。
私としては、ASMLがなぜTSMCと同じアプローチを取らないのか不思議です。
TSMC(TSM)の需要見通しについて
AIを除く半導体需要についての質問があったにもかかわらず、TSMC(TSM)は主にAI関連の需要見通しに焦点を当てて回答していました。
同社によると、
(原文)Strong smartphone & AI related demand for 3nm, 5nm. Fourth quarter, continued strong demand for leading edge. Continue to observe extremely robust AI related demand. Increasing overall capacity utilization rate for 3nm, 5nm
(日本語訳)スマートフォンやAI関連での3nm、5nmプロセスの需要が非常に強く、第4四半期も最先端プロセスに対する強い需要が続いています。特にAI関連の需要は引き続き極めて活発で、3nmと5nmの全体的な稼働率をさらに引き上げています。
TSMCは、GPUやAIアクセラレーター、トレーニングや推論を行うCPUを含む「AIプロセッサー」による売上が2024年に3倍以上に増え、全体の売上の10%台半ばに達すると予測しています。
ただし、CPUもこのカテゴリーに含まれているのが興味深いところです。
どうやって一部のCPUがトレーニングや推論を行っていると判断しているのか、気になるところです。
TSMC(TSM)の工場建設の進捗状況について
TSMC(TSM)は、海外工場の建設に関して非常に前向きな姿勢を示しました。
アリゾナについては、
(原文)Arizona, strong commitment & support from customers and US government. Three fabs planned, each will be double size of a typical logic fab. First fab entered production in April. 4nm process. Highly satisfactory with a good yield. Volume production to start in beginning of 2025. Second and third fabs will use more advanced nodes. Second fab begins volume in 2028, third fab by end of decade.
(日本語訳)アリゾナでは、顧客や米国政府から強力な支援を受けています。3つの工場が計画されており、いずれも通常のロジック工場の2倍の規模です。最初の工場は4nmプロセスを採用しており、4月に生産を開始し、良好な歩留まりを達成しています。2025年初めから量産を開始する予定です。2つ目と3つ目の工場はさらに先進的なノードを採用し、2つ目は2028年、3つ目は2030年までに量産開始を目指しています。
アリゾナの最初の工場で「良好な歩留まり」を達成できたことは大きな成果です。
台湾の工場と同等の歩留まりを達成できるかどうかが心配されていましたが、それが可能であることが示されました。
日本については、
(原文)progress very successful. First specialty technology fab. Volume production this quarter. Second fab construction begins in fourth quarter 2025.
(日本語訳)進捗は非常に順調です。最初の工場は特殊技術を扱う工場で、今四半期中に量産を開始します。2つ目の工場の建設は2025年第4四半期に始まる予定です。
ヨーロッパについては、
(原文)Ground breaking ceremony held in August, Dresden fab. Automotive and Industrial, 16nm, 28nm. Volume by end of 2027
(日本語訳)8月にドレスデン工場の起工式が行われました。この工場は自動車や産業向けに16nmと28nmのプロセスを採用し、2027年末までに量産を開始する予定です。
TSMCは、海外工場の建設コストはどの企業にとっても高いものの、自社の競争力を活かすことで、どの地域においても最も効率的でコスト効果の高い運営を実現すると述べています。
他社に対する挑戦ともいえる発言とも取れます。
TSMC(TSM)のAI投資について
この質問は非常に鋭いものでしたが、これに対しTSMC(TSM)のCEOである魏哲家氏は、TSMCが実際にAIや機械学習を幅広く活用していることを強調しました。
(原文)Whether AI demand is real or not. Judgement is real. Talk to customers all the time, including hyperscaler. Every AI innovator working with TSMC. Deepest and widest exposure. Real? We are using AI, machine learning in our operations. 1% productivity gain equals $1 billion. Tangible ROI benefit. We cannot be the only one company to benefit. Lot of companies are using AI for their own improving productivity, efficiency etc. Overall demand? Demand is real and just beginning. Key customer said, demand right now is insane.
(日本語訳)AIの需要が本物かどうかは、私たちの判断では確実に本物です。常に顧客、特にハイパースケーラーと話し合っています。すべてのAIイノベーターがTSMCと協力しており、我々は業界で最も幅広く深い関係を築いています。AIが本物かどうか?私たち自身が、業務にAIと機械学習を活用しています。1%の生産性向上で10億ドルの価値が生まれるという、具体的なROIが得られています。私たちだけがこの恩恵を享受しているわけではなく、多くの企業がAIを活用して生産性や効率を向上させています。需要の全体像は?需要は本物で、まだ始まったばかりです。ある主要顧客は『今の需要はとんでもない状況だ』と言っています。」
この回答は非常に力強いものでしたが、市場のアナリストの質問の意図はもっと長期的な視点にあったのではないかと思われます。
TSMCにとっては、需要が確実に存在することは明らかです。
なぜなら、TSMCがその需要を全て引き受けているからです。
TSMC(TSM)の粗利益率の見通しについて
TSMC(TSM)の粗利益率の見通しに関して、今回の発表では具体的な内容も含まれていましたが、プラス面とマイナス面が入り混じった内容でした。
(原文)Dilution from N3 ramp will reduce over time. We continue to sell our value (aka price increases). Fab utilization will increase. 2-3 points dilution from overseas fabs, every year for next 5-6 years until all fully ramped. Converting some N5 to N3 to meet strong demand. Ramping N2 in 2026 will mean some prep costs in 2025. Higher electricity costs, 14% hike recently. Doubled in the last few years. Higher electricity costs in Taiwan compared to other countries where the operate.
(日本語訳)N3ノードの拡大による影響は時間とともに減少します。また、価格の引き上げにも見られる通り、付加価値を提供し続けています。工場の稼働率も上昇しています。ただし、海外工場からの影響で今後5〜6年間、毎年2〜3ポイントの粗利益率の希薄化が続く見込みです。これらの工場が完全に稼働すれば影響は収まります。N5ノードをN3に転換して強い需要に応えていますが、2026年にN2ノードの量産が始まるため、2025年には準備コストがかかります。電力コストは最近14%上昇し、過去数年で倍増しています。台湾の電気料金は他国と比べても高い水準にあります。
これに関連して、アナリストから「顧客との交渉力」や「粗利益率がすでに高すぎるのではないか」という質問がありました。
(原文)Selling value is continuous process. All customers are partners. View suppliers as partners. Work together to make customers successful. GM is not higher than customers, look at largest AI customer. Very happy to see them be successful. We are in a different kind of business. Capital intensive business. Need high GM.
(日本語訳)付加価値を提供し続けることは絶え間ないプロセスです。すべての顧客をパートナーとして捉え、サプライヤーもパートナーとして考えています。お互いに協力しながら、顧客の成功をサポートしています。粗利益率が顧客より高いということはなく、最大のAI顧客を見ても、彼らの成功を非常に喜ばしく思っています。我々のビジネスは資本集約型であり、高い粗利益率が必要なのです。
TSMC(TSM)の独占禁止リスクについて
次の質問では、TSMC(TSM)の規模の拡大が将来的に独占禁止法のリスクにつながるのではないかという懸念が示されました。
これに対してCEOである魏哲家氏は、最近導入された「Foundry 2.0」のコンセプトを用いて反論しました。
(原文)Antitrust, TSMC has very high market share. Assure you that last time we proposed a new version foundry 2.0, all these things become more important, packaging, testing, mask making. IDM’s also have their own packaging testing etc. Under 2.0 our share is about 30%. Big but not dominant, yet.
(日本語訳)独占禁止の懸念に対して、確かにTSMCの市場シェアは高いですが、『Foundry 2.0』という新しいアプローチを提案したことで、パッケージングやテスト、マスク製造の重要性が増しています。IDM(統合デバイスメーカー)も独自にパッケージングやテストを行っています。『Foundry 2.0』の枠組みでは、私たちの市場シェアは約30%に過ぎません。確かに大きいですが、支配的とは言えません。
この回答から、なぜTSMCが「Foundry 2.0」の概念を導入したのかがよく理解できます。
TSMC(TSM)のIDMのアウトソーシングが増加する可能性について
ある市場のアナリストが、もしインテル(INTC)の工場が売りに出された場合、TSMC(TSM)がそれを買収するかどうか尋ねました。
CEOの答えは非常に簡潔で明快でした。
(原文)Interested in acquiring IDM fabs? No, not at all.
(日本語訳)IDMの工場を買収する予定は?全くありません。
なぜ興味がないのか、もう少し説明があればよかったのですが、その点についてはフォローアップの質問はありませんでした。
残念ですね。
次に、IDMからのアウトソーシングが増えるかどうかについての回答は次の通りです。
(原文)Always the customers decision for more outsourcing. Look at IDM in California, very good customer to TSMC. Continue to receive sizable business from them.
(日本語訳)アウトソーシングの拡大は常に顧客の決定によるものです。カリフォルニアのIDMはTSMCにとって非常に重要な顧客であり、今後も彼らから大きなビジネスを引き続き受けています。
TSMC(TSM)のチップレットによる最先端技術の需要への影響に関する見解について
チップレットベースのアーキテクチャへの移行が、最先端技術のキャパシティ需要を減少させるかどうかという質問に対しての答えはこうでした。
(原文)Chiplets become HPC strategy. No, will not reduce capacity demand. More demand than we ever dreamed about compared to n3. Have to prepare more capacity. A16 very attractive for AI chips.
(日本語訳)チップレットはHPC(高性能コンピューティング)戦略の一部です。いいえ、キャパシティの需要は減少しません。N3と比較しても想像以上の需要があり、より多くのキャパシティを準備する必要があります。A16はAIチップにとって非常に魅力的な選択肢です。
TSMC(TSM)の原子力発電に関する見解ついて
マイクロソフト(MSFT)やオラクル(ORCL)が原子力発電に移行するという最近の発表を受け、TSMC(TSM)も同様の選択肢を検討しているのかという質問がありました。
(原文)Building many fabs, require electricity, water, land. We work with government on these matters. We have their assurance of support. Not ready to share about the types of energy sources e.g. green energy
(日本語訳)我々は多くの工場を建設しており、それには電力や水、土地が必要です。これらの課題については政府と協力しており、支援を受けています。ただ、エネルギー源、例えばグリーンエネルギーについて、具体的な計画を共有できる段階にはまだ至っていません。
TSMC(TSM)のCoWoSのキャパシティに関して
TSMC(TSM)はCoWoSのキャパシティについての最新情報を求める質問には、次のように答えました。
(原文)CoWos capacity update? Lot of effort to increase the capacity. Demand far exceeds our ability to supply. 2x 2024 versus 2023, double again next year, still not enough.
(日本語訳)CoWosキャパシティのアップデート?キャパシティの拡大には多大な努力を注いでいますが、需要は供給をはるかに上回っています。2024年には2023年の2倍に増やし、さらにその翌年も倍増する予定ですが、それでも需要には追いつきません。
TSMC(TSM)の最新の2024年第3四半期決算に関する結論
TSMC(TSM)は今、順調に進んでいるように見えます。
かつて運営に問題があると噂されたアリゾナ工場も、最初の工場がほぼ予定通りに稼働し、良好な歩留まりを達成しており、これは同社にとって大きなマイルストーンです。
2024年の売上は30%の成長が見込まれており、年初の予想を大きく上回る結果になりそうです。
AIの進展は、どのプロセッサーが使われるかに関係なく、今後もTSMCにとって長期的に大きな収益源となるでしょう。
そして最後に、TSMCが既存の予測(たとえば2024年の半導体売上の成長率)を変更せず、2025年についても一切の見通しを出さなかった点が印象的です。
これは、今年4月の第1四半期決算発表後の混乱から学んだ教訓のように思えます。
この件については以前のレポートでも取り上げていますので、是非、私の過去のレポートもご覧いただければと思います。
一方で、ASMLは今週の決算発表で不必要に混乱を招いてしまいましたが、TSMCの戦略を見習うべきかもしれません。
彼らの投資家向けイベントが11月10日に予定されているので、その際にどんな発表があるか注目したいですね。
さらに、その他のTSMC(TSM)に関するレポートに関心がございましたら、是非、こちらのリンクより、TSMCのページにアクセスしていただければと思います。
アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング
📍半導体&テクノロジー担当
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