TSMCの株価は10年後も堅調?最新の業績とガイダンスは好調で、年初来で100%上昇した今でも株価は魅力的?
ダグラス・ オローリン- 本稿では、「TSMCの株価は10年後も堅調か?」という質問に答えるべく、TSMC(TSM:台湾積体電路製造)の最新の2024年第3四半期決算分析を通じて、同社の今後の株価見通しと将来性を詳しく解説していきます。
- TSMCの2024年第3四半期決算では、売上高や利益が市場予測を上回り、粗利益率も57.8%と過去最高水準に達しました。
- AI関連の需要が急増し、TSMCは2024年の売上予測を30%増に引き上げ、特にサーバー向けAIプロセッサの売上が3倍以上になる見通しです。
- TSMCは今後、2ナノメートルプロセスへの需要に対応するため、資本的支出をさらに増やし、最先端技術への大規模投資を進めています。
- 以上より、最新決算における業績とガイダンスは好調で、年初来で100%上昇した今でも同社の株価は魅力的に見えます。
※「ASMLホールディング(ASML)の将来性:最新決算後に株価は20%下落!中国輸出規制と最先端技術に関する懸念とは?」の続き。
TSMC(TSM:台湾積体電路製造)の最新の2024年度第3四半期決算に関して
時には、TSMC(TSM:台湾積体電路製造)の素晴らしさや、他社がどれだけ平凡かを書き続けるのが疲れることもあります。
インテル(INTC)の18Aの注文が不透明になり、サムスン電子(005930.KS)のファウンドリ事業が崩壊し続けている中、TSMCは勝ち続ける企業として一歩抜きんでています。
今回の四半期決算でも、TSMCは粗利益率57%という素晴らしい結果を出しました。
月次の売上データから売上が予想を上回ることは皆予想していましたが、粗利益率がこれほど高いことは予想以上でした。
これはほぼ過去最高の水準で、PC、消費者向け製品、スマートフォン市場がまだ回復していない中での結果です。
では、決算内容を振り返ってみましょう。
TSMC(TSM:台湾積体電路製造)の最新の2024年度第3四半期決算
・EPS:12.54台湾ドルとなり、FactSetの予想11.49台湾ドルを上回りました。
・売上高:7,596億9,000万台湾ドル(約235億米ドル)で、FactSetの予想7,492億7,000万台湾ドルを上回り、ガイダンスの22.4~23.2億米ドルも上回りました。
・営業利益:3,607億7,000万台湾ドルで、FactSet予想の3,301億8,000万台湾ドルを超えました。
・粗利益率:57.8%で、FactSetの予想54.7%やガイダンスの53.5~55.5%を上回りました。
・営業利益率(OPM):47.5%となり、FactSet予想の43.9%やガイダンスの42.5~44.5%を上回る結果となりました。
次に、粗利益率の結果が稼働率にどのような影響を与えるか見てみましょう。
(原文)Gross margin increased by 4.6 percentage points sequentially to 57.8%, mainly reflecting a higher capacity utilization rate and cost improvement efforts.
(日本語訳)粗利益率は前期比で4.6ポイント上昇し57.8%に達し、これは主に稼働率の向上とコスト改善の成果です。
一般的なルールとして、稼働率が1%上がると粗利益率が40-50ベーシスポイント(0.4%~0.5%)向上すると言われています。
このことから、今四半期の稼働率が約10%上昇したと推測できます。
古いプロセスの稼働率は低迷していますが、最先端のプロセスでは90%以上に達していると考えられます。
TSMCの稼働率と粗利益率の相関関係
(出所:SemiAnalysis)
下記の図からも分かる通り、プラットフォームごとに見ると、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の売上が主な成長要因であることがはっきりしています。
最近では、HPCの売上はエヌビディア(NVDA)やアドバンスト・マイクロ・デバイセズ(AMD)のCPUの業績を示すバロメーターにもなっています。
(出所:TSMCの2024年度第3四半期決算資料)
もちろん、今回の決算時のカンファレンスコールでも「AIの成長が持続可能か」という質問が出ましたが、保守的な台湾企業であるTSMCからの回答は非常に安心できるものでした。
(原文)And why I say it's real? Because we have our real experience. We have using the AI and machine learning in our fab and R&D operations. By using AI, we are able to create more value by driving greater productivity, efficiency, speed, qualities. And think about it, let me use, 1% productivity gain, that was almost equal to about TWD 1 billion to TSMC. And this is a tangible ROI benefit.
(日本語訳)なぜこれが本物だと言えるかというと、私たち自身が実際に体験しているからです。私たちはAIや機械学習をファブ(半導体の製造工場を指す言葉)やR&Dの現場で活用していますが、これによって生産性、効率、スピード、品質の向上を実現し、より大きな価値を生み出しています。例えば、生産性が1%向上するだけで、TSMCにとって約10億台湾ドルの利益に相当します。これこそが具体的な投資対効果(ROI)です。
(原文)And I believe we cannot be the only one company that have benefited from this AI application. So I believe a lot of companies right now are using AI and -- for their own improving productivity, efficiency and everything. So I think it's real.
(日本語訳)そして、AIの恩恵を受けているのは私たちだけではないと思います。多くの企業がすでにAIを活用して、自社の生産性や効率の向上に取り組んでいることでしょう。だからこそ、これは本物だと感じています。
AIや一般的な半導体の需要の高まりを受け、TSMCは今後数年で市場が大きく成長すると見込んでいます。
「これからが本番だ」というわけです。
TSMCは流行に飛びつくタイプの企業ではなく、サム・アルトマン氏を「ポッドキャスト仲間」と冗談で呼ぶほど冷静な姿勢を保っていますが、それでもこの需要はしばらく続くと予想しています。
(原文)The demand is real and I believe it's just the beginning of this demand, all right? So one of my key customers said, the demand right now is insane, that it's just the beginning. It's [ a form of scientific ] to be engineering, okay? And it will continue for many years.
(日本語訳)需要は確実に存在しており、今はその「始まり」に過ぎないと私は考えています。ある主要な顧客も「今の需要は信じられないほど強いが、これが始まりに過ぎない」と話していました。これは「科学が工学に進化するようなもの」で、今後何年にもわたって続くでしょう。
AIの成長はTSMCにとって大きなチャンスです。
今年、サーバー向けAIの売上は3倍に増加する見通しで、これはエヌビディアの2024年会計年度から2025年会計年度にかけてのデータセンター売上の成長を上回るペースです。
これは、需要の増加と価格の上昇が重なり、エヌビディアを上回る成長をもたらしているのです。
現在、AIはTSMCの売上全体の10数%を占めており、今後もこの成長が続けば、私の見積もりでは、将来的には30%まで拡大する可能性があります。
この成長を背景に、TSMCは年間の総売上予測を30%増に引き上げています。
(原文)We now forecast the revenue contribution from server AI processors to more than triple this year and account for mid-teens percentage of our total revenue in 2024. Supported by our technology leadership and broader customer base, we are well positioned to capture the industry's growth opportunities. We now forecast our full year revenue to increase by close to 30% in U.S. dollar terms.
(日本語訳)私たちは、今年サーバー向けAIプロセッサの売上が3倍以上に増加し、2024年には総売上の10数%を占めると予測しています。技術力のリーダーシップと幅広い顧客基盤を背景に、業界の成長機会をしっかりと捉える体制が整っています。これにより、年間の売上は米ドルベースで約30%増加する見通しです。
では、次に、同社の資本的支出(CapEx)と今後の2nmプロセスへの需要についてお話しします。
TSMCのN3、N5、N7プロセスの最初の6四半期における売上
(出所:SemiAnalysis)
3ナノメートルプロセス(上記の図におけるN3)は5ナノメートルや7ナノメートルよりも速いペースで成長しています。
これは一部、平均販売価格(ASP)の影響もありますが、最先端プロセスの成長が過去のノードを上回っており、ファウンドリ(半導体の設計を行わず、他社から受託して半導体の製造のみを行う企業)の競争が少ないことも大きな要因です。
TSMCに2ナノメートルプロセスの進捗について尋ねられた際、その答えは明確でした。
(原文)Actually, we have many, many customers interested in the 2-nanometer. And today, with the activity with TSMC, we actually see more demand than we ever dreamed about it as compared with N3. So we are to prepare more capacity in N2 than in N3.
(日本語訳)実際、2ナノメートル技術には多くの顧客から強い関心が寄せられており、TSMCでの現状を見ると、N3に比べて想像を超える需要があることが確認されています。そのため、N3以上にN2の生産能力を大幅に拡充する計画を進めています。
(原文)And following by A16, again, A16 is very, very attractive for the AI servers' chips. And so actually, the demand is also very high. So we are working very hard to prepare both 2-nanometer, A16's capacity.
(日本語訳)さらに、A16(Appleが開発したモバイル用のプロセッサで、iPhoneシリーズなどに搭載されている)もAIサーバー向けチップとして非常に魅力的で、需要が非常に高い状況です。私たちは、2ナノメートル技術とA16の生産体制を確保するために全力で準備を進めています。
ここからは次の話題に移りますが、最先端プロセスでは資本集約度が高まっており、年内の資本的支出(CapEx)もさらに加速する見込みです。
TSMCのCapExガイダンスを詳しく見ると、最先端プロセスに対する投資が四半期ごとに大幅に増加していることが明らかです。
(原文)Next, let me talk about our 2024 CapEx. Every year, our CapEx is spent in anticipation of the growth that will follow the future years. And our CapEx and capacity planning is always based on the long-term market demand profile. As the strong structural AI-related demand continues, we continue to invest to support our customers' growth.
(日本語訳)次に、2024年の資本的支出(CapEx)についてお話しします。毎年、私たちは将来の成長を見越してCapExを計画しています。そして、この計画は常に長期的な市場需要を見据えたものです。AI関連の強い構造的な需要が続く中、私たちはお客様の成長を支えるため、引き続き積極的な投資を行います。
(原文)We now expect our 2024 CapEx to be slightly higher than USD 30 billion. Between 70% and 80% of the capital budget will be allocated for advanced process technologies. About 10% to 20% will be spent for specialty technologies. And about 10% will be spent for advanced packaging, testing, mask making and others.
(日本語訳)2024年のCapExは300億米ドルを少し上回ると見込んでいます。予算の70%〜80%は最先端プロセス技術に、10%〜20%は特殊技術に、そして約10%は先進的なパッケージング、テスト、マスク製造などに充てる予定です。
計算してみると、これまでに約184億ドルを使っており、四半期ごとにほぼ100%のCapEx成長が見込まれます。
これは2ナノメートルプロセスや、AIによって牽引されている最先端技術の強い需要を支えるための投資だと考えられます。
多くの人が中国市場の需要を懸念していますが、最先端プロセスはフル稼働しており、TSMCは来年、GAA(Gate-All-Around:次世代の半導体トランジスタ技術で、電流を制御するゲートがすべての面を囲むように設計された構造)技術強化と生産能力向上のために400億ドル以上のCapExを投資する可能性が高いです。
(原文)Now as C. C. said, next year looks to be healthier. So it is very likely that our CapEx next year will be higher than this year. And we will provide you more updates in January conference.
(日本語訳)魏哲家(C.C.ウェイ)CEOが言った通り、来年はより良い状況になる見込みです。そのため、来年の資本的支出(CapEx)は今年を上回る可能性が高いです。詳しい情報は1月のカンファレンスでお知らせします。
中国の半導体製造装置(WFE:Wafer Fab Equipment)需要が減少するとの懸念がある中でも、私は最先端技術への需要は十分にあると考えています。
TSMCは、2ナノメートルプロセスにおいて、3ナノメートルを超える規模で資本集約的な設備投資を行う計画です。
たとえ中国の需要が大幅に落ち込んでも、来年のWFEは10%以上の成長が見込まれています。
また、HBM(高帯域幅メモリ)も資本集約的であることを忘れてはいけません。
現時点では、米国外のWFE市場は底を打っているものの、中国市場が30〜50%縮小する一方で、他の地域のWFE支出が過小評価されている状況です。
以前期待されていた2桁前半の成長には達しないかもしれませんが、WFEは引き続き2桁の成長を見込んでいます。
懸念は理解できますが、AIの需要が新たなウェハーを必要とすることは間違いないでしょう。
主要な半導体製造装置メーカーの直近12か月の中国以外の売上高増加額
現在、中国以外の半導体装置市場は底を打ちつつあり、そのことはTSMCのガイダンスが裏付けています。
TSMCが引き続き大規模な投資を行っているのは、今後の成長もこれまで同様に明るいと見込んでいるからです。
特にAI関連の売上の成長は大きな意味を持ち、今後はより大きな割合を占め、さらに高い利益率を生むと予測されています。
TSMCの交渉力は強まっており、インテルは実質的に競争相手とは言えません。
中国が積極的に外部市場に進出する以外に、TSMCにとっての大きなリスクはほとんどない状況です。
TSMCは実質的に独占的な立場にあり、そのような企業がどのように評価されるかを考えれば、非常に有利なポジションにあります。
現在、TSMCの株価は予想利益の22倍で取引されており、長期的に20%以上の利益成長が期待できます。
目立った脅威はほぼなく(唯一の懸念は海の向こうにありますが)、粗利益率は新たなサイクルで過去最高水準に達する可能性が高いです。
そのため、TSMCの現在の立場はこれまで以上に強固で、株価も割安と考えられます。
(出所:Bloomberg)
今年の株価がほぼ100%上昇した後でも、将来的なさらなるパフォーマンスに対して適切に評価されているように見えます。
この上昇の多くは再評価によるものですが、ここで株価が下がる理由はあまりないように見えます。
もし今後、EPS(1株当たり利益)が30%成長すれば、それに見合ったリターンが期待できるでしょう。
また、AI以外の事業も安定化してきています。この点については次に詳しくお話ししますが、これはASMLホールディング(ASML)の見解とは異なるものの、TSMCの方が需要をより正確に把握していると考えています。
(原文)Overall semiconductor demand, except the AI, I think is everything stabilized and start to improve.
(日本語訳)AI以外の全体的な半導体需要は安定化しており、回復の兆しが見えています。
次章では、半導体関連の自動車セクターとテレコム(通信技術やサービスに関わる業界や企業)セクター、並びに、注目の半導体銘柄であるエア・テスト・システムズ(AEHR)に関して詳しく解説していきます。
TSMCの半導体自動車関連ビジネスは底打ち?半導体関連自動車セクターとテレコム(情報通信)セクターの今後の見通しに迫る!
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