【半導体】TSMC(TSM)の何がすごいのか?最新の2024年第4四半期決算分析を通じて将来性に迫る!

- 本稿では、注目の台湾半導体銘柄である「TSMC(TSM)の何がすごいのか?」という疑問に答えるべく、最新の2024年第4四半期決算分析を通じて同社の将来性に迫ります。
- TSMCの2024年第4四半期決算では、粗利益率59%を達成し、2025年第1四半期の売上予測は中央値で254億ドル、前四半期比5.5%減、前年同期比34.7%増を発表しました。
- 2024年のAI関連需要が売上全体の15%を占め、2025年にはこの収益が倍増すると予測されています。さらに、2025年の設備投資予算は400億ドル(中央値)で、約70%が先端プロセス技術に充てられます。
- N2ノードは2025年後半に量産開始予定で、性能や電力効率の大幅な改善が期待されています。また、A16ノードも2026年後半に投入される予定で、さらなる技術的優位性を追求しているように見えます。
TSMC(TSM)の最新の2024年第4四半期決算発表に関して
TSMC(TSM)の2025年1月16日発表の2024年第4四半期決算では、主要な財務指標に関しては事前にほとんど把握していたため、驚きはほとんどありませんでした。特に、ガイダンスの上限である59%の粗利益率を達成したことは、まさに「締めくくりの一押し」といえる内容でした。また、2025年第1四半期のガイダンスは中央値で254億ドル、前四半期比で5.5%減少と、事前予想とほぼ一致するものでした。
ご参考までに、同社の決算直前に下記の詳細な決算プレビュー分析レポートを執筆しておりますので、本稿の内容への理解を一層深めるために併せてご覧いただければと思います。
そして、下記は決算説明会における遣り取りの一部です。
(原文)Based on the current business outlook, we expect our first-quarter revenue to be between $25 billion and $25.8 billion, which represents a 5.5% sequential decline or a 34.7% year-over-year increase at the midpoint.
(日本語訳)現在の事業見通しに基づき、2025年第1四半期の売上高は250億ドルから258億ドルの範囲を予想しています。この中央値では、前期比で5.5%の減少、前年同期比で34.7%の増加となります。
CEOのC.C.ウェイ氏は、事前に準備されたコメントの中で課題に正面から向き合い、2025年通年の非常に力強い見通しを示しました。
(原文)Supported by our technology leadership and broad customer base, we are confident we can continue to outperform the industry growth. We expect 2025 to be another strong growth year for TSMC, and forecast our full-year revenue to increase by close to mid-20s% in US dollar term.
(日本語訳)当社の技術的優位性と幅広い顧客基盤に支えられ、業界の成長を引き続き上回れると確信しています。2025年もTSMCにとって力強い成長の年になると見込んでおり、通年の売上高は米ドルベースで20%台半ば近くの増加を予測しています。
私たちが10%台半ばの成長を予測していた中で、これは間違いなく予想を上回るポジティブなサプライズでした。ただし、2024年通年のガイダンス(2023年第4四半期決算発表時点)を踏まえると、今回の最新の見通しはやや慎重に受け止める必要があるかもしれません。それでも、2年連続で約30%の成長を達成する可能性が高いと期待しています。
(原文)We expect our business to grow quarter-over-quarter throughout 2024, and our full year revenue is expected to increase by low to mid-20% in U.S. dollar terms.
(日本語訳)2024年を通じて、当社の事業は四半期ごとに成長すると見込んでおり、通年の売上高は米ドルベースで20%前半から半ば程度の増加を予測しています。
念のため補足すると、C.C.ウェイ氏は2024年のファウンドリー市場の成長率が6%であったと述べており、当初の予測を下回る結果となりました。これは、昨年期待されていた広範な回復が実現しなかったことを示しています。
(原文)Concluding 2024, the Foundry 2.0 industry, which we define as all logical wafer manufacturing, packaging, testing, mask-making, and others increased 6% year over year, slightly lower than our previous forecast.
(日本語訳)2024年を締めくくるにあたり、ロジックウェハ製造、パッケージング、テスト、マスク製造などを含む「ファウンドリー2.0」業界の成長率は前年比6%増となり、当初の予測をやや下回る結果となりました。
今後について、彼は「ファウンドリー2.0」が今年10%成長すると予測しています。
(原文)We forecast the Foundry 2.0 industry to grow 10% year over year in 2025, supported by robust AI-related demand and a mild recovery in other end market segments.
(日本語訳)「ファウンドリー2.0」業界は、AI関連需要の力強い伸びと他のエンドマーケットセグメントにおける緩やかな回復に支えられ、2025年には前年比で10%の成長を遂げると予測しています。
Q&Aセッションで「メモリを除く半導体の成長予測」について具体的に尋ねられた際、彼は「ファウンドリー2.0」の予測をその指標として使えると認めました。
さらに、将来の見通しに関しては、良いニュースがいくつかありました。
(原文)For the five-year period starting from 2024, we expect our long-term revenue growth to approach a 20% CAGR in US dollar term, fueled by all four of our growth platforms, which are smartphone, HPC, IoT and automotive.
(日本語訳)2024年から始まる5年間において、当社の長期的な売上高成長率は、米ドルベースで年平均成長率(CAGR)20%に近づくと予想しています。この成長は、スマートフォン、HPC(ハイパフォーマンス・コンピューティング)、IoT、自動車という4つの主要成長分野によって支えられる見込みです。
ご記憶の方もいらっしゃるかもしれませんが、TSMCは過去4年間ほど、「今後数年間」の売上高成長率の年平均成長率(CAGR)を15%から20%の範囲で予測してきました。このことは、2021年第4四半期の決算説明会でも確認できます。
(原文)We expect our long-term revenue to be between 15% and 20% CAGR over the next several years in U.S. dollar terms, of course, fueled by all 4 growth platform which are smartphone, HPC, IoT and automotive.
(日本語訳)当社の長期的な売上高は、今後数年間、米ドルベースで年平均成長率(CAGR)15%から20%の範囲になると予想しています。この成長は、スマートフォン、HPC、IoT、自動車という4つの主要な成長分野によって支えられる見込みです。
したがって、今回の予測が従来の予測範囲の上限まで引き上げられたとしても、それ自体は特に大きな変更ではありません。特に、HPCセグメントのAI加速分野で語られているような高い成長率を考慮すればなおさらです。次に、用意されたコメントやQ&Aセッションから得られた重要なポイントとともに、これらの成長率を詳しく見ていきます。それでは、始めましょう!
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TSMC(TSM)を取り巻くAI関連需要
TSMC(TSM)を取り巻くAI関連需要については、非常に明確な定義が示されました。この需要は2024年の売上高の約15%、つまり約135億ドルを占めました。
(原文)Now, I will talk about the AI demand and TSMC's long-term growth outlook. We observed robust AI-related demand from our customers throughout 2024. Revenue from AI accelerators, which we now define as AI GPU, AI ASIC, and HBM controller for AI training and inference in the data center, accounted for close to mid-teens percent our total revenue in 2024.
(日本語訳)それでは、AI需要とTSMCの長期的な成長見通しについてお話しします。2024年を通じて、顧客からのAI関連需要は堅調に推移しました。データセンターでのAIトレーニングや推論に使用されるAI GPU、AI ASIC、HBMコントローラーを「AIアクセラレータ」と定義した場合、これらからの収益は2024年の総売上高の10%台半ばに近い割合を占めました。
この事業が2年前にはほとんど存在していなかったことを考えると、これは非常に注目すべき成果です。そしてさらに素晴らしいことに、AI関連の収益は2025年には倍増すると予想されており、つまり270億ドルに達する見込みです。
(原文)Even after more than tripling in 2024, we forecast our revenue from AI accelerator to double in 2025, as the strong surge in AI-related demand continues
(日本語訳)2024年に収益が3倍以上に増加した後も、AI関連需要の強い拡大が続く中、2025年にはAIアクセラレータからの収益がさらに倍増すると予測しています。
C.C.ウェイ氏は、必要な生産能力の構築を検討する際、市場需要を「慎重に評価し判断する」ことに特に注意を払っていると強調し、安心感を与えようとしていました。
(原文)To address the structural increase in the long-term market demand profile, TSMC is working closely with our customer to plan our capacity and investing in leading-edge specialty and advanced packaging technologies to support the growth. As we have said before, TSMC employs a disciplined and thorough capacity planning system to evaluate and judge the market demand to determine the appropriate capacity to build. This is especially important when we have such high forecasted demand from AI-related business.
(日本語訳)長期的な市場需要の構造的な増加に対応するため、TSMCは顧客と緊密に連携しながら、生産能力の計画を進めるとともに、成長を支えるために最先端の特殊技術や高度なパッケージング技術に投資しています。以前から申し上げている通り、TSMCでは市場需要を慎重かつ徹底的に評価・判断する計画的な生産能力の管理システムを採用し、適切な能力を構築するための方針を決定しています。特に、AI関連事業からの需要が非常に高いと予測される現在、このアプローチは非常に重要です。
TSMC(TSM)の2025年の設備投資について
TSMC(TSM)の売上予測の次に、私が最も注目していたのがこの数字です。
(原文)In 2025, we expect our capital budget to be between $38 billion and $42 billion, as we invest to capture the future growth. Out of the $38 billion to $42 billion CapEx for 2025, about 70% of the capital budget will be allocated for advanced process technologies. About 10% to 20% will be spent for specialty technologies. And about 10% to 20% will be spent for advanced packaging testing, mask-making, and others.
(日本語訳)2025年の設備投資予算は380億ドルから420億ドルを見込んでおり、将来の成長を取り込むための投資を進めます。このうち、約70%が先端プロセス技術に充てられ、10%から20%が特殊技術向け、さらに10%から20%が高度なパッケージング、テスト、マスク製造などに費やされる予定です。
中央値の400億ドルは、2024年に費やされた298億ドルから33%の増加を意味します。一見すると大幅な増加に思えますが、実際には2021年の73%の増加と比べると控えめに見えます。
TSMCの年間設備投資 (単位: 10億米ドル)
(出所:筆者作成)
2019年には割合で見ると43%の増加がありました。2025年の25%の成長予測や、今後4年間での年平均成長率(CAGR)20%を考慮すると、今回の設備投資33%増はむしろ控えめと言えるでしょう。ただし、これには理由があります。実際、TSMCは現在必要な以上の生産能力を既に保有していますが、その能力の多くが実際には需要の少ないプロセスノードに割り当てられています。事実、2024年全体のTSMCの平均稼働率は約80%で、2023年の75%からわずかな改善にとどまりました。
TSMCの年間生産能力およびウェハ出荷量
(出所:筆者作成)
これが、TSMCがN5ノードからN3ノードへ生産能力を移行している理由です。
(原文)In addition, there are some ramp-up costs associated with N2 and further conversion of N5 to N3 capacity, which, together, we expect to impact our gross margin by about 1%.
(日本語訳)さらに、N2の立ち上げに伴うコストや、N5からN3への生産能力の移行に関連するコストがあり、これらが合わさって粗利益率に約1%の影響を与えると予想しています。
先ほどのチャートを改めて見ると、2024年のウェハ出荷量は前年比わずか7.6%の増加にとどまっています。それにもかかわらず、TSMCが米ドルベースで約30%もの売上成長を達成できたのはなぜでしょうか?その答えは、出荷されたウェハの種類にあります。
テクノロジー毎の売上高
具体的には、3nmウェハの出荷量が3倍に増加したことが挙げられます。これにより、2023年には売上の6%を占めていた3nmウェハが、2024年には18%にまで拡大しました。ベン・バジャリン氏の最近のX(旧Twitter)投稿によると、TSMCはN3ウェハ1枚あたり18,000ドルを請求しているとのことです。
(出所:@BenBajarin)
TSMC(TSM)の次世代の製造ノードであるN2とA16に関して
TSMC(TSM)の現在の収益源はN5とN3ノードですが、次の2つのノードの開発も順調に進んでいます。N2は2025年後半に導入される予定で、N3と同様の立ち上げプロセスをたどる見込みです。
(原文)N2 will deliver full-node performance and power benefits, with 10 to 15 percent speed improvement at the same power, or [25%] (corrected by company after the call) to 30% power improvement at the same speed, and more than 15% chip density increase, as compared with N3E. N2 is well on track for volume production in second half of 2025 as scheduled, with a ramp profile similar to N3.
(日本語訳)N2は、フルノードの性能向上と電力効率の改善を実現します。具体的には、同じ消費電力で速度が10~15%向上、または同じ速度で消費電力が25%(決算説明会後に訂正)から30%改善し、さらにチップ密度がN3Eと比較して15%以上向上します。N2は予定通り2025年後半に量産体制に入り、N3と同様の立ち上げプロセスをたどる見込みです。
N2に対する顧客の関心は、3nmや5nmを上回るほど高いものとなっています。
(原文)We expect the number of the new tape-outs for 2nm technology in the first 2 years to be higher than both 3nm and 5nm in their first two years, fueled by both smartphone and HPC applications.
(日本語訳)2nm技術の新規テープアウト数は、初年度と2年目の合計で、3nmや5nmの初年度と2年目を上回ると予想しています。この成長は、スマートフォンおよびHPCアプリケーションによって支えられています。
N2の次に控えているのはA16で、2026年後半に生産が予定されています。この段階で、TSMCは裏面電源(Backside Power)技術への移行を進めることになります。
(原文)We also introduced A16 featuring Super Power Rail, or SPR, as a separate offering. TSMC’s SPR is an innovative, best-in-class backside power delivery solution that is first in the industry to incorporate a novel backside metal scheme that preserves gate density and device width flexibility to maximize the product benefits.
(日本語訳)また、A16には「Super Power Rail(SPR)」を搭載した新たな選択肢を導入しました。TSMCのSPRは、業界初となる革新的で最先端の裏面電源供給ソリューションです。この技術は、新しい裏面メタル構造を採用しており、ゲート密度やデバイス幅の柔軟性を維持しながら、製品の利点を最大化することを可能にしています。
(原文)Compared with the N2P, A16 provide a further 8% to 10% speed improvement at the same power, or 15% to 20% power improvement at the same speed and additional 7% to 10% chip density gain.
(日本語訳)N2Pと比較して、A16は同じ消費電力で8%から10%の速度向上、または同じ速度で15%から20%の消費電力改善を実現します。さらに、チップ密度も7%から10%向上します。
(原文)A16 is the best suitable for specific HPC product with complex signal route and dense power delivery network. Volume production is scheduled for second half 2026. We believe N2, N2P, A16 and its derivative will further extend our technology leadership position and enable TSMC to capture the growth opportunity going into the future.
(日本語訳)A16は、複雑な信号ルートや高密度の電力供給ネットワークを必要とする特定のHPC製品に最適です。量産は2026年後半に開始される予定です。N2、N2P、A16およびその派生技術により、TSMCは技術的な優位性をさらに拡大し、将来の成長機会を確実に捉えることができると考えています。
以上より、本編では、TSMC(TSM)の最新の2024年第4四半期決算の概要、同社を取り巻くAI関連需要、設備投資、そして、次世代の製造ノードであるN2とA16に関して詳しく解説しました。
次章では、TSMCのインテル(INTC)に関するコメント、エッジAI、CoWoS、シリコンフォトニクス、そして、最後に私の同社に関する考察を詳しく解説していきます。
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※続きは「【半導体】TSMC(TSM)はなぜ成長を継続できるのか?最新の2024年第4四半期決算説明会の分析を通じて今後の株価見通しに迫る!」をご覧ください。
アナリスト紹介:ウィリアム・キーティング
📍半導体&テクノロジー担当
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